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序列学園  作者: あくがりたる
偽りの学園の章
32/138

第32話~情報収集~

 大陸側での抗争があったとの連絡は、学園外に派遣してある序列3位の久壽居朱雀(くすいすざく)斥候(せっこう)からのものだった。

 久壽居が学園から離れ外で動くようになったのは5年も前のことだった。

 この学園の生徒は独り立ち出来るようになれば働き口を見付けて旅立って行く。中には20代後半でも美濃口鏡子(みのぐちきょうこ)影清(かげきよ)四百苅奈南(しおかりななみ)のようにこの学園での生活が気に入って出て行かない生徒もいる。影清などは単に支配を楽しんでいるのだろう。

 久壽居は26歳の時に大陸の軍隊の体術指南役として将軍から指名され、一時的に出張して行った。しかし、つい最近、才覚が認められそのまま軍の将校にならないかと言われているという。

 確かに、久壽居が軍の指南役に着任してから軍の力は格段に向上しているそうだ。今となっては1万もの勢力に拡大した青幻(せいげん)の軍勢と互角に戦っていると聞く。

 同時に我羅道邪(がらどうじゃ)の武装勢力も青幻と同等の規模に拡大しているが久壽居の訓練を受けた兵士達は銃火器を装備した我羅道邪の輩にも対抗出来ていた。

 もちろん、「銃火器等完全撤廃条約じゅうかきとうかんぜんてっぱいじょうやく」がある以上、軍は銃火器を使用出来ない。

 青幻と我羅道邪の抗争は久壽居の鍛えた軍の介入により落ち着いたように見えたが、実は軍に対抗する為に手を組みつつあるという噂もあった。

 カンナは体術の授業中にその話を師範の重黒木(じゅうくろき)から聞いた。

 久壽居が学園に不在だった理由も初めて聞いたが、何より我羅道邪と青幻の勢力がそこまで拡大していた事に衝撃を受けた。

 我羅道邪はカンナにとっては両親の仇。青幻は響音(ことね)にとって月希(るい)の仇。

 響音と和解したカンナには青幻の事も気になった。


「カンナちゃん! 難しい顔してどーした?」


 カンナがぼーっと突っ立っていると男が1人近付いてきた。


「あ、蔦浜(つたはま)君。いや、別に何でもない」


 学園序列26位・蔦浜祥悟(つたはましょうご)。体特の生徒で最近よく話し掛けて来るようになった男だ。

 カンナは男性との交際経験がない。男友達もいなかった。故に歳の近い蔦浜と話すのは苦手だった。


「カンナちゃんていつも冷たいよね。俺がせっかく心配して話し掛けてるのにさ~。可愛い女の子はほっとけないっつーの」


 蔦浜は頭の後ろで手を組んで口を尖らせた。

 自分を女として、異性ということを意識して接してくるところも苦手だった。


「冷たくしてるわけじゃないよ。本当に何でもないから」


 正直早くどっかに行って欲しかった。自分が異性に対してこんなに喋れないと自覚するのも嫌だった。重黒木は父親くらいの年齢なのでむしろ安心さえするが、蔦浜は年下だったはずだ。兄弟もいなかったカンナにとってはほとんど未知の体験なのだ。


「なんかあったら言ってくれよ! 出来ることなら力になるぜ!」


「それじゃあ、弓特(きゅうとく)後醍院(ごだいいん)さんに会いたいんだけどさ、話したことある?」


 カンナの質問に蔦浜は突然凍り付いた。


「え!? 正気か!? この学園で関わらない方がいい人ベスト5に入るヤバイ奴だぜ!?」


「正気だよ。ベスト5?」


「ああ、神髪(かみがみ)、影清、畦地(あぜち)外園(ほかぞの)、後醍院の5人はヤバイから絶対関わるな! 昔は響音さんが入ってたけど、今は畦地さんがヤバイって噂だぜ」


「ほとんど女の子だね」


 カンナは無表情で言った。


「まぁな、この学園は女性の方が強いからな……言ってて情ねーとは思うけど。まぁ、可愛い子多いし、俺は別に構わないけどな!」


 蔦浜はドヤ顔を決めていた。


「可愛い子……確かにそうだね」


「もちろん、カンナちゃんも可愛いよ!」


「そういうのいいから。で?後醍院さんとは話したことある?」


「うそだろ!? めっちゃドライじゃん!! しかも後醍院さんには会わない方がいいって言ってるのに!!」


 蔦浜は髪を掻き乱して驚いた。


「来月私村当番で後醍院さんと一緒なの」


 蔦浜はまた凍り付いた。


「うわ……ご愁傷様……そ、そうだな。話したことはない。可愛いということしか知らない。ごめん」


 カンナは呆れて立ち去ろうとした。


「わぁぁ! ごめんて! 怒るなよ! そ、そだ! 後醍院さんのことは知らないけど、後醍院さんのことを良く知ってる人なら知ってるぞ! カンナちゃんも知ってる人。その人に聞いた方が早いと思う!」


「誰?」


 カンナは振り返り聞いた。


柊舞冬(ひいらぎまふゆ)。あの人か美濃口鏡子(みのぐちきょうこ)に聞いたら早いと思うけど、まあその2択なら迷わず舞冬さんだよな」


 舞冬。確かにその2択なら舞冬になる。


「分かった。ありがとう」


「力になれなくて悪いな」


「充分よ」


 カンナはそう答えると早速舞冬のいる医務室へ向かった。



****



「柊さん、調子はどうですか?」


 カンナが医務室を覗きながら声を掛けた。中には寝巻き姿の舞冬と金髪ロングヘアーの女医の御影がいた。縁のない眼鏡を掛けておりとても妖艶で大人の女の魅力が漂っていた。


「おぉ! カンナちゃん! 私は元気だから早く帰らせてって、お願いしてるんだけどさ~、御影(みかげ)先生が駄目だって聞かないのよね」


栄枝(さかえだ)先生も駄目だって言ってるでしょ? 特にあなたは帰しても安静にしてるとは思えないんだから。ここで私がずっと診ててあげるわよ。感謝しなさいね」


舞冬は不機嫌そうに足をバタバタさせて御影に抗議した。

 確かに舞冬に自宅療養を言い渡しても聞かなそうだ。舞冬は御影に舌を出した。


「ところで、何か用なんでしょ? カンナちゃん」


 当初の目的を忘れかけていたカンナに舞冬から尋ねてきた。


「あ、あの弓特の後醍院さんの事を詳しく知りたくて、蔦浜君が柊さんなら詳しいって教えてくれたから話を聞かせて貰おうと思って……」


「なんであの子のこと知りたいの?」


 舞冬は不思議そうに聞いた。


「来月の村当番で一緒なんです」


「ふーん。私は別に皆が言うほど感じないけど、ヤバイって聞くね。まぁ確かに、私が村当番になる時はほぼ毎回茉里ちゃんとペアだね。何故か知らないけど」


「舞冬ちゃん、それは茉里ちゃんをあやせるのがあなたか鏡子ちゃんしかいないからだと思うわよ」


 話を聞いていた御影が笑いながら言った。


「あやせる……?」


 カンナが首を傾げて御影を見た。


「そうよ。茉里ちゃんは身近にある物を蹴ったり殴ったり投げたり、終いには人にも手を出すからそれを精神的にも物理的にも止められる人が必要なのよ。茉里ちゃんは弓術の他にも体術、剣術、槍術などそれなりの腕前だからね。そうなると師匠の鏡子ちゃんか心の強い舞冬ちゃんてことになるわけよ」


「リリアさんでも大丈夫そうですけど……」


 カンナがポツリと呟いた。


「あの子はね、かなり繊細な子だから茉里ちゃんのお守りは荷が重いわね」


「まぁ確かに茉里ちゃんはよく暴れる奴だとは思ったよ。でもさ、あの子も暴れたくて暴れる訳じゃないと思うのよ。あの子も過去に辛いことがあったんじゃないかな? そう思うとね、あの子と一緒にいるの私は嫌じゃないのよ」


 舞冬は珍しく真面目な顔で言った。


 カンナもそう思った。


「私が嫌いなのは畦地まりかだけ。あいつは計算高いからね。表と裏を計算で分けてる奴は大っ嫌い」


 カンナは咄嗟にまりかが今の話を聴いていないかキョロキョロと確認した。

 それを見た舞冬が声を出して笑った。


「大丈夫だよ! まりかはここにはいないよ。そんなに怖いの? カンナちゃん」


「い、いや……あの人からは何か恐ろしい氣を感じるの。私も苦手で……」


 確かに氣を探れば近くにまりかがいないことなど容易に分かる。今はまりかの氣を感じないので近くにはいないようだ。


「まぁまぁ、今はまりかじゃなく、茉里ちゃんだからね! と、いうわけで、御影先生! カンナちゃんを茉里ちゃんに会わせてくるから!」


 舞冬はさぞ当たり前かのように立ち上がり寝巻きを脱ぎ始めた。


「ちょっ!? 柊さん!?」


「何よ? あなた茉里ちゃんに会いに行きたいから私のところに来たんでしょ?」


「まぁ、1人で行くのもあれなんで、そうして貰えると助かるんですけど……まだ外出しちゃ駄目なら無理にとは……って、いきなり脱ぎ始めないでくださいよ!!」


「そうよ、舞冬ちゃん。私は退院をまだ許可してないわよ?」


 御影が腕を組みながら言った。


「御影先生、用が済んだらすぐ戻るからさ。それにただカンナちゃんを案内するだけだよ。見逃して!」


 舞冬は寝巻きを脱いでいたので下着姿で舌を出しながら御影に頼んだ。

 その光景は男なら堪らないようなものなのだろうが、女である御影は頭を抱えながら溜息をついていた。


「それじゃあ、カンナちゃん。茉里ちゃんに会えたら舞冬ちゃんをここまで送り届けてね。くれぐれも、暴れさせちゃだめよ?」


「あ、はい、分かりました。なんか、ごめんなさい」


 カンナは何だか悪い事をしに来てしまったと罪悪感に包まれた。


「ま、たまには散歩もしないといけないかもね」


 御影は申し訳なさそうにしているカンナににこりと微笑んだ。

 カンナは軽く頭を下げ、いつの間にか着替えが終わっていた舞冬に腕を引かれ医務室を後にした。


 茉里の事を色々と聞いたが一筋縄ではいかない人物だという事がより一層分かった。そして抱いていた不安が深まっただけだった。

 つかさには大丈夫だと言ったが正直気が進まなかった。つかさには心配を掛けたくない。

 カンナは緊張しながら舞冬と共に弓特寮に向かった。


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