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序列学園  作者: あくがりたる
偽りの学園の章
31/138

第31話~束の間の楽園~

新たなお話。新章突入です。久しぶりにつかさとの絡みがあります!

今回も是非宜しくお願いします。

 日差しがとても暑い。

 海面の照り返しが夏の暑さを助長させた。

 澄川カンナはお気に入りの岸壁の上から潮風を浴びて涼もうとしていたので過酷な現実にガッカリして座り込んだ。

 剣特のいざこざがあったのは一月(ひとつき)前になる。

 その時に負傷した剣特の逢山東儀(あやまとうぎ)はあの仕合の翌日意識を取り戻し現在は学園の座学に松葉杖をつきながら復帰していた。流石に武術の授業は禁止されているようだ。

 協力者の柊舞冬(ひいらぎまふゆ)も意識を取り戻したがまだ医務室のベッドの上で絶対安静を告げられていた。1度カンナと(あかね)リリア、祝詩歩(ほうりしほ)そして肋骨にヒビが入って少し治療を受けていたがすぐに退院していた火箸燈(ひばしあかり)の4人で御見舞に行った時は本当に数時間前まで意識不明の重体だったのかと疑わざるを得ないほど元気な様子で4人それぞれにハグをしていた。特に後遺症などもなくあと数日で退院出来るとのことだった。

 騒動の元凶である影清(かげきよ)はまだ舞冬とは別の医務室で治療を受けているという。


「暑いなぁ……」


 カンナはそのまま大の字になって寝転がった。岸壁の上は芝生になっていて寝心地も良いのだ。

 この島には電気やガスはない。故にエアコンはなく風呂も火で沸かすといった原始的な方法が取られている。

 水道は地下水を組み上げてそれを各部屋に繋がるように工事してあるのでトイレは水洗だった。

 カンナが寝転がっていると響華(きょうか)が鼻を近付けてきた。

 多綺響音(たきことね)に貰った亡き榊樹月希(さかきるい)の馬である。

 カンナはいつも大切に手入れしており学園内の移動はいつも響華に乗っていた。


「くすぐったいなぁ」


 カンナは響華と話す時はいつも自然に笑顔になっていた。カンナは起き上がると響華の鼻面を撫でてやった。


「すっかり懐いてるね。響華」


 カンナが声のする方を見ると、馬に乗った斉宮(いつき)つかさがいた。


「あ! つかさ!!」


 カンナは飛び切りの笑顔でつかさの名を呼んだ。つかさを見ると何故かいつも心が軽やかになる。

 しかし、つかさの表情は険しかった。


「つかさ……?」


 カンナの笑顔も消えていた。

 つかさは馬から降りるとカンナに近付いてきてカンナの両肩を掴んだ。


「え? つかさ?? 何??」


 カンナは何故つかさが何も喋らないのか理解出来なかった。

 カンナの顔を険しい顔で見つめるつかさ。どうしたらいいか分からず目を泳がせるカンナ。


「馬鹿!!! カンナまた危ない仕合したんだって!? 私が村当番でいない時にさ! 私、さっき戻って来て槍特(そうとく)の生徒から制裁仕合のこと聞いたんだよ!?」


「あ……そのこと……でも私、リリアさん達の力になりたくて……」


「だからって、あの影清さんに逆らうようなことするなんて、下手してら命だって危なかったわよ!? 舞冬さんなんて意識不明の重体だったんでしょ!? もう危険な事はやめてよね!!」


「ごめん……つかさ。心配掛けちゃって……これからは気を付けるよ」


 カンナはいきなり大好きなつかさに怒られて俯いた。しかし不思議とブルーな気持ちにはならなかった。つかさはいつも本気で自分の事を考えてくれている。そう思えたのだ。


「この学園ではね、他のクラスのいざこざには干渉しないっていう暗黙のルールがあるの。まぁ舞冬さんと一緒に行動してたならそんなルールのことは聞いてないよね。あの人は自分が正しいと思ったことは行動に移しちゃう人だから」


「あ……だから美濃口(みのぐち)さんは関わり合いを拒否したのか……」


 カンナの呟きにつかさの表情が動いた。


「え!? 美濃口さんに協力を頼んだの!? ちょっと! ……あ、それも舞冬さんか……」


 つかさは頭を抱えながら言った。

 カンナは何か悪いことをしてしまったのかと思いつかさの目を見ることが出来なくなっていた。


「ちゃんとルールを教えておくね。カンナ。まず1つ、上位序列の生徒に逆らってはいけない。2つ、他のクラスのいざこざに干渉してはいけない」


 つかさが述べた2つのルール。今回どちらも破っていることに気が付いた。


「うわ……やば」


「別にルールを気にしない人同士なら関係ないことだけどね。特に序列5位以上の人には気を付けて! 今回私も初めて知ったんだけど、”制裁仕合(せいさいじあい)”っていうのの対象にされるかもしれないからね?美濃口さんは優しかったから何もなかったけど……1位の神髪(かみがみ)さん、4位の影清さん、5位の畦地(あぜち)さんにはくれぐれも関わらないで!」


「うん、分かった。心配掛けてごめんね、つかさ」


 カンナが言うとつかさはカンナを抱き締めた。


「もういいよ、カンナ。本当に無事で良かった」


 つかさはにこりと微笑みカンナの頭をポンポンと叩いた。

 カンナはつかさの注いでくれる愛情を惜しみなく感じていた。


「そうだ。総帥からカンナに伝言があったんだ」


 つかさはそう言うと懐から書状を出し読み上げた。


「『任務。序列10位・澄川カンナ、序列12位・後醍院茉里(ごだいいんまつり)、序列28位・祝詩歩の3名を来月度の村治安担当に任ずる』……3名!?」


 つかさは自分で読み上げながら通例と異なる配分に驚きの声を上げた。


「村当番って……いつも2人だよね? なんで今回は3人なんだろ?」


「そうだね、私も昨日までの村当番は体特の蔦浜(つたはま)君と2人だったし」


「え!? 男の子と2人きりの任務になることもあるの!?」


「あるよ。まぁ大変だよね。浪臥村の村当番専用の宿は2人1部屋だから着替えの時も寝る時も一緒なんだもん。蔦浜君は私より下位序列だから着替えの時は部屋から出てってもらうけどね」


「え……寝る時は?」


「寝る時は私は気にしないから別にそのまま寝てる」


「えー! なんか仕切とか置いた方が良くない!? ただでさえつかさ……その……魅力的な身体してるんだから」


 カンナはつかさの胸を見ながら言った。

 つかさは微笑みながら答えた。


「私が寝込みを襲われる程脆弱(ぜいじゃく)に見えるのかな? カンナには」


 それもそうだとカンナは苦笑いした。

 巨大な熊の頭を棒でカチ割ったり、首を飛ばしたりする女を下位序列の男が襲うはずがない。

 2人は本題に戻った。


「なんで3人なんだろう?」


「あ、もしかして」


 つかさが何か閃いたように言った。


「最近大陸側で銃火器で武装している集団と武術集団の抗争が起こったの。もしかしたらその対策なのかもしれない。実際、今月の村当番は序列7位の斑鳩(いかるが)先輩と序列9位のリリアさんの上位2名だったし」


「そ、その……銃火器で武装した集団と武術集団て……もしかして」


「おそらくだけど、我羅道邪(がらどうじゃ)青幻(せいげん)


「我羅道邪……!!」


 カンナの表情が急に険しくなった。

 それを見たつかさは慌てて肩に手を置いた。


「どうしたの? カンナ? 落ち着いて!」


 つかさに肩を掴まれカンナは我を取り戻した。


「ご、ごめん、つかさ。我羅道邪は私の両親を殺した奴なの……だからつい、そいつの名を聴くと身体が熱くなっちゃって……」


「あ……そうだったね。ごめんね。嫌なこと思い出させて」


「いいの、この学園には私以外にも親を殺された身寄りのない人がいっぱいいるって……割天風(かつてんぷう)先生も言っていたし……私だけが辛いんじゃないから」


 カンナは寂しそうな目で海を見た。傍にいた響華がカンナの顔に擦り寄った。

つかさも海を眺めた。


「それで……祝さんは知ってるけど、後醍院さんてどんな人?」


 カンナは話題を変えた。


「あぁ……えっとね、弓特(きゅうとく)のナンバー2……ってことしか知らない」


 つかさの目が泳いだのをカンナは見逃さなかった。


「序列12位ってことは、つかさと燈の間の人だよね? 本当に知らないの? 言ってよ! 私は何かある人なら先に知ってたほうがいい」


 カンナが問い詰めた。


「じゃあ言うけど……後醍院茉里はかなり性格悪い。というかやばい。その……破壊衝動が激しくてすぐに物に八つ当たりしたりして問題ばかり起こすんだよ。人にも手を出すんだけどさ……手を出された生徒は学園に訴えないんだ。だから茉里は野放し状態。とんだ問題児だよ」


 聞いていたカンナの表情は明らかにゲンナリしていた。


「なんで学園に訴えないの? 訴えれば追放出来るでしょ?」


「美濃口さんの愛弟子(まなでし)でさ。バックに美濃口さんが付いてると分かってるから誰も訴えないんだよ。だから皆泣き寝入り」


「そんな……そんなのってあんまりだよ。……でも、美濃口さんそんなに悪い人には見えなかったけどなぁ……」


「とにかく、この学園では虎の威を借る狐になることも生き抜く術なんだよね。特に弓特は団結力が強いから尚更」


 カンナはうんざりして座り込んだ。

 つかさも隣に腰を下ろした。


「ここからは私の推測なんだけど、カンナと組ませたのはたぶん茉里の暴走の抑止力にする為だと思う。茉里が任務に指名されたのはかなり久しぶりだから。学園側としては茉里を追放するのは惜しいと思ってるのよ。弓の実力は美濃口さんの次に優れているんだからね」


「なるほどね」


 カンナは水平線を見つめながら言った。


「嫌になっちゃったよね? 私総帥にお願いしてメンバー変更してもらえないか聞いてくるよ」


 つかさが立ち上がろうとしたのでカンナはつかさの腕を掴んだ。


「大丈夫だよ、つかさ! 私、頑張るよ。要は後醍院さんが暴れたら止めればいいんでしょ? 割天風先生は私にはそれが出来るって思ってるってことだし! 初の村当番の任務、頑張ってくるよ!!」


 つかさはカンナの笑顔を見て意外そうな顔をした。


「カンナ……強くなったね」


 カンナは首を振った。


「私なんてまだまだだよ」


「よし! それじゃあ、汗もかいたし、槍特寮で一緒にお風呂入ろっか! カンナ!」


「うん!」


 カンナとつかさは槍特寮に向け馬を駆けさせた。

 


 この時のカンナはすっかり忘れていた。

 この学園で味わった苦悩の日々を……


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