第3話~槍特寮・斉宮つかさ~
雲が流れていた。風が心地よい。
カンナは1人、槍術特待クラスの寮へ向かっていた。
リリアの他にもう1人だけ、仲の良い生徒がいた。その生徒に頼んでみて、駄目ならば1人で行こう。そう決めていた。
日は傾き始めている。
熊を見付ける時間も考えて早めに村まで行かなければならない。
槍術特待クラスの寮に着いたのはそれから20分ほど歩いてからだった。
槍術特待クラスの寮の敷地は他のクラスと違い広めになっていて本寮とは別にもう1つ建物があった。
学園序列1位の部屋のある建物である。この学園では序列1位のみ丸々1件建物が与えられる。序列2位から5位までは寮の中の1人部屋が与えられ、6位以下の生徒は2人部屋または3人部屋が与えられる。
カンナは3人部屋で同室の生徒もいる。
序列21位と35位で21位は響音の仕業で口も利いてくれず、35位はそもそも任務に連れて行けない。
頼れるのはリリアか槍術特待クラスの斉宮つかさだけだった。
「こんにちは。澄川カンナです。つかさいますか?」
つかさの部屋の扉をノックした。
いなかったらどうしよう。そんな不安がカンナの心を包みかけた。
扉が開いた。
「カンナ? どうしたの?」
艶やかな肩までの黒髪が綺麗で、緑のミリタリーシャツからは零れんばかりの豊満な胸が動く度に弾むように揺れている女の子が驚いた顔をして部屋から出て来た。
「つかさ……」
カンナは自分が笑っている事に気が付いた。同時に張り詰めていた緊張の糸が切れ、目からは一筋の涙が零れた。
「え? ちょっと!? カンナ? どうしたの? 何があったの?」
肩を抱き抱えてくれるつかさ。何故か涙が止まらなかった。
「ううん、大丈夫! ちょっと目にゴミが入っちゃったのかな」
あからさまな嘘をついてしまった。その時はっきり分かった。自分はこんなにも辛かったのか。こんなにも我慢していたのか。こんなにも強がっていたのか。
つかさはカンナの頭に手を置いて優しく聞いてくれた。
「この学園の生徒達から何かされた?」
「違う、違うの」
つかさに気を遣わせたくない。
そんな思いでまた本当の気持ちを隠してしまった。
もしかしたら響音の仕打ちは体特と剣特にしか広まっていなく、槍特のつかさは知らないのではないか。
しかしそんな事を確かめるためにつかさに聞いたらそれこそ余計な気を遣わせてしまう。
「昔のことを思い出しちゃって」
つかさはその言葉を聞いてもう何も聞いてこなかった。
「話したかったらいつでも聞かせてね」
つかさとは学園に入学して1番初めに出会った。そしてすぐに仲良くなった。つかさは序列12位だがいきなり11位になったカンナに激励の言葉を掛けてくれた。その時からカンナはつかさを心の中で信用していたのだ。
「カンナ、立ち話もなんだし、中入りなよ。今私1人だから」
カンナは頷き部屋の中へ入った。
他の生徒の部屋に入るのは初めてである。
机の上には作りかけのロボットのプラモデルがあった。辺りを見回すと、部屋にはいくつもの棚やショーウィンドウがあり、そこに車や戦車、飛行機、船、そしてロボットなどのプラモデルが丁寧に並べられていた。
「趣味でさ、プラモデル作るの。さっきまで暇だったから作ってたんだよ。座って座って。で、何か用だったんでしょ?」
カンナはつかさに勧められるまま用意してくれた座布団に座ると熊退治の話をした。
するとつかさはなるほど、と呟き、立ち上がったと思うとすぐに部屋の奥からつかさの身長よりわずかに長い真っ赤な棒を取り出して来た。
「行こう」
「え、いいの? プラモデル作ってるところ邪魔しちゃったし、もし迷惑だったら」
「カンナが私を頼って来てくれたんでしょ? 私は嬉しいよ、カンナが私を頼ってくれて。ほら、今日中に村に行くよ」
カンナは急いで立ち上がった。
「ありがとう! つかさ!」
カンナは深く頭を下げた。
「大袈裟だなぁ」
笑いながらつかさはカンナの頭をぽんと叩いた。