第29話~制裁仕合2~
金網の中にリリアと燈が入って行った。
カンナは2人に影清の神技・神斬の弱点を教えた。舞冬との作戦だと後はリリアと燈が全力で闘えばいいだけだった。2人は特別な事をする必要がなかった。
カンナには気になる事があった。
畦地まりかの眼が不気味に輝いてこちらを見てきたことだ。あれが「神技・神眼」なのだろう。その能力をあの時使っていたということは……
────心が読める────
もし、そうだとしたらこちらの作戦はすべて筒抜けということになる。
金網の中では影清が水を飲んでいた。
師範の重黒木が影清の左胸にまた4本の指を立てていた。あの行動はなんなのだろうか。
ふと、背後に気配を感じて振り向いた。
銀髪の長い髪の女がいた。外園伽灼だ。
「お前、響音さんの時も思ったけどなかなかやるなぁ。総帥がいきなり序列11位にした理由が分かるよ」
「ありがとうございます」
「それにしても舞冬とお前、ほんとやってくれたよな」
伽灼はニヤリと微笑みながら言った。
「え?」
「私にはお前達の作戦が分かったんだよ。確かにこれならいけるかもしれないな。ま、後はリリアと燈次第だがな」
伽灼はあまり他人と絡まないと聞いていたがカンナには向こうから話しかけて来ることが多かった。
伽灼は作戦が分かったと言った。だがカンナは不思議と伽灼が影清やまりかに作戦をばらすようなことはしないと思った。
「ま、どうなるか楽しみだな。私は別にどっちが勝っても関係ないけど」
伽灼はそう言うと腕を組みながら金網の中の3人を見つめた。
カンナも伽灼の隣で金網の中の3人を見つめた。
大丈夫だ。今のところ作戦通りなのだ。
リリアは背中に背負った柳葉刀「睡臥蒼剣」の柄を握り締めていた。
隣では燈が腰の刀「火走」に手を掛けていた。
正面で向かい会って立っている影清は肩を回しながら首を左右に曲げている。
今回も武器を構える様子はない。
やはり本気で来る気はないのだろう。
重黒木はリリア、燈と影清の間に立ち右手を上げた。
「これより、学園序列4位影清による、学園序列9位茜リリアと学園序列13位火箸燈の制裁仕合を執り行う」
燈が少し腰を低くした。燈が本気の時の構えだ。
重黒木が右手を振り下ろした。
「始め!」
合図と共に燈は影清に向かって駆け出した。
火走を抜いた。
燈は学園内では響音の次に速かった。響音がいなくなった今学園最速を誇る身軽さだろう。
燈は影清に右から斬り掛かった。
影清はいつの間にか背中の大鎌を1本手に持っていてそれで燈の斬撃を防いだ。
鉄と鉄の交わる音が響いた。
影清の武器を取る速さは目で追えないほど素早かった。
燈はすかさずその大鎌に足を掛け跳躍。空中で一回転身体を捻り影清の背中に一太刀。影清がもう1本の背中に背負った大鎌を少し角度を変え防ぐ。
リリアはその瞬間を見逃さなかった。前方ががら空きだ。走る。薙ぎ払い。しかしそれはしゃがんでかわされた。
影清は右手に持った大鎌を円を描くように振り回した。リリアも燈も後ろに跳ぶ。瞬間、影清はリリアの方へ突進。速い。かわせない。大鎌が来る。
「大丈夫!」
カンナの声が聴こえた。
リリアはそれを聴いて避けることはせず睡臥蒼剣で大鎌を受けた。
すぐに距離を取った。
金網の外で見ているカンナは神斬の発動タイミングを教えてくれることになっていた。発動の8秒前から感知出来ると言っていた。8秒あれば受けるか避けるか判断する事は容易い。幸い影清はこちらが神斬の能力と弱点を知っていることに気付いてない。気付いてないはずだ。気掛かりなのはまりかがこの仕合中に何度か神眼を使っていたことだ。もし心が読まれているとしたらそのアドバンテージは無いものとして考えなければならない。ただ、伽灼が言っていた「神眼は心までは読めない」という言葉が本当ならばこのまま微かな勝機が残る。
「もっと痛めつけてやらないと制裁にならないよな」
影清が呟くとリリアに向かって突っ込んできた。
大鎌。左から。風を切る音が聴こえる。睡臥蒼剣で受ける。大鎌が少し剣から離れる。右脇腹に衝撃が走った。堪らずリリアはバランスを崩しよろめく。大鎌の柄で叩かれたのだ。
「うっ……くっ……」
影清の左手が視界に入った。
物凄い打音が響いた。強烈な平手打ちがリリアの頬を叩いた。
リリアはうめき声を上げ吹き飛んだ。
「リリアさん!!」
燈が叫ぶ。
影清は左手を見ながら首を傾げていた。
燈はいつの間にか影清の背後まで迫り刀を振り上げていた。大鎌と交わる。燈は間髪入れず連続で刀を振りまくる。大鎌は全ての斬撃を容易く受けた。突然、燈の視界から影清が消えた。右。反応が遅れた。影清の左手が燈の顔を掴む。
「いっててて! 離しやがれ!!」
その状態で燈を持ち上げた。
燈は影清の手を離そうとするが尋常ではない握力でびくともしない。
影清はそのままリリアの方に燈を放り投げた。
リリアが燈を受け止める。
「大丈夫? 燈」
「あ、あたしは大丈夫だよ。リリアさんこそ大丈夫かよ?」
「ええ、なんとか」
影清はまた左手を見ながら首を傾げていた。
「燈。刀獄三連陣、やるわよ」
「は? だってあれは詩歩がいないと出来ないだろ?」
「じゃあ刀獄二連陣ね」
「いや、そういう問題じゃなくてさ」
刀獄三連陣はリリア、燈、詩歩による連携技で1人相手に絶対的な威力を誇る。まさに影清のような強敵1人相手にうってつけの技だ。しかし今は詩歩がいない。2人でも出来ないわけではないが決定打に欠ける。それでもやらないよりはましだと思った。もし影清に負ければ確実に剣特は追放される。リリアだって剣特が好きだ。燈だってそうだろう。ならば力を出し切って闘おう。全力で闘い、悔いを残さない闘いにしよう。そう思った。
「分かった。やってみよう!」
燈が頷くと立ち上がり火走を構えた。
リリアも立ち上がり睡臥蒼剣を構えた。
「あたしが気を引く」
燈が言うと影清に向かって駆け出した。
「おらぁ! 影清ぉぉ! あたしと勝負だ!!」
燈は挑発しながら何度も切り込む。斬っては回り込み斬っては回り込みとちょこまかと影清を翻弄していた。
影清も小回りが効かない大鎌が仇になり燈の攻撃を防ぐことしか出来ない。
「速いだけだな、小蠅風情が」
影清が笑いながら言ったその時をリリアは見逃さなかった。走り出し影清の右側に付く。
後は燈が隙を作るだけだ。
「刀獄三連陣」
詩歩は2人の動きを見ただけで理解した。
だが本来3人でやるべき攻撃。2人だけだと影清程の猛者には通用しない。
私がいれば……
詩歩はいつの間にか自分がリリアと燈を応援していることに驚いた。
あの2人がいない剣特などいる意味はない。刀獄三連陣の修行は3人が出会った時から毎日していた。授業が終わっても夜遅くまで修業してようやく完成させた技だ。この学園で生き抜くには助け合いが必要だった。3人で助け合いこの学園生活を楽しく過ごしていこう。3人とも親も親戚もいない天涯孤独の身だった。リリアと燈はすぐに打ち解けたが詩歩はなかなか2人を信用出来ず仲良くすることが出来なかった。毎日詩歩は話しかけられてもそっけない態度をしてしまっていた。
そんな時、燈はいつも嫌味を言ってきた。今思えば挑発しようとしていたのだ。詩歩はその挑発にまんまと乗っかりいつも取っ組み合いの喧嘩をしていた。リリアはあまり強くは止めてこなかった。それも今思えば燈の意図を汲み取ってのことだったのだろう。
思いっきり怒って喧嘩して燈を叩いて……結局最後はいつも負けていたがいつも自然に笑っていた気がした。燈もリリアもその時は笑顔だった。
詩歩は金網の中で刀獄三連陣の構えを取っている2人を見て突然涙が頬を伝うのを感じた。
胸が苦しくなり、声が我慢出来なくなって嗚咽を漏らしていた。
「詩歩ちゃん? どうしたの?大丈夫?」
隣に立っているまりかが声を掛けてきた。
「なんでも……ないです」
詩歩は袖で涙を拭った。
燈が振り下ろされた大鎌を火走で受け足で蹴って弾いた。ほんの僅かだが隙が出来た。
今だ。
リリアはその瞬間に走り出し影清の懐に突っ込んだ。
同時に燈が突っ込んでいた。
「刀獄二連陣!!」
鉄と鉄のぶつかる音。
影清の両手には大鎌が握られていてリリアと燈の突きを受け止めていた。
「協力すれば勝てるとでも思ったのか?」
影清は薄ら笑いを浮かべながら両手に持った大鎌で受け止めている2人の刀を払いそのまま回転した。
「きゃっ!」
リリアと燈は間一髪大鎌の斬撃を防いだがその威力に吹き飛ばされた。そして吹き飛ばされた燈が地面に倒れるよりも先に影清が燈に追い付き無防備な燈の腹に肘を入れた。
「ぐはっ」
思い切り地面に叩き付けられた燈は立て続けに影清に足でいたぶられた。
「燈!!」
リリアが叫び影清に背後から斬り掛かる。しかし右手の大鎌で軽くあしらわれ簡単に吹き飛ばされてしまった。
「もう終わりか? おら! 立てよ、火箸!」
地面に倒れている燈を執拗に蹴り続ける影清。何を思ったのか仰向けに倒れている燈の首に足を置きリリアの方を見た。
「まずは茜、お前に止めをさしてやる。火箸、お前はその光景をそこで見てろ」
ぐったりしているが燈はまだ意識があるようでリリアを見た。
影清の右手の大鎌がリリアの方へ向けられた。そして大きく構えた。
「リリアさん! 来ます!!」
カンナの声が聴こえた。
その瞬間構えた大鎌の死角へ走り影清の足元から燈を救出しさらに距離を取るため金網の端まで走った。
影清は驚いた表情をしていたがすぐにリリアの方へ大鎌を向け振り下ろした。
「リリアさん! 避けて!!」
またカンナの声が聴こえた。
影清の大鎌からは斬撃がリリアの方へ地面を抉りながら襲い掛かってきた。リリアは燈を抱えたままぎりぎりで斬撃をかわした。
「馬鹿な。『黒天蜉蝣』をかわしただと!?」
影清は明らかに動揺していた。
やはりカンナが神斬の弱点を見抜いたことには気付いていなかったようだ。
「燈! 燈! 大丈夫!?」
リリアはぐったりしている燈に声を掛けた。
「大丈夫だ……リリアさん……何故か知らないが影清の力が弱まってる気がする」
「え? どういうこと?」
「逢山東儀との仕合では影清の蹴りは1発で重症レベルの殺人的な力だった。でもあたしは奴の肘を腹に食らったがそこまで深刻なダメージじゃない。もしかしたら、カンナと柊さんが闘った時に影清にダメージが入ってて、奴も万全の状態じゃなくなってるのかも知れない。リリアさん、この仕合勝てるかもしれないぞ」
燈はまだ諦めていなかった。確かに言われてみればそうかもしれないが、自分達の仕合ではまだ影清に有効なダメージを与えられていない。それに燈も大分ぐったりとしていてこれ以上闘えるとは思えない。
「燈……もう……無理よ。私達はやはり影清さんに勝つなんて初めから無理だったのよ。あなたはこのまま寝てなさい。私は潔く影清さんに1発貰ってくるわ」
リリアは完全に諦めようとしていた。もうこれ以上逆らってもみんな辛いだけ。詩歩は剣特に残れることになったのだし、もういいのではないか。燈には悪いけど、これ以上燈を危険な目に遭わせたくない。
「馬鹿……! リリアさん、あんた何言ってんだよ! 舞冬の犠牲を無駄にするつもりかよ!? カンナだって闘ってくれただろう!?」
「そうだけど……もう無理よ」
「負けないで!!!!」
リリアが諦めようとしていたその時、金網の外から声援が聴こえた。
詩歩がこちらに向かって叫んでいた。
「な、何言ってるの?? 詩歩ちゃん!? あなた誰を応援してるか分かってるの!?」
まりかが突然の詩歩の声援を咎めた。
「分かってる!! 私の友達よ!!! 私のせいでみんなを巻き込んじゃって……もう見ていられないの!! あそこで制裁されるのは私も一緒じゃなきゃおかしいわ!!」
「やめなさい! 詩歩! あなたはそのまま黙ってなさい!」
リリアは余計な事を言い出す詩歩に言った。
「祝、お前もやられたいのか? なら入ってこいよ。まりかがせっかく助けてやるって言ってたのに、馬鹿な奴だ。別に制裁仕合に途中から参加するのは禁止されてないよなぁ?重黒木師範」
影清の言葉に重黒木は頷いた。
「詩歩ちゃん、あなたせっかくの私の好意を棒に振って……ただじゃ済まさないわよ」
「構いません」
詩歩はまりかの高圧的な態度に短くそう答えると金網の入口へ歩いて行き中に入った。
「詩歩! お前馬鹿なのか!? なんでわざわざ痛い目に遭いに来るんだよ!? そのまま黙っていれば剣特に残ることも出来たんだぞ!?」
燈が詩歩の肩に手を置き言った。
「分かってる。けど、2人がいない剣特に残る意味なんてないって……今頃気付いたの。あの……ごめんなさい。私……」
「詩歩。話は後よ、ここに来てしまったからには、闘うしかないわ。負けないでって言ってくれたでしょ?」
リリアにはいつの間にか闘志が戻っていた。
詩歩も覚悟を決めたのだ。燈もまだ闘志は消えていない。自分だけ弱気でどうする。
「刀獄三連陣。やるわよ!」
リリアが言うと2人が頷いた。
「燈、行ける?」
「あたしは大丈夫だって言っただろ?」
燈は微笑みながら言った。しかし、燈の体力的にもこれが最後の攻撃になるだろう。
「1人下位序列の雑魚が増えたところで、特に問題はないがな。序列28位なんて、エリートのみのクラスである剣特には必要ないんだ。これで正当に追い出せるな」
影清は大鎌を2本構えながら言った。
「私達3人の力、見せてあげましょう!」
リリアの言葉と共に燈が突っ込んだ。
「はぁぁぁ!!」
そしてリリアも突っ込む。
詩歩はゆっくりと長い刀を鞘から抜いた。鞘は背中に差した。構えた。ゆっくりと攻撃のタイミングを待った。
リリアと燈の斬撃は苛烈だった。2人とも決して低くはない序列の実力者である。その2人の猛攻を1人で受けている影清が異常なのだ。
「チッ」
影清が舌打ちをした。
「来るよ!! 神斬!!」
カンナの声だ。8秒前。
リリアと燈は大鎌に意識を集中した。
「黒天蜉蝣!!」
今まで大鎌に刀を交えていたリリアと燈はその瞬間は影清から離れ大鎌の軌道上から離脱した。
「詩歩! 左に避けて!」
リリアの合図で詩歩も神斬の波動から逃れた。
「読まれているだと!? あの女か、澄川カンナ……」
影清がカンナの方を睨み付けた。
突然、影清が左手の大鎌を手放した。
「うぐっ……な、何だと!?」
リリアと燈は同時に影清に走り出した。詩歩も走り出す。
リリアは右から、燈は左から、そして詩歩は正面から。三方向から接近。
影清はすぐに落とした大鎌を拾った。
「行くわよ! 刀獄三連陣!!!」
左右のリリアと燈の突き。大鎌。防がれた。詩歩。影清の目の前。刀を突き出す。しかし、リリアと燈の攻撃を防いですぐに振り払った大鎌は正面の防御に回された。
これでも届かない。
そう思った時、影清は左手の大鎌をまた落とした。そこの穴を的確に詩歩の刀が狙う。
届いた。
詩歩の刀は影清の右肩辺りを貫いていた。
「ぐあっ!!」
影清が唸り声を上げた。
重黒木が近寄って来て詩歩に手を翳し静かに頷いた。
詩歩は刀を引き抜き後ろに下がった。
「制裁は終了だ。俺はこの仕合で死人を出してはいけないんだ」
「誰が……死ぬって?」
影清が荒い呼吸をしながら重黒木を睨み付けた。
重黒木は冷たい目で睨み返し答えた。
「お前だよ、影清」
影清の背後には刀を影清に突き付けていたリリアと燈がいた。
「俺が止めなきゃ、お前は死んでたかもな」
重黒木が右手を上げた。
「以上で制裁仕合を終わりとする! お前達! さっさと解散しろ! 医療担当者は至急応急処置を!」
半ば無理やり重黒木は制裁仕合を終わらせた。
医療担当者が金網の中に入ってくる。
「お前達……覚えていろよ。このままでは済まさんぞ」
影清はそういうと1人で金網の外へと歩いて行った。
「詩歩、お前良くやったな! 3人いないと影清に勝つ事は出来なかった」
燈が詩歩に近づき言った。
「私は……2人に凄く申し訳ないことをしたから……許してもらえるなんて思ってないけど、せめてもの償いにと思っただけよ」
「あ? なんだよ? 回りくどいこと言いやがって!」
「詩歩、あなたの本当の気持ち、聴かせて」
リリアも近づいて来て言った。
「ご、ごめんなさい。2人を信用しないで裏切ってしまって……私、刀獄を見て思い出したの。リリアさんと燈。2人がいたからこそ剣特が好きだったの。3人で夜遅くまで刀獄三連陣の修行をしていた時、本当に楽しかった。辛かったけど、それ以上に楽しかったの」
詩歩は涙を浮かべながら言った。
「だからね、また私を2人の仲間に入れて! 虫がよすぎるかもしれないけど、もし、許してくれるなら‥‥」
「許すもなにも、初めから怒ってねーよ、ばーか!」
「私は詩歩はまた戻って来てくれるって信じてたから。まぁ、制裁仕合まで起こっちゃったから、剣特からは追放されちゃうだろうけどね」
例え制裁仕合の執行者の影清を倒したからと言って剣特追放が無くなるわけではないのだ。事実この仕合に他生徒への見せしめ以外に意味などない。
だがこれで影清の信用を落とす事には繋がっただろう。3人掛りとはいえ、下位序列の生徒を制裁しようとして、返り討ちにされた形なのだ。今後影清が動きづらくなることは間違いない。
「私はリリアさんと燈が一緒なら剣特じゃなくてもいい」
「お前、気持ち悪いこと言うなよ。普段そんなこと言わないくせによ。鳥肌立つぜ」
「な、何よ! 燈! そんな言い方しなくてもいいでしょ!? 私だって恥ずかしくて死にそうなんだから!!」
燈と詩歩のいつもの言い争いが始まった。リリアはにこりと笑い2人を見つめていた。
「リリアさん、燈、祝さん! 大丈夫?」
カンナが金網の中に入ってきた。
「カンナ、今回はありがとね。関係ないのに助けてくれて」
「いいのよリリアさん。私はただ、友達が困っていたから助けたかっただけだし。以前の恩返しもしたかったから」
「カンナ、お前前半の闘いの時、何かやったのか? 影清の左手が使いづらそうで何度か大鎌を落としてたからさ」
「あぁ、斬戈掌ね。響音さんの時も使ったんだけど、徐々に筋力を弱めていく技よ。掠らなくても一定範囲内なら氣の力でカバー出来るんだけど、掠ればさらに威力が上るの。今回は掠ったからもっと弱められると思ったんだけど、さすがは影清さんね。本当なら大鎌なんて振り回せないくらい筋力が弱ってたはずなのにほとんどものともしなかったから焦ったわよ」
「じゃ、じゃあカンナと舞冬さんの作戦って、あなた達の闘いで影清さんを弱めて、私達に勝たせる……ってことだったの?」
リリアが驚きながら言った。
「そういうことよ。だから最初に私が闘う必要があったんだけど、運良く先に闘えたから良かったわ。どうやら畦地さんにも作戦はばれなかったみたいだし」
カンナは微笑んだ。
「でもそれって、順番が悪けりゃ成功しない作戦だったよな?」
燈が青ざめながら言った。
「ま、結果オーライということで」
カンナは引き攣りながらも苦手な笑顔を見せてくれた。
詩歩はカンナを見た。2人ともとても気まづそうな雰囲気だった。
詩歩が口を開いた。
「カンナ。ありがと」
カンナの顔が明らかに紅くなるのが分かった。
「え、べ、別に気にしなくていいよ……! あ、私は柊さんの所に行ってくるから! じゃあね!」
「カンナ、照れてやんのな! 可愛い~」
燈が逃げようとするカンナに茶々を入れた。
「うるさい! 燈!!」
カンナはそそくさと病室の方へ走っていった。
ガシャン、と金網が叩かれる音がした。
驚いて振り向くと金網の外に畦地まりかが立っていた。
「あなた達、絶対に許さないからね」
怒りと殺意に満ちた蒼い瞳。その瞳に魅入られた3人は言葉を失い呼吸すらも忘れていた。
まりかはにやりと笑い去って行った。
「一難去ってまた一難か。あいつらも大変だ。自分1人の力こそが全てだというのに、未だに徒党を組んでるようじゃ、ここでは生き残れないのにな。鏡子さん。貴女もそう思うでしょ?」
リリア、燈、詩歩の3人とまりかの様子を見ていた伽灼が1人でいた美濃口鏡子に聞いた。
「私には関係ないわ。伽灼。私は弓特の子達が平穏に逞しく生活出来ればいいんですもの。その為に徒党を組もうがそれは個人の自由よ。そういう伽灼も、カンナに少し肩入れしてるんじゃないかしら?」
鏡子は口に手を添えて言った。
「カンナか。あいつは面白いからな。何かそのうち響音さんの時以上にやらかしてくれそうな気がしてさ」
伽灼は笑いながら立ち去った。
「私も……そう思うわ」
鏡子は伽灼の後ろ姿を見ながら静かに呟いた。




