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序列学園  作者: あくがりたる
剣特騒乱の章
25/138

第25話~失踪と団結~

 星空が綺麗だった。

 まだ詩歩(しほ)は寮に戻ってこなかった。

 リリアは燈と2人で詩歩の帰りを待ったが何の連絡もないまま時間だけが過ぎていった。こんなことは初めてである。


「もしかして、私の計略がまりかさんに見破られて捕まっちゃったんじゃ……」


「だとしたら、色々とまずいな。詩歩……殺されはしないだろうけど剣特追放されちゃうんじゃ……それにあたし達の事もバレちゃってたらあたし達もただじゃ済まないな」


「詩歩が私達の名前を出すとは思わないけど、真っ先に同室の私達が疑われるわね。それに燈はまだ序列仕合の申請を出していないし……」


 リリアはとてつもない不安に(さいな)まれていた。


「私、詩歩を探しに行ってくる」


 リリアはいてもたってもいられず立ち上がった。


「あたしも行くよ」


 (あかり)も迷わず立ち上がった。

 2人はまず二階のまりかの部屋を訪れることにした。正直、彼女が最も詩歩の居場所を知っている気がしたのだ。昼間詩歩が計略を仕掛けた相手なのだ。

 寮の階段を上り、可愛らしいシールが貼られている表札のまりかの部屋の前に来た。計略を掛けようとした相手の部屋だ。気が進むはずがない。もし詩歩がここにいたらと思うと恐ろしい結末しか思い浮かばなかった。

 リリアは恐る恐る扉をノックした。


「遅くにすみません、リリアです」


  中から返事はないが、すぐに扉は開いた。


「あら! リリア、こんな遅くにどうしたの?燈まで」


 まりかはいつもの笑顔でいつも通り接してきた。計略はバレていないようだ。


「あの、詩歩を知りませんか? まだ帰ってなくて……」


「詩歩ちゃん? あぁ、それなら伝言だけ預かってるわよ、今日は用事があって帰らないって。心配しなくていいってさ」


「な、そんな伝言あるなら何で早く伝えに来ないんだよ!!」


燈が言った。


「なに?」


 まりかは燈の文句に対して強気な態度をしてきた。何か悪いことでもしたのかと言わんばかりの態度である。


「な、何でもないです」


  燈は堪えた。今まりかの機嫌を損ねるのはまずい。


「まりかさん、詩歩の居場所は知らないですか? 詳しいこととか」


「知らないわ」


 まりかはリリアの低姿勢な質問に間髪入れずに笑顔で答えた。


「本人が心配ないって言ってるんだから信じて待ってなさいよ。じゃあね、おやすみなさい」


 まりかはそれだけ言うと扉を無理やり締めた。

 リリアはまりかの部屋の前で肩を落とした。


「リリアさん、畦地(あぜち)さんは何か知ってそうだよな」


「ええ。そうね。詩歩……どこ行っちゃったのよ」

 

 リリアは俯いたまま呟いた。


「今日は戻ろう。大丈夫って言ってるし、また明日になれば授業にも出てくるだろ」


 燈は前向きに考えようと励ましてくれたがリリアはそう考えることが出来なかった。

 もし計略が失敗していたら全部自分のせいだ。自分のせいで詩歩は剣特を追い出されてしまう。

 リリアと燈は部屋に戻り布団に入った。

 詩歩がいない部屋。寝る時はいつも3人一緒だった。リリアは詩歩が戻って来てもいいように布団は敷いておいた。しかしその詩歩の布団だけが虚しく空いていた。リリアはなかなか眠ることが出来なかった。燈もまだ起きているようだ。

 結局その夜詩歩は寮に帰ってくる事はなかった。



 翌日、リリアと燈は武術史の授業に出席する為校舎に向かった。

 校舎の入口の掲示板には大勢の生徒が群がっていた。

 リリアと燈は生徒達の間を掻き分けて掲示板の前に出た。


「……そ、そんな……」


 リリアは掲示板を見上げて絶句した。


「マジかよ……ってことは……詩歩……」


 燈もその掲示板の貼り紙の内容に困惑を隠せない。

 掲示板の貼り紙の内容。それは「序列9位(あかね)リリア、序列13位火箸燈(ひばしあかり)の2名に制裁仕合(せいさいじあい)を執行する。理由、内部撹乱未遂(ないぶかくらんみすい)による反逆。異論は認めない。執行日時、明日放課後。場所、仕合場、執行者、序列4位影清(かげきよ)

 詩歩の名前はなかった。

 制裁仕合の対象者が2人とも現れたので周りに群がっていた生徒達は各々立ち去っていった。

 

「お2人さん、どうやら大胆な行動に出たみたいだね? まさか昨日の影清さんのデモンストレーションの直後にこんなことするなんてその度胸は認めてあげよう! 何をしたのかは知らないけど」


 能天気に話し掛けてきたのは方天戟(ほうてんげき)という槍の先の横に半月状の刃が付いた武器を持った柊舞冬(ひいらぎまふゆ)だった。


「あ? なんだと!? 舞冬、喧嘩売ってんのかよ!?」


 気が短い燈はすぐに舞冬に殴り掛かった。

 すると、燈の拳は何者かに軽く捌かれそのまま手首を捕まれ背中に回され関節を決められた。


「ぐあっ!!」


 燈が叫ぶ。


「やめなよ燈。柊さんは学園に訴えるような人じゃないけど、相手が悪ければ退学だよ?」


 燈の腕を決めているのは澄川(すみかわ)カンナだった。

 リリアは燈が舞冬に手を出す前に止められたことに胸を撫で下ろした。


「カンナ……てめぇ……舞冬のボディーガードみてぇなことしやがって」


「やめなさい! 燈! 落ち着いて」


 興奮が収まらない燈にリリアが注意した。

 燈は舌打ちをしたが、力が弱まったのでカンナは手を離した。


「リリアさん、一体何があったんですか? こんなことになるなんて」


 カンナが心配して尋ねた。しかし、他のクラスの生徒には関係ない。迷惑を掛けるわけにはいかないと思った。


「いえ、これは剣特の問題なの。あなたは関わらない方がいいわ」


「でも、制裁仕合の対象になるなんて放っておけないですよ!!」


「何でもいいけどさぁ、どうするのよ、影清さんと闘うのよ? 逢山(あやま)君みたいにならないでよね?昨日の仕合は一瞬だから影清さんの力が分からなかったし」


 舞冬が髪を手でかき上げながら言った。

 制裁仕合は日程の変更は可能だが制裁対象者は拒否することが出来ない強制的なものである。対象者は1人でなくとも良い。1人が2人を制裁する事も可能である。

 故にリリアも燈も強制的に影清と仕合することになるのだ。今回は2人同時執行となっており1対2という状況である。

 影清に2人がかりで挑んだとしても勝てる見込みは限りなくゼロに近い。

 影清の闘い方、特に影清の持つ『神技(しんぎ)』については知っているものは影清より上位の3人の生徒それに、まりかと割天風(かつてんぷう)くらいだった。リリアと燈、2人にとっては絶望的な状況だった。


「私達が招いた不祥事よ。この学園のルールに従うわ」


 リリアは力なく言った。もう次の計略など何もない。こうなってしまっては打つ手はないのだ。


 燈はリリアの言葉を聞いて俯いた。


「私のした事は間違ってたのね。そもそも影清さんに逆らおうなんて馬鹿な考えだったのよ。出来るはずなかったのよ。それなのに私は燈も詩歩も巻き込んでしまって……」


「何言ってんだよ、リリアさん! 言い出したのはあたしだ! 責任はあたしにある! だからあたしが」


「見苦しいなぁー2人とも~」


 リリアと燈が2人で自分自身を責め出したのでたまらず舞冬が口を挟んだ。

 その言葉に燈が舞冬を睨みつけたが舞冬は動じることなく話し続けた。


「リリアさんも燈ちゃんもさぁ~、この学園にいるうちはクラスの壁なんて関係ないよ~! 私達は仲間でしょ?」


 また耳に障ることを言うのかと思っていたのでリリアも燈もキョトンとしている。


「リリアさん、燈、あなた達は私が響音(ことね)さんと揉めている時に心配して駆け付けてくれた。私は嬉しかったのよ。だから今度は私があなた達の元へ駆け付ける番よ」


 カンナは真っ直ぐな瞳で2人を見詰めて言った。


「カンナ、舞冬さん……ありがとう」


「カンナお前にそんなこと言われるとは思わなかったよ。あの多綺(たき)と揉めてしょぼくれてた奴がさ」


  燈は顔を赤らめてカンナに言った。


 リリアはカンナと舞冬に昨日の計略のことを全て話した。


「なるほどねー、それから詩歩ちゃん帰ってこないんだ。まぁ普通に考えたらまりかさんが怪しいわよね。計略は失敗したけど、詩歩ちゃんだけは見逃してあげるとか言われてどっかに隠れてるのか、まりかさんの部屋に連れていかれたのか。たぶんそんなところね」


 やはり昨日まりかの部屋の中に詩歩はいたのだろうか。舞冬の言う通り計略が失敗した事は確実だ。現に今まさに最悪な状況になってしまっているのだから。そして制裁仕合の対象となっているのがリリアと燈のみというのも舞冬の予想通りなら納得出来る。


「詩歩があたし達のことを売ったってことかよ……」


 燈は歯を食いしばりながら込み上げてくる感情を抑えようとしていた。

 詩歩が裏切った。考えたくないことだがそれしか考えられなかった。


「私は影清さんのやり方は好きじゃないのよね~。皆似たような境遇で集まった仲なんだからさ、なんで仲良く出来ないのかな?まあ確かにこの学園では力こそが全てよ。序列の低い者は序列の高い者に従うしかない。それが嫌ならここから出て行くか……」


「影清さんを倒しましょう」


 カンナの迷いのない言葉に先に話し始めた舞冬はニヤリと笑った。


「カンナ、多綺にも勝てなかったお前が影清さんを倒すとか言いやがって本気かよ?」


 燈はカンナの言葉を冗談だと思い冷ややかな視線を送ったがカンナの真っ直ぐな瞳には一片の迷いも感じなかった。


「あなた本気で言ってるのね、カンナ。でもどうやって? 力の差は歴然。私達では足元にも及ばないわ」


 カンナや舞冬の言葉は嬉しかったがリリアは正直諦めていた。


「1人で闘うとは言ってません。私達4人で闘うんです。柊さん、いいですよね?」


「もちろん、私はそのつもりだったよ!」


 カンナの前向き過ぎる発言とそれを否定しない舞冬に、リリアは戸惑っていた。この人達は現実が見えないのだろうか。燈も隣で首をかしげている。


「どうやって4人で闘うのよ? カンナ」


 リリアが聞くと先程からニヤニヤとしながら話を聞いていた舞冬が手を挙げた。


「わかった~! カンナちゃんの考えてること! なら私も手伝おう! リリアさん、燈ちゃん、近いうちに私達4人で影清さんと闘えるようにしとくから!」


 もしカンナの言う『4人で闘う』ということが可能なら序列8位、9位、10位、13位が影清1人と闘うことになり勝てるかもしれない。しかしそんなに上手くいくとはリリアには到底思えなかった。それに詩歩の事も心配だった。詩歩が裏切ったなどとは信じたくはない。


「リリアさんと燈は(ほうり)さんを探して。仕合の事は私と柊さんで上手くやっておくから」


「分かったわ。ありがとう。カンナ。舞冬さん、よろしくお願いします」


 リリアは深々と頭を下げた。

 燈も照れくさそうに微かに頭を下げた。


 始業の鐘がなった。

 4人は各々の授業が行われる場所へと歩いて行った。

 詩歩はどこへ行ったのか。無事なのか。教室に行けば会える。今はそう信じるしかなかった。

 教室へ向かいながらリリアはそう考えていた。一緒に歩いている燈も浮かない顔をして何も喋らなかった

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