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序列学園  作者: あくがりたる
剣特騒乱の章
23/138

第23話~瞬殺~

仕合場が騒然としていた。

 剣特トップで学園序列4位の影清(かげきよ)序列仕合(じょれつじあい)を挑んだ生徒がいたのだ。

 カンナはたまたま通りかかったので足を止め見ることにした。影清の闘い方に興味があったのだ。

 日は高く昇っていて照り付ける太陽が仕合場の熱気を助長していた。

 影清も仕合相手も既に金網の中にいた。

 影清は遠目で見ると異様な格好をしているように見えたが、近付いてみると背中に大きな黒い鎌を2つ背負っており、腰には1本の刀を()いている。

 一方対戦相手は剣特の学園序列33位、逢山東儀(あやまとうぎ)という男だった。女が多い剣特では珍しい3人いる男の内の1人だった。既に抜刀して構えているが、それに対して影清は腕を組んで眺めているだけだ。

 今回の観戦者である生徒達は見る限り下位序列の生徒達がほとんどだった。火箸燈(ひばしあかり)(あかね)リリア、祝詩歩(ほうりしほ)の姿はなく、割天風(かつてんぷう)の姿も見えない。

 不意に隣に誰かが現れた。


「また会ったね! カンナちゃん! 奇遇奇遇! それにしても暑いね~今日は。カンナちゃんは授業の帰り?」


 いきなり饒舌(じょうぜつ)に話し掛けてきたのは柊舞冬(ひいらぎまふゆ)だった。ノースリーブで爽やかな装いだった。


「そうですけど」


 舞冬が笑顔で話し掛けたにも関わらず、カンナは無表情で答えた。


「ふふ、可愛い! カンナちゃんのそういう無表情、私は好きよ? たまに見せる笑顔はきっと猛烈に可愛いんだろうなぁ!」


「あ、ありがとうございます」


 周りは神妙な空気なのに、舞冬は気にする様子もなくカンナに絡み始めた。

 喋り続ける舞冬。周りの視線を感じたカンナは舞冬の口を手で押さえ付け強引に黙らせた。


「わかった、わかった。ごめんてば! まったく冗談が通じないんだからカンナちゃんは!」


「空気を読んでください。柊さん」


「はいよー。さぁて、影清さんの仕合かぁ。結果は見えてるんだけどね、観戦に集まった生徒は誰1人、逢山君の勝利を予想してないだろうね。せいぜい殺されないで半殺しくらいで済めば儲けもんだと思うよ」


 舞冬は大人しくなったと思うとまたペラペラと自分の思っていることを喋り始めた。


「只今より、学園序列4位、影清と学園序列33位、逢山東儀の序列仕合を始める!」


 仕合を取り仕切る師範が開始の合図を出した。同時に逢山は駆け出し華麗な剣舞を見せた。影清はまだ腕を組んだまま武器を取っていない。あの上下左右からの乱れる剣舞を躱すつもりなのか。

 逢山の刀が影清を射程圏に捉えた時、逢山の身体は勢いよく吹き飛び背後の金網にめり込んでいた。観戦者達は何が起きたか分からずざわめいていた。

 師範が逢山の状態を確認に行くとすぐに医療班が呼ばれその場で治療が開始された。

 師範は静かに立ち上がり右腕を影清の方へ向けた。


「逢山東儀、戦闘不能によりこの序列仕合は影清の勝ちとする。よって序列の変動はなし!」


 一瞬だった。カンナには影清が何をしたのか見えていた。

 蹴り。ただの前蹴り1発だった。それが逢山の剣舞の僅かな隙間に伸び、刀を振る両腕に直撃。そのまま後ろへ吹き飛ばされたのだ。

 逢山はすぐに担架で運ばれて行った。完全に意識は無く口から血を吐いていた。


「カンナちゃんは見えたでしょ? 影清さんの攻撃」


「はい、本当に一瞬でしたが」


 舞冬にも攻撃の正体が見えていたようだ。周りの生徒達はいまだにざわついているが、舞冬は普段は見せない冷静な顔で影清を見ていた。


 仕合場の中から突然大きな声がした。


「逢山は俺の強制仕合方針に従えないと言ってきやがった! そして俺に序列仕合を挑んできやがった! 俺に勝つことで俺の序列を奪って強制仕合方針をぶっ壊そうとした!」


 仕合場にまだ立っていた影清は大声で話し始めたのだ。


「本来なら俺は下位序列の反逆者に『制裁仕合』を執行出来る。お前達は知らないだろうが、『制裁仕合』とは対象者を殺してはいけないという決まりがあるんだ。なのに逢山は殺しが許される序列仕合にて俺に勝負を挑んだ。馬鹿だろ?そしてたった1度の蹴りで戦闘不能。情ねぇ。殺す価値もないんで適当にやっといたわ。いいか! 次からは反逆者に『制裁仕合』を執行する! 剣特生は1人も見に来ていないようだが、他のクラスの奴も同じだ! 雑魚と反逆者は剣特にいらん!!」


 場は静まり返っていた。力こそが全て。まさにこの学園の基本概念を如実に物語る仕合となった。その場の生徒は誰1人影清に反論出来る者はいなかった。

 影清は言い終わるとその場から立ち去った。


「柊さん、『制裁仕合』って?」


「序列5位以上の持つ特権の1つ。自分より下位の序列の生徒が著しく風紀を乱す行為をした時、総帥の許可の(もと)、『序列』と『命』を賭けないお仕置きを目的とした仕合をすることが出来るの」


「初耳」


「まぁ今まで『制裁仕合』が行われたことは1度もないから当たり前ね。それを行使すると発言したのも今のが初めてよ」


 つまりカンナは凄い瞬間に居合わせてしまったという事だった。

 この学園の仕組み、何故『制裁仕合』というものが存在するのか。カンナは他にも疑問に思う事がいくつかあった。しかし、何一つ答えは見つからないままである。


「さ、カンナちゃん。仕合終わったよ! この後暇なら食堂行こう! ってかカンナちゃんて普段何食べてるの?」


 舞冬は今の仕合について何も思わなかったのかすぐに話題を変えた。

 暇といえば暇だったので舞冬に誘われるまま食堂へと向かった。




 逢山東儀が影清に序列仕合を挑んだという知らせは割天風の居室にいたリリアの所にもすぐに届いた。

 一蹴りで勝負がつき、逢山が両腕骨折、肋骨骨折、内蔵破裂で意識不明の重体だということだったが、その結果には驚かなかった。影清に序列30位以下の生徒が仕合を挑んだのなら当然の結果である。命があるだけ奇跡といえた。

 リリアは割天風の背後でいつものように割天風の刀を持ち立っていた。


「リリアよ。火箸燈と祝詩歩それに四百苅奈南(しおかりななみ)も序列仕合の申請をしていないようじゃが、大丈夫か?」


 割天風はリリアの方を見ずに話し掛けた。

 奈南も仕合の申請をしていないことは知らなかった。


「はい、負けたら剣特追放になる訳ですから慎重に対戦相手を選んでいるようです。近い内に申請すると思います」


「そうか。儂は奴らが逢山東儀同様に影清に刃向かうのかと思い肝を冷やしたぞ。逢山東儀は剣特追放が決定したが、かなりの重症らしいからのぉ。武人としての復活も分からぬ。だから燈達にも言っておけ。影清に勝てぬうちは大人しく言う事を聞いておけとな」


「は、はい。そのように」


 割天風が燈達を心配してくれたのか、そうではないのかリリアは分からなかった。

 リリアはそれよりも気になることがあった。ここへ来る前、詩歩にまりかと伽灼に伝える偽情報を教え今日実行することになっていた。

 昨日詩歩が見せた涙をリリアはまた思い出した。必ず上手くやってくれる。詩歩がリリアを信じられなくても、自分は詩歩を信じよう。そう思った。


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