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序列学園  作者: あくがりたる
剣特騒乱の章
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第22話~夜の作戦会議~

今回はリリア視点のお話です。

 (あかね)リリアは割天風(かつてんぷう)の側近の仕事が終わり剣特寮への帰路についていた。側近の仕事と言っても1日中付いていないといけないわけではなく、授業があればそちらに出るし、遅くとも夜までには帰れるようになっていた。ほとんどボランティアのような体系である。

 割天風がリリアを側近として傍に置いておくことになったのは、リリアの性格が真面目で几帳面であり、当時の序列が10位という上位序列だったからだと言われていた。その話も割天風から聞いた話ではなく、周りの生徒達がそう言ってるだけで本当の理由は知らなかった。割天風はとにかく秘密主義で側近であるリリアにさえ語らないことが多くあった。

 実際、リリアが疑問に思っている事は3つある。1つは自分が側近に採用された理由。次に榊樹月希(さかきるい)を殺した男青幻(せいげん)の搜索状況。そして、澄川(すみかわ)カンナの異例の上位序列入学の理由だ。

 これら全て一度割天風に聞いたことがあったがいずれも教えてはくれなかった。側近として、信用されていないのではないかと思う時もあったが、今でも自分を使ってくれているのだから、と考えないようにしていた。

 リリアが剣特寮の自室に着いた頃にはすっかり月が真上に上るほど辺りは真っ暗だった。学園の夜は星空も綺麗で風も心地よく、リリアは気に入っていた。


「ただいま」


 リリアは剣特寮の自室の扉を開けた。


「お帰り!待ってたよ、リリアさん」


 火箸燈(ひばしあかり)が不敵な笑みを浮かべならがら出迎えてくれた。部屋の奥には仏頂面で一際(ひときわ)長い刀を抱えた祝詩歩(ほうりしほ)も座っていた。3人は同室だった。


「それじゃぁ、リリアさんも揃ったところだし、作戦会議といこうか」


 燈が帰ってきたばかりのリリアを迎え、剣術特待クラスの強制仕合に対抗する為の作戦会議なるものを始めようとした。

 リリアは台所にある冷蔵庫からパンの形がボロボロなサンドイッチを取り出してかぶりつきながら会議の輪に加わった。


「あ……どうだ? 今日の料理当番はあたしなんだ! 美味いか?」


「ええ、美味しいわよ」


「でもパンはボロボロだし中身は毎回トマトとレタスだけだし、トマトチョイスする割にはトマトが可哀想なくらいぐちゃぐちゃよね。まったく燈は不器用なんだから」


 詩歩はリリアが敢えて触れなかったことに平気で触れていた。


「うるせーよ! 詩歩! あたしは一生懸命やってんだ! 文句言うなら食わなくていいぞ! リリアさんなんて文句一つ言わずに食ってんだろうが! 少しは見習え!」


「リリアさんは優しすぎるのよ! 思ったこと言わないと、燈の為にならないですよ」


「詩歩、燈は不器用なりに一生懸命やってくれてるわよ。それに美味しいのは事実だし」


 リリアは詩歩が何気なく言う燈批判をサンドイッチを頬張りながら優しく諭した。


「さ、それは置いといて、作戦会議だよ!」


 燈が少し腹を立てた様子から一変して真面目に話し始めた。

 詩歩は不服そうだが切り替えて話を聞き始めた。何だかんだ言って、この2人はお互い口が悪いだけで仲は悪くないのだ。


「燈の作戦って、影清(かげきよ)さん、まりかさん、伽灼(かや)さんを争わせるってやつよね」


 まずはリリアが口を開いた。


「そう。剣特の内部抗争の中のさらに上位陣の抗争を(あお)るんだ」


 燈が拳を突き出して言った。

 その拳をちらりと横目に見て詩歩が言った。


「でもさ、やっぱりその作戦、上手くいくかな? どうやってあの人達を争わせるの?」


「それを今から言うから! ほら! 詩歩もなんか意見あったら言え!」


 詩歩は刀を抱き締めながら舌打ちをしてそっぽを向いた。


「あの会議の後に補足された情報を整理すると、既に序列10位以上に入ってる生徒は強制仕合が免除される。もともとの目的が剣特10人全員が序列10位以上っていう話だったものね。今は響音(ことね)さんいなくなっちゃったから9人だけど」


 リリアが一つ目のサンドイッチを食べ終わると二つ目のサンドイッチを手に取りながら言った。

 月希がいた頃は剣特は11人いた。そして月希がいなくなり規定の10人になった。代わりに体特は9人で1人少なかった。そこにカンナが補充され全4クラス10人体制になったのだ。今は多綺響音(たきことね)の脱退で剣特が1人少ない状態である。

 燈は得意げに自分の考えを話し始めた。


「今の状況だと影清さん、畦地(あぜち)さん、外園(ほかぞの)、リリアさんの4人は仕合しなくていい。そこでだ。リリアさんを除く上位3人を仲違(なかたが)いさせて潰し合わせる!そうすればこの強制仕合の件は有耶無耶になる可能性が高い!」


「うんうん!」


 そっぽを向いていた詩歩はいつの間にか身を乗り出して燈の作戦を興味津々に聞いていた。


「あわよくば、影清さんを誰かが倒してくれれば早くて確実なんだが……まぁそれはあまり期待出来ない。実際、あたしが真面目に強制仕合を受け入れた場合、倒すべき相手は序列10位に上がったカンナだ。あたしは正直、自分の意思以外で仕合して序列を奪いたくないんだよ」


 燈は少し視線を下にやった。


「あれ? そうなんだ! 燈はとにかく上位連中ぶっ殺すってスタンスじゃなかったの? それにカンナに勝てるみたいな言い方ね」


「うるせーぞ詩歩! それはあくまでもあたしの意思で闘う場合だ! あたしは闘いを命令で強制されたくないんだよ! ムカつくだろ! それにあたしは別にカンナに負けるとは思ってない!」


 燈は詩歩が少しからかっただけですぐにムキになってしまう。そこが玉に(きず)だとリリアは思った。


「まぁ落ち着いてよ燈。その仲違いさせる方法は? いい考えあるの?」


「あぁ、それなんだけど、あたしが3人のうちの誰かに嘘の情報を吹き込む。例えば、影清さんが畦地さんと外園を剣特から追放しようとしてるとか。ま、この場合は2人に吹き込んだ方が効果的だ」


 リリアと詩歩が顔を見合わせた。


「無理ね」


「は?? 何でだよ? やってみないとわから」


 燈が喋り終わる前にリリアが言った。


「いや、燈はそういうキャラじゃないでしょ。あなたがそんなこと言いに行ったって、何か企んでるなって思うわよ」


「なにー!? じゃあリリアさんなら適任なのかよ?」


 燈は不服そうに言った。


「適任とまではいかないけど、その役は私がやるわ。危険かもしれないしね」


 リリアは苦笑しながら言った。


「んー‥‥まぁ、リリアさんがやってくれるなら安心だな」


 納得して頷いている燈の隣で不信そうな目で詩歩がリリアを見ていた。


「詩歩?」


「詩歩お前、リリアさんも信用出来ないのか?」


「悪いけど、私は誰も信用してないわよ」


 詩歩は冷たく言い放った。


 詩歩は過去に心から信用していた人に裏切られたという過去があったと聞いたことがある。その話も詳しく教えてくれないのでそれ以上のことは分からなかった。人を信用出来ないが故、大切な刀を肌身離さず持っており、寝る時でさえ刀を抱き締めて眠っているほどだ。おそらく迂闊に近付いたら斬られるだろう。


「だったらお前が畦地さんと外園に偽情報を伝えに行くか?詩歩」


  詩歩は少し考える仕草をして面倒くさそうに答えた。


「嫌だよ。何で私がそんな危険なこと」


「だったらお前、なんか他にいい作戦あるのかよ? 別にいいんだぜ? お前が影清さんの方針に従って頑張って真面目に序列10位以上を目指すんだったらな。もっとも、負けたら即剣特からさよならだけどな」


「剣特から出ていくのだけは嫌!!!!」


 不服そうに話を聞いていた詩歩は、剣特から追放されるという言葉を聞いた瞬間目の色を変えて叫んだ。


 リリアも燈も突然の詩歩の大声に驚き静止した。


「どうしたの? 詩歩?」


 リリアは泣きそうな顔をしている詩歩に優しく尋ねた。


「私から刀だけは奪わないで!! 私が信用してるのはこの刀だけ! 私、頑張るから……!! 何でもするから……!!」


 突然泣き出した詩歩に燈はあたふたして声を掛けようにもなんと言ったらいいのか分からないでいるようだ。

 リリアは優しく詩歩の手を握った。


「大丈夫よ、詩歩。あなたの刀は誰も取らないわ。万が一、仕合に負けてもここを出ていくだけで刀は奪われないわよ。やっぱり私がまりかさんと伽灼さんに話してくるわ。信じて待ってて」


 詩歩は泣きながら首を横に振った。


「ごめん、リリアさん……!! 無理なの!! 信用出来ないの……怖いの……」


「ん、んー……どうしたらいいのかしら……」


  相変わらず燈は2人の様子を見て居心地が悪そうに落ち着きがなくキョロキョロしている。


「私が話してくる。私が全部1人でやってくる。もしリリアさんが失敗して……それが原因で私がここから追い出されちゃったら……私……リリアさんを一生恨んじゃうと思うから……」


「詩歩……」


  自分のせいで失敗すれば誰も恨まなくて済む。そう考えているようだ。しかし、リリアが成功するとは考えられないようだ。


「本当にそれでいいの?」


 リリアが聞くと詩歩は涙を拭いながら小さく頷いた。すると突然立ち上がりゆっくりと自分のベッドの方へ歩いていき刀を抱いたままベッドに潜り込んでしまった。


「燈。この作戦、何がなんでも成功させましょうか」


「も、もちろんだよ……全力で……やるよ、あたしも」


 詩歩の豹変ぶりに困惑し切った燈はすっかり大人しくなっていた。

 リリアは残りのサンドイッチを静かに食べながら詩歩が上手くやれる方法を考え始めた。


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