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序列学園  作者: あくがりたる
学園戦争の章~結~
135/138

第135話~宴~

 新たな総帥が重黒木(じゅうくろき)に決まった翌日、新たな序列が校舎の前の広場にある掲示板に掲示され発表された。序列40位から34位までの7人は欠員となり上位6人も欠員となったので単純に繰り上げが行われた形だった。

 カンナは同室の光希(みつき)と共に朝からその発表を見に校舎前へ行った。掲示板の周りにはすでに何人かの生徒が集まっていた。

 いつも目にしていた掲示板だが、今回ばかりは繰り上げと言えど見る前から緊張していた。


『序列28位・摂津優有(せっつゆう)、序列27位・十朱太史(とあけたいし)、序列26位・扶桑拓登(ふそうたくと)、序列25位・篁光希(たかむらみつき)、序列24位・逢山東儀(あやまとうぎ)、序列23位・櫛橋叶羽(くしはしとわ)、序列22位・蓬莱紫月(ほうらいしずき)、序列21位・七龍陽平(しちりゅうようへい)、序列20位・祝詩歩(ほうりしほ)、序列19位・蔦浜祥悟(つたはましょうご)、序列18位・水無瀬蒼衣(みなせあおい)、序列17位・新居千里(にいせんり)、序列16位・矢継玲我(やつぎれいが)、序列15・仲村渠龍(なかんだかりりゅう)、序列14・(かかえ)キナ、序列13位・四百苅奈南(しおかりななみ)、序列12位・天津風綾星(あまつかぜあやせ)、序列11位・桜崎(さくらざき)アリア、序列10位・東堂宏臣(とうどうひろおみ)、序列9・瀬木泪周(せきるいしゅう)、序列8位・和流馮景(せせらぎふうけい)、序列7位・火箸燈(ひばしあかり)、序列6位・後醍院茉里(ごだいいんまつり)、序列5位・斉宮(いつき)つかさ、序列4位・澄川(すみかわ)カンナ、序列3位・(あかね)リリア、序列2位・斑鳩爽(いかるがそう)、序列1位・神髪瞬花(かみがみしゅんか)


 序列1位には神髪瞬花の名が残っていた。行方不明となり居場所も分からない生徒だが、学園は見捨てていないと言う事なのだろう。

 カンナは自分の序列の高さに息を飲んだ。序列4位というのはかつては影清(かげきよ)がその座に君臨していた地位だ。そして理事会のメンバーであり、”特権”を使える地位でもある。もちろん、以前と変わらなければの話だ。

 ふと、序列表の下を見ると但し書きがあるのを見付けた。

 但し書きにはこう書いてあった。


『以上の序列は暫定的なものであり、本日以降、正式な力関係を決めるために新たに序列仕合を行うこと。序列仕合は己を磨き、更なる高みを目指す事を目的とする。よって、本日以降の序列仕合では相手を死に至らしめる事を固く禁ずる。なお、制裁仕合の制度は廃止する。学園総帥・重黒木』


「カンナ、凄いね。序列4位だって」


 光希が微笑みながら祝辞を述べた。


「あ、いや、まぁ、ただ序列が繰り上がっただけだから」


 カンナは照れ臭そうに人差し指で頬を掻いた。


「28人か……。こうして改めて見ると大分減っちゃいましたね」


「そう……だね」


 光希が寂しそうに言ったのでカンナは頷いた。

 俯く光希の頭をカンナが優しく撫でてやると、光希は驚いてカンナの顔を見た。


「新しいスタートなんだから、そんな顔しないの」


 カンナが優しく言うと、光希はクスリと笑った。


「何よカンナ。あなただって泣いてたくせに」


 光希の軽口にカンナもクスリと笑った。


「本当にあなた達は仲良くなったわよね。カンナ、光希ちゃん。本当の姉妹みたいに仲良いね!」


 そう言いながらつかさが綾星と共にやって来た。


「澄川さんは篁さんと仲良くしてればいいんですー。つかささんは私のものなんですからねー」


 綾星が朝から重い発言をしたのでつかさは容赦なく綾星の頭にチョップを入れた。綾星はきゃっ!と叫ぶと頭を押さえて頬を膨らませてつかさになにやら文句を言っていた。

 カンナから見ればつかさと綾星もかなり仲が良い。

 2人も新しい序列を確認しに掲示板を見に来たらしい。つかさも自分の上位序列入りを見て驚きのあまりずっと自分の名前を凝視していた。

 そこへふらっと御影(みかげ)がやって来た。いつも通り白衣を着て笑顔でカンナ達に声を掛けた。


「新しい序列見たわね? 皆さらに上を目指すように頑張っていきましょうね!」


「はい!」


 御影の激励に4人が返事をすると、御影は師範達の人事やこれこらの授業について話始めた。

 話によると、昨日重黒木が話した通り、弓術師範は鏡子(きょうこ)がその任に就いた。馬術師範は南雲(なぐも)大甕(おおみか)の両名で変わりはないが、南雲は槍術師範を、大甕は剣術師範をそれぞれ兼任する事になった。体術師範は重黒木が総帥の業務と兼任するらしい。

 医療担当者の人事は最後まで御影に従っていた小牧(こまき)が他の9人の医療担当者達とは頭一つ抜けた”医師”の地位に就き、御影がそれを統括する主任医務長になった。

 授業の開始は明日からで、この後は新たな学園のスタートを切るという名目で夕方から学園全生徒達参加の宴が行われるようだ。

 カンナ達4人はその話を聞くと、御影と別れ、夕方まで時間があるので、西の岬に葬られた戦死者達のところへ行く事にした。





 西の岬の戦死者達の墓にはすでに茜リリア、火箸燈、祝詩歩の3人が集まっていた。

 カンナ達は乗ってきた馬から降り、リリア達の元へ近付いた。その墓地としている場所にはこの学園でかつて死んでいった生徒達が眠っている。もちろん、榊樹月希(さかきるい)柊舞冬(ひいらぎまふゆ)の墓もここにある。周防水音(すおうみお)の墓だけはカンナの意向で東の岩壁の上のカンナがいつも1人で氣を練る修行をしていたお気に入りの場所に葬られている。


「よお! お前達も来たのか。掲示板見たか? カンナ、お前序列4位だってな! つかさは5位。なんか変な感じだよな。2人とも前の上位序列の奴らと感じ違うっつーか、なんつーか……」


「友達……だからじゃない? 燈」


「そうだ! それそれ! なんだ、詩歩分かってんじゃん!」


 相変わらず元気そうな燈といつもと変わらず静かな詩歩。2人の怪我も脅威的な回復力でほぼ完治していた。

 割天風(かつてんぷう)袖岡(そでおか)太刀川(たちかわ)の墓の前には3本の刀が置かれていた。己の武器も共に供養されているのだ。

 リリアはその3本の刀を目を細めて眺めていた。


「この刀、ここにこうして置いておいたら風化してしまう。私がこの刀、預かっちゃ駄目かな?」


 リリアは人差し指を唇に当て、ポツリと呟いた。


「あぁ! 刀大好き人間のリリアさんならきっと大切にしてくれるし、預かるだけならいいんじゃねーの? 別に序列3位に文句言う奴いねーだろうし。元々リリアさんは総帥の側近として総帥の刀を預かる役目もやってたんだしな」


 燈は白い歯を見せながらにこりと笑った。

 カンナも頷いた。


「大切にお預かりします。割天風総帥、袖岡師範、太刀川師範」


 リリアは墓前で深々と頭を下げると、”玄武皇風(げんぶこうふう)”、”無刻千太夫(むこくせんだゆう)”、”衝穿(しょうせん)”の3本の刀を手に取り両腕で抱えるように持ち上げた。


「にしても、外園(ほかぞの)の奴、とっとと死にやがって。あたしが殺すって言ってたのにさ」


 燈は伽灼(かや)の墓に目をやると不服そうに言った。だが、その表情はとても哀しそうに見えた。

 カンナが燈を見ていると不意に先程降りた愛馬の響華(きょうか)がカンナの元へ歩いて来た。普段は勝手に歩いたりしないがカンナの前を素通りすると一つの墓の前で止まり、その墓石に鼻面を近付けた。


「月希ちゃんのお墓よ。そこは」


 リリアが震える声で言った。

 カンナは驚き響華の元へ駆け寄り体を撫でた。


「解るの? 響華? あなたの(あるじ)がここにいるのが」


 響華は墓石に鼻面を付けたり、舌で舐めたりしながら悲しそうな声を漏らしていた。


「そっか、解るんだね。お利口だね」


 カンナの声もいつしか震えていた。その様子をつかさやリリア達は静かに見守っていた。

 心地よい風が吹いていた。足元の草をゆらゆらと揺らしていた。

 カンナ達は戦死者達に黙祷を捧げた。

 ようやく訪れた学園での平穏な日々。しかし、その代償はあまりにも大きかったと、カンナは響華を撫でながら、そう思った。





 日が沈み掛けた頃、学園の大講堂では宴の準備が生徒達によって行われていた。

 学園の食堂に従事していた人々だけは武人ではなく、浪臥村(ろうがそん)の有志の人々だったので先の戦いの折は皆村へ避難していた。だが、こうしてまた学園が形を取り戻しつつあると聞くとすぐに戻って来てくれたのだ。

 その村の者達に聞いたところ、浪臥村の村長、酒匂邦晃(さかわくにあきら)は割天風の裏切りを知り一時は寝込んでしまったが、具合が良くなると新たな学園の船出にと沢山の食料を学園に送ってくれた。重黒木も浪臥村との治安維持契約は継続する意向を示していた。

 その浪臥村からの食料で今回の宴は行われるようだ。

 下位序列の生徒達は進んで席の準備や食事の準備を手伝ったりして、到着したカンナ達をすぐに席に案内してくれた。

 カンナは先程のメンバーと共に席に通された。

 用意されていた席に生徒や師範達が座り終わると重黒木が壇上に上がった。


「それでは諸君、新たな学園の船出に乾杯!」


 重黒木の乾杯の掛け声に生徒や師範達は思い思いの飲み物が入ったグラスを掲げ一斉に呑み、そして歓声と拍手で場が沸いた。

 カンナもグラスに入った酒を一息に飲み干すと普段は出さない大声を上げて周りに合わせてみた。するととてつもない開放感があり、自然と笑顔になっていた。


「ちょ! ちょっとカンナ!? まさか、お酒呑んだんじゃないでしょうね!?」


 何故だかカンナの右隣りに座っていた光希がカンナの飲み干したグラスを見て慌て始めた。


「え? なに? 光希? お酒だよ?」


 カンナには何故光希が慌てているのか分からなかった。


「なんだよ光希。酒くらい。カンナだって二十歳(はたち)過ぎてんだから普通だろ? まさか、自分がまだ呑めないからってカンナには呑ませないつもりか?」


 カンナの向かいの席に座って酒を次から次へと呑みまくっている燈がニヤニヤしながら光希に言った。


「ち、違いますよ! カンナは少しお酒呑んだだけで酔っちゃって……」


 光希が迷惑そうな顔をしてカンナを見た。カンナは自覚のない事を言われてキョトンとした様子で光希を見て口を尖らせた。


「なんだよもー。私そんなにお酒弱くないよ。あー、ちょっと暑くない?」


 カンナが手で顔の周りをパタパタ仰ぎ始めると突然光希がカンナの前の酒の入った瓶を没収した。


「ほら! まだ1杯しか呑んでないのに暑いって! そうやって服脱いじゃうんだから! やめてよね! ここには男の子もいっぱいいるんだから」


 光希が意味不明な事を言うのでカンナは眉間に皺を寄せた。そのやり取りを見て燈とその隣りの詩歩がクスクスと笑っていた。


「マジかよカンナ! お前酔うと露出魔になるのか! 面白そうだからもっと呑ませろよ光希!」


「燈も物好きよね。カンナの裸なんて見たくないじゃないの。オッサンじゃないんだから。いや、燈はオッサンかぁ」


 カンナの事を笑っていたと思った詩歩はその矛先を変え燈に毒を吐いた。燈は詩歩を横目でちらりと見るとまたニヤリと笑った。


「ま、あたしと3つしか変わらないのに、下の毛も生えてないようなお子様には分からんのかもしれないけどなー」


 燈がとんでもない事を口にすると、詩歩は急に顔を真っ赤にして燈を睨み付けた。


「は? い、意味分かんないんだけど?? 何言ってんの?? あーキモいキモい。ホント燈ってキモい」


 詩歩は手持ち無沙汰で目の前の酒の入ったグラスを手に取ると一気に呑み始めた。しかし、はぐらかしたかったであろう話は詩歩の過剰な反応によってカンナ達の記憶に残る事となった。


「下ネタはやめてください。火箸さん」


 突然カンナの左隣りで話を聞いていたつかさが不服そうに言った。


「お? 出たなつかさ。今学園であたしに突っかかってくるのはお前だけになっちまったなぁ。そろそろ決着をつけようか?」


 燈はニヤリと不敵に笑った。

 つかさが立ち上がろうとするとすかさず詩歩の正拳が燈の頬に炸裂した。燈は頬を押さえて詩歩を睨んだ。


「燈! 黙れ! 何でそういう話になるのよ! すぐにムキになって! ガキはあなたじゃない!」


 燈と詩歩の喧嘩が始まったがカンナは微笑ましくその様子を見ていた。詩歩の隣りのリリアがいつもの事だろうにあたふたとしながら2人を宥めていた。燈に文句を言ったつかさもその様子を見るとまたにこりと笑い目の前に出されていた料理に手を伸ばした。光希も綾星も燈と詩歩の喧嘩を聴き流しながら食事を始めていた。

 これがカンナの求めていた平和な学園。この光景が見られる事が楽しくて、それを守りたくて戦ったのだ。

 カンナ達の席には照れくさそうな蔦浜と嬉しそうなキナがやって来た。


「澄川さん、私達付き合う事になりました。もし蔦浜が澄川さんにちょっかい出してきたら躊躇わずぶん殴ってくれていいですからね!」


「いや、ぶん殴るのはやめてくれ、死んじまうから」


 嬉しそうに幸せの報告に来たキナ。しかし蔦浜は複雑な表情をして言った。


「良かったね! 2人とも! おめでとう!」


 カンナは蔦浜が何故素直に嬉しそうな表情が出来ないのかなんとなく分かった。

 カンナは蔦浜に手を差し出した。


「蔦浜君、私と君は友達。抱さんの事、ちゃんと守ってあげてね」


 カンナの言葉に蔦浜は驚いたような顔をしたが、一度目を瞑り微笑むと差し出したカンナの手を握った。


「ああ! もちろんだ! ありがとう、カンナちゃん」


 蔦浜とキナの交際とカンナと蔦浜の友情に周りからは歓声と拍手が起こった。


「めでたいなぁ! おし! おい、抱! 蔦浜! こっち来い! 一緒に呑もう!」


 詩歩と喧嘩していた燈が手を挙げて2人を呼んだ。蔦浜もキナも少し嫌そうな顔をしたが仕方なく酒で上機嫌な燈の元へ歩いて行った。

 またグラスに手を伸ばしたカンナの元へ、今度は七龍陽平が近付いて来た。

 カンナは少しグラスの酒を呑むと七龍の顔を見た。蔦浜との戦闘で負った傷がまだ癒えていないらしく厳つい顔には包帯が巻かれていた。

 七龍の接近につかさと光希が身構えた。


「澄川さん」


 七龍はカンナの名を呼ぶと何故か申し訳なさそうな顔をした。


「なに?」


「いや……あ、斑鳩さんが呼んでます」


 七龍は何か言いたそうだったが飲み込んでしまい、斑鳩の方を指差した。


「え!?」


 カンナは七龍が指した方を見た。

 そこには斑鳩がこちらを見て微笑んでいた。

 カンナは静かに席を立った。


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