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序列学園  作者: あくがりたる
学園戦争の章~結~
134/138

第134話~新総帥~

 カンナが目覚めてから1週間が過ぎた。

 戦死者は割天風(かつてんぷう)の遺体も含めて皆学園の西の岬の近くに手厚く葬られた。

 カンナはリリアを初めとした剣特の生徒達にも面会した。剣特の生徒達は外園伽灼(ほかぞのかや)の犠牲以外皆重症と言える程の怪我を負っているにも関わらずケロッとした様子でカンナを歓迎してその戦果を讃えた。

 小牧(こまき)を除く医療担当者の9人は全員御影(みかげ)の説得でこちら側に降伏した。9人とも大した怪我はなく、すぐに生徒達の手当に当たってくれた。御影も怪我人達の治療で多忙を極めた。

 槍特の怪我人はつかさと綾星(あやせ)くらいでつかさの怪我は大したことはなかったが、東鬼(しのぎ)から受けた綾星の肩の怪我は重症で腕を包帯で吊っていた。しばらく槍は持てないとの事だった。

 弓特の生徒達は皆軽傷で帝都軍の兵士達と共に学園の復興作業に従事していた。桜崎(さくらざき)アリアは後醍院茉里(ごだいいんまつり)の後にくっ付いて嫌々ながらも学園の復興作業を手伝っていた。

 蔦浜祥悟(つたはましょうご)にやられた体特の七龍陽平(しちりゅうようへい)は戦いの直後に目を覚ましており、叢雲甚吾(むらくもじんご)石櫃(いしびつ)レオが戦死した事を知ると腕を組んだままそれ切り何も喋らなくなったらしい。

 馬術師範の南雲(なぐも)大甕(おおみか)は全生徒達と和解し、また師範として教鞭をとる事になった。



 美濃口鏡子(みのぐちきょうこ)が部屋から出られるようになったので鏡子によって全生徒が学園の大講堂に召集された。

 講堂には生き残った全生徒達が集まっていた。

 全員が講堂に整列してからしばらくすると、重黒木(じゅうくろき)と南雲、大甕の3人が講堂に入って来てそのまま壇上に登っていった。

 そして、生徒達と壇の下にいた鏡子が松葉杖をつきながらその後に続いた。

 カンナは篁光希(たかむらみつき)と共にその様子を眺めていた。

 鏡子は壇下の生徒達を見回すと一呼吸置いてから話し始めた。


「ようやくこうして全員集まれた。僭越ながら、学園序列2位の私、美濃口鏡子が理事会を代表して話をさせてもらうわ」


 鏡子の話に皆静かに耳を傾けていた。


「学園のトップの総帥である割天風先生が亡くなられた。袖岡(そでおか)師範、太刀川(たちかわ)師範、東鬼師範、医師の栄枝(さかえだ)先生も亡くなられた。そして、生徒達6名も死んだ。この学園は今、崩壊していると言っても過言ではない。ただ、私達は学園を再興させる為に先の戦いに臨んだ。故に今ここで、新たな総帥の選出と今後の方針について話し合おうと思う」


 久壽居朱雀(くすいすざく)は生徒達の一番前の方で斑鳩爽(いかるがそう)と並んで鏡子の話を聴いていた。


「新たな総帥だけど、私はここにいる重黒木師範にお願いしたいと思っている。すでに重黒木師範にはそのお話をしてあるわ。重黒木師範、この場で皆の意見が一致したら是非ともお願い致します」


 松葉杖をついた鏡子に促され、重黒木は一歩前に出た。


「俺は先の戦いの当初は割天風先生の下に就き、お前達生徒の敵だった男だ。とても俺にお前達の上に立つ総帥の任が務まるとは思えない。美濃口から総帥就任の打診があったとが、その資格はないと思っている」


「だけどそれは、重黒木師範が割天風総帥への忠義と私達への愛情の狭間で葛藤していたから。そして最終的には私達の側に立ち、力を貸してくれた。資格がないなんてことはありませんよ」


 重黒木の話に鏡子が口を挟んだ。


「他の6人の師範も皆重黒木と同じ気持ちを持っておった。その気持ちが忠義と愛情のどちらに傾いていたか。どちらに重きを置いていたか。それだけの違いだ。この学園で完全な悪は鵜籠(うごもり)だけだ」


 重黒木の後ろに大甕と立っていた南雲が突然重黒木の擁護をした。

 重黒木は背中でそれを聴いているようだ。


「勿論、割天風総帥も元はといえば世界を変えるという正義の心でこの学園を創設された。そして次第に俺達師範や生徒達に愛情を抱くようになった。だが解寧(かいねい)青幻(せいげん)に唆された。総帥は肉体は屈強であったが、心は我々と同じただの人に過ぎなかったのだ」


 南雲がさらに言うと隣りの大甕が頷いた。


「その総帥の”世界を変える”という意志。我々はそれを引き継ぐべきだと思う。その意志を重黒木、生徒達の信頼の厚いお前が総帥として継ぐのがよかろう」


 大甕が南雲の言葉に重ねて言った。


澄川(すみかわ)カンナ。あなたはどう思うのかしら?」


 突然鏡子に指名されたのでカンナは慌てて返事をした。周りの視線が一瞬でカンナに集まった。


「私は……割天風先生の意志には共感出来ます。今の世界では多くの人が簡単に死に過ぎます。そんな世界になった要因として、私の父である澄川孝謙(すみかわこうけん)の関与が全くないとは言えません。父もこうなるとは思っていなかったはずです。父は平和を願い条約を締結させた。割天風先生と澄川孝謙の願いは同じ。争いのない平和な世界を作ること」


 カンナの話を一同は黙って聴いていた。一人として口を挟む者はいない。カンナは続けた。


「ですが、割天風先生は私達を利用し、何人もの犠牲者を出してしまいました。それは、如何なる理由であれ許されるとこではありません。だから、その過ちを二度と繰り返さず、割天風先生の平和を願う意志だけを受け継いだ学園を作っていくべきだと、私はそう思います」


 鏡子はカンナの話を聞いて少し微笑んだように見えた。


「重黒木師範が新たな学園の総帥になって頂けるのであれば私は大賛成です。重黒木師範は私の信頼のおける師でありますから」


 重黒木はカンナの言葉に静かに目を瞑った。

 すると鏡子が一歩前に出た。


「それでは今度は生徒達全員に聞く。重黒木師範を新たな総帥とする事に異論のある者は今この場で申し出なさい」


 場は静寂に包まれた。

 異論を唱えるどころか、不満そうな顔をする者さえいなかった。


「決まりです。重黒木師範」


「生徒達全員の総意なら俺は素直に受け入れるとしよう」


 重黒木はそっと目を開けた。


「今この場で、生徒達全員の意思で俺はこの学園の総帥たる地位に任命された。選ばれたからにはこの身体の持つ限りこの偉大な任務を全うする。そして、前総帥である割天風先生の目指した”世界を変える”という至上命題の下、この学園の生徒や師範並びに関連する者達の血を一滴も流すことなく、お前達生徒にとってより良い学園生活を送れるよう努力する所存」


 重黒木の決意表明に静寂に包まれていた場には歓声が沸き立った。


「ただし、これまで以上に授業は厳しく、信賞必罰を徹底する。武人としては当然だ。いいか、お前達はただの生徒ではない。武人なのだ!頼みましたぞ、南雲師範、大甕師範」


「あい分かった」


 重黒木の言葉に南雲と大甕はニヤリと笑い頷いた。

 生徒達の歓声は一瞬重黒木の方針を聞き弱まったが、また声を上げて新たな総帥を祝福した。


「それでは、重黒木総帥。まずは学園の根幹である序列制度についてですが、如何致しましょうか? 大分穴が空いてしまっております」


 鏡子が新総帥に訊ねた。


「そうだな。序列制度は継続する。それがこの学園が学園たる所以であり、割天風先生の遺産だ。再編するぞ」


「畏まりました。総帥」


 鏡子が頭を下げた。


「じゃあ序列1位は鏡子さんになるのか、神髪瞬花(かみがみしゅんか)はどっか行っちまったらしいからなー。結局あいつの顔も武術も見れなかったわ」


 火箸燈(ひばしあかり)が両腕を頭の後ろに組み、突然大声で喋り出した。

 周りの視線は一気に神妙な空気をぶち壊した燈に向いた。

 燈の言う通り瞬花がいない今、順番的には序列2位である鏡子が序列1位になるのが当然だ。そうでなくとも、今いる生徒達の中で鏡子がトップであることは間違いない。


「弓術師範の枠が空いている」


 重黒木は呟くように言った。

 その発言で、一同は重黒木が言わんとしていることを悟ったように重黒木の次の言葉を待った。


「美濃口には弓術師範として、生徒という立場からは離れてもらう。嫌だとは言わせない。お前にはその実力がある」


 重黒木は静かに言うと鏡子を見た。

 鏡子は鳩が豆鉄砲を食らったかのような表情をしていた。


「私が……師範ですか? そんな、ご冗談を」


 鏡子が鼻で笑いながら重黒木を見たが、重黒木は何も言わずに頷いただけだった。


「鏡子さんが師範ならば、私達弓特生は喜んで就いていきますわ」


「最年少師範ですね! 美濃口さん!」


 壇下で茉里が嬉しそうに言うと櫛橋叶羽(くしはしとわ)も笑顔で言った。


 鏡子は難しい顔をしていたが意を決したように重黒木に向かった。


「分かりました。この美濃口鏡子。弓術師範の任、お受け致します」


 鏡子が言うとまた歓声が沸き立った。

 カンナはまた以前のような学園生活が戻るのだと思った。またここで皆と楽しく生活出来るのだと思った。カンナを妬み恨む者はもういない。学園の生徒達全員で戦ってきた学園戦争が集結し、新たなスタートを切ったのだ。

 割天風に問われたカンナの最終目標。それは我羅道邪(がらどうじゃ)への復讐ではなく、父の悲願である篝気功掌(かがりきこうしょう)を世界に広める事。それを達成できればそれで十分だと思った。後は結婚して幸せな家庭を築きたい。

 1週間喪に服した生徒達は悲しみを乗り越えたかのような表情をしていた。

 そして、新たな序列は後日発表されると伝えられ、その場は解散となり、各自は部屋に戻った。


 カンナが光希と講堂から出ようとした時、出口の扉の横に畦地(あぜち)まりかが壁に寄り掛かって立ち、こちらに微笑みかけた。光希はぷいっと顔を逸らして先に出て行ってしまったが、カンナはまりかの前で立ち止まった。まりかの右手はまだ包帯が巻かれたままだった。


「やる事はやったから私は出て行くわよ。今まで酷いことしてごめんなさい。謝っても許して貰えないだろうから、もう一度一方的に謝っておくわ」


「そうですね。許しはしませんけど……お気を付けて」


 カンナの言葉にまりかは目を見開き唇を噛み締めた。


「私はあなたのような素敵な人と友達になる機会を失ったのね。これも運命か……。カンナちゃん。篝気功掌が世界に広まるように、頑張ってね」


 まりかはそれだけ言うとくるりとカンナに背中を向け歩き出した。


「いつか、あなたは分かってくれると思ってました。お元気で」


 もうこの女に会うことはないだろう。

 カンナは去りゆくまりかの背中をただ眺めていた。

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