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序列学園  作者: あくがりたる
学園戦争の章~結~
133/138

第133話~生き残った者達~

 次に目を開けた時には毎日目にしていた天井が映った。

 自分の部屋だ。周りには人の気配がする。


「カンナ!? 気付いた!? 大丈夫!?」


 カンナが目を覚ましたのですぐにつかさがカンナの顔を覗き込んで来た。


「つかさ……良かった。無事だったんだね」


 カンナは弱々しく言った。身体に力が入らない。体内の氣の量が明らかに減っていた。


「私なんて全然大丈夫だよ! それよりカンナ! あんたはまる1日寝てたんだよ!? すっごく心配したんだから!」


 つかさが目を潤ませながら言うと、今度は光希(みつき)が視界に入った。

 光希は顔中に絆創膏を貼っていた。


「カンナ、良かった。目を覚ましてくれて」


「光希、あなたも無事で良かった。2人ともずっとここにいてくれたの? ありがとう。ほかの皆は?」


 カンナが聞くと、つかさは目を細めて今回の戦いで死んだ者達の名前を教えてくれた。

 学園側では、剣術師範の袖岡(そでおか)太刀川(たちかわ)両名と槍術師範の東鬼(しのぎ)、牢番の鵜籠(うごもり)、島外の暗殺部隊の常陸(ひたち)が戦死。医師の栄枝(さかえだ)が自害。弓術師範の神々廻(かがまえ)と序列4位の影清(かげきよ)、序列1位の神髪瞬花(かみがみしゅんか)の行方が不明。

 反学園側では、序列37位の石櫃(いしびつ)レオ、序列36位の叢雲甚吾(むらくもじんご)、序列31位の涼泉魅咲(すずみみさき)、序列27位の桜崎(さくらざき)マリア、そして序列6位の外園伽灼(ほかぞのかや)が戦死したという。

 カンナは多くの人がこの戦いで犠牲になったのだと初めて認識した。実際カンナの目の前で死んだのは鵜籠だけだった。そして、死んだメンバーの中では常陸という者以外全員話した事もある人達だった。

 カンナは重大な事を思い出した。


割天風(かつてんぷう)先生は!?」


 カンナは自分が篝気功掌(かがりきこうしょう)の奥義・反芻涅槃掌(はんすうねはんしょう)を割天風の胸に放ち吹き飛ばした事を思い出し慌てて飛び起きた。


「亡くなったわ。すべて、終わったのよ。カンナ。あなたのお陰でね」


 つかさは嬉しそうにもせず、悲しそうにもせず、全くの無表情で言った。

 カンナは頭を抱えた。割天風を倒せた事は嬉しい。奥義をまた使えたという事も喜ぶべき成長だ。だが割天風が死んだ事。師範達が死んだ事。仲間達が死んだ事。「死」ということ自体がカンナには堪らなく悲しいものだった。


「カンナ、辛い気持ちは分かるよ。でもね、受け入れるしかないの」


 つかさがカンナの肩に手を置き優しく言った。


「うん……。でも、でもね……今まで一緒に生活してきた人達がたくさん死んじゃって……私、みんながいた学園だから楽しかったの。私……こんな事になるなんて思わなかったよ」


 カンナは声を上げて泣き出した。もう心の中に抱え切れなかった。この世界ではどうしてこんなに身近な人達がいとも簡単に死んでいってしまうのか。自分だけが悲しいわけではない。それは分かっていた。死んだ人達には誰かとの繋がりがあったはずだ。残された人は今も悲しみにくれているだろう。弓特の桜崎アリアに至っては実の姉が死んだのだ。辛くないはずがない。

 カンナが泣いていると光希がそっと抱き締めてくれた。

 カンナは長いツインテールの少女を見た。


「カンナ。辛いけど、私があなたの傍にずっといるよ。それでカンナの気持ちが少しでも紛れるなら、私はあなたの傍にずっといる」


 光希はカンナの顔を見なかったがカンナの胸に顔を埋めて言った。チラリと見えた光希の横顔には涙が光っていた。


「ありがとう。光希」


 カンナは光希の頭を撫でた。

 つかさも光希と同意見だと無言で頷いた。

 つかさも光希も悲しい気持ちを抑えている。自分だけいつまでも泣いているわけにはいかない。


「そうだ、他のみんなは!? 美濃口(みのぐち)さんや斑鳩(いかるが)さんは!?」


  カンナは自分に氣を分けてくれた2人の安否が気になりつかさに訊ねた。


「2人は今のところ無事よ。斑鳩さんはもういつも通りに回復してる。ただ……鏡子(きょうこ)さんが重体でまだ意識を取り戻してない」


 つかさの言葉にカンナは突然立ち上がった。

 つかさと光希は驚いてカンナを座らせようとした。


「カンナ!? まだ動かない方がいいよ」


 つかさが言ったがカンナは手を翳して止めた。


「私はもう大丈夫。ずっと寝てたら身体がなまっちゃうし」


「じゃあ、私も就いて行く。いい?」


 つかさの宣言にカンナは静かに頷いて答えた。

 するとカンナの服の裾を光希に引っ張られた。


「私も行く」


 カンナは微笑んだ。


「じゃあ、3人で行こう」


 カンナが言うとつかさと光希はカンナと共に部屋を出た。



 つかさの話によると久壽居(くすい)も斑鳩も弓特寮に集まっているというのでカンナ達は弓特寮へ向かった。

 斑鳩や鏡子の元へ向かう途中、つかさが先の戦いの詳細を話してくれた。カンナの愛馬の響華(きょうか)は戦場で他の馬達と共に佇んでいたのを無事だった生徒達が連れて来てくれたらしい。響華は怪我もなく元気にカンナを乗せて駆けた。その左右につかさと光希が並んで駆けていた。

 行方不明になっているという3人の人物の内、影清だけは死んだ可能性が高いらしい。伽灼の遺体が発見された辺りは地面が斬り裂かれたように抉れ、そこらじゅうが焼け焦げていた。影清は伽灼の神技(しんぎ)である焔の技で骨や大鎌さえも残らない程に燃え尽きたのではないかと噂されているらしい。カンナはその現場を見たわけではないのでどれ程凄惨な現場だったのか想像も出来なかった。

 神髪瞬花の氣は学園から消えていた。島から出たのかどうかは分からない。カンナの氣の探知能力の範囲外に出ていったことは間違いない。神々廻もこの学園内にはいない。

 学園内には至る所に割天風直属の暗殺部隊や鵜籠の部下達の遺体があった。それらは全て久壽居が連れて来た帝都軍の兵士達が処理をしてくれたらしい。久壽居もこの学園に来ているという事だ。

 


 カンナ達は鏡子や久壽居、斑鳩達のいる弓特寮へ到着したので響華を厩舎(きゅうしゃ)に繋いだ。

 弓特寮のロビーには弓特の生徒と体特の生徒が集まっていた。


「カンナちゃん!」


 真っ先に声を掛けてきたのは蔦浜祥悟(つたはましょうご)だった。カンナを見た途端に満面の笑みを浮かべ隣りにいた(かかえ)キナと共に駆け寄って来た。


「良かった! カンナちゃん! 目が覚めたんだね! 俺も傍にいたかったんだけど、つかささんと光希が部屋に入れてくれなくてさ」


 蔦浜はカンナの左右にいるつかさと光希を目でちらりと見て嫌味ったらしく言った。


「蔦浜君は下心ありそうだからなー。ま、こうしてまたカンナの姿が見られたんだから良かったじゃない。見るだけだからね? 触っちゃ駄目だよ?」


「いいって、つかさ。私は別に。蔦浜君に下心があろうと私を心配してくれた事には変わりないから」


 カンナは蔦浜に笑顔を作って見せた。


「心配してくれてありがとう。蔦浜君」


 蔦浜は顔を真っ赤にしてニヤけるのを堪えていた。


澄川(すみかわ)さん、ま、あなたの事だから大丈夫だとは思ってましたけど、また元気な姿が見れて良かったです」


 キナは口を尖らせカンナとは目を合わせなかった。


「蔦浜君も抱さんも無事で良かった」


 カンナはキナにも笑顔を見せた。


「あ、そうそう。澄川さん。久壽居さんが呼んでました。美濃口さんの部屋に斑鳩さんといらっしゃいます」


 キナが階段の方を指差したのでカンナはつかさと光希を連れて弓特寮の最上階へ向かった。鏡子の部屋に向かう間に弓特の生徒達がカンナに声を掛けてくれた。今までこんなにたくさんの生徒達から声を掛けられた事はなかったので素直に嬉しかった。廊下の途中で弓特の矢継玲我(やつぎれいが)と2人で廊下に立っていた新居千里(にいせんり)はカンナに話し掛けこそしなかったが軽く会釈をしてくれた。


「失礼します」


 カンナは鏡子の部屋の扉をノックした。

 扉は内側から開いた。


「澄川さん! 意識が戻られたのですね! 良かった! 先程、鏡子さんの意識も戻られたところですの。さ、中へどうぞ」


 後醍院茉里(ごだいいんまつり)が嬉しそうにカンナ達を部屋の中へ招き入れた。

 茉里も脚の怪我だけであとは元気そうだ。


「澄川! 目が覚めたのか! 良かった!」


 斑鳩は笑顔で言うと久壽居を紹介した。

 相変わらず身体の大きな久壽居は斑鳩と椅子を並べて座っていた。そして2人の正面のベッドには身体を起こして寝間着姿で座っている鏡子の姿があった。


「澄川。お前よく割天風先生を倒したな。まさかお前が倒すとは思わなかったぞ」


「あなたも無事だったのね。カンナ。良かったわ」


 久壽居と鏡子は優しい表情でカンナに言った。


「久壽居さん、ありがとうございます。鏡子さんこそ意識が戻られて良かったです」


 カンナはニコリと微笑んだがすぐに硬い表情に戻った。


「でも私だけの力で割天風先生を倒せたわけではありません。倒す事が出来たのは鏡子さんや斑鳩さん、そして、つかさの氣の力のお陰です」


 謙遜するカンナを久壽居は笑った。


「お前らしいな。澄川。斑鳩から話は全て聞いたぞ。割天風先生が俺達生徒を利用して青幻(せいげん)の国家を奪おうとしてたんだってな。何か企んでいるとは思ったが、とりあえずはその野望も打ち砕いたってわけか」


「犠牲は多かったですがね。師範や生徒達が何人も亡くなりました」


 久壽居の言葉に斑鳩が言った。


「失ったものは戻らない。亡くなった者達を悼む気持ちも大事な事だけど、その者達の死を無駄にしないためにも、生き残った私達が次に進まなければならないわ」


 鏡子は俯いていた斑鳩に言った。


「そうですね。俺とした事が。下を向いていました」


 斑鳩は顔を上げて言った。


「次に……進む」


 カンナが鏡子の言葉を呟いた。

 鏡子の視線がカンナに向いた。


「そうよ。割天風総帥がいなくなってしまったけれど、これからもこの学園は続いていく。そういうつもりで私達は戦ってきたはず。そうでしょ?カンナ」


「はい」


「まずはここの新たな総帥を決めなければならないわ。そして、この学園の方針なども決めてもらいましょう」


「新たな総帥……」


 鏡子の言葉に一同が静まり返った。


「確かにそうですが、一体誰が新たな総帥に?」


 話を聞いていたつかさが口を挟んだ。


「そうね。私は師範のあの方にお願いしたいと思っているわ」


 鏡子の言うあの方。カンナは一人だけ思い当たる人物がいた。


重黒木(じゅうくろき)師範」


 部屋に集まった者のほとんどが体特生だったので皆その力と人格をよく知っており誰も異論を唱える者はいなかった。カンナもそれには異論はなかった。


「今更外部から総帥となる人を見つけてくるのは現実的ではないわ。そう考えると重黒木師範が最も適任だと私は思う」


「重黒木師範なら俺も賛成だ。美濃口。ただ、本人が受け入れるかな」


 久壽居は顎に手を当てて言った。


「重黒木師範は今どちらに?」


「校舎の師範の部屋にいらっしゃいますわ。重黒木師範も鵜籠の部下の常陸とかいう男との戦闘で怪我されていたので御影(みかげ)先生が付き添い、安静にされています」


 カンナの質問に茉里が静かに答えた。

 重黒木の所在が分かりカンナは胸をなで下ろした。


「ま、いずれにしろ、今は学園は機能していない。新たな総帥が決まり、授業が再開出来る状態になるまでは時間がかかるだろう。美濃口もまだ動ける状態ではないからな。それまでの間は俺が連れて来た帝都軍の兵で村の治安維持、学園の守備及び復旧作業は全て受け持つ。俺はもう学園のいざこざには関わらないつもりだったが、今回だけは人手が必要そうだからな。宝生(ほうしょう)将軍からも許可を頂いている。全員、しばらくゆっくり休め」


 久壽居はそれだけ言うと腰を上げ部屋から出て行った。

 つかさの話によると、帝都軍が来てくれたおかげで村当番の和流馮景(せせらぎふうけい)瀬木泪周(せきるいしゅう)は学園に戻って来れたらしい。


「鏡子さんには私が付いていますのでご心配なく。皆さんもお身体を休めてください」


 茉里が丁寧に挨拶したので、斑鳩も腰を上げ部屋の入口の所で立ったままのカンナ達の方へ歩いて来た。


「行くぞ。お前達。いつまでもここにいても邪魔になるだけだ」


 斑鳩はカンナの肩にポンと手を置くと先に部屋を出た。


「それじゃあ、美濃口さん、私達はこれで。お大事にしてください」


 カンナは頭を下げるとつかさと光希と共に部屋を出た。

 鏡子が頷き、茉里がニコリと微笑んだ。



 カンナは部屋を出ると先に歩いて行った斑鳩を見た。


「ごめん、つかさ、光希。私ちょっと斑鳩さんに話があるの」


「お! カンナ、だんだん積極的になってきたね! わかった。頑張って!」


 つかさが白い歯を見せてガッツポーズをした。隣りで光希も無言でガッツポーズをしていた。


「もお! そういうんじゃないよ!」


 カンナは赤面しながら斑鳩の後を追った。



 カンナは斑鳩を弓特寮の外の入口の門の所へ連れ出した。


「なんだよ、改まって」


 カンナは赤面したまま深呼吸した。


「あ、あの、私が割天風先生を倒した後、意識を失って倒れる瞬間に、私を支えてくれたのって斑鳩さんですよね?」


「ああ。そうだ。なんだ澄川。気付いてたのか」


「斑鳩さんはあの時私に氣を分けてくれて動けなかったのに、どうやって……」


「さあな、身体が勝手に動いた。仲間を助けることに夢中だったからな」


 斑鳩は腕を組みながら涼しい顔で言った。


「ありがとうございます」


「そんな事でいちいちお礼なんていらないよ」


 カンナはそう言った斑鳩に抱き着いていた。

 斑鳩は突然の事に困惑している様子だった。


「ごめんなさい。でも今はこうしたくて」


「まったく、お前はこんな真っ昼間から大胆な奴だな」


 斑鳩はカンナの頭を優しく撫でた。

 またこの気持ちが味わえた。それだけでカンナは心の中の悲しみを少しの間紛らわせた。

 斑鳩もカンナの身体をそっと抱いてくれた。

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