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序列学園  作者: あくがりたる
学園戦争の章~結~
132/138

第132話~決着の時~

 身体中が物凄い氣で満ちているのを感じる。

 序列2位の美濃口鏡子(みのぐちきょうこ)と序列11位の斉宮(いつき)つかさの氣を受け取った。

 カンナは身体が自分のものではないように思えた。

 割天風(かつてんぷう)が愛刀である玄武皇風(げんぶこうふう)を構えこちらに走って来た。

 割天風の身体の4箇所からは絶えず氣が消失し続けている。だが、その動きは今までの化け物じみたものと大差なく、すぐにカンナの目の前に到着し玄武皇風を振った。カンナがその攻撃の軌道を先読みして躱し、刀を持つ割天風の右手首を掴んだ。そして、腹に蹴りを入れた。割天風の屈強な腹筋に蹴りは阻まれたが、初めてカンナは攻撃を入れることが出来た。勿論、蹴りにも氣を込めていたので常人なら筋肉の動きを阻害させる事が出来る。だが、割天風の動きは変わらず、カンナの腹にもに蹴りを入れた。カンナは歯を食いしばり耐えた。僅かに身体が後退しただけだ。恐らく、割天風の蹴りの破壊力は尋常ならざるものがあるのだろうが、腹への防御に瞬時に回した氣の力により、かなりのダメージを軽減し、その場で持ち堪える事が出来た。

 お互い目を丸くしていたが、割天風がまた動こうとしたので、カンナが掴んでいた割天風の右手首を背中側に伸ばし肩の関節捻りながら後頭部に回し蹴りを見舞った。割天風はよろめきもせず、右手に握った玄武皇風を左手に持ち替え、右腕の下から突きを放った。軌道が読めたのでカンナは割天風の手首を放し、後ろに跳んで避けたが微かに右の胸を刀が掠っていった。掠っただけだが、僅かな傷口から血が吹き出して当たりに舞った。カンナは右胸を押さえながら仕方なく距離を取った。斬られた箇所を見ると傷口の周りの衣服は割天風の氣で焼け焦げたようになっていた。


「カンナ! 大丈夫!?」


 つかさが鏡子を膝枕に寝かせながら叫んだ。


「大丈夫! 心配しないで!」


 カンナは割天風に2発入れた。しかし、割天風には全く効いていない。常人なら死んでいてもおかしくない。

 だがカンナは落ち着いていた。これまでは有効打は1度も当てられなかった。それが今回は2度も当てた。確実に鏡子とつかさの2人から貰った氣はカンナの戦闘力を上げていた。

 あと一人分。

 根拠はないが氣を失い続ける割天風を見ながらカンナはそう思った。

 カンナの右胸からは血が滴り続けていた。


「カンナよ。お主のその傷口から流れる血。果たして、いつまで持つかのお」


 割天風は左手で顎髭を撫でて言った。

 涼しい顔でこちらを見ている割天風の身体から今も膨大な氣が流出しているを感じた。顔には出さないが、少なからず焦っているはずだ。割天風程の武人でも四点滅封(してんめっぷう)による氣の流出を止める術はないのだろう。とても強力な技だ。

 辺りには完全に意識を失っているリリアや、辛うじて意識があるが立ち上がる事が出来ない奈南(ななみ)が倒れていた。彼女達を巻き込むわけにはいかない。

 割天風の後ろには口から血を流しているがまた割天風に飛び掛ろうと構える斑鳩(いかるが)の姿もあった。

 斑鳩と目が合い、お互い頷いた。斑鳩が何をしようとしているのかがカンナには分かった。

 割天風の氣がなくなるのが先か、自分の血がなくなるのが先か。

 カンナは割天風に突っ込んだ。

 氣を内部破壊ではなく、外部破壊用に練り直し両手両足に纏わせた。

 カンナの両手両足の周囲は圧縮された氣で空間が歪んで見えた。

 カンナの素早い上段蹴り。割天風は屈んで躱したが続けざまに上段の後ろ回し蹴りを放った。微かに割天風の頬を掠った。掠った箇所からは血が滲んだ。

 効いた。

 そのままカンナは怒涛の蹴りの乱舞を浴びせた。割天風も神業のような身のこなしでカンナの蹴りを躱しつつ、合間合間で刀を振った。

 カンナも割天風もお互い何度も蹴りと刀が身体を掠った。

 カンナが蹴りを放つ度に右胸の傷からは血が飛び散り宙を舞った。

 痛みに一瞬動きが鈍ったカンナの横っ面に割天風は容赦なく左の裏拳を叩き込んだ。


「ぐっ!」


 その勢いでカンナはくるくると回転したがバランスは崩さず、すぐに持ち直し、割天風の首に手刀を叩き込んだ。

 僅かだが割天風がふらついたのをカンナは見逃さなかった。右脚に両手両足に分散させていた圧縮された氣を全て集約した。

 カンナには見えていた。割天風の背後へ走って来た斑鳩の姿が。

 カンナと斑鳩の視線が交わった。お互いが頷くと2人は同時に蹴りを放った。

 カンナの蹴りと斑鳩の蹴りが全く同時に割天風の頭部を捉えた。カンナの蹴りは割天風の顔面に。斑鳩の蹴りは割天風の後頭部に。2人の脚で挟み込むように交差した。


「やった!!」


 つかさの声が聴こえた。

 割天風は玄武皇風を地面に突き刺し片膝を付いた。口や鼻からは血が吹き出していた。

 カンナは強烈な蹴りを放った反動でバランスを崩した。すぐさま斑鳩がカンナの身体を抱き留めた。


「大丈夫か? 澄川(すみかわ)。お前、血が」


「大丈夫ですこんなの。斑鳩さんの方が酷い怪我です……」


 カンナは斑鳩に抱き留められたままその優しい男の顔を見た。

 斑鳩は優しく微笑みかけてくれたが、すぐにまた険しい顔になった。


「澄川。総帥が今の攻撃で倒せるとは思えない。総帥の氣は後どれ位ある?」


 斑鳩に言われるままカンナは割天風の方を見た。


「さっきの私達の蹴りで一気に割天風先生の氣が減っています。ダメージ量は大したことはないかもしれませんが、氣の量は大分減りました。これなら……」


「いけるか?」


 斑鳩の問い掛けにカンナは頷いた。

 今の割天風の氣の量はまだ今のカンナの氣の量より多いが恐怖を感じる程ではなくなった。

 あと少しカンナの体内の氣が増やせれば勝機が見える。


「澄川。俺の氣も使え。俺はもうこれ以上は身体が動かせない。足でまといだ。だったら俺の中にある氣って奴をお前に使って欲しい」


「え……いいんですか? それをしたら斑鳩さん本当に動けなくなっちゃいますよ?」


「俺がこのまま総帥と戦闘を続ければどちらにしろ動けなくなる。場合によっては死ぬ。だから俺はお前に全てを託したい。俺はお前ならやれると信じてる。さ、どうやって氣を渡せばいい?」


 カンナは斑鳩の目を見た。自分を信じてくれている目だ。その勇壮な瞳はカンナを即決させた。

 カンナは斑鳩の右手を取った。


「簡単です。少しの間、目を閉じていてください」


 そう言うとカンナは、斑鳩の右手を自分の左胸に当て、その上からさらに自分の手を置いた。

 斑鳩は一瞬カンナの胸の柔らかい感触に眉を動かしたようだったが静かに目を閉じていてくれた。


篝気功掌(かがりきこうしょう)換氣天譲(かんきてんじょう)


 大好きな斑鳩の大きな手が、自分の胸に触れているという羞恥心も斑鳩の強く優しい氣が身体の中に入って来た瞬間に快楽へと変わった。斑鳩の氣がカンナの身体に満たされると斑鳩はカンナにもたれ掛かった。


「なるほどな、氣が体内からなくなると、ただの人間でも動けなくなるんだな」


 倒れそうな斑鳩をカンナはそっと抱き締め、そしてゆっくりと地面に座らせた。


「ありがとうございます。斑鳩さん。この氣の力で必ず割天風先生を倒します!」


 カンナは片膝を付いたままの割天風の方を見た。

 割天風はゆっくりと玄武皇風を杖にして立ち上がった。

 そして首を左右に鳴らしながら左手で血の流れる口を拭った。


「氣が……また増えたか。カンナよ。面白い。まさかお主が儂と最終決戦の舞台に立つことになるとはのお。お主をここへ連れてきた時には想像もしなかったぞ」


「私もです。割天風先生」


 カンナはゆっくり構えた。

 同じく割天風もゆっくりと構えた。

 割天風の玄武皇風からは相変わらず氣を放ってはいるが、先程までの荒々しさはない。どうやら玄武皇風から発されている氣は刀自信の氣のようである。玄武皇風の氣に割天風の膨大な氣が干渉して物凄い氣を放っていたのだろう。今は割天風自身の氣が弱まった為、玄武皇風の氣もそれ程強くは感じないのだ。

 睨み合ったがカンナにはもう迷いも恐怖もなくなっていた。それは体内にある3人の氣が力をくれるからだ。

 カンナの靴底が地面の小石を踏む音が聴こえた。身体中から汗が吹き出していた。

 カンナが仕掛けた。

 先程までとは格段に違う自分の動きにカンナは驚いた。身体が軽やかで攻撃スピードが格段に上がっていた。

 すでに『篝気功掌・連環乱打(れんかんらんだ)』の氣の循環法と駆動穴(くどうけつ)解放による氣の高速循環でカンナは疲労を知らずに拳や蹴りを繰り出し続けていた。斑鳩の氣を貰い、さらに攻撃の威力も上がっているのを感じた。

 割天風は刀を振ったがカンナは割天風の太刀筋を、刀自体から発せられる氣によって容易く読む事が出来た。それに、割天風の動きが僅かに鈍くなっていた。

 割天風が剣撃に交えて蹴りを放ったがその蹴りさえも読み切ったカンナは同じく蹴りで受け、続くもう1発の蹴りも蹴りで受けた。

 今となっては右胸から流れ続ける血など気にならなくなっていた。

 割天風の蹴りと剣撃の応酬を掻い潜り、カンナは割天風の懐に隙を見付けた。

 すかさず懐に掌打の壊空掌(かいくうしょう)を捩じ込んだ。さらに、割天風の両手両足に手刀の斬戈掌(ざんかしょう)を打ち込み一旦離れた。

 しかし、割天風はゆっくりとまた構えた。


「お主の氣の技如きで、この割天風の動きが止められると思うか」


 カンナの連打で筋肉の働きを阻害してもなお、その自らの膨大な氣で筋肉を動かし続けているのだろうか。

だが、割天風の動きは明らかに遅くなっていた。

 強力な技を叩き込めば倒す事が出来る。

 今なら、奥義・反芻涅槃掌(はんすうねはんしょう)も、秘奥義・無常掌(むじょうしょう)も使う事が出来る気がした。

 どちらを選ぶか。

 一度使えばもう他の技はおろか、自分が動けなくなる事は明白だった。しかし、このまま小技を出し続けていても勝つ事は出来ないだろう。

 カンナは一度目を瞑った。

 叔父の獅攸(しゆう)、父の孝謙(こうけん)の事を思い出した。

 そして、目を開いた。


「割天風先生。私はあなたにこの場所に連れて来てもらえて本当に幸せでした。大切な友達と出会え、そして、私自身成長する事が出来ました。辛い事ばかりだったけど、それを乗り越えた分、私は幸せでした。本当にありがとうございました」


 一つ息を吐いた。


「己がどれ程成長したのか。それは儂を倒した時証明される。さあ、来るが良い。澄川カンナ」


 割天風は流出する氣には構わず、体内にあるほとんどの氣を玄武皇風に込めた。

 割天風もこれが最後の攻撃だろう。


「行きます!」


 カンナが言うと、玄武皇風を構える割天風へ走った。

 割天風もこちらに走って来た。


「儂がこの人生で極めた剣術の秘技、”開闢四獣斬かいびゃくしじゅうざん”。冥土の土産にその目に焼き付けよ」


 割天風の刀からは真っ黒な刃のような氣が触れた空間を歪ませていた。

 カンナも全ての氣を右手に集めた。

 これで最後。

 カンナは叫びながら臆することなく割天風の元へ走った。

 黒い氣を放つ玄武皇風が目の前に迫った。カンナは地面を滑りながらその刀の下をくぐり抜け、割天風の懐に入った。


「篝気功掌・奥義・反芻涅槃掌!!」


 カンナは割天風の鼓動穴(こどうけつ)に掌打を打った。

 その瞬間に玄武皇風が纏っていた膨大な氣は一気に割天風の体内へ吸い込まれ、一旦全ての氣が割天風に集約された。そして、その全ての氣はカンナが鼓動穴に放った氣により割天風の身体から押し出され、その背中から堤防が決壊して水が溢れ出すかの如く全ての氣が放出された。

 割天風は後方に数メートル吹き飛び地面を転がった。

 それと同時にカンナは崩れるように両膝を付いた。


「カンナ!!」


 つかさが叫んだ声が聴こえた。だがカンナはつかさの方さえ振り向く力は残っていなかった。


 目の前の空には膨大だった割天風の氣が霧散していくのが見えた。


 右胸からは血が流れ続けている。


 カンナの意識が遠のいてきた時、そっと身体を誰かに支えられた。


 この腕の感じ、この香り……


 カンナは自分を抱えてくれている人物の顔がぼやけて見えなかった。


 次第に目の前が闇に鎖された。

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