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序列学園  作者: あくがりたる
学園戦争の章~承~
102/138

第102話~蔦浜とキナ~

 大きな黒い鎌が唸った。

 風を切り、掠りもしなかったが頬が裂けて血が出た。

 つかさ達のいる御影(みかげ)の部屋に向かう為、馬を駆けさせていた時だった。運悪く、序列4位の影清(かげきよ)に遭遇してしまったのだ。

 影清も馬に乗り右手に大きな鎌を持ってこちらの動きを見ていた。

 斑鳩(いかるが)は一度影清から距離を取って睨み合った。


「おい、斑鳩。お前1人か?まりかと伽灼(かや)、あと澄川(すみかわ)はどこだ?」


「さあ、知りません。影清さんが俺の前に現れたという事は、俺を殺す為なのでしょうね?」


 斑鳩は涼しい顔で言ったが、額には汗が滲んでいた。


「反逆者を殺せ。そう言われている。俺にとっては丁度いい機会なんだ。剣特から上位2名の反逆者が出た。そいつらを正当に殺せるんだからな。正直、お前に興味はない。大人しくまりかと伽灼、澄川の居場所を教えれば見逃してやる」


「知らないものは知らないです」


 斑鳩の返事に影清は無表情だった。


「そうか……。俺はお前の事を少しは買っていたんだぜ?久壽居(くすい)さんがいなくなってから、唯一の男の上位序列の生徒だったからな。ったく、この学園は、女ばかりが力を付けるだけで、まともな男は俺とお前の2人だけだ。情ねぇなぁ。そう思わないか?」


 影清は関係のない話を始めた。それでいて殺気は常に出し続けている。


「そう言えば、こうやって影清さんと2人でお話するのは初めてですね。確かに、女性陣が上位を占めています。しかし、それは彼女達の実力。男だろうが女だろうが関係ありません。ここは力こそが全ての学園だったはずです。強い者が上に立つ事は必然です」


「お前はそう言うと思ったよ。ここで2人で話すのが、最初で最後になるなんて悲しいな」


「影清さんはこの学園の陰謀を知っているんですか?知った上で学園側に付いているんですか?」


 斑鳩はもしかしたら影清が利用されている事を知らないのかもしれないと思った。

 すると、影清は鼻で笑った。


「利用されてるねぇ……お前達はそう考えるんだな。いいだろう。教えてやる」


 影清は斑鳩に大鎌を向けた。


「勿論、総帥のやろうとしている事は知っている。まぁ、確かに利用されているとも言えるな。だが俺は、戦えればそれでいいんだ。極論、青幻(せいげん)の所へ行っても充分楽しめるだろう。かつてこの学園から青幻の下へ行った女もいたからな。俺もそうしようかと思っていたが、総帥はゆくゆくは青幻の建国した国家を乗っ取ると、俺に教えてくれた。総帥の理想の下、この”学園”という小さな箱庭が、”国家”という大きな世界に変わるんだ。俺はその考えに乗ることにした。この事は、生徒では俺とまりかにしか話していないらしい。俺はお前達とは違う。総帥に選ばれた存在なんだよ!」


「なるほど……。分かりました。では、俺とあなたは、やはり敵同士というわけですね」


 斑鳩は諦めた。


「そういう事だ」


 空気が張り詰めた。

 倒すか。逃げるか。いや、倒す事など出来るか? そう逡巡しているうちに、影清はこちらに向かって駆けていた。

 あっという間に接近し、大鎌を振りかざしてきた。斑鳩は大鎌を避け、馬上で立ち上がり蹴りを打ち込んだ。しかし、その蹴りは左手で受けられ、また右手の大鎌が襲ってきた。斑鳩は飛び上がり同時に3発闘玉(とうぎょく)を放った。大鎌が3発の闘玉を払い斑鳩から離れた。

 斑鳩はまた馬に着地し、4発闘玉を放った。その時、4発の闘玉が真っ二つに斬れるのが見えたので、咄嗟に影清の直線上から横に避けた。避けた所の地面が鋭利に切り裂かれた。その後ろの木々も切断され薙ぎ倒された。


神斬(しんざん)……」


 一度、カンナ達と影清の制裁仕合を見た事があった。その時初めて影清の神技を目の当たりにした。もしそれを見ていなかったら今ので死んでいただろう。


「そんな玉で俺が倒せるとでも思ってるのか? 舐めるんじゃねーぞ? 体術だけで俺が倒せるわけねぇだろ」


「澄川にやられかけていた人が良く言いますね」


 斑鳩の挑発に影清の目付きが変わった。そして右手の大鎌を振り上げ大きく振った。同時に斬撃が飛んでくる。目には見えないが、地面が抉れる様子でそれがかろうじて分かった。

 斑鳩は影清の動作を見てぎりぎりで馬を駆けさせ避けた。


「避けるだけじゃいつまでたっても俺を倒せねーぞ?」


 どうする? 斑鳩は考えた。しかし、いくら考えても影清を倒す方法は思い付かなかった。闘玉をいくら打っても躱されるか叩き斬られる。影清から鎌や刀を奪えば或いは……。

 斑鳩はポーチから玉を1つ取り出し地面に叩き付けた。すると、凄まじい閃光が走り、辺りは真っ白になった。


「小細工を! 逃げる気か! 斑鳩!!」


 影清の声が聴こえたが構わず反転して元来た道を駆けた。

 今は逃げるしかない。ここで死ぬわけにはいかないのだ。

 振り向いたが影清は追っては来なかった。





 医務室には医師の栄枝(さかえだ)が医療班10人全員を引き連れて来た。その医療班の中には御影の信頼している小牧(こまき)の姿もあった。

 蔦浜(つたはま)とキナは部屋のクローゼットに隠した。一緒にいると話がややこしくなりそうだったからだ。


「御影、お前何故集会に来なかった? 総帥が集会に参加しなかった者は反逆者とみなすと仰っていたぞ?」


「すみません。具合が悪いと言っていた子の面倒を看ていました」


「それは、誰の事だ?」


「蔦浜君と(かかえ)さんです」


「ほう。で、2人はどこだ?」


 栄枝が部屋の中を見回した。


「2人は薬を出したらすっかり治ったので帰しました。食中毒だったみたいです。あの、何かあったのですか? 栄枝先生」


 栄枝は御影の目を見た。


「御影、正直に言え。お前は何か知っているのか? 手荒な真似はしたくない」


「栄枝先生……? 仰る意味が、分かりません?知っているとは? 何の事です?」


 御影が首を傾げると、栄枝の目が光った。栄枝の右手が御影の首に伸びた。

 咄嗟に御影は栄枝の手を払った。そのまま拳の打ち合いになった。栄枝が上段に蹴りを放つと御影は屈みながら下段に蹴りを放った。しかし、栄枝もその蹴りを交わした。


「栄枝先生やめてください! 私はあなたと闘いたくないです!」


「お前は総帥や師範達に疑われている。観念して総帥の元へ出頭しろ! 今ならまだ許されるかもしれん!」


 栄枝と御影はまた距離を取って睨み合った。




「ちょっと、御影先生、やばくないか? 助けないと」


「馬鹿! ここに隠れてろって言われたろ? 蔦浜。余計な事はしない方がいい」


 狭いクローゼットの中で蔦浜とキナは膝を折り、身体を丸めるようにして息を潜めていた。クローゼットの中には白衣が何着も掛けられている。白衣と扉の隙間から御影と栄枝が争う様子が見えた。まさか、御影も栄枝もこんなに凄い動きをするとは思わなかった。下手をすれば、下位の体特生よりも動きはいい。恐らく、周りに控えている医療班の面々もそれなりに出来るのだろう。


「つ、蔦浜。もしかしたら、もう言えないかもしれないから、先に言わせてくれ」


 隣りのキナが膝を抱え、もじもじしながら声を殺しつつ言った。


「何だよ? こんな時に」


「あ、あのな、えっとだな……その」


いつもハッキリと物事を包み隠さずストレートに言うキナがこの時はなかなか要件を言わなかった。


「ハッキリ言えよ。お前らしくない」


 蔦浜がそう言うと、キナは蔦浜の方を見た。


「私な、お前の事が好きだ」


 目が合った。キナは顔を真っ赤にしているがずっと蔦浜の目を見続けている。


「は!? えっ!? 何言ってんだお前!?」


 蔦浜は声を殺してキナに言った。


「もしかしたら、生きてお前に会うのは最後かもしれないからな。死ぬ前に、ちゃんと気持ちは伝えとこうと思って……。わ、私、お前に結構乱暴に接してきちゃったけど、悪気はないんだぞ? 私の性格なんだ。気を……悪くさせたよな? ご、ごめん。でも、私、お前に気にして欲しくて……でも、どうしたらいいか分からなくて……自分に素直になれなくて……すぐ、殴っちゃって……」


「抱……お前」


「でも、本当に、私はお前の事が好き。お前、エロいけど、実はいい奴だし、男らしいとこあるし、顔も……、私、ブサイクって言ったけど、本当は好きだし……あ、澄川さんの事が好きなのは知ってる。でも、それでも私はお前の事が好きなんだよ。2番目でもいいよ。お前が好きな人はきっといい人だから。蔦浜ぁぁ、私……」


 キナは顔を真っ赤にして目を潤ませていた。2番目でもいいなんて、本心じゃないだろう。1番がいいに決まっている。

蔦浜はキナを抱き寄せた。


「ありがとう。抱。俺、女の子に好きって言われたのは、お前が初めてだ。嬉しいよ。こっちこそ、散々馬鹿にして悪かった。俺はお前の事、乱暴な女だとは思ってるけど、嫌いじゃないよ。気を悪くした事なんて一度もない」


 キナは蔦浜の胸に顔を埋めて頷いている。


「でもな、俺は澄川さんに告白した。その返事をまだ貰ってない。まあ、答えは分かってるんだけど、この状態のままお前の気持ちを受け入れてあげる事は出来ない。ケジメを付けなきゃ……だから」


 蔦浜は言葉を溜めた。キナが蔦浜の顔を見た。目からは涙が零れていた。


「俺がお前の気持ちに答えられるまで、死ぬ覚悟なんてするな! 俺の事が好きなら、この戦いを生き抜いて見せてくれよ」


 絶望と悲しみに満ちていたキナの瞳が、蔦浜の言葉で希望と喜びの光に満ち溢れた。


「分かった……分かった!! 絶対生き抜く!! 生き抜いたらその時は……結婚しような、蔦浜!!」


「は!? いきなり結婚!? そ、その前に歩むべき過程があるだろ!?」


「え……? こ、子作りの事??」


「お、お前! 飛躍し過ぎ!! 少し落ち着け! まずは澄川さんとのケジメを」


「分かった! 落ち着く! まずは御影先生助けよう! 行くぞ!!」


 ついさっきまで泣いていたキナはもうすっかり心を入れ替えて元気が溢れ出していた。

 その勢いに連られ、クローゼットを勢いよく蹴り飛ばし部屋の中へ飛び出した。

 御影と栄枝は、突然現れたキナと蔦浜に目を奪われた。

 キナがその隙を突き、御影の手を取り栄枝を蹴り飛ばした。そしてそのまま医務室を飛び出そうとしたが、控えていた10人の医療班がそれを阻止しようと襲い掛かってきた。

 蔦浜がキナに襲い掛かる男達を1人、また1人と打ち倒した。1人だけ、襲い掛かって来ない男がいた。その男は栄枝と目配せをするとキナと御影の後に続いて医務室を飛び出した。


「俺も一緒に行きます。御影先生」


「助かるわ、小牧君」


 男はどうやら御影と知り合いのようなので、キナはそのまま走り続けた。

 蔦浜はまだ追いかけてくる男達を殺さない程度に打ち倒し、投げ飛ばし、9人全員を倒し終わると、キナと御影の後を追った。

 栄枝は床に座り、走り去る4人をただ眺めていた。


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