第101話~弓槍連合~
「放てーーー!」
掛け声とともに無数の矢が降り注がれた。
つかさは死を覚悟したが目の前にいた黒い男達は次々と倒れていった。
つかさと綾星が立ち上がると黒い男達の大群の後方に騎乗した生徒達が増えているのに気が付いた。その生徒達は弓を構え矢を射ている。その隣には騎乗したカンナが見えた。
その光景につかさは目を疑った。
「我々弓特は澄川カンナに加勢する!!全員!!学園の闇を射抜きなさい!!」
鏡子の掛け声と共に次から次へと黒い男達に矢が射られていく。
「カンナ、まさか鏡子さんを説得してきたって言うの……?まったく、あの子はどれだけ凄いのよ」
つかさは足元に落ちていた豪天棒を拾い、高く掲げた。
「槍特ーー!!!あんた達もどっちに付くか決めなさいよ!!いつまでも迷ってんじゃないわよ!!」
つかさの掛け声が黒い男達の後ろにひっそりと固まっていた槍特生に届いた。
「よ、よし!俺達も、つ、つかささんに付くぞ!!かかれーー!!」
序列16位の東堂が先陣を切ると残りの槍特生も馬で駆け出した。
村当番で和流と瀬木泪がいないので馬で突っ込んだ槍特生はたったの4人だ。しかし、そのたった4人の突撃さえ黒い男達は止められず蹴散らされていった。
「槍特もこちら側になった。間違っても槍特には矢を射るなよ!!」
黒い男達は矢を射ている弓特の生徒達を片付けようと標的を替え向かって来た。
だがすぐに槍特の4騎は男達を遮るように突進し次々に蹴散らした。
「よし、綾星。動ける?私達も加勢するよ!」
つかさが先に屋根から飛び降りて、下に落ちていた綾星の黄色いリボンの付いた槍を拾い高く投げた。綾星は屋根から飛び出しながらその投げられた槍を掴み、落下する勢いで地面に群がる男達を薙ぎ払った。
「やるじゃん、綾星!」
「つかささんの為に、私頑張りますよー」
綾星の口調がいつも通りになったのを聞いて、つかさは微笑んだ。そして、豪天棒を頭上で振り回し、襲い来る男達を次々に薙ぎ払い、打ち殺した。
室内に侵入してくる男達がいなくなった。
外を見ると、黒い男達は地面に倒れているばかりで立っている者は1人もいなくなっていた。
「たった15人の弓特と槍特。そして、つかさちゃんと光希ちゃんと私だけでほぼ100人の暗殺部隊は壊滅したわね」
まりかが窓辺りに腰掛けて言った。
部屋の中にも何人もの男達の死体があった。まりかも光希も大量の返り血を浴びて真っ赤になっていた。
「カンナちゃんが鏡子さんを味方に付けてきたみたいね」
「え!?カンナが!?」
まりかは神眼で外の様子をずっと観察していた。
光希もまりかの隣に並び、一緒に外を眺めた。
しばらくすると、カンナ、鏡子、茉里、つかさ、綾星の5人がめちゃくちゃになっている御影の部屋に入って来た。
まりかは鏡子を見ると気まずそうに目を逸らした。
「光希、大丈夫!?怪我は!?」
カンナは真っ先に血塗れの光希の心配をして駆け寄った。
「大丈夫。何回か刀が掠っただけ。ほとんど返り血」
「良かった……無事で」
カンナはほっと胸をなで下ろした。
「ちょっとー。私も無事だよー?おーい」
光希よりも血塗れで、左手の刀を頭上に上げて振っているまりかが自分の存在をカンナ達に知らせてきた。
カンナは何も言わずにまりかに近付いた。
「脚の矢傷、開いちゃってますよ。座ってください。手当し直します」
カンナはまりかを血塗れのベッドに座らせた。そして、棚の引き出しから応急処置に使う道具を探し出してまりかの脚の傷の手当を始めた。光希と綾星の傷はつかさが別のベッドに座らせて手当を始めた。
「優しいのね。カンナちゃん。そう言えば私、あなたに酷いこと言ってたわ。『処女』だとか『毎日オナニーする事しか出来ない』とか……って、痛っっ!!?」
カンナはつい力が入り傷口を消毒するガーゼを強く押し付けてしまった。
「あ、すみません。気にしてませんよ。私は処女だし、毎日自慰もします。それはいけない事ですか?」
カンナはまりかの顔を見ず無表情で淡々と自分の隠しておいていい秘密を敢えて告白した。どうせ隠しても神眼でバレているんだと思った。
「ほんとに毎日なんだ……、ま、まあ、別に悪くはないけど。ってか、絶対気にしてるじゃない。この子」
カンナがあまりに潔かったのでまりかは口を尖らせてそっぽを向いた。
「カンナ、交代しようか?私のワイルドな荒治療で傷の治りも早いわよ!ついでに口も縫い付けちゃおっか!」
カンナの後ろからつかさが肩を叩いて意地悪く笑いながら言った。
「じゃあお願いしようかな」
「いらない!いらない!カンナちゃんの治療がいい!!」
まりかの焦る顔を見てカンナもつかさもケラケラと笑った。
「治療は続けていていいわ。そのまま聞きなさい。あなた達」
ずっと様子を見ていた鏡子が口を開いた。
「あなた達はこの学園の陰謀を知ってそれを打ち壊そうとして結託した。ここまではいいわね?」
「そうです」
カンナがまりかの脚の治療をしながら答えた。
「ではあなた達の最終的な目的は何?」
「それは、今の学園の体制を崩壊させる事です」
つかさが答えた。
「崩壊させるとは?」
鏡子がさらに問い詰めた。
つかさが言葉に困っていた。
「割天風先生を倒します」
カンナはまりかの脚に包帯を巻きながら凛として答えた。
「そして、新しい学園を私達の手で創り上げます」
カンナが続けた。
「出来るかしら?総帥を倒すなんて。あの方の力は誰も知らないわ。かなりのご高齢だけど、その力は恐らくどの師範達よりも上。それでいて、一切氣を放っていない。あなたになら分かるはずよね?カンナ」
カンナはまりかの手当を終えると立ち上がり鏡子の方を見た。
「はい。でも、やらなくちゃいけないんです。私にとってこの学園は、大切な仲間と出会う事が出来た大切な居場所なんです。きっと、皆さんもそうなんじゃないですか?」
カンナの言葉に皆静かに耳を傾けていた。
「私はここに来るまでずっと1人でした。両親も親戚も皆殺され、頼る人もいなくて、ずっと1人でこの広い地をさ迷っていました。そんな時、割天風先生に出会い、この学園にやって来ました。最初は皆から嫌われて、結局は独りぼっちだったけど、そんな時、一番最初につかさが友達になってくれました。いっぱい助けてもらいました。そしたら段々ほかの人達とも繋がりが出来て、私はこの場所で、人生で一番多くの友達が出来たんです!好きな人も出来ました。なのに、この学園は最初から割天風先生の野望の礎に過ぎなかったなんてそんな酷い話……最悪のバッドエンドじゃないですか!?私はこの学園生活をハッピーエンドにしたいです!いえ、出来ればエンドではなく、これからもずっと楽しい生活を続けたいです!!」
カンナは気持ちを全て吐き出した。言いたい事は全部言った。
鏡子はカンナが話し終わると微笑んだ。
「そうね。あなたの言う通りだわ。この学園は私にとっても大切な居場所。確かにそれはここにいる全員に言える事だと思うわ。それを守りたい気持ちは皆同じ。カンナ。あなたは本当に真っ直ぐなのね。それに、例え気持ちだけあっても、なかなか行動にまでは移せないものよ。いいわ。私は協力するわよ。どっちみち、神々廻師範に手を上げてしまったし。もう後戻りは出来ない」
「私も、鏡子さんと澄川さんが同じ気持ちならば、異論はありませんわ」
茉里が言った。
「私も、言うまでもないけど、カンナとこの学園を倒す。綾星。あなたも協力してくれるでしょ?」
「もちろんですーつかささん!私はつかささんと一緒の学園生活を永遠に続けたいですからー!」
綾星の重い発言につかさが苦笑した。
「私もカンナと一緒に。水音との思い出の場所だし」
光希が長いツインテールを弄りながら照れ臭そうに言った。
「あ〜、私も、ちょっとは協力するわよ。せめてもの罪滅ぼしに」
まりかはいつもの笑顔で言った。
「ありがとうございます!皆さん!私、とても嬉しいです……って、あれ?」
頭を下げて礼を述べたカンナは違和感に気が付いた。
「どうしたの?カンナ」
つかさがカンナの顔を覗き込んだ。
「斑鳩さん……!!斑鳩さんは先にここに向かったはずなのに……光希!斑鳩さん来なかった!?」
カンナは光希の両肩を掴んで聞いた。
「え……!?いや、ここには来てない」
「じゃあ、どこにいるの!?まさか途中で誰かに会っちゃったのかな……」
「落ち着きなさいカンナ。斑鳩は体力の余っている私達弓特が探すわ。茉里。準備なさい」
「はい」
鏡子はカンナの動揺をしっかりとした声で鎮めた。茉里が指示に従い部屋の外へ出て行った。
「いい?あなた達。弓特は全員あなた達の味方よ。ここは待機場所にしては荒れすぎてしまった。あなた達は他の仲間を集めなさい。その後弓特寮へ向かいなさい。皆固まっていた方がいいわ」
「分かりました。ありがとうございます」
鏡子の的確な指示にカンナ達は素直に従った。
「じゃあね。斑鳩を見付けたら弓特寮へ戻るから、またそこで会いましょう」
そう言い残し、鏡子は茉里や外で待機していた千里達と共に馬で駆けて行った。
「斑鳩さん……」
カンナが呟いた。
「大丈夫だよ、カンナ。斑鳩さんは強い男だから」
つかさが小さくなっているカンナの肩をぽんと叩いた。
「うん。ありがとう。つかさ」
「さてと、それじゃあ私達も移動しましょうか。ここも血の匂いが凄いし」
まりかは刀を持つと出発する準備を整えた。
「畦地さん、どこに行くつもりですか?」
カンナが伸びをしているまりかに聞いた。
「知らないけど、カンナちゃんが行く所に一緒について行くわ」
カンナは笑顔のまりかを無表情で見た。
「じゃあ、畦地さんは私と光希と一緒に御影先生達と合流しましょう。つかさと天津風さんは槍特の人達と一緒にリリアさんと燈、祝さんを探して合流。その後弓特寮に集合!いい?」
「任せなさい!必ず連れてくるわ!」
つかさは笑顔で握った拳を見せた。
「あ、一つだけ……」
笑顔のつかさにカンナは神妙な面持ちで言った。
「序列1位の、神髪瞬花さんも私達を探しているらしいの」
「え!!?」
カンナの衝撃の情報に全員が声を出して驚いた。
「神髪瞬花……あの特別扱いのいけ好かない女が!?」
まりかは凄まじい嫌悪を顔に表していた。
「わ、分かったわ、カンナ。気を引き締めておくわ。もし会ったら全力で逃げる。私は」
つかさの言葉に同意するように綾星は何度も頷いていた。
「じゃ、行ってくるよ」
「気を付けて」
つかさを見送ると、カンナ達も移動の準備を始めた。光希は自分の馬があるが、まりかの馬は剣特寮に置いたままなので、カンナの響華の後ろに乗せた。
「まさか畦地さんを響華に乗せる時が来るなんて」
「私も、カンナちゃんが操る月希ちゃんの馬に乗る時が来るなんて思わなかったわ。ちょっといい気分」
そう言うと、まりかはカンナの背中にもたれ掛かった。
「脚の傷、また開いちゃいますから、あんまり無理しないでくださいね」
「うん!ありがと」
カンナは振り返り、まりかの顔を見た。
その顔は愛する人と一緒にいるかのような、とても幸せそうな顔だった。




