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序列学園  作者: あくがりたる
響月の章
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第10話~響音と月希2~

 翌早朝。響音(ことね)月希 (るい)浪臥村(ろうがそん)へ向かう為、日も昇らぬうちに自分達の馬を曳いてきて学園の正門の前にいた。

 響音の馬は一際(ひときわ)大きく立派な面構(つらがま)えの白馬で、見るからに名馬の風格があった。『月華(げっか)』と名付けたこの馬は、学園から浪臥村を1時間で駆ける。

 月希の馬は栗毛で月華と比べると並で、特別なところはない。『響華 (きょうか)』という名の馬だ。響音と月希はお互いの名前の一字を取り自分の馬の名前としていた。

 響音は腰に幅の広い刃の柳葉刀(りゅうようとう)()いていた。何の変哲もないどこにでもある柳葉刀である。この学園に来る前から持っていた刀で、至るところで簡単に手に入る量産品である。

 一方月希の刀は榊樹家(さかきけ)の宝刀である『黄龍心機(こうりゅうしんき)』という名のある刀で父から受け継いだものだった。白い柄で黒を基調とした鞘と刀身には繊細な描写の立派な黄龍の紋様が刻まれており、世界で最も美しいとされる刀だ。

 榊樹家は由緒正しい『榊樹流剣術』の創始者の家柄で月希も幼い頃から父に剣術を学んだ。だが、その父は病で急逝した。母は父を追って自殺。父の今際(いまわ)(きわ)に榊樹家の道場と黄龍心機を頼むと託されたが、まだ7つだった月希はどうしたらいいのか分からず、何日も何日も、自分の身の丈には相応しくない煌びやかな黄龍心機を抱えながら道場の看板の前に座り泣いていた。

 そんな時、泣きじゃくる月希の前に現れたのが割天風(かつてんぷう)と響音だった。

 割天風は榊樹家の道場を学園の保護下に置くと言って月希を学園に連れてきた。そして、月希に「もう少し大きくなったら道場を継ぎなさい」、そう言うと、響音を世話役に付けてくれたのだ。

それが月希と響音の出会いだった。


「月希、そろそろ出発するわよ」


「はい! 行きましょう」



 響音と月希は馬を並べて駆け出した。

 響音なら1時間で浪臥村に到着出来るが、いつも月希の速さに合わせてくれていた。月希が響音と出会った時から響音はずっと自分に気を遣い優しくしてくれた。授業でも優しく教えてくれたし、具合が悪い時はいつも側にいてくれた。男子生徒にしつこく迫られた事もあった。そんな時も響音は助けてくれた。

 いつしか響音は、月希にとってたった1人の家族になっていた。


 月希は思う。


 ──お姉ちゃん──


 いつかそう呼びたかった。


 ♢ 


 日が昇った頃、響音と月希は浪臥村に到着した。

 村は朝早くから働く村人達で活気があった。


「久しぶりの村ですよ、私。響音さんは毎回来てるからいつもの光景なんでしょうけどね」


 学園と村の伝令役である響音は週に2、3回の頻度で行き来する事もあった。


「とりあえず、先月の村当番の2人と交代して来ましょうか」


 響音と月希は村当番専用の部屋がある宿に向かった。

 村を歩いていると方々で村人が声を掛けてくる。学園の生徒の中で、最も村と繋がりがある響音を知らない村人はいない程に、浪臥村では有名なのだ。


 宿に入ると、学園の女子生徒が2人、玄関の所に腰を下ろして座っていた。

 突然、響音の顔を見た生徒の1人が驚いて直立した。


「こ、響音さん!? あなたが何故ここに!?」

 

 体術特待クラスの(かかえ)キナ。いくらか響音に怯えた様子だった。


「響音さん、おはようございます。おかしいですね? 伝令の狼煙は上げてませんよ? 何か問題でも?」


 ゆっくり立ち上がったのは弓術特待クラスの新居千里(にいせんり)だ。


「この村の近海に不審船が停泊中でしょ? 賊かもしれないから念の為に私が来たの。月希は賊討伐初めてだしね」


 なるほど、とキナと千里は頷く。


「2人ともお疲れ様でした。後は私と響音さんでやるのでゆっくりお休みください」


 月希は笑顔で言った。

 キナも千里も笑顔で挨拶すると馬に乗ると、学園への帰路についた。


 ♢


 2人が駆け去ってすぐのことだった。

 村人が宿に駆け込んできて大声で言った。


「ふ、船が動き出してる! 村に向かっているぞ!」

 

 言った村人はかなり動揺していたが、響音の顔を見るとすぐに落ち着きを取り戻した。


「響音ちゃん? なんだ、響音ちゃんが来てくれたのか! なら安心だな」


「念の為、村の人達を避難地域に誘導を自警団にお願いしておいてください。あたしと月希で様子を見てきます」

 

 響音はその村人に避難誘導を任せるとすぐに月希と共に海岸に向かった。


 ♢


 村の東の港。船が3艘。確かにこちらに向かって進んできている。だが見る限りでは海賊という感じではない。ごく普通の中型の商船のようだ。響音と月希は馬に乗ったまま、その船の様子を窺っていた。

 船はゆっくり村の船着場に到着し、(いかり)を下ろした。


「着きましたぜ、青幻(せいげん)様」

 

 船縁 (ふなべり)から顔を出したのは商人ではなく、賊と言わんばかりの格好で髭を蓄え、顔には痛々しい傷がある男達だった。


「上陸」

 

 船の中から静かだが良く通った声が聞こえた。それを皮切りに、賊共は次々と声を上げ船縁から身を乗り出し飛び降りようとしていた。


「待ちなさい!!」

 

 響音が大声で言う。

 賊共は響音の方を見て動きを止めた。

 すると船の奥から青い服を着た青髪で不気味なほど肌の白い男が出てきてこちらを見下ろした。


「何者です?」

 

 青髪の男は静かに訊いた。


「私達はこの村を守っている学園の者です。あなた達は何者ですか?」


「学園の生徒? そうですか、私は青幻と申します。実はその学園に用があってはるばる海を超えて来たのですよ。丁度いい。案内して貰えますか?」

 

 青幻と名乗る男は相変わらず静かに言った。話し方はやけに紳士的であり、この男だけは他の賊共とは違う雰囲気がある。


「学園に? 一体何の用でしょうか?」

 

 響音はまだ船から降りて来ない青幻を見上げて問う。


「実は、我々の仲間になってくれる優秀な方を探していましてね、その学園の生徒さんをスカウトしようと思いやって来たのですよ。あなた達の学園は大陸側でも有名でしてね。学園の責任者に合わせてもらえますか? お話がしたいのです」

 

 紳士的ではあるが、青幻の言葉からは嫌な感じしか感じられなかった。


「あなた達は何者なんですか?」

 

 月希が訊いた。


「今は盗賊のような事をしていますね。いずれは国家を作ろうと思っています。武術集団の国家をね」

 

 響音も月希も盗賊であると簡単に認めた事と国家という場違いな言葉に目を見張った。


「この銃や兵器がなくなった世界では武術こそがすべての力という事になるんですよ。おそらくそちらの学園もそのようなお考えではないのですかね?」


「なんだかんだ言ってますが盗賊なんですよね? なら、お帰りください。総帥は盗賊の戯言などお耳に入れません」

 

 響音は断固断る姿勢を示す。

 月希も頷いている。


「そうですか、残念です。でも都合がいいですね。あなた達がどれ程の腕を持っているのか分かれば学園の実力が(おの)ずと分かりますよね。確かこの学園には『序列』というものが存在していた筈。あなた達2人の序列を教えてくれますか?」


「私は学園序列5位、多綺響音(たきことね)。こっちは学園序列11位、榊樹月希(さかきるい)


「榊樹……」


 青幻は榊樹という苗字と月希の腰の黄龍心機を見て納得したように(あご)に手を当てた。


「ちょっといい物を見つけましたよ。それでは早速あなた達の実力を見せてください」

 

 青幻が不気味な笑みを浮かべ手を横に伸ばすと、血気盛んな賊共は一斉に船から飛び降りてきた。

 響音と月希は同時に月華と響華から飛び降りた。


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