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序列学園  作者: あくがりたる
狂熊狩の章
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第1話~序章~

 波は穏やかだった。


 海洋にぽつりと浮かぶ『学園島』と呼ばれる小さな島。その島の山の頂きに、身寄りのない者達に武術を教える名もなき学園がある。

 その学園の東の森が切れた先の海が見える崖の上に、学園の生徒である澄川(すみかわ)カンナは海に臨みながら目を瞑り、坐禅を組んでいた。

 カンナの日課となっている『()』を練るという訓練は、1日欠かすだけでも力に大きく影響が出てしまうのだ。


 『氣』というのは生き物が元々体内に持っている力の事だ。持っているとは言っても、通常はその力を感じる事も出来ない。何年も鍛錬する事により感じる事が出来るようになり、やがて自らの意思で操る事が出来るようになる。

しかし、この世界ではその存在すらほとんど認知されていない。それは氣を操るということの難易度の高さ故、世界に浸透せず、伝説とすら言われるようになってしまったからだ。

 その『氣』を操る武術こそがカンナが使う『篝気功掌(かがりきこうしょう)』という体術なのだ。


 カンナは岩壁から波の音を静かに聴きながら手慣れたように身体の中の氣を練りその力を研ぎ澄ませる。

 風はそよそよと吹いていて、カンナのハーフアップの黒髪とそれを後頭部で結っている水色のリボンを優しく揺らす。


 気配が近付いてくる。

 氣を練っている最中でも他者の氣は正確に感じ取ることが出来る。

 近付いて来る者はまったく気配を消しているつもりなのだろう。物音などは一切しない。常人ならいつの間にか背後を取られていた、という事態になるほどの洗練された動きである。

 しかし、氣を操る力に長けたカンナの前では無意味であった。相手が生き物である限り氣は絶えず発しているのだ。そして相手の氣を感じ取り、正確に敵の居場所を感知する。

 だが、相手も只者ではない。その接近の速さが尋常ではなかった。人間ではないのではないかとさえ思えた。

 その凄まじい速さの気配はカンナの背後で止まった。2、3m程後ろだ。カンナにはその氣の感じで背後の人物が誰なのかすぐに分かった。


「私の前で気配を消すことは無意味ですよ、多綺響音(たきことね)さん。何か用ですか?」


 カンナは振り向きもせず話し掛けた。


「用がなければお前なんかに会いに来ないわ」


 カンナはゆっくりと振り返り、背後の口の利き方の悪い者の姿を見た。


 多綺響音(たきことね)。響音は左手の親指の爪を噛み、カンナを睨みつけていた。髪はロングの茶髪で後頭部で1つに纏めている。口元からチラリと見える八重歯が特徴的で裾の短い紫のゴスロリ風の和服姿の綺麗な女だ。短い着物の裾からは、すらりとした黒いニーソックスを履いた形の良い脚が伸びる。響音のもう片方の手は肩から下がない。その腕の通ってない服の袖を風に靡かせて立っている。腰の左側には幅の広い柳葉刀(りゅうようとう)が下げられていた。

カンナはこの女が嫌いだった。


「随分と態度がデカイのね。新入りの癖に。ま、序列仕合も受けずにいきなり学園序列11位のご身分ですものね? それは傲慢にもなるわ」


「傲慢、ですか?」


 一方的に喧嘩を吹っかけてくる響音からは尋常ではない殺気が伝わってきている。


 この学園では、『学園序列』という階級制度が存在する。それは実力が全てという学園総帥である割天風(かつてんぷう)の考えから生まれたものだ。

 通常であれば学園総勢の40名が各自1対1で仕合を行い、勝てば勝者が敗者よりも序列が上がるという単純なものである。

 この仕合以外での序列の変更は原則認められていない。

 だが、孤児で身寄りもなく放浪の旅をしていたカンナは、つい1ヵ月前に学園に入学し、たまたま欠員があった序列11位の枠に割天風によって入れられたのだった。

 本来なら欠員が出た場合は序列が自動的に繰り上がり、序列40位が欠員となり、カンナはそこに入る筈だった。

 そのような特殊な状況で他の学園の生徒達が良く思う筈がない。特に学園序列8位の響音のカンナに対する憎しみは深く、事ある毎に嫌がらせをしてくるのだ。

 つまりカンナは不幸にも全学園の生徒達から憎まれるような入学の仕方を割天風の手によりしてしまったという事だ。


「多綺さん、あなたは私に文句を言う為にこんなところまで来たんですか?」


 カンナは面倒臭そうに立ち上がった。カンナは響音にいわゆる虐めを受けているわけだが、絶対に屈したくはないと思っていた。それは当然の感情であろう。カンナには全く非はないのだ。


「それもあるけど……あぁ、やっぱりお前の顔を見ていると虫唾が走るわね。用件を伝えたら帰るわ。総帥からの言伝。任務よ」


 響音はカンナから嫌悪に歪めた顔を背けるように横を向いた。


「村で山から下りてきた熊が2頭、人を襲ったらしいわ。村人が7人が死んだそうよ。今回の任務はその熊を退治する事」


 響音の言う村は、この学園のある山の麓にある。人口千人程の学園島唯一の小さな村だ。その村と学園の情報伝達をする役目を響音が担っている。何でも響音は特殊な移動術で学園と村を短時間で移動出来ると聞いた事がある。

 麓の村は『浪臥村(ろうがそん)』という名で、収穫した穀物、野菜、肉、魚などを学園に定期的に納め、その見返りとして学園は村の治安を守るという特別な契約を結んでいた。

 村の治安維持、通称『村当番』は、月に1度学園から学園序列30位以上の2名の生徒を派遣し、1ヶ月滞在させるというものだった。

 2名というとあまりにも少ないように思えるが、学園序列30位以上の生徒の戦力は、通常の人間のそれとは比べ物にならない程のもので、1人の生徒が盗賊2、30人を相手に出来る程の凄まじい力を持っている。

 とは言え、村には鍛えられた村人達の組織である自警団も存在しているので、彼らと協力して村を守る事になっている。

 万が一、予想以上の苦戦を強いられる場合は増援の要請も可能だが、未だに増援が必要になったことはない。

 学園が背後にあると分かるだけで大抵の盗賊団はこの村を避けていくのだ。そもそも、学園と村が1つしかない小さな島にわざわざ上陸してまで略奪を働く輩は滅多にいなかった。

 村当番になった月の生徒は1ヶ月滞在の後、次の担当の2名と交替し学園に戻る仕組みだ。生徒達はこの村当番か割天風から別に下される特別任務により金銭を受け取る事が出来る。故にさぼる者は今まで1人もいなかった。


 その仕組みがあるにも関わらず、熊退治で突然呼び出される事にカンナは疑問を感じていた。


「任務なら従いますけど、今の村当番の2人は何をやっているんですか? 熊退治なら村当番の2人がやればいいだけじゃないですか」


「一々うるさいわね。珍しく村に盗賊団が来てるんですって。100人くらいの大規模な輩だから今手一杯なのよ。まったく馬鹿な盗賊共よね、あの村に手を出すなんて」


 響音は鼻で笑いカンナの問いに答えた。


「それでお前が選ばれたのよ、カンナ。ただの熊退治にね。ま、せいぜい死なないでね」


 響音はそれだけ言うと踵を返し元来た道へ歩き出した。


「あ、そうだ、カンナ。もう1人お友達を連れて行っていいそうよ。2人1組が任務の基本だからね。でもいるかなぁ? お前なんかに協力してくれる人。誰もいなければ仕方ないから1人で行くのよ? 期限は明後日正午。グズグズしている暇はないと思うわよ?」


 響音はくすくす笑いながら森の中へ消えていった。


 相変わらず殺気を放ち続けていたが森の中へ消えた途端その気配は完全に消えた。


「熊退治のお供ね。確かに、探すのは骨が折れそうね。私この学園で嫌われてるからなぁ」


 ふっと笑いながらカンナはとりあえず生徒達が集まる学園の寮へ向かう事にした。


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