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プロローグ

プロローグです

「馬に乗る練習をしたくらいで、そんなに怒らなくてもいいじゃないか」

「いいえ、だめです!私と言う従者がいるのに、馬に乗るなんて以ての外です!」

 俺は正座をさせられて説教を食らっていた。

 身長二メートルの九頭身の美少女から怒られていた。

 その美少女は黒を基調とした清楚なメイド服に身を包みながらも二メートルの高さから腕組みをしながら俺を睨みつけ、口角、泡を飛ばさんばかりに怒鳴り散らしている。

 しかもその少女はそんじょそこらの美少女ではなく、モデル並みの九頭身ボディだ。

 出るところは出て引っ込む所は引っ込んでいる。

 そして特筆すべきは、メイド服のフリフリなスカートからスラっと伸びた健康的な長い脚。 ある意味、見惚れそうである。でも欲情するわけではない。

 それは俺たち人間とは相容れぬ形の美でもあった。

 そう、その脚はサラブレッドの脚にソックリで、詰まる所、この娘はケンタウロスの娘であったのだ。

 しかも俺の従者でもある。正確に言うと従者だったのはつい先日までで、今は花嫁修業ということでメイド服を着て家事に勤しんでいるところだ。


 俺は馬洗川バセンガワ 勝太ショウタ

 日本から異世界に連れてこられた勇者だった。

 尤も特殊能力もチートも持っていない。強いて普通の人間との違いを言うのであれば普通の人間より競馬にのめり込んでいたことだ。

 いうなればタダの競馬好きだ。普段は会社の社畜で、その稼いだ金の殆どを競馬に注ぎ込んでいる若者だ。

 その競馬好きの若者が百万馬券を当ててガッツポーズをした瞬間、この世界に連れてこられたのである。

 興奮状態の人間が精神的に無防備なため、この世界に拉致しやすいという理由で俺が選ばれたらしいのだが、全く迷惑な話だ。

 当り馬券で豪遊する予定だったはずが、ケンタウロスの娘に説教をされながら堅苦しい毎日を送る日々。

 どうしてこうなったのだろう。俺の青春を返せ。




 しかし俺が勇者として認められたのは、この説教好きのテイルの活躍があればこそだったのである。

 この世界では勇者の従者としてケンタウロスが付き従うらしいのだが、俺は先の百万馬券の勝ち馬にあやかってお尻の大きなケンタウロス、つまりテイルを選んだ。

 牝のケンタウロスということで、皆、反対したが、俺は俺の感を信じて押し切ったのだ。

 呆れられた俺は安物の装備とテイルともに放逐されるがごとく魔王退治の旅へと出発させられた。


 勇者の扱いを全く受けてはいないことは俺にもわかった。

 だって元々、魔王を退治できるような能力を持ち合わせてないんだもの。

 当然、生死を掛けて魔王と対峙するなんて馬鹿らしいと思っており、死なないようにうまく立ち回ろうと考えていた。

 そんな勇者失格な俺だったが、テイルは勇者と慕ってくれる。

 そして俺のブラッシングをとても気に入ってくれたのだった。

 学生時代の夏休みに牧場でバイトしたのだが、その時に馬の世話をした経験が活きたのだろう。ちなみに競馬には活かされなかったけどね。


 しかしながら、このブラッシングが俺達の転機になったと言っても過言ではない。

 テイルとの距離を縮めることができたのは勿論のこと、ブラッシングの気持ちよさにつられてテイルは今まで隠していた翼を僕の目の前にさらけ出したのだった。

 テイルはケンタウロスとペガサスの合いの子だったのだが、ペガサスとの混血であることで差別を受けることを心配したケンタウロスの母親の言い付けで羽を隠して暮らしていたのだった。

 そもそもケンタウロスは純血を重んじる伝統があり、混血の証である翼に対して引け目をテイルは感じていたようだ。

 混血児であることが俺にバレたので、テイルは泣きながら従者を辞めると言い始めたのだが、俺はZZZにそんなこと気にするな、何があっても勇者である俺が君を守ってやると勇気付けると、テイルは僕を信用してくれ、翼を隠すことはなくなったのだった。


 この日以来、テイルは人目を憚ることことなく、のびのびと翼を広げて大空を舞うように駆け抜けるようになる。

 そしてテイルは生まれ変わったように活発な女の子になり、本来の能力を発揮して強くなっていった。

 俺的には無理に危険を冒して魔族退治に勤しむつもりはなかたが正義感の強いテイルは魔族の噂を聞きつけると手当たり次第に打ち取って行った。

 そして近隣の魔族を退治し終えると、いきなり魔王の住む城に乗り込み、あっという間に魔王を葬ったのである。


 魔王との決戦の最中、俺は縦横無尽に飛び廻るテイルにただしがみついていただけだったのだが、魔王を打ち取った勇者として俺は王都に凱旋することとなった。

 そして、この国の王から爵位と叙勲を賜ることになる。

 俺をこの世界に呼び寄せた張本人がその王だったのだ。

 そこで俺は王に本当の英雄がテイルであることを告げ、爵位や叙勲が分不相応であると断ろうとしたが、王の方が一枚上手だった。

 王はエルフで齢三百歳を超えているらしく俺が考えていることなど見透かされていたみたいだ。

 見た目は全くの幼女なのに。ロリばばあ・エルフ恐るべし。


 ロリばばあは言葉巧みに俺の辞退の発言を阻むと、魔王を倒した英雄がケンタウロスとペガサスの合いの子のペガタウロスというのでであれば、そのペガタウロスを見つけ出した俺の働きを否定することはできず、最低限、準士爵を授けるのが妥当であろうと、ロリばばあは断言した上で俺にある命令を下したのだ。

 そのペガタウロスを繁殖させてペガタウロスの最強軍団を作れ、そうすれば皆、俺の実力を認めるだろう、そうすれば晴れて貴族の仲間入りだと。

 貴族などに興味の無かった俺はそんな無茶振りを断ろうとしたが、屈強で将にゴリラみたいな騎士が俺の首筋に刀を突きつけ、王の勅命を拒む者は死刑になるぞと、脅してきたのだった。

 拒否権を奪われた俺は首を縦に振ることしかできなかった。




 解放された俺は謁見の間から下がりテイルの待つ中庭に行くと事の次第を説明し、これからどうするべきか相談した。

 テイルも年頃の娘であり、そろそろ結婚してもいいのだろう。

 勇者の従者として俺に付き従ってくれるのはいいが大怪我でもして子供の産めない体になっては一大事だ。

 魔王を退治して平和が訪れた今が従者の職を辞する時期かもしれないと、俺はテイルに告げる。

 テイルはキッと俺を睨みつけて、後任の従者はどうするのか聞いてきた。

 俺は苦笑いしながら、その場合は俺も勇者を引退しテイル率いるペガタウロス軍団専属の飼育係になると言ったが、テイルはちょっと困った顔で俺を見つめ返してきた。

 俺は慌ててテイルに、物のような扱いをしてごめん、嫌ならこの国を出てまた一緒に旅に出ようと夜逃げを持ちかけたが、テイルは首を横に振って従者を引退して繁殖に努めることを了承してくれた。

 ただし、願いを一つ叶えて欲しいと、条件を突き付けられたのだが、テイルが大人しく繁殖すると承諾してくれたことに安心した俺は何なりと言ってくれ、俺にできることなら叶えてあげる、と安請け合いしてしまう。

 その願いは花嫁修業がしたいとのことで、できれば気心の知れた俺を練習台として世話したいと言ってきたので、やっぱりテイルも女の子なんだなと思った俺は二つ返事で了承してしまったのだ。




 暫くして準士爵の爵位を賜った俺に屋敷が当てがわれた。

 地方貴族が王都で生活する時の別荘だったらしく、大きく天井の高い建物であり、テイルが住み込みで花嫁修業するのに申し分のない屋敷だった。

 魔王退治の旅をしているときなんかは、テイルが宿屋の客室に入ることができないため一緒に馬小屋で寝起きしたものだ。


 そしてテイルの花嫁修業が始まった。

 戦闘用の鎧を封印し可愛らしいメイド服を着て甲斐々しく俺の身の回りの世話をしてくれるのだが、食事の作法やお酒の嗜み方、引いては礼服の着こなし方など、口喧しく俺の振る舞いについて口を挟んでくる。

 これではテイルの花嫁修業をしているのではなく、俺の上流貴族社会デビューに向けての特訓をしている感じだった。


 颯爽と貴族社会にデビューするためには、是非とも格好よく馬に乗って王宮に登城したいと思っていた俺だったが、実際には馬には乗れなかった。

 牧場でアルバイトした経験はあったが馬で早駆けできるほどの技量は持っておらず、どちらかと言うと手綱を引いて歩く馬に行儀よく座っていることしかできない、行楽地でよく見かける観光客レベルだった。

 そこで乗馬の練習をテイルに相談したのだが、口から火を吐く勢いで反対された。

 勇者が馬ごときに乗るのは品がないというのが理由だそうだ。

 こうなると俺は馬に乗ることを諦めざる負えなかった。


 馬のことを忘れて数日たったある日、王宮の図書館の禁書エリアで日本の競馬雑誌を見つけた俺はそれを喜び勇んで屋敷に持ち帰ってしまった。

 本来であれば、この雑誌がどんなルートでこの世界に辿り着いたのか、どうすれば元の世界から物資を取り寄せることができるのかなど調べることが山ほどあったのだが、俺はそんなことには気が全く回らなく、元の世界では古雑誌として廃品回収されるのがオチ程度の物を昔を懐かしむことのできるお宝として手元に置いて悦に入っていたのだった。

 程なくしてその雑誌はテイルに発見されるのであるが、テイルにとってはとてもイカガワしい物に見えたらしく、何ですかこれは、イヤらしい、と、猛剣幕で怒り始め、遂には癇癪を起して破り捨ててしまった。

 まるで旦那が隠していたエロDVDを見つけた嫁のような叱り方でだ。

 雑誌の内容が牝馬特集であった上、テイルは記事の本文が読めなかったのが誤解を招いたようだ。

 馬上の騎手に鞭を入れられている牝馬の写真を見て、とんでもない勘違いしてしまったのだろう。


 この日以降、俺の屋敷は人族の女性立ち入り禁止に加えて馬も立ち入り禁止になってしまった。

 訪問客は屋敷の門の前で馬車や馬から降りてもらい、馬を屋敷の敷地に立ち入らせない。

 もう世話好きなメイドに面倒を見て貰っているというよりか、嫉妬深い姉さん女房の尻に敷かれている感じだね。

 特に最近のテイルは図に乗っきており、お背中を流しましょうと言いながら勝手に風呂場に入ってきたり、昨晩王都に魔族が出たらしく物騒なので今晩はここで護衛します、と言って俺の布団の中に潜り込んでくる始末だ。




 このままではペガタウロス軍団計画に支障を来すと思った俺は、屈強なケンタウロスの若者の所やペガサスを飼っている貴族の所にテイルの縁談を伺いに奔走した。

 一刻も早く良縁を探さなければらないと俺は国中駆け巡ったのであるが、テイルは自分の縁談話と気付くやいなや、そんなところに勇者が出向いては品がなくなるなどと、不機嫌な顔で屁理屈をこじつけては協力してくれなくなった。

 移動手段を奪われ、ここ最近のテイルの縁談話が進展なく滞っている状態でとなっていることに業を煮やした俺は、仕方なくテイルに隠れて馬に乗る練習をすることから始めたのが、すぐさま冒頭のようにテイルに見つかるところとなり、説教を食らうことになったのである。


怒り狂うテイルをショータは宥めることができるのであろうか。

次回、前編、乞うご期待。

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