新しい母親3
星はつかさの方を横目で見て少し恥ずかしそうに差し出されたスプーンを咥えた。
「おいしい?」
「はい。おいしいです」
「そう。良かった!」
それを聞いて満足したのかにっこりと笑うエミルは自分もプリンを食べると、すぐにプリンを掬ってまた星に向かって差し出した。
「はい。あーん」
だが、やはり友達の前で食べさせてもらうのは恥ずかしいのか、星はチラチラとつかさの方を気にしていた。
「……お姉様。あの、やっぱりこれは恥ずかしいです。私はお姉様が食べた後で――」
「――何も恥ずかしい事ないわよ? 姉妹なら当たり前の事だし、女の子同士なら普通なのよ?」
「普通なんですか?」
「そう。だから、はい。あーん」
「……あ、あーん」
エミルはまたスプーンを星の口元まで持っていくと、星はゆっくりと口を開いた。
星がスプーンを口に咥えた直後、たまたま星の方を向いたつかさが指差して叫んだ。
「星だけずるい! 僕もあーんしてみたい!」
まさかのつかさの発言に星も驚いたが、それ以上に驚いていたのがエミルだった。
だが、考えてみれば今回の体育戦で優勝したお祝いなのだから、星だけが特別扱いされているのは不公平だろう。
つかさにそう言われたエミルは一度は驚いたものの、すぐにつかさが注文したケーキの皿に置いてあるスプーンでチーズケーキを掬ってつかさの口へと差し出す。
差し出されたスプーンを咥えたつかさは満足そうに笑うと。
「ケーキはおいしいけど、こうしてあーんしてもらうともっとおいしいよね!」
「はい。恥ずかしいですけど……」
にっこりと笑ってそう言ったつかさに、星も顔を赤らめながら小さく頷く。
「そうね。はい星もあーん」
エミルはつかさに使ったスプーンから自分が使っていたスプーンに持ち替えてケーキを星の口に運ぶ。
星もそれを食べると、つかさも口を大きく開けながら目を瞑って待っている。それを見たエミルはスプーンを持ち替えてつかさの口にケーキを入れる。そしてまた星にケーキを食べさせる。
それを何度も繰り返していると、つかさが大きなため息と大きく膨らんだお腹を押えて椅子にもたれ掛かった。
最初につかさが注文したケーキはまだ半分以上残っている状況で、つかさのお腹が限界を迎えたらしい。
「どうする? もうお持ち帰りにする?」
「ううん! まだ待って! 僕はまだ――」
そう言ったつかさは握り締めていたスプーンで目の前のケーキを掬って口へと運んだ。
「――うッ!」
その後、断末魔の様な声をを漏らしてテーブルにドン!と頭を打ち付けてぴくりとも動かなくなった……。
「つかさちゃん。大丈夫ですか?」
「これはダメね……すみませーん。ここにあるケーキをお持ち帰りでお願いします!」
心配そうに倒れているつかさを見る星を横目にエミルが近くのメイドを呼んだ。
食べ過ぎで気持ち悪そうにしているつかさを迎えに来た小林がおんぶして表に用意していた車まで向かった。
小林の背中で具合が悪そうに唸っているつかさを、星は心配そうに見つめている。その隣りを歩きながら店から箱に入れて貰った食べきれなかったケーキを持っていたエミルが星に話し掛けてきた。
「大丈夫よ。つかさちゃんは少し食べ過ぎただけだから、数時間すれば元気な彼女に戻るわ」
「そうなんですか。良かった……」
星はそれを聞いて安心したようにほっと胸を撫で下ろす。そんな星の姿を見てエミルは微笑んだ。
車に戻ると、つかさを助手席を倒して寝かせエミルと星は後ろの席に座った。
具合が悪そうなつかさを家まで送り届けると、つかさの家の執事の犬使がつかさを迎えに小走りできた。
「お姉様がご迷惑を掛けてすみません」
「いえいえ、そんな事はございません。食べ過ぎだと思いますので、安全にしてれば良くなるでしょう」
「分かりました。ほら、お嬢様お家に着きましたよ」
犬使は小林からつかさを受け取り抱きかかえると家へと入って行った。小林は車のトランクから漫画がいっぱいに入った紙袋とケーキの入った箱を家の中まで届けて車に戻ってきた。




