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体育戦5

 しかし、つかさが疲労したことでその枷が外れ星本来の観察眼と反射神経を遺憾なく発揮できたるようになったのだ。

 その後も次々にブロックを決める星に相手は困惑しながらゲームが進んで行く。もちろん橘妹も星に負けじとブロックするが、それはつかさによって返されてしまう。


 星のブロックが決まる理由は単純に目線の高さが橘姉妹は高すぎるのだ。しかも、星とつかさは身長が低くシャトルがネットぎりぎりを通ってくる為、返しにくいのも理由でもある。


 それから激しい試合を展開し、フルセットまでもつれこみ最後はネットインで星達が勝った。

 勝負がついた瞬間、互いに地面に両手を投げ出して倒れて荒く息を繰り返している。もう勝敗などどうでも良く、ただただ激しい試合が終わったことに安堵しているようだった。


 正直。最初から決勝戦を戦ったようなもので、これからまた試合があるなんて考えたくはない。

 戦い終わった橘姉妹は負けたのにも関わらず、その表情は清々しく全く後悔はない出し切ったような晴々とした顔をしていた。


「負けたけど、決勝で負けたような感じだよ。全力を出し切ったから悔いはない。ただ、これからはあまり苦戦しないと思うから絶対に優勝してくれ!」

「任せろ! 僕達が絶対に優勝するよ!」


 橘妹とつかさは互いに差し出した手を握って堅く握手をする。


 星と橘姉は互いに笑顔を見せると。


「また負けてしまいましたね。でも、不思議と悔しさはありません……出し切ったからでしょうね。今はただあなた達に勝ってほしい」

「分かりました。私も必ず勝ちたいと思っています」


 そう深く頷いた星に橘姉は満足そうに頷いて握手をした。

 橘姉妹との試合が終わると、その後は危なげなく勝ち続け……。


 遂に決勝戦――初戦で前の競技で最後に戦った橘姉妹と事実上の決勝戦を終わらせたからだろうが、その後の試合はつかさ一人でも大丈夫そうだった。

 

 つかさと星の前に現れたのは橘姉妹とは違い普通の小学生と言った感じで別段変わったところはなさそうだ。


 ネット越しに互いの顔を突き合わせながら笑顔で挨拶をする。


「ふふっ、ご機嫌よう。お手柔らかにお願いしますわ」

「バスケットでは早めに負けてしまったので対戦できませんでしたが、バドミントンは得意なので負けないですよ」


 先に挨拶したのは金髪のツインテールの品が良さそうな女の子。

 次に挨拶したのはつかさと同じく活発そうで、黒髪に青いシュシュが印象的なサイドテールの女の子だった。


「よろしくお願いします」

「君達には悪いけど、僕達が必ず勝つよ!」


 星とつかさがそう返すと、相手の二人は微かに笑みを浮かべるだけで敵意を向けてくる感じはなかった。だが、試合が始まった直後には彼女達が決勝まで勝ち上がった理由が分かった。


 つかさのサーブを打った直後、すぐに後衛のサイドテールの子が打ち返してきた。


 その一撃を見た瞬間、星は全てを悟った。見た目は自分達と変わらないが、そのスピードは桁違いだ。

 それはまるで瞬間移動でもしているようで、つかさでも彼女のスピードには敵わないだろう。このままでは苦戦するのは間違いない。


 つかさが打ったシャトルの落下点に素早く入ると軽々と打ち返してくる。その後も互いに一歩も譲らない打ち合いを繰り返す。

 相手も連戦で勝ち上がっているはずだが、つかさの

方がやはり疲れが見える。しかも、少しでも甘い軌道を描こうものなら……。


「もらいましたわ!」


 前衛のツインテールの子が高く跳び上がりラケットを勢い良く振り下ろすと、次の瞬間にはシャトルが地面に突き刺さるように当たって転がる。


 その鋭いスマッシュにつかさも星も一歩も動けなかった。


 前衛の金髪ツインテールの子は凄まじい跳躍力なのだろう。前衛と後衛をしっかり分けることで役割分担をはっきりさせ勝ち上がってきたのだ。


 スピードのある後衛、跳躍力のある前衛につかさと星は追い込まれていく。


 完全に試合の主導権を握られてしまったが、星もつかさに任せて何も考えていなかったわけではない。


 星はつかさを呼んで耳元で相手に聞こえないように言った。


「……つかさちゃん。私が相手の動きを見てどっちに打つか言います」

「え? 星は相手の動きが分かるの?」

「ええ、さっきから心の中で呟いていた感じだと大丈夫です」


 それを聞いたつかさは目をキラキラと輝かせながら頷いた。


「やっぱり星はすごいね!」

「いえ、私は戦える力はないから……つかさちゃんには負担を掛けるけど……」

「ううん任せて!」


 つかさは自信満々にそういうとラケットを掲げた。


 何やらこそこそ話をしているつかさと星を訝しげに見ている相手の2人。

 

 星は相手の動きを観察し、つかさに向かって指示を出す。


「右!」「次は左!」


 つかさは星の指示に従って動く。


 星が相手のつまさきや肘の動きを見て正確に打つ方向を言い当て、つかさはその声に反応して高い身体能力で飛んできたシャトルを返す。


 2人の連携プレーに最初は広がっていた差がどんどん縮まっていく。さっきまで防戦一方だった星達が急に勢いを取り戻したことに相手の女の子達は全くついて行けていない。だが、それも無理はないだろう。今までの対戦相手で動きを正確に言い当てられる経験はない。


 しかし、星は正確に打つ方向を言い当てている。その様子はまるで未来予知でもしているように相手の目には見えているのだろう……。


「はぁ……はぁ……なんで? なんで私が打つ方向が分かるの?」

「きっとまぐれですわ……打つ方向を分かるはず……そんなの人間ではないですわ……」


 黒髪にサイドテールの女の子と金髪にツインテールの女の子は動揺を隠しきれないようだった。


 結局、最初は追い込まれたものの後半は星とつかさの圧勝で終わった――。


「やったよ! 僕達が優勝だよ! やっぱり星は最高だよ!」

「いえ、つかさちゃんが頑張ってくれたからです。私は何も……」


 試合に勝ったのが嬉しかったつかさは星に抱きつき嬉しそうに飛び跳ねている。

 

 だが、星は負けた女の子達の方を見ると、負けた2人はまるで化け物でも見たような怯えたような瞳で星を見た。

 その視線は星がエミルの家に引き取られてから感じることがなかった感覚――だが、それは前の学校で毎日のように受けていた目だった。


 あの視線を受けていた時はただの日常でなにも感じなかった。いや、感じなくなるほどに星の感覚が麻痺していたのだろう……しかし、今はあの視線が胸に突き刺さり胸が張り裂けそうになる。


 きっと自分は薄情なのだろう。目の前で喜んでいるつかさを前に、一緒に喜ぶこともできずに人の視線を気にしているのだから――――。


  その後、2位の決定を待たずに表彰式が体育館で行われた。最終種目のテニスが学園内のテニスコートで行われている為、殆どの生徒が観戦のためにテニスコートに移動した中、優勝カップを授与された星とつかさには同じクラスの生徒とエミルからは惜しみのない拍手が送られた。

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