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つかさの家2

 部屋に入ったつかさはゲーム機の準備をする。その姿を後ろから見守っていた星に、つかさが話しかけてきた。


「そう言えば、星って本は読んでるけど漫画は読まないの?」

「漫画は読まないかな……」

「どうして?」

「漫画だとキャラクターやストーリーを目で見えるけど、それだけ想像できる事が少ないから……」


 そう言った星につかさは瞳をキラキラさせながら星を見つめ。


「やっぱり星はすごいね! 僕は文字だけじゃ何も分からないけど星はそれができるんだね!」

「……そんな事ないです。私なんて――つかさちゃんも慣れればできるようになります」

「あはは、それは無理かな~。だって文字読んでると眠くなるもん」


 つかさは笑いながらそういうと、星に向かって言った。


 ゲームのセットを完了したつかさが星にコントローラーを渡すと、星もそれを受け取って首を傾げる。


 首を傾げている星につかさが説明を始めた。


「この前のゲームとは少し違うけど、これも操作方法とかはそんなに変わらないから!」

「――変わらないって言われても……」

「大丈夫! また僕が教えてあげるよ!」


 自信満々にそう言ったつかさに星も安心したのか息を吐き出した。

 

 それからつかさに教えてもらいながらゲームを楽しんでいると、突然部屋のドアをノックする音が響いてゲームをしていた星とつかさがドアの方を一斉に向く。


 ドアが開くと、そこにはつかさにそっくりな女性が立っていた。だが、違うのは白銀の長いに青い瞳、胸は大きい。

 

「あっ、お母さん。この子が話していた星だよ」

「こんにちは、お邪魔してます」


 星が頭を下げるとつかさの母親は笑顔で軽く頭を下げた。

   

「こんな可愛い子見た事ないわ……」


 彼女は星を見た途端、息を呑んだように口を手で覆う。


 星の顔をまじまじ見つめるつかさの母親に、星は耐えかねて顔を逸らした。


「つかさ。その子を連れて地下に来なさい」

「えぇ……僕はいいや。星とお母さんだけで行ってきてよ。僕はゲームやってるから……」


 あからさまに嫌な顔をするつかさに、星は嫌な予感がして。


「……私もゲームの方がいいかな……」

 

 そう呟いた星の顔はモニターの方を向いた。


 だが、つかさの母親がコントローラーを握っている星の手を掴んで強引に自分の方に引き寄せる。


「ならいいわ。つかさ、この子少し借りていくわね」

「うんいいよー」

「えっ!? ちょっと!!」


 完全に話しの蚊帳の外のまま強引に手を引かれ星は部屋を出た。

 長い廊下を歩いて行くと地下に続く階段が見えた。左右の壁は白く、階段の床には赤いカーペットが敷かれている。

 

 中は地下とは思えないほど明るく数え切れないくらいの服がハンガーに掛けられていた。

 その全ては女の子用の子供服で、つかさが来たがらなかった理由を一瞬で察することができたのと同時に、星の嫌な予感が的中する。


「やっぱり女の子は可愛くおしゃれしないとね! 星ちゃん……だったかしら? 綺麗な黒髪ね。少し触ってみてもいいかしら」


 彼女は星の髪を見ながら返事を待っている。


 星は不思議そうに首を傾げながら「いいですよ」と答えると、つかさの母親は表情を明るくさせて星の長くて黒い髪を撫でるように触る。


「ツヤツヤで一本一本がきめ細かくてとても綺麗……良く手入れされてるわね。女の子の髪って感じでとても素敵ね。今度は櫛でとかしてみてもいいかしら!」

「ええ、構いませんけど……」

「本当! 嬉しいわ!」


 頷いた星の手を引いて大きな鏡の前に作られたテーブルの椅子に腰掛けると、テーブルに置かれていた櫛で星の長い髪をゆっくりとかし始めた。


 いつもエミルが髪を乾かす時にやってくれるが、その時の感覚とは全く違う。心臓が脈打つ音が後ろで髪をとかしているつかさの母親に聞こえていないか心配でどうにも落ち着かない。


 しかも、自分の母親くらいの年齢の女性に髪をとかしてもらうのは変な感じだ。目の前の鏡には、顔も髪の色も違う友達の母親に髪をいじられている自分の姿が見える。

 

 髪をとかされながら時折頭を撫でる手が優しく温かい。目を閉じると、まるで自分の母親に頭を撫でられているような錯覚に陥ってしまう……現実ではあり得ない。でも、憧れていた普通の親子の時間――これがずっと続けばいいのに…………。


「つかさは星ちゃんに何かいたずらしたりしてない?」


 目を閉じていた星の耳に入ってきた自分の母親とは全く違う声に、星は急に現実に引き寄せられたような感覚で、すっと我にかえる。


「いえ、つかさちゃんはとても良くしてくれます。私は迷惑をかけてばかりで……」

「あはは、なにそれ。あの子が迷惑をかけてないなんて信じられないわ。別に嘘をつかなくてもいいのよ?」

「嘘じゃありません!」


 急に大きな声を出した星に驚いた様子で目を丸くさせた彼女の表情を見て、一瞬のうちに星は冷静になった。


「……すみません。でも、本当につかさちゃんは私に良くしてくれるんです。私なんかに……」

「そう……あの子がねぇ……」


 信じてもらえてないような声に、星はしゅんとなって俯いた。


 しばらくの沈黙の後、つかさの母親がゆっくりと話し出す。


「つかさがどうして転校してきたか分かる? あの子ったらずっと伸ばしてた髪を勝手に切っちゃってね。もともと男ばっかりのところに生まれたから多少やんちゃでも仕方ないとは思ってたわ。足を擦り剥いて傷を作っちゃったり、泥だらけになって帰って来たり……でも、やっとできた女の子だったからおしゃれしたり一緒にお出掛けしたりしたいじゃない? なのにあの子ったら遊んでばっか、終いには伸ばしてた髪まで切って『僕は将来男になるんだ!』ですって――さすがに頭にきちゃって、女の子しかいない学校に転校させたの」


 それを聞いた星は自分も転校する前のことを思い出していた。

 いじめを受けひとりぼっちだった自分には友達なんていなかったが、つかさには転校する前からいっぱい友達がいたのだろう。どこまでも正反対のつかさと自分につくづく一緒にいること自体が間違いなのだと感じる。


「そんなんだけど、本当はあの子に友達が出来るか不安だったわ。だって男の子の中友達は居たけど女の子の友達は見た事なかったから……でも良かった。星ちゃんのような可愛い子とお友達になれて……これからもつかさと仲良くしてあげてね!」

「…………」


 星はその言葉に素直に返事ができなかった。


 何故なら星は連日テレビを賑わせている犯罪者なのだから――。


「あの……私は……実は……」

「ん? なぁに?」


 振り向いた瞬間、笑顔を向けるつかさの母親と目が合って思わず顔を逸らししまった。

 星が本当のことを言えばきっと彼女は二度と笑顔を自分に向けてはくれなくなり、この家にくることはおろか、つかさとも話すらできなくなるだろう……。


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