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お泊まり5

 ゲームのエンディングを見ていると星の肩につかさが寄りかかってきた。つかさはコントローラーを握り締めたまま寝息を立てている。


 星は気持ち良さそうに眠っているつかさを見て微笑みを浮かべると、大きなあくびをしてつかさの頭に自分の頭をくっつけて瞼を閉じた。


 そのまま眠ってしまった2人の部屋にしばらくしてエミルがそーっと入ってきた。


「……ふふっ、昨日は遅くまで起きてたみたいだからね。2人とも気持ち良さそうに寝ちゃって」


 エミルは肩を寄せ合って眠っている星とつかさの姿を見て微笑んだ。

 その後、執事の小林を呼んでつかさを敷いてある布団に寝かせると、自分は星を起こさないように抱き上げるとベッドに寝かせて優しく布団を掛けた。


 付けっぱなしになっているゲームを止めて小林と一緒にそっと部屋を出る。


 嬉しそうなエミルに小林が言った。


「お嬢様。星お嬢様にお友達が出来て良かったですね」

「ええ、それもあるけど。私はあの子がゲームを楽しそうにしてるのが嬉しかったの」

「ああ、そうでございましたか……」


 小林はなにかを察したように深く頷くと、エミルは言葉を続ける。


「だって、あの子にとってはゲームは憎むべきものだもの……でも、ゲームって本来は楽しいものでしょ? それに。あの子がゲームを出来るようになったって事は、少しでもあの子の心の傷を癒せてるって事だもの、やっぱり嬉しいわよ」

「そうですね。私も星お嬢様が元気になる事が自分の事のように嬉しく感じております」


 そう言った小林に微笑むとエミルは食堂に向かって歩き出した。


 星が起きたのはお昼を過ぎてからだった……。


「――ッ!? いけない寝坊した!」


 掛けてある時計を見て星は慌てて飛び起きる。

 その声に驚いたのか、サッカーのゲームをしていたつかさが目を丸くさせながら星を見た。


 星は驚いた様子のつかさに向かって尋ねた。


「つかさちゃん! お嬢様は部屋にきた?」

「えっ!? いや、僕もさっき起きたばかりだし分からないけど……」


 それを聞いた星は顔を手で覆って大きなため息をつく。


「はぁ……やっちゃった……お姉様に悪い子だと思われちゃう……」


 酷く落ち込んだ様子の星を見ていたつかさが不思議そうに首を傾げ。


「星のお姉ちゃんってそんなに厳しいの? 優しそうだし。それに、星には甘々な感じに見えたけど……」

「そうじゃない。私はいい子だからお姉様が優しくしてくれてるだけ……悪い子になった私はお姉様に必要なくなっちゃう……」


 今にも泣き出しそうな顔で俯く星につかさは眉間にしわを寄せながら首を傾げている。


 そんな時、扉をノックする音が部屋に響いてビクッと星が体を震わせた。


「は、はい!」


 星が慌てて返事をした直後、扉が開いてメイド長が入ってくる。


「星お嬢様。愛海お嬢様が食堂でお待ちです」

「……はい。分かりました……」


 小さく頷くと、重い足取りでドアの方へと歩いて行く。

 それはまるで犯罪を犯した囚人が牢に入れられる様な……暗くどんよりと重苦しい表情していた。


 そんな星を心配してか、つかさが駆け寄ってくると星の手をぎゅっと掴んで。


「大丈夫。もし何かあったら僕が助けてあげるから……」


 小さな声で言ったつかさに、星は「ありがとう」と小さく言って彼女の手を握り返した。



 食堂に着くとエミルが椅子に座って紅茶を飲んでいた。

 

 エミルは星とつかさが来たのを確認するとティーカップを置いてにっこりと微笑んだ。


「やっと起きてきたわね。昨日は遅くまで起きてたみたいだから無理もないわ」

「…………」


 星は眉にしわを寄せながら緊張した表情でエミルの前に行くと深く頭を下げた。


「ごめんなさい! 私、夜更かしなんて……こんな悪い子はお姉様も嫌いになりましたよね……」


 下を向いて覚悟した表情で強く瞼を閉じている星。


 その様子を見ていたつかさがエミルに向かって叫ぶ。


「星は悪くないんだ! 星は早く寝ようとしてたのに、僕がゲームに誘ったんだ。だから……悪いのは僕なんだ! ごめんなさい!」


 つかさも頭を下げると、エミルは頭を下げている2人に向かって優しい声で言った。


 「別に怒ってなんてないわよ。お友達とお泊まり会をしたら、普通に夜更かしするのが定番だもの」

「怒ってないんですか?」

「ええ、でも私も混ぜてほしかったなー。そうだ! ご飯を食べたらみんなでゲームしましょ!」

「はい!」


 星は嬉しそうに頷くとつかさも「良かったね」とにっこりと笑った。


 ご飯を食べ終えるとエミルが部屋の中に隠していたゲーム機を取り出して慣れた手付きでセッティングする。


 その手慣れた感じからVRゲームに手を出す前からエミルは相当のゲーマーなのを察することができた。なんと言っても凄いのはハードの量だ――モニターレス、コードレスのこの時代にまだコードでモニタのに接続するタイプのハードを持っていて、ゲームソフトの量も本棚の様に綺麗に整頓されてはいるがスライド式のケースの中にびっしりと隙間なく並んでいた。


「すごーい! これもこれもこれも全部伝説のゲームソフトばっかりだ! お姉さんこれ全部動くの!?」

「ええ、もちろん動くわよ」

「すごいすごいすごい! 星も凄いけどお姉さんも凄いんだね!」


 並んでいるゲームソフトを指差しながらつかさはキラキラと輝かせた瞳で星の方を向いた。


「つかさちゃん。何かやりたりゲームを選んでいいわよ?」

「本当ですか!? やったー!!」


 嬉しそうにゲームソフトを物色するつかさを他所にエミルが星の耳元で優しくささやく。


「――いいお友達が出来て良かったわね」

「はい。私にはもったいないです」


 星は嬉しそうに頷くとそう言ってにっこりと笑った。

 その顔を見たエミルは星の頭を優しく撫でながら「またそんな事言って」と笑みをこぼした。


 それからはつかさが持ってきたゲームソフトを3人で遊び、夜になる前につかさを家まで車で送り届けた。


「着きましたよ。つかさ様」

「ありがとうございます執事さん!」


 つかさは執事の小林が運転席を出るよりも早く車のドアを開けると、リュックを掴んで外に飛び出した。


 持っていたリュックを背負って振り返って車の中にいた星とエミルに笑顔で手を振った。それに星も手を振り返すとつかさは嬉しそうに更に手を激しく振った後、家の方へと駆けて行った。

 

 星はその後ろ姿をずっと見つめていた……。


 

 帰りの車の中で茜色に輝く空を見ていた星にエミルが突然話しかけてくる。


「星はゲームして楽しかった?」

「……えっ? 楽しかったです」

「そう。それは良かったわ」


 それから少しの沈黙の後――。


「……ゲームの世界に閉じ込められて、帰ってきてからも色々あったし。ゲームを嫌いになったと思ってたから……」


 星はゲーム世界での思い出を思い起こすようにゆっくりと瞼を閉じた。


 そして数秒後ゆっくりと目を開くとエミルの顔を見上げる。


「……確かにいろんなことがありましたけど、楽しかった思い出が強く残っています。だから心配しないで下さい。私に今があるのはゲームでお姉様と出会えたからなんですから」


 星がそう告げるとエミルも嬉しそうに笑った。

 

 そんなエミルの嬉しそうな顔をしているエミルに星も微笑み返した。


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