お泊まり3
それからしばらくお風呂に浸かった後で用意されていたパジャマに着替えた3人はエミルの部屋に行くと、前に買ったTRPGのゲームを床に広げた。
分厚い本と数多くの駒の中からエミルが4種類の駒を取って星とつかさの前に置く。2人の前に置かれた駒は剣士、ウィザード、ビショップ、シーフ。
考えた末に星は回復ができるビショップ、つかさは攻撃力の高い剣士を選択した。ゲーム自体はダンジョンの最深部にいるドラゴンを倒して宝物をゲットすればクリアーとなる。
最初の敵はゴブリンでサイコロを回してバトルするのだが、通常攻撃、クリティカルヒット、必殺技の三種類があり。1と2が通常攻撃、3と4がクリティカル、5と6が必殺技でつかさはクリティカルヒット、星が必殺技と幸先よくゴブリンを撃破し先を進む。
ダンジョンの階層は5階に分けられており5階層はキングゴブリンを撃破すれば4階層に進める。星とつかさもキングゴブリンを倒して難なく4階層に進んだ。
しかし、4階層に降りる階段でイベントが発生してサイコロの目が6が出てしまい運悪く階段が崩落して3階層まで落ちてしまう。3階層の主なモンスターは蛇系でサイコロの目によっては毒ダメージを受けてしまう上にレベル上げをあまり出来なかった為に何度も瀕死になりながらも星がビショップを選んでいたおかげで回復や解毒効果を発動させなんとかボスまで進んだ。
3階層のボスはスケルトンスネークで毒効果はないものの撃破しても一定確率で復活する能力がやっかいだったが星とつかさが一緒に必殺技を発動させて撃破することができた。
4階層に到達するとグールやスケルトンなどのアンデッド系のモンスターで撃破するのは簡単なのだが数がとにかく出てきて大変だった。しかし、それが結果として3階層への落下イベントで不足していたレベルを上げてくれた。
おそらく。最初からイベントが発生しても救済処置を用意してくれていたのだろう……また、落下イベントが発生したおかげで道の選択も制限されダンジョンの隠し部屋で伝説の武器を手に入れることができた。
4階層のボスはミノタウロスで、伝説の武器をゲットしていた星とつかさは武器の効果で必殺技が1以外の全てで出る為、あっという間にミノタウロスを撃破して最深部の5階層へと到達した。
その頃には星とつかさもすっかりTRPGに夢中になっていて。
「星。やっと最後まできたね!」
「はい、つかさちゃん。あと少しで攻略できます!」
「頑張ろう!」
「はい!」
っと、完全に打ち解けた様子で互いに笑顔を見せていた。
そして最深部のモンスターは竜人種が多く出てきてこれまでと違って必殺技を5回当てないと倒せないくらいHP量が多く、伝説の武器を持っていなければクリアー出来ないほどの難易度に設定されていて伝説の武器を持っていた星とつかさも結構苦労した。
伝説の武器と言えど100%の確率で必殺技が出るわけではない。サイコロの目が1なら通常攻撃になってしまうため、星が回復能力を持つビショップを選んでいなければボスの部屋まで行くのは無理だったかもしれない。
ボスは最初に書いてあったドラゴンだ。最後の部屋の扉の先に待っていたのは漆黒の鱗に覆われいたドラゴンだった。
星とつかさは伝説の武器を手に漆黒のドラゴンに立ち向かい星のビショップの回復能力を駆使して15回という必殺技のダメージでやっと撃破することができた。
「やっと倒した~」
「本当にドキドキした」
2人はカーペットの敷かれた床に倒れて天井を見上げる。
そんな2人の顔を覗き込んだエミルはにっこりと微笑んで。
「楽しかった?」
「はい」
「うん」
頷いた2人に「そう」と笑みを浮かべたエミル。
「それじゃ、もうそろそろ夕飯にしましょう。もう夜になっちゃたわ」
エミルは壁に掛けてある時計を指差して言った。
時計の針は午後八時を指していて星とつかさも驚き起き上がる。
「もうそんな時間なんですね」
「来た時は夕方だったのに……」
エミルは床に広げていたTRPGを片付けて立ち上がった。
「さあ行きましょう!」
「「はーい」」
つかさと星も立ち上がると、廊下を歩いて1階にある食堂に向かった。
食堂に行ってみると、メイド長がエミルに話しかけてくる。
「お嬢様。今日の夕食は夕方にお菓子を食べていらしたのでビーフシチューを作ったのですがよろしかったですか?」
「いいわよ。まあ、ビーフシチューならルーだけを食べる事もご飯をパンに変えてもいいものね。さすがはメイド長だわ」
「ありがとうございます。それではさっそくご用意します」
「ええお願い」
メイド長は丁寧に頭を下げるとキッチンのある別の部屋へと消えて行った。
しばらくしてビーフシチューの注がれた器とパンの入ったバスケにご飯を盛った皿をテーブルに置いた。
星とつかさは迷わずご飯に手を伸ばしたが、エミルはパンを手に取った。
つかさはビーフシチューをご飯の上にたくさんかけて一緒に食べていて、星はスプーンにご飯を乗せてビーフシチューに付けて綺麗に食べている。そしてエミルはパンとビーフシチューを交互に食べている。
食べ方を見ていると、それぞれの性格が出ていて面白い。しかし、小学生組はやはり育ち盛りだからか夕方にもお菓子をたくさん食べたのだがご飯とビーフシチューを食べた上、つかさはおかわりまでして夕食を食べ終えた。
夕方にお風呂に入っていた為、歯を磨いて少しエミルの部屋でトランプなどで遊んだ後に星の部屋に行くと布団が敷かれていた。
「えっ? つかさちゃんも私の部屋で寝るんですか!?」
敷かれている布団を見て星は驚きエミルの顔を見上げた。
「まあ、友達になったんだし。仲良くなるためにもいいと思うわ。星だってエリーやレイニールちゃんと一緒に寝てたんだから大丈夫でしょ?」
「……それとこれとは話が――」
「――僕は星と一緒に寝るの楽しみだなぁ。寝るまでいろいろ話しようね!」
「……う、うん」
不服そうな様子だった星だがつかさが瞳をキラキラさせながら迫ってきたことで、断ることができなくなり頷いた。
それを見ていたエミルは今がチャンスとばかりに。
「それじゃ私はもう部屋に戻るからね」
っとそそくさと部屋から出て行った。
部屋に2人きりで残された星とつかさはつかさが布団の海にダイブしてはしゃぐ姿を星は見つめながら小さなため息をついた。
星としては2人で同じ部屋に寝るとは思っていなかっただろう。しかし、こうなってしまえばどうしようもない。星の取れる方法はもう一つしかない……。
「布団の上で遊んでないで早く寝てください。電気を消しますよ?」
「えっ? もう寝ちゃうの?」
「……はい。もう寝ます」
「冗談だよね? まだ早いよ~」
「本当だし。もう遅いです」
カチャっと電気を消した星につかさは驚いたように言った。
「本当にもう寝るの!? まだ色々お話するでしょ? せっかくのお泊まりなのに」
「私はただ自分のベッドで寝てるだけですから……」
星がそういうとつかさはつまらなさそうに唇を尖らせる。
「星は真面目過ぎるんだよ。もっと遊んだり夜更かししたりしないと、あっと言う間におばあちゃんになっちゃうよ」
「……そんなことないです」
「あるよ! 人生はあっと言う間なんだよ!」
つかさは布団から立ち上がると、ベッドに寝ている星に向かってビシッと指を差しながら言い放つ。
それに星は驚き目を丸くさせていると、つかさはそんな星に向かって胸を張って言葉を続ける。
「でも安心して! 夜更かしマスターの僕が星に楽しい人生のやり方を教えてあげるよ!」
「……はぁ、そうですか……」
星はつかさから目を逸らして布団を深々と被った。
全く興味を示さない星の被っていた布団を引っ張りながら。
「寝ないでよ~。少しは僕の言葉に反応してよ!」
「仕方ないですね……」
体を起こした星が仕方なさそうにつかさの方を向いた。
つかさは持ってきたリュックの中から携帯ゲーム機を取り出して星に渡した。
携帯ゲーム機は画面と一体化されたコントローラーの用な形状だが肝心のソフトを入れる場所は存在しない。その代わりにSDカードが差し込める穴がある。




