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友達3

透明なケースの中には両手で持った笹を加えたパンダのぬいぐるみが座ってこちらを見ている。


「待ってて! あのパンダさんを取ってあげる!」


 財布から百円玉を取り出してプレイして見せた。


 ゆっくりと動くアームに星の瞳はくぎづけになった。見慣れた人間にはなんとも思わないが、初めて見る星にはボタンを押しただけでなんで動くのか、どんな仕組みになってるのかなど気になって仕方がない。


 横に動いていたアームが止まって今度は下がると笹をくわえているパンダの首にアームが刺さる。しかし、持ち上げようとした直後アームが左右に開いて少し浮いたパンダが落ちて座った状態に戻った。


 星が「もとに戻っちゃいましたね」と言うと、エミルは「まあ、一回じゃ取れないからね」と返して再びコインを入れたがそれが100円から500円に変わっていた。


 さっきまでは軽い気持ちでプレイしていたエミルだったが、動くアームを見つめている彼女の目は真剣そのものだ――。


 それからは何度も500円玉を入れて無言でプレイするエミルには星の声も届かないほど集中している。


 結局パンダのぬいぐるみを取るまでに数万円も掛けて取った。


「やっと取れたわ! ならこれは星にあげるね!」

「……えっ? でも、せっかく取ったものをもらえません」


 星に向かってパンダのぬいぐるみを突き出すエミルに、星は首を横に振って言った。


「ううん。これは今日の記念に星に持っててほしいの。それにお姉ちゃんのものは妹のもの、妹はお姉ちゃんのものなんだから遠慮しなくていいのよ?」

「――なら、記念にもらいますね。ありがとうございますお姉様」


 微笑むエミルからパンダのぬいぐるみを受け取って胸に抱いた。


 エミルが星を次に連れてきたのはプリの機械が置いてある一角だった。プリを撮る機械の中に入ると、画面と音声に従って撮影する。

 シャッター音の後に画面に表示された映像で星の顔は引きつっていて肩に力が入り過ぎているのか、少し小さくなっているように見える。だが、普段から写真を撮られられていない星にとってはこれでも最大限の努力をして撮った渾身の一枚なのだ。


 しかし、その写真を見たエミルは難しい顔で考え込んでいる。


「……全体的に硬いのよねぇ。どうしようかしら……」


 少し考えた末にエミルは膝を折って星に目線を合わせると真剣な声で。


「ちょっと両手を上に上げてもらえる?」

「え? はい……」


 彼女に言われるがまま両手を上げてバンザイの格好をした星の脇をエミルがくすぐりだした。

 星の笑い声が周囲に響き身をよじって逃れようとする星の脇の下や脇腹の辺りをくすぐり続けるエミル。


 しばらくくすぐられた後に力なく地べたにペタンと座り込んだ星は荒い呼吸の中で弱々しく言った。


「はぁ……はぁ……な、なにするんですか……」

 

 涙目になっていた星が不満そうにキッっとエミルを睨むと、エミルは焦ったように両手をバタつかせて弁解する。


「ほ、ほら! リラックスさせようと思って! べつに意地悪しようとかじゃないのよ?」

「…………嫌いです」

「そ、そんなー! ごめんなさい! もうしないから許して! ね?」


 ムスッとしながらそっぽを向いた星にエミルは更に焦り出し。


「ごめん。もうしないから! 約束するわ! ……そうだ。お菓子買ってあげる! だから許して!」

「……お菓子なんかにつられません」


 不機嫌そうな顔の星にエミルは何故か嬉しそうに微笑みを浮かべると、そっぽを向いている星の肩に手を回して自分の方に寄せた。


「ほら、笑って。せっかくの写真にムスッとした顔が残っちゃうわよ? 笑って笑って!」


 エミルは星の顔の近くに自分の顔を寄せると画面に向かって笑みを浮かべる。それを見ていた星も笑みを浮かべてカメラの方を見上げた。


 ゲームセンターや本屋、洋服や靴屋などを回りながら途中で食べ物などを食べて休憩を取りながらショッピングモールを楽しんでいると、もうすっかり夜になっていた。


 月と星が浮かぶ空を見上げ、星がエミルの顔を見て言った。


「もう帰りますか? 明日もありますし……」

「そうね。そろそろ歩き疲れたし、そろそろ帰りましょうか」


 エミルはそう告げると、腕に巻いていた携帯端末で執事の小林に連絡を入れる。


 ――数分後。ショッピングモールの入り口に黒塗りの高級車が止まり、小林が降りてきて車のドアを開けた。

 星とエミルが車に乗り込むと、運転席に乗った小林がエミルに向かって。


「それでは次の目的地に向かいます」

「ええ、お願い」

 

 短くそう言ったエミルに「かしこまりました」とハンドルを握って車を発進させた。


 車が次に止まったのは大きなホテルの前だった……。


 小林が車のドアを開けると、エミルが星の手を引いて降りる。

 

「お家には帰らないんですか?」


 首を傾げて聞いた星に、エミルがにっこり笑って。


「そうよ。言ってなかった?」


 星は諦めたようにため息を漏らした。


 エミルが星に黙ってなにかを企んでいるのは今に始まったことじゃない。それを分かっているからこそ、星ももう諦めている。


 上機嫌で星の手を引きながらホテルに入ったエミル。

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