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新しい学校生活4

 待ちに待った放課後が来ると、朝につかさと約束した通り。下をジャージに着替えて保健室で「遊んでて汚してしまったので」と代わりのスカートを借りて着ていたスカートをつかさの下駄箱の中に入れて図書館へと急いだ。


 図書館へ着くと、腕に付けていた携帯端末にエミルからのメールが入ってきた。


『私の授業が終わるまで図書館の中で待っててもらえる? 終わったら迎えに行くからね!』

  

 メールを読み終えると、星は図書館の中へと入っていった。


 中に入ると昼休みにも行った3階の児童書コーナーに迷わず向かっていく。たくさん置かれた本の中から気になった本を3冊ほど腕に抱えて空いているテーブルに着くと、カバンの中から教科書と宿題のプリントを出して黙々と解き始めた。


 宿題が終わると持ってきた本を広げてエミルが迎えに来るのを大人しく待っていた……。


 星が本を読んでいると、隣に誰かが座ってきた。視線を感じて横目で見ると、そこには眉間にしわを寄せながら星のことを見ているつかさが居た。


 彼女の身に着けている制服の下が、ズボンからスカートに変わっているのを確認して、ちゃんとつかさが受け取ったことに内心ではホッとしながらも。

 

 あえて視線を合わせないようにとしていた星だったが、つかさが怒った様子で星に向かって言った。


「もう! せっかく友達になれると思ったのに休み時間のたびにどこかに行っちゃうからさ。下駄箱にスカートも入ってたし、お礼を言おうと思って探してたらこんなところまで来てるし!」

「……自己紹介の時言ったでしょ? 私には友達はいらないって」

 

 本の方を見ながら冷たく言うと、つかさはさらに機嫌を悪くしたようで頬を膨らませている。


 星もそれには気が付いていたが、あえて無視していた。正直、そうすればすぐにいなくなってくれると思っていた。


 頬を膨らませていたつかさの肩が細かく震えている。ちらっと横目でそれを見た星は読んでいた本を閉じて席を立った。


 本棚の方へ歩いていくと、また本棚を物色して新たな本を探し始める。


「もう!」

 

 無視されていたつかさがそう叫ぶと、走ってきて本棚に伸ばしていた星の腕を掴んでいきなり走り出した。


「えっ!? ちょっと待って!」


 驚き自分の腕を掴んだまま前を走るつかさに星が叫んだが、つかさは無言のまま走り続けた。


 ちょうど着いて開いていたエレベーターに駆け込んだつかさは、最上階のボタンを押してエレベーターのドアが閉まり動き出した。


 それと同時につかさは掴んでいた星の腕から手を離す。


「な、なんなの急に……」


 密室に連れてこられ、気丈に振る舞っていた星も少し不安そうな弱々しい声で言った。


「それはこっちのセリフ! 僕を無視して本ばかり見てるからでしょ!」

「……私をどうするの?」


 エレベーターの壁に背中を付けた星がつかさにそう尋ねた。

 動揺しているためか、星の声は震えていて視線は下を向いている。


 その時の星の脳裏にはいじめられていた時の記憶が鮮明に浮かんでいた。

 つかさを無視していたのは事実だし、それにつかさが頭にきているのも分かっている。正直、殴られるくらいのことをされても仕方ないとさえ思っていた。


 だが、やはり仕方がないと思っていても暴力を振るわれるのは怖い。エレベーターという密室に閉じ込められては逃げ場もない。


 自分の胸に震えた手を合わせると、心臓の鼓動がどくんどくんと大きく脈打つのを感じる。

 つかさが一歩、また一歩と距離を縮めてくる。真っ直ぐに自分の目を見て迫ってくる彼女に星は動くこともできずにいた。


 っと、最上階に着いたエレベーターのドアが開き、その隙に星は慌ててエレベーターの中を飛び出した。


 一目散に走って逃げる星をつかさも追いかける。


 だが、元々運動があまり得意ではない星は屋上へと続く階段の踊り場でつかさに腕を掴まれて捕まってしまった。


「はぁ……はぁ……」

「どうして逃げるのさ!」


 苦しそうに肩で息をしている星に、息も乱していないつかさが尋ねた。


「そ、それは……あ、あなたが追いかけて……くるから……」


 激しく呼吸する星が切れ切れにそう答えると、つかさは真剣な顔で星に言った。


「僕は君と友達になりたい!」

「……えっ?」


 その言葉に星の心臓が更に激しく脈打ち、顔が真っ赤に染まった。


 だが、すぐに首を振ってつかさの掴んでいた手を振り解く。


「私はいやだ……私は友達なんていらない!」

「僕もやだ! 僕は君と友達になりたい! なんでいやなのさ!」

「…………」

 

 そう言って迫ってくるつかさに、星は言葉を詰まらせる。


 つかさのその青い瞳が彼女の真剣さを物語っていた。本気で自分と友達になりたいと言ってくれているのは星にも分かっていたが、星には友達を作れない理由があった。


 それは……。


「……あなたも聞いたでしょ? クラスの子が言ってたこと……私は伊勢星じゃない。私の本当の名前は夜空――夜空星。テレビで言ってた犯罪者なの……」


 休み時間に入る時、前の席の子が小声で言っていた。


『ゲーム世界に多くの人を閉じ込めた犯人の娘で、自分がヒーローになる為にチート能力を出し惜しみして、未だに多くの昏睡状態の患者を出したことも気にせず、のうのうと暮らす犯罪者の夜空星じゃないか……』


 そう女の子が話していた。その時に、つかさも近くにいて聞いていなかったわけがない。いや、ニュースでも何度もやっている夜空星と言う名前は知らない者はいない。


「――――私は、普通に生活したいから名前を変えたの。転校してまた一から始めるためにここに来た……分かったでしょ? 私は犯罪者なの。だからもう私に関わらないで……」


 そう言って振り返った星は唇を噛み締める。


「そんなの嘘だ!」

「……嘘じゃない。すべて本当のことな――」

「――嘘だ!!」


 話している星の言葉を遮るようにつかさが叫んだ。


 そして再び星の腕を掴んで自分の方に引き寄せると、バランスを崩した星がふらふらと壁の方へとよろめき、背中を壁に打ち付けた。


 壁に背中を打ち付けた星が瞼を開くと、両手を壁に突いたつかさと目が合った。


「これでもう逃げられないよ」


 つかさの綺麗な青い瞳の中には星の顔が映っているのがはっきりと見える。


 顔がくっつきそうなほどの距離に星は頬を赤らめながら視線を逸らした。

 女の子のはずなのに、今はまるで星が得意じゃない男性のような感じで心臓が走っていた時よりも激しく脈打つ。


「どうして目を逸らすの? 僕の目を見てよ」

「……だ、だって。近いから……」

「近付かないと目を見れないでしょ?」


 視線を逸らして頬を赤らめさせている星の顔をつかさが覗き込む。


 吐息だけでなく心臓の音まで聞こえそうな距離。こんな近距離はエミルとしか経験したことがない。


 息を止め、じっと自分の目を見ているつかさを横目で見ると、つかさがにっこりと笑った。


「やっぱりね! 君は犯罪者じゃない。お父さんが言ってたんだ。悪い奴は目を見れば分かるって! こんな綺麗な目をしてる子に悪い事はできないよ!」

「……そんなことない」


 星はつかさの目をじっと見つめながら言葉を続けた。


「私は犯罪者なの。だから、あなたとは友達になんてなれないし、なる資格もない!」


 つかさは驚いたように目を丸くしている。だが、すぐに真っ直ぐ自分の瞳を見ている星に言葉を返した。


「資格なんていらない。僕は星と友達になりたいんだ」

「……だから、それはできない。私と一緒にいたら、あなたまで悪く思われてしまう」

「それでもいい!」

「よくない!」


 星はつかさの体を強引に押し返して叫んだ。

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