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オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~  作者: 北条氏成
第3章

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敵城の主4

 全く攻撃の手を休めることなく、間髪入れずに男に連続攻撃を仕掛けているエリエ。


 だが、次第に彼女からも疲れの色が見え始めていた。

 繰り出される剣撃の精度と速度が鈍くなってきているのは間違いない。男と対峙しているエリエは息を切らせながらも、既に気力だけで攻撃を続けている。


 徐々に攻撃が単調になっていくエリエに、男はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。その直後、隙を見て攻撃するエリエの足を払うと、エリエはバランスを崩し地面に倒れる。


「くそっ! この卑怯も……」


 罵ろうと口を開こうとしたエリエの首筋にチクリとした何かが触れ。それ以上、エリエは動くことも喋ることもできない。


 当たり前だ――その時。バランスを崩して倒れたエリエの首筋には、男の手に握られている武器の刃先が突き付けられていたのだから。


 悠々とエリエを見下ろし、男が勝ち誇った様な笑みを浮かべ「終わりだ」と呟く。すると、エリエの視界が突如として戻った。


 光を取り戻したエリエの目を見て、男が困惑した表情を見せる。すると、今度は頭の中に直接声が飛び込んでくる。  


「――これ以上の戦闘は止めて下さい。これ以上戦闘を継続する意思がある場合は、ゲームマスターの権限で貴方を削除します」

「……えっ? この声って……星?」

「ふっ! ふざけるな! 何がゲームマスターだ! 今更運営が出しゃばるんじゃねぇーよッ!!」


 男は声を無視して、エリエに止めを刺そうと首筋に突き付けていた刃を自分の体へと引き戻して勢いを付けてエリエを攻撃しようとした。


 っとその刹那、今度は部屋全体が目を開けないほどの物凄い光に包まれる。

 再び男が武器スキルを使用したと思ったエリエは、反射的に咄嗟に瞼を閉じた。彼女の行動は当然だろう。また視力を奪われては堪ったものではない。


 その直後、男が叫び声を上げる。


「なに!? どうなってやがる!! どうして俺の全ステータスが1になってるんだよ!!」


 空中で指を動かしながら目を丸くさせながら、コマンドを開き慌てて確認を始めた。

 そこには本来ならあるはずの数値が全て『1』と表示されている。


 これはゲームシステム上ありえないことだ。PVPの【OVERKILL】時でもHPという一つの数値が『1』になるだけなのだ――それがステータスから全てということは、メンテ直後の深刻なバグかなにかでしかありえない現象だ。


 だがそれも、本当に星がゲームマスターとして覚醒したのならば、問題のあるプレイヤーを無力化する能力があっても何ら不思議ではないが……。


 すると、星の声が再び聞こえてきた。


「――これは最終の警告です。次に変な動きをした方は、このゲーム内から追放します。無論、現実世界に帰れるわけではないのでそのつもりでお願いします」


 その声に男は観念したのか、呆然としながら、まるで魂が抜けたかの様に天井を見上げその場に立ち尽くしている。


 どこからともなく聞こえる星の声を聞いて、エリエは部屋中を見渡して探す。

 これだけ鮮明に聞こえるということは、普通に考えれば当の本人が近くにいなければありえないことだ。

 


「――星! 星なんでしょ!? どこに居るのよ! 私、あなたを助けに来たのよ!?」


 徐ろに立ち上がると、部屋中を走り回りながら大声で叫び、必ずいるはずの星のその姿を必死で探した。その直後、突如としてエリエの目の前に星と茶色いマントを着た人物が姿を現す。


 エリエは驚きながらもすぐに星の元に駆け寄ると、ライラが星とエリエの間に入ってそれを妨げた。


「ふふっ、久しぶりね、エリエ。エミルは元気?」

「えっ? ライ姉!?」


 頭に掛かったマントを外すと、ライラは驚くエリエににっこりと微笑みを浮かべた。


 エリエはライラを退けて星に駆け寄ろうとしたのだが、彼女はそれを許してはくれなかった。


 腕を掴んで離さないライラに、エリエが声を上げる。


「どうしてライ姉が止めるの!? ライ姉は私達の味方じゃないの!?」

「はぁ~。敵とか味方とかじゃなくてね。今は、この子に近付いたらダメなの」

「どうして!? 何がダメなのよ!!」


 エリエは振り解こうとしても自分の腕を掴んで放さないライラを睨んで、更に声を荒らげて叫んだ。


 それを見てライラは、小さくため息を漏らして星を指差す。 


「あの子は今凄く頑張ってるの。本当にあの子の事を思ってるなら、見守る事も愛情よ?」

「……見守る事が愛情?」


 エリエは落ち着きを取り戻し、首を傾げながらライラの顔を見上げた。 


 無言のまま優しく微笑み返す彼女に、不安そうではあるもののエリエも小さく頷いた。それは、この2人がそれだけ信頼し合っているという証でもあった。


 星は持っていた黄金の剣を男に突き付ける。


「あなたはどうして戦意を喪失しないんですか?」

「……どうしてお前には戦意を喪失していないと思う?」

「分かります。だって、私には見えてるから……」


 そう。その言葉通り星の見ている視界の中には、枠いっぱいに名前が表示されていて、その枠の中で青い文字で名前が表示されている人間と、赤く名前が表示されている人間が存在していた。


 もちろん。赤い方で表示されている方が、戦意がある人間ということだ――。


 星の持っている『エクスカリバー』はレイニールと居る時にたまたま発見した物で、それ自体は謎の多い武器だった。

 ステータスが『?』になっていたこともそうだが、使用者が武器の扱いどころか、戦闘もまともにできない星であったことから、その武器の多くの内容が分からなかったことも理由だろう。


 だが、星の固有スキル『ソードマスター』は単純に剣の真の力を引き出すだけのスキル。

 だからこそ、このスキルは良い意味でも悪い意味でも、武器に固執するスキルであると言える。


 元々、フリーダムにおいての剣は攻撃範囲が広い武器とは言えない。

 遠距離武器は弓とオリジナルで作成した物がある。が、オリジナルの武器を持っている者は少ないだろう。


 もちろん。それには理由がある生産スキルにはレベル制ではなく、誰でも同じ物を作ることができる。にも拘わらず、オリジナルの武器を持っている者が少ないのは扱いが難しいのと、武器によっては攻撃力の数値が著しく低くなってしまうからなのだ。


 例えば銃を模した物をこの世界で作成したとする。すると、その攻撃力は遠距離武器と言うことで、元々この世界にある弓が十として銃は二程度の攻撃力にしかならない。ならば、段数を上げれば解消できそうなものだが、事はそう単純でもない……。


 武器に込められる球数が上がれば、一発の攻撃力が更に下がり、段数分の重量で移動速度までもが極端に落ちてしまう。

 つまりは射程距離と撃ち出す速度によって、本来は強力であるはずの銃が最弱武器へと変化してしまうと言うことだ。


 また、武器製作に使う素材は高価な物が多く。わざわざ高価な素材を無駄にして作ってからしか攻撃力の分からない武器を作るという賭けに出る必要性がない。しかもトレジャーアイテムには数多くの強力な武器の部類もある為、相当のこだわりがない限りは武器の製作を行う者などいないのだ。


 星の所有しているエクスカリバーがトレジャーアイテム扱いか、オリジナル扱いかは分からないものの、一つ分かっていることは、星は初心者でましてや武器の扱いなんて知る由もないということだ――。


 普段から戦闘では闇雲に剣を振り回して、剣に振り回されている彼女だ。だが、目の前でそんな星がまるで別人の様に、今は男に向かって剣を突き付けている。しかも、その姿は様になっており、とても剣をまともに触れなかった人間のものではなかった。


 エリエ達からすれば摩訶不思議な光景だが、それは男からしてみれば宣戦布告以外のなにものでもない。


 男は口元に笑みを浮かべ、星に剣を突き付けた。  

 

「ゲームマスターなんてどうでもいい。ただのガキが俺に剣を突き付けた――この事実を、お前は分かってるんだよな?」

「――今の状況が分かっていなんですか?」

「くッ! 分かるかッ!!」


 男は星の剣よりも圧倒的に薙刀の様に長い剣を、虚ろな瞳の星に向かって振り上げた。

 次の瞬間。振り下ろされたその剣の刃を星は軽々とかわすと、一瞬で剣を振り抜いて男の得物を弾き飛ばす。


 弾き飛ばされた男の持っていた『イザナギの剣』が空中で回転し、地面に深々と突き刺さる。その光景を見て驚きながら、エリエが目を見開く。


「……ありえない。星にあんな事できるはず――」

「――違うわよ。あれが、あの子の固有スキルと相性がバッチリの伝説の聖剣『エクスカリバー』の能力なの……」

「……『エクスカリバー』って?」


 唐突に出てきた『エクスカリバー』という言葉に首を傾げていると、そんなエリエの首にゆっくりと腕を回して、自分の方へと引き寄せたライラが彼女の耳元でささやくように告げる。


「ふふっ。亡くなったあの子のお父さんから、あの子へのプレゼント♪」 

「……プレゼント? 亡くなったって……?」

 

 エリエはそのライラの言葉に驚く。


 男がさっき言っていたように、星の父親は医者ではなかった……。


 だが、彼女が驚いているのはそこではない。何故なら星は、一言たりともそんなことは言っていなかったのだ。いや。あの引っ込み思案な性格から何か闇を抱えているのは、エリエも薄々感じ取っていたが、まさか父親が亡くなっているとは思わなかった。


 この事件を起こしたであろう覆面の男も、星の父親がこの事件に絡んでいる的なことを匂わせてはいたが、それも星の口から直接は聞いていない。それどころかその時は、星もいくらか取り乱している様子だったのをエリエは鮮明に覚えている。


 今のエリエにはいくら昔からの友人であるライラの言葉でも、完全に信じることはできなかった。いや、星の口から直接聞くまでは誰の話も信じられないだろう……。


 エリエは心にもやが掛かった状態のまま、男の鼻先に剣の先を突き付けている星の姿を見つめた。


 再び別の剣を装備する男を見下ろしながら星は淡々と言い放つ。


「これ以上は止めて下さい。『エクスカリバー」で発動した『ソードマスターオーバーレイ』私のこのスキルはステータスを1にするだけではなく、その効果範囲の人のステータスの残りは私のステータスに変換されてます。今、私の全ステータスはあなたのステータスとは比べ物になりません……」

「くっ……」


 男は悔しそうに唇と噛むと、持っていた剣を放り投げた。

 さすがに自分のステータスが変更されたことがあった後では、星のその言葉がハッタリではないと感じたのだろう。


 その星と男のやり取りを見ていたエリエは、星の性格の変化に戸惑っていた。


 それもそのはずだ。本来、星は口下手で戦闘なんてできないはず。だが、今目の前にいる星はエリエや他のメンバーよりも機敏に動き、スキルの説明までやっている。これは普段の星の性格を考えれば本来ありえないことなのだ。


「――星。どうしちゃったのよ……星!!」


 エリエはぼそっと呟き、星の元に駆け寄った。


 後ろから星の背中に抱きつくと、声を上げて叫ぶ。


「やだ……今の星は怖いよ。お願いだから、いつもの星に戻ってよ!」


 背中からがっしりと星の体を抱きしめているエリエ。


 その直後、星の口から思いもよらない言葉が返ってきた。


「……あなたは誰ですか?」


 予想だにしていなかった星の一言に、一瞬エリエの思考回路が止まる。


 そして、確認するようにエリエが口を開いた。


「だ、だれって……私だよ。エリエだよ!」

「……ゲームマスターである私から離れないと、敵対行動と見なしますよ?」


 前に回り星の両肩を掴みながらエリエが必死に呼びかけたのだが、星はまるで敵を見る様な冷たい瞳をエリエに向けている。


 エリエは瞳を潤ませると星の前に回り込み、小さな両肩を掴んでもう一度問い掛けた。


「……星、嘘だよね? 本当に私の事を忘れたなんて……そんな事ないよね?」

「知りません。貴女は誰ですか?」


 嘘であって欲しいと願うように星の瞳を見つめるエリエに、星は首を傾げた。


 返答を聞いたエリエはがっくりと肩を落とし。


「……嘘だ。嘘って言ってよ! 星!!」


 エリエがそう強く叫んだ直後、星は不機嫌そうに右手に持っていた『エクスカリバー』を振り上げた。


「――ゲームマスターである私の言う事を聞かない者は削除します」


 その言葉通り。腕を振り下ろそうとした直後、星の体を矢が掠めた。


 エリエは驚きその矢が飛んできた方向に目を向ける。するとそこには、弓を持ったライラの姿があった。


 その直後、星の体はゆっくりとエリエの体の方へと倒れた。


「……星!?」


 エリエが星の体を受け止めると、星はすやすやと気持ち良さそうに寝息を立てていた。星の小さな体を抱きながら、困惑した表情でライラを見つめるエリエ。


 ライラは弓を装備欄から外すと、今にも泣き出しそうになっているエリエに声を掛ける。


「エリエ、ごめんなさい。その子を助けた時には、もう間に合わなかったみたいで……」

「――間に合わなかったって……?」


 ライラは涙を流しながら自分を見上げるエリエに申し訳無さそうに呟くと、アイテムの中から空になったガラス製の注射針付きの器具を取り出してそれをあからさまにエリエに見せた。


 エリエは困惑した表情で、その器具を見つめる。


「これはその子に投与したものよ。でも中身は私の今の雇い主が作成した薬で、効果はその子の固有スキルの最終調整用の薬だった……」


 ライラの言葉の意味が理解できずに首を傾げるエリエ。


 そんな彼女の手を取ってぎゅっと握ると、エリエは瞳を潤ませながら顔を真っ赤に染めている。


「エリエ。あなたとその子を私の雇い主の元に連れて行くわ」

「……うん」


 エリエは小さく頷くと、3人はその場から一瞬で姿を消した。

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