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祈りの歌

よろしくお願いします。

祈りの歌は聖なる言語レディアスで唄われる。歌の階位が上がるにつれレディアスも複雑にそして難解になっていく。

また、神の加護レィディアントの瞳を持つ者にしか祈りの歌が記された華譜を読み解くことは難しい。




お母様から『祈りの歌入門編〜1階位を学ぼう〜』を渡された。なんだか既視感デジャヴュを感じた。そういえば、前世の彼女も似たような本で音楽の勉強を初めていたな。

本を開いてみると中には譜面と歌詞が並んでいた。一番上には多分題名が書かれているんだと思う。

うん。読もうとして見たけれど読めなかった。何となく分かる単語もあり所々読むことはできるけれど。

ただし譜面の方は前世の知識のおかげで分かる。この世界と前世の彼女の世界が同じ表記方法で良かった。


「シュカちゃん、これからこの本を利用して祈りの歌の訓練をしていくわよ。まず、この本に書かれている歌詞は、レディアス言語のエイスと言われていて、1階位の歌はすべてこの言語で唄うのよ。」


これがレディアス言語エイスか。レィディアントの瞳がなくても、1階位の歌は共通言語に近いので、この入門編と何度も繰り返し唄うことで覚えることが出来るらしい。

お母様がまずは見本として唄ってくれることになった。


お母様の唄声は澄んでいて何処までも遠くへ届くような感じだった。それこそ、心の奥深くまで届くように…

聞いているうちに、段々と最近悩んでいた事が『大丈夫!私なら解決することが出来る…』そんな気分になってくる。


「これは《祈りの歌1階位ロードよ。不安な気持ちを和らげる効果があるわ。どうだったかしら?」


唄い終わったお母様が微笑みながら私に話しかけてた。さっきまでの、お母様の唄に感激していた私は、感じたままの感動を伝えた。


「素敵でした。お母様っ‼︎なんだかスッキリとした気持ちになりました。」


「まぁ、ありがとう。シュカちゃん」


お母様が私の頭を優しく撫でてくれる。その後は、入門編の教科書を読みながらお母様が解説し、たまに、一緒に唄うことを繰り返す。


「シュカちゃん、凄いわ。」


お母様が途中で少し興奮したように褒めてくれた。

突然、褒められたことに戸惑いながらお母様を見上げると。


「確かに1階位の歌は共通言語に近くて分かり易いと言われているけれど、中々、覚えることは難しいのよ。譜面を読むのも初めてなのにちゃんと唄えてきているわ。」


あっ…しまった。『前世の記憶のおかげで譜面を読むことが出来て良かった。』と単純に考えてしまったけれど普通は、覚えるのに繰り返し学ぶ必要がある。

ここは取り敢えず………


満面の笑み浮かべながら答える。


「嬉しい…お母様ありがとう。お母様のお話、面白くて楽しいね。」


誤魔化そう…お母様の教え方が良いことにしておこう。実際、お母様のお話はわかり易くて楽しい。

これからは、あまりやり過ぎないように気をつけていこう。目立つのは良くない。




それからも毎日ではないけれど、お母様の時間が空いている時に教えて貰っている。

一度、2階位の歌も同じやり方で覚えられないかと思い、お母様に聞いて見たけれど、2階位以上は難易度がグッと上がってしまう為、華譜を自分で読むことが出来ないと覚えることは難しいらしい。

さらに、2階位以上の祈りの歌を唄うにはその華譜に隠された祈りを読み解き、歌の意味を理解する必要があり、そして人それぞれ理解するきっかけが違ってくるらしい。

ある人は、怪我をした時、またある人は雨の雫を見ていた時、唐突に歌の意味を理解し、唄うことが出来るようになるらしい。



その話をお母様に聞いた時、私は不思議に思った…


なぜ、私は《祈りの歌3階位導きリード》を唄うことが出来たのだろう…


私がこの歌を聞いたのは、前世の記憶を思い出した時だけだ。夢の世界でも聞いているけど、私の夢なのだから私が覚えていることしか起こらないはず…。

自分自身のことだから分かる。一度聞いただけでは、あの歌を覚えることは出来ない。あの歌は、そのくらい難しいと。

…あれは、本当にただの夢だったのかな。最近、ふとした瞬間に考える。夢にしては、大地も空も空気も何もかもがはっきりと感じられる。前世の彼女も現世の私も知らないはずの光景。


1階位の歌はお母様に教えてもらっている他にも自主学習をしている。そのおかげで、何曲か覚えることが出来ている。

ただ、このままでは『ある事件』を防ぐことも、実際に起きた時に対応することも出来ない。どうにかして、2階位以上の《祈りの歌》を覚えることが出来ないかな。

う〜ん、《祈りの歌3階位導きリード》だけでは、手札として弱い。弱すぎるような気がする。


私は、手がかりを探して図書室通いを再開した。最近は、お母様との祈りの歌の訓練と言語やマナーの勉強も始まり中々来ることが出来なかった。

久々の図書室は、静かな落ち着いた空気をしている。以前は、お父様とお母様も良く図書室を利用していて、偶に一緒になることもあったけれど、最近は忙しいみたいで余り図書室には訪れない。


誰も居ないことにホッとして目当ての物を探す。ちなみに、お世話係のリリーもこの時間帯は他の仕事をしている。


2階位以上の祈りの歌が書かれている本は恐らく、私が見つけづらい所にあると思うんだよね。いくら、私にはまだ読むことが出来ない本だったとしても無防備には置いとかないと思う。

この図書室には何回か訪れたことがあるけれど見たことはない。

ただ、子供もの目線って自分で思っているよりも低い。そう、どうしても上の方の本って見落としがちになってしまう。


今日は、意識して上の方を探して見ることにした。大事な物って意外とわかり易い所に隠すと見つかりづらいしね。

誰もがまさかこんな所にあるとは思わない。そんな場所に。

ずっと上を見上げていると首が痛くなってきた。我慢して探し続けるけれど中々見つけることが出来ない。やはり、簡単に見つけられないか…。

諦めかけた時、目当ての本を見つけることが出来た。


《祈りの歌初級編〜2階位を学ぼう〜》


思わずガッツポーズをする。だけど、すぐに途方に暮れた。本があるのは本棚の一番上の段。私の身長で届く高さの遥か上にある。ジャンプしても全然足りない。


(えーと…脚立ないかな。)


脚立を探し求めて図書室内をキョロキョロしながら歩き回る。広い図書室内を探し回ること数十分…とうとう脚立を見つけることが出来なかった。


(脚立ないな…見つからない。)


どう見てもお父様の身長でも届く筈がない位置に本はある。なのに脚立がないことに疑問が浮かぶ。


(どうやってあの本とかあっちの本とかとってるんだろ…偶々脚立を他に持ち出しているのかな。)


私を迎えに来たリリーにさり気なく聞いてみる。


「リリー、上の方の本はどうやってとっているの?」

「何か気になる本があるんですか?代わりに私がお取りしますよ。」

「うん。あの赤い表紙の本が見たいの。」


私は、リリーの身長よりも高く、背伸びをしただけでは取れない位置にあり、私が読んでも問題なさそうな本を指差しながらお願いしてみた。

これで、脚立がしまってある場所が分かれば、誰も居ない時にこっそり祈りの歌初級編(さっきの本)を本棚から取り出すことが出来る。

しかし、私の計画は次の瞬間にもろくも崩れ去った。


「分かりました。あの本ですね。シュカお嬢様。」


リリーはその場所に立ち目当ての本に向け右手の中指につけた指輪を向け、一言だけ発した。


「ルーンデリバー」


指輪から小さな光の模様が浮かび上がり、その直後本がリリーの手の中へと落ちてくる。


(えっ⁉︎これって魔法…)


驚きの余り声が出ない。まさか本を取って貰うだけのつもりだったのに魔法を見れるなんて。


「はい、どうぞ。シュカお嬢様。こちらの本でよろしいかご確認ください。」


リリーがにこやかに本を渡してくれた。けれど、私はそれどころではなかった。今のが魔法…昔お父様が見せてくれた物とは少し違うような気がするけれど、確かにこれは魔法に違いない。

どうやるのかな…気になる。


「うん。この本が読みたかったの。ありがとう、リリー」


笑顔でお礼を伝え、両手を差し出して本を受け取る。赤い表紙の本は見てみると花の図鑑だった。両腕に感じるずっしりとした重みも今は気にならない。


「いえ、どういたしまして。他に気になる本などはございますか?もし、よろしければお取りしますよ?」

「ううん、大丈夫。」

「かしこまりました。それでは、その本は私がお部屋までお運びしますね。どうぞ、お預け下さい。」


リリーにお礼を伝えながら本を預ける。確かにちょっと重かったからね。

部屋に帰りながらさっきの魔法についてリリーに聞いてみることにした。

ありがとうございました。

次回は8月12日投稿予定です。

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