お母様は祈りの乙女らしい
よろしくお願いします。
お父様が祈りの歌の先生として探して来てくれたのはお母様だった。
「じゃあ、シュカちゃん祈りの歌についてお勉強を始めるわよ。」
今日は、お母様から祈りの歌について教えて貰うことになっている。
「はい。よろしくお願いします。」
ぺこりと頭を下げる。教えて貰うのだからきちんとした挨拶は大切だよね。
私の返事を聞いたお母様が微笑みながら頷く。
「遥か昔からこの世界ルーセントでは、神様に《祈りの歌》を捧げることにより癒しと浄化を行うことが出来たの。
この世界に住む者なら誰でも捧げることは可能だけれど、必ずしもその願いが届くとは限らなかった。
強い思い、他者を思いやる心、神への信仰心、歌を届ける為の魔力等様々な要因が必要とされていて、今だ未知の部分が多く、その力が効力を発することは滅多になく、人々は《神の奇跡》と呼んでいたのよ。
だけど、およそ100年前祈りの力を呼び起こし、安定させる補助アイテムとして透花水晶が聖王教会によって開発されたの。
それからは、透花水晶を媒体として《祈りの歌》を神様に捧げることにより、様々な《神の奇跡》を起こすことが出来るようになったのよ。
奇跡には傷を治す《癒し》や、迷った時の《導き》、敵からの攻撃を防ぐ《堅固》、魔を祓う《浄化》などがあるわ。
他にも様々な《祈りの歌》がこの世界には存在するわ。
次に《祈りの歌》には階位があり、階位毎に使われている聖なる言語は異なっているの。
階位が上がる毎に使われているレディアスも複雑にそして難解になっていくわ。また、階位によって起こる奇跡の大きさも変化してくるの。
今確認されているのが4階位までで、1階位は必要とする魔力も少なく、使われている聖なる言語もこの世界の共通言語に近く覚え易い為、人々の間で広く唄われているわ。
だけど効果は余り大きくないから、傷を癒したり、浄化することは出来ないけれど、捧げることにって迷いが晴れたり、気分が明るくなったりするわね。
2階位からは透花水晶に誓いの洗礼を行い、神の加護の一つレィディアントの瞳を授かり、祈りの歌が記された華譜を読むことが出来るようになる必要があるの。
華譜に書かれた歌の内容を理解することにより、初めて《祈りの歌》として唄える様になるわ。
訓練をし2階位以上の祈りを捧げることが出来るようになると、《花祈士》と呼ばれる様になるのよ。
《花祈士》の強さはそのまま捧げることが出来る《祈りの歌》の階位で表されるのよ。
それと、学院に通うことで《花祈士》になる為の訓練を積むことが出来るの、学院には7歳から入学することが出来るわ。
《透花水晶》は祈りの歌を捧げる為に必要なアイテムだけど、7歳になるまでは魔力が安定しないから《透花水晶》を持つことは出来ないのよ。」
《祈りの歌》は唄えれば奇跡が起こるわけではないんだね。
そうだよね・・・唄うことで誰でも起こせるなら、奇跡とは言わないよね。
それでも前世の彼女の世界に比べると身近にあるようだけど。
必要なものは2つ…一つは《透花水晶》、2つめは誓いの洗礼をする方法。
《透花水晶》がないと誓いの洗礼の仕方を知っていても仕方が無いから、やはり最重要事項は《透花水晶》を手に入れる方法かな。
「お母様、《透花水晶》ってどういうの?」
私は、祈りの歌を捧げる為に必要な《透花水晶》について詳しく知る為に、どういう物なのか質問してみた。
私の知っている乙女ゲームのヒロインは、市場らしき場所に立つ一件の店で手に入れていた。
もし、《透花水晶》を7歳の誕生日やヒロインの行った店以外で、手に入れることが出来るならば是非欲しいし、その場所だけでも分かっていれば何か入手方法を考えつくかもしれない。
取り敢えず7歳の誕生日まで待つことは出来ないし、店は何処にあるのかよく分からない…
お母様がいつも左の耳にしているピアスを外して見せてくれる。
それには、小指の爪ほどの赤い石が付いていた。
「これが《透花水晶》よ。透明度の高い特別な鉱石の中に神様の守護花が咲いている水晶を《透花水晶》と呼ぶのよ。」
お母様が見せてくれた《透花水晶》は、赤い水晶の中に真っ白な睡蓮の花が咲いている。
「きれい…お母様の《透花水晶》きれいだね。」
「ありがとう。」
お母様と目を合わせながらにっこり笑い合う。
その睡蓮の花は美しく、神聖な物に見えた。
「《透花水晶》には赤い水晶と青い水晶の2つがあるのよ。そして、それぞれ守護してくれている神様を象徴する花が水晶の中に咲くのよ。私の持つ《透花水晶》は睡蓮の花だから、光の神様の守護花になるわね。《透花水晶》の中に咲く守護花は、最初は蕾の状態だけど《花祈士》の階位が上がるほど大輪の花を咲かせることが出来るのよ。」
と言うことは、お母様の睡蓮は大輪の花を咲かせている状態だから…うん、一体何階位の《花祈士》なんだろうなぁ。
……あれ?《青い透花水晶》もあるんだ。
ヒロインもお母様も《赤い透花水晶》だったから、赤しかないんだと思っていたけど違うみたいだ。
「《青い透花水晶》もあるの?」
「そうよ。《青い透花水晶》は聖王教会で授けてもらうのよ。一般的に《透花水晶》というと青い水晶の方を指すわね。ちなみに《 赤い透花水晶》は水晶の主を探して人から人へと渡り歩く幻の水晶と言われ、何処から現れるのか分からないのよ。」
「そうなんだ。じゃあその《赤い透花水晶》はお母様を探して旅をして来たんだね。」
「ふふっそうね。長い旅をしてお母様の所に来てくれたのよ。」
お母様が外していた《赤い透花水晶》のピアスを耳に付けながら楽しそうに笑った。
私は、お母様に次の質問をすることにした。
それは、《透花水晶》を2つ持つことが出来るかどうかだ。
今、お母様が見せてくれた《透花水晶》も、ヒロインが持っていた《透花水晶》も一つだけだった。
何となく嫌な予感がする。
それにもし、7歳までに独自に《透花水晶》を手に入れる事が出来た場合、その後にお父様がプレゼントしてくれる予定の《透花水晶》はどうなってしまうんだろう?複数同時に持つことは可能なのかな…
ヒロインの《透花水晶》の方は、例え店で発見しても私が手にすることはないだろう。無事『ある事件』を乗り越えることができた場合、私の《透花水晶》はお父様がプレゼントしてくれるから必要ない。
そうすると、少なくとも2つは同時に持てないと…困るかもしれない。
「お母様、《透花水晶》を2つ持つとどうなるの?」
「《透花水晶》は2つ持つことは出来ないのよ。水晶同士が反発しあって祈りの力を消してしまうと言われているの。それに、一度洗礼の誓いを結んだ水晶は、持ち主が死んでしまうまで共にあると言われ、唯一無二の物なのよ。」
頭に浮かんだ言葉は、『死が2人を分かつまで』という結婚の誓いの言葉。この場合、片方が人ではなく水晶だけど、これはまるで結婚の誓いのようだ。
そう考えると、2つ持てないことに納得しているいる自分がいた。まぁ…実際に持つことは出来ないのだから、納得しようとしまいとどうにも出来ない。
こっそり《透花水晶》を手に入れようと計画していたけど、早速暗雲立ち込めてきたなぁ。
教会で手に入れるのも難しいし、《赤い透花水晶》が私の所に旅をして辿り着くのもまだまだ先の話だ。
祈りの歌には透花水晶が必要…なのに……
うああああ…このどうにもならない状況に声を出して叫び出したい気分になった。
実際にやったらお母様に心配されるだけだからやらないけどね。
少し落ち着いた私は、先程から気になっていた疑問を聞くことにする。
「お母様は何階位の《透花士》様なの?」
うん。さっきの《透花水晶》を見せてもらった時から気になっていたんだよね。
「お母様は4階位の《透花士》よ」
お母様の穏やかな笑顔と優しい声を聞きながら思い出した。
4階位の《透花士》確かヒロインが目指していた階位で…
祈りの乙女
と言われていたなぁ…って最高階位だよね!?確か…
ありがとうございました。
次回は8月8日投稿予定です。