5歳の私
よろしくお願いします。
夢と現実の狭間にいた意識がゆっくりと浮上してくる。
倒れる前に感じていた頭痛はなく、スッキリとした気分に心が軽くなる。
良かった。記憶の混乱も落ち着いてる。
今の私は、前世の彼女ではなく、シュカレインだ。
暗かった部屋が私の目覚めに反応した光の玉によって明るくなる。
これは、お父様が私の為にこの部屋に掛けてくれている光の魔法。
夜になると、私の魔力の変化に応じて明るくなったり、暗くなったりする。
それが不思議で、前にお父様に聞いたことがある。
この世界に生きるものたちは、神様から魔力を与えられている。
魔力は、シュカが起きてる時は元気になって、寝てる間は一緒にお休みするんだよ。
シュカのお部屋の光魔法は、夜になると元気な魔力に反応するんだ。
そして、シュカが寝ると魔力もお休みするから、光の魔法もお休みするんだよ。
その話を聞いた私は、自分も魔法を使ってみたいとお父様にお願いした。
お父しゃま。わたしも魔法使ってみたい。どうやるの?
う〜ん…まだ、シュカには早いかな。
シュカが7歳になったら教えてあげるよ。
その頃には、神様へ「祈りの歌」を捧げる事も出来る様になってるかな。
そうだ、シュカの7歳のお祝いには父様が特別な贈り物をあげるよ。
そう言ってお父様は私を抱きかかえ、大きな手で頭を撫でてくれた。
抱っこをして貰いながら頭を撫でられた事が嬉しくて、私は笑いながら返事をした。
うんっわかった!約束だよ。絶対忘れないでね。ぜ〜たいっだよ!
この世界の魔力には2つの用途がある。
一つは魔法…そしてもう一つは祈りの歌…
この世界では、神様へ「祈りの歌」を捧げることにより様々な祝福を受けることが出来る。
その中の一つに「導きの歌」がある。これは、神様に道を照らしてもらう為の祈りの歌だ。
5歳になった子供は、聖王教会で大人達が子供達のことを思い、神へ捧げる祈り「導きの歌」によって祝福を受ける。
私が、この世界に来た時のことを思い出したきっかけでもある。
そして恐らく、あの暗闇で聞いたのも「導きの歌」だと今ならわかる…
※
考え事をしていたら部屋の扉がゆっくりと開いた。
開いた扉から現れたのは、腰まである緩く波打つ淡い桜色の髪に透き通るような白い肌、そして空の色と同じ青い瞳を持つ女性……私のお母様だった。
「シュカちゃんっ」
お母様は私の方へと駆け寄って、ベッドに起こしていた私の体を抱きしめた。
優しい匂いと暖かい腕に抱きしめられて、心がポカポカする。
色々考えているうちに、いつの間にか神経が張り詰めていたらしい…
「良かった。教会でいきなり倒れてしまったから心配したのよ。」
お母様が両手で私の頬を優しく挟み、おでこを合わせながら笑いかける。
「熱は無い様ね。何処か痛いところはある?」
「ううん。大丈夫。」
心配かけて申し訳ないなと思いながら、それでも私は嬉しかった。
心配してくれる人がいる。それはとても幸せなことだと思うから。
「お母様…心配してくれてありがとう。」
私は、少し照れながらお礼を伝えた。多分、頬が少し赤くなっているかもしれない。
大切な人にその思いを伝える。
これは大事なことだと、前世の彼女の記憶が教えてくれる。
そっとお母様の手に自分の手のひらを重ね合わせる。
瞼を閉じて、その暖かさを…優しさを感じる。
ーーたとえこの世界が前世でしていた乙女ゲームの世界に似ていたとしても…
ここが私のいるべき場所…
この思いは本物…
この暖かさは…現実
「導きの歌」は確かに私の道を照らしてくれている
ありがとうございました。
次回は7月22日投稿予定です。