ルーン魔法…そして夢の謎
よろしくお願いします。
あの後、リリーが教えてくれたことによるとこの世界には2種類の魔法が存在する。
リリーが見せてくれたのはルーン魔法と言い、あらかじめ、魔石に魔法陣を刻むことによって使用出来るようになる。
魔法陣が刻まれた魔石を魔法石と呼び、発動される魔法は生活魔法に分類され、威力は余り強くないが使用する魔力も少ない安全なものが多く、広く人々の生活に浸透している。
ただ、一つの魔法石で一つの魔法しか使用することが出来ないため、小さな魔法石を複数組み合わせてアクセサリーなどにして身につけている。
使用する場合は、使用したい魔法が刻まれた魔法石に魔力を流し込むことによって発動するそうだ。
例えば、高い位置にある物を取ったり、火種を起こしたり、小さな光を生み出すことが出来たりと様々な用途に使われている。
ちなみに、前世の彼女の世界にあった、脚立とかマッチやライター、懐中電灯などはこの世界には存在しなかった。確かに、この魔法石があればそれらの道具は必要ない。持ち運びの心配もなく便利だ。
ただ、魔力のコントロールが出来るようにならないと使用出来ない。 その為、魔力が目覚めた子供は魔力コントロールを一番初めに教えられるそうだ。
確かにこれだけ生活に密着している魔法具を使えなかったら、日常生活を送るのに不便だよね…不便どころか生活出来ないかもしれない。
それ程、ルーン魔法は、日常生活を送るのに欠かせない生活道具の一つになっており、『魔法』という認識も薄いみたいだ。
魔力を持っていない場合はどうなるんだろうと思い聞いてみたら驚かれた。人が生きていくのに呼吸するように、魔力も必ず持っているものらしい。
そして、余りないことだけれど、もし、何らかの理由で5歳の祝福を受けれなかったとしても、いずれは必ず魔力が目覚めるそうだ。
もう一つは精霊魔法と呼ばれていて、『魔法』として一般的に思い浮かべられるのはこちらの方みたいだ。
私が、前に読んだ本に書かれていた魔法も恐らく、精霊魔法を指していたのだろう。
ただし、精霊魔法については詳しいことを聞くことは出来なかった。
どちらも厳密には魔法だけれど、私が使用出来るようになりたいのは生活魔法ではない。
大切な人を守る為に戦えるような魔法を使えるようになりたい。
その為にも、精霊魔法について詳しく知りたいな。
(………いや、やっぱりその前にルーン魔法を使えるようにならないと。図書室にある《祈りの歌初級編》を手に入れる為にも)
そういえば…昔お父様が魔法を使えるようになるよって言っていたけれど、もしかして、ルーン魔法のことだったのかな………ルーン魔法なら皆使えるようになるし、これも確かに魔法だ。
幼い頃のこと…今も十分幼いけれども…を思い出しながらそんな考えが浮かんだ。
※
その夜またいつもの夢を見た。
あれから、夢の世界で《祈りの歌3階位導き》の他にも色々な祈りの歌を唄うようになった。
現実世界では、人目につかず隠れて祈りの歌を練習出来る機会は意外と少ない。それは、一日の多くをリリーとともに過ごし、リリーが他の仕事をしている間は、図書室で自主学習をしたりして過ごしている為、中々練習することが出来ない。やりたい事も、やるべき事も沢山ある。
それに、夢の世界で祈りの歌の練習は出来るから、余り無い時間を他のことに有効活用した方が良い。夢の中では出来ない事も沢山あるしね。
(これも、睡眠学習っていうのかな…?)
夢の世界で、昼間自主学習した《祈りの歌1階位》を練習するようになってから、花畑の広がり方が少しだけ早くなったように感じる。
唄うことの出来る祈りの歌の数が増える度に、夢の世界の景色も少しずつ変化していった。
今日は、花畑しかなかった世界にとうとう池が出来ていた。水溜りにはだいぶ大きく湖にしてはかなり小さい。
「池だね…」
声に出して言ってみる。段々自分の夢だけど良く分からないことになっている。池の中にも花が咲いていた。確かあれは…先日お母様の透花水晶に咲いているのを見たな。
(睡蓮の花だ…)
間違いない、リリーが取ってくれた花の図鑑にも載っていたし。
池に咲く睡蓮の花を眺めていると、その周りを小さな人の形をした羽を持つ者が飛んでいるのが見えた気がした。
(…気のせいかな。疲れてるのかなぁ。)
夢の世界で疲れを感じるなんて、この夢は実は悪夢だったんだろうか。
少し現実逃避をして見る…あれ、そもそもここは夢の中なのだからそれもおかしいか。まさに、ここが現実から逃避して来て辿り着いた場所?
まっまぁ、夢の中だしね。何が起こっても不思議じゃない。うん、不思議じゃない。
「ねぇ、聞こえてる?もしも〜し?」
そう例え、見たことも会ったこともない筈の、羽根を持つ小さな人が私に話しかけてきていたとしても不思議じゃない…と思う。
私の夢の筈なのに、私の知らない人?が出演している。
(それにしても、よく出来てるなぁ。)
思わず、色々と考えながら無言で観察をしていると
「もしも〜し?無視しないでよぉ」
再度聞こえてきた泣きそうな声に意識が思考の世界から引き戻される。
「あっ、うん。聞こえてるよ。ごめんね」
「あっやっと気づいてくれたぁ」
私が慌てて返事をすると、背中の羽根をパタパタと嬉しそうに動かしながら笑う。
多分、目の前にいる羽根を持つ小さい人は…
「えーっと、あっあの、もしかして妖精さんですか?」
「うん。そうだよぉ。私、ウィラっていうの。」
うん。やっぱり妖精さんだった。私の深層心理に妖精さんが居たよ。
少しその事実に打ちのめされた。
「あれっ?どうしたの?なんだか落ち込んでる?大丈夫?」
落ち込んでいる私を心配そうにウィラが覗き込んできた。
それにしても…小さくて可愛いなぁ。ウィラは、大人の手のひら位の大きさに水色のショートヘアの元気な感じの女の子だった。
可愛いし、自分の深層心理については考えないことにした。
「うん。大丈夫。ちょっと、自分の隠された内面について考えてて。」
「そう。なんだか分からないけど、元気だして。」
ウィラが小さな手で私の頭をポンポンと優しく叩いてくれる。ウィラの体が小さいため力が弱いせいか、ポンポンされているのを感じることが出来ないけれど、気遣ってくれているウィラの気持ちが嬉しかった。
「あっもう時間だ。」
ウィラが言うのと同時に私も自分が夢から目覚め始めているのを感じる。
「今日は、シュカレインに挨拶にきたの。今までは、中に入ることが出来なかったから、いつも素敵な『ルナガーデン』だなっと思って外から見てたのっ。だけど、やっと入れる大きさになったから遊びに来たの。本当は、もっとシュカレインとお話ししたかったんだけれど、もう目覚める時間だね。また、遊ぼうねっ。シュカレイン」
ウィラが振ってくれる手に、私も手を振り返していると気になることを告げれらた。
「えっ、外から来た?『ルナガーデン』てな…に…」
ウィラに質問したいことが沢山あるのに目覚めへと浮上し始めた意識を止めることは出来なかった。
いつものように、爽やかな朝の光に瞼をゆっくりとあげる。
ただ、いつもと違い少しモヤモヤした気分だ。
あの夢の世界って一体なんなんだろう…
やっぱり…ただの夢じゃないのかな
ありがとうございました。
次回は8月15日に投稿予定です。