呪いの手紙
九月のある日曜日だった。
小雨が降り、ツクツクボウシが鳴きやんだ。
山裾では、時々遠くから雷鳴の轟音が聞こえ、木々を振るわせていた。
聰徳寺に一同が集まった時も、轟音は聞こえていた。
「一体何なんだ?」
「私は何も聞いてないよ…」
「俺だってそうだよ」
「僕も何も……それに、明日学校あるし…」
集まった人間の年齢層は様々である。大学生、中年サラリーマン、老人、中学生…といった具合だった。
四人が愚痴を漏らす中、蝋燭を持った住職が、ゆっくりと歩み寄ってきた。
「本日はお集まり頂き、誠に感謝しております」
住職が、そっと蝋燭を床に置いた。
「あの、理由を教えて下さい。俺はこの四人とは面識もないし、ここで何をするかも知らない。それを教えて欲しいんですよ」
大学生が足を揺すりながら言った。
近くに雷が落ちた。
一瞬、中学生は肩をビクつかせたが、恥ずかしそうな顔をして蝋燭に目をやった。
「はい。分かりました。理由をお教えしましょう」
住職はそう言うと、一枚の紙を取り出した。
「昨日、ある手紙が私宛に手紙が届きました。こちらをご覧ください」
『来週の日曜、
夕方、六時にて。
人々は、私の呪詛に命を落とす。』
何だこりゃ、と老人は素っ頓狂な声を上げたが、住職は極めて険しい顔をしていた。
「この紙にある通り、来週の日曜日に、多くの人々が呪い殺されるのです。それを、あなた方四人に是非とも防いで頂きたい。もし、間に合うのならば……!」
中年男は表情をすっと和らげ、
「こんなのイタズラだよ!幽霊とか、呪いとか、ばかばかしい!こんなくだらないことなら、私は帰るぞ!」
男は立ち上がり、帰ろうとした。しかし、住職はそれを必死に制して
「信じてもらえないのは、百も承知だ!だが、すでに本寺の坊主が二人も死んどる!次は私かもしれん!頼む……頼むゥ……」
男は哀願する住職を振り払い、ずんずんと出口へ向かって行った。
その時、異変が起きた。
住職の顔色が急に悪くなり、吐血したのだ。
「ぐぼォっ!」
中学生が悲鳴を上げた。住職はふらっとして、雷が落ちたかのような音を立てて倒れた。
鼻と口からは夥しい量の血が流れ、目もまるで被爆したように飛び出していた。
「おっ……おい!救急車!救急車を!」
大学生が叫んだ時、住職の口が微かに動いた。
「…理想を描いたが……現実は違う……それなら理想は……無い方が良いと……思わんかね……」
住職の首が落ちた時、外は雷と雨がひどかった。