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Episode-9 ソウサクと豊作

  エアバスに揺られること二時間。のどかな風景を眼下に進んで来たが、やっと空港が見えてきた。


「間もなく木星中央空港です。お降りのお客様は座席の横のボタンを押してください」


 アナウンスがどことなくレトロなのもエアバスが根強い人気を誇る所以だろう。


「あっ、降ります」

 三千円の出費は痛いが仕方ない。


 空港の正面エントランス。地球からだいぶ離れたので地球人でない者の姿もちらほら見える。


「会計、二人はどこにいるか分かるか?」

「二階のスタリーズバックスコーヒーにいるみたいです」

 携帯端末(スリー・フォン)を眺めつつ答える。地球の企業がこんなところにも進出しているのだ。


「呑気なもんだな」

 呆れる総長をガシッとヘッドロックする艦長。


「早く行こうぜ!」

 艦長は妙にテンションが高い。


 五分後。


「よっ、みんな久しぶり!」

「おお! これはいいカプ」


 監察官と庶務がついに合流した。約一名おかしなことを口走ってはいるが。


「ここまでの事情はメガ姉から聞きました。大変だったみたいですね」

 髪をくしゃっとさせる監察官。無駄に絵になる。


「まったくだぜ。俺の活躍があったから事なきを得たけ」

 総長が何か言いかけた艦長に突き。


「とにかく、例の刺客を探して敵の情報を仕入れたい。私達は相手に面が割れてるからな」


 アンテナで全員顔を見られている。これではすぐに逃げられてしまう。


「任せといてください。ここはぼくと信さんで解決します」


「あの、元帥?」

「どうした」


 会計がレーダーを見せる。

「実は……刺客はこの空港のどこかにいるようです」


「えっ! メガ姉ほんと?」

 庶務がその肩を揺する。


「ちょっ……このレーダーは大きな規模で見るから細かくは分からないの」


 その手を振りほどきつつ会計は庶務と監察官に方位磁針のような機器を渡す。


「会計、それは?」


「レーダーの反応の方向を細かく探ることができるゴージャスかつグレートなマシンです。特に名称はありませんが、あえて名付けるとするなら『風神1号』ってとこでしょうか」


 どのあたりが風神なのか理解に苦しむ。


「とにかくこいつを使えばヤツを見つけられるんだな」

 監察官が早速機器をこねくりまわす。無駄に絵になる。


「よし。作戦を説明しよう。庶務と監察官はその機器で刺客を探してくれ。奴はおそらく変装してこの空港のどこかにいるだろうから」


「面が割れてる俺らはどうするんですか?」

「いい質問だ総長。私達は発見の連絡があるまで欠乏しつつある資金の調達をする。」


 艦長が背負ってきた風呂敷。その中に売り物がつまっている。


「とりあえず行動開始。二人とも、奴は少なくとも銃を所持している。くれぐれも気をつけてくれ。ホウレンソウをしっかりとな」


「分かりました!」

「ファッ!? 銃!?」





☆★☆



 ここに空港で働く地球人の青年がいる。生誕とともに両親が名付けてくれた素晴らしい名前があるのだが、プライバシー保護のために匿名君としよう。


 小さい頃からの念願が叶い彼は重要な仕事である旅客機の整備を任されている。


「よーし。今日も頑張るぞ!」


 先ほど火星の空港で働く友人から惑星通信(プラ・ネット)の職員が何者かに襲われたという話を聞いた。


 彼は本屋だか肉屋だかに救いだされたらしいが、そんなことをする者がいるとは物騒な世の中だ。


「まったくなぁ。平和にいこうぜって……」

 ま、オレには関係ないけどね。匿名君は作業を始める。


 慣れ親しんでいる作業なのでとてもスムーズ。端から見ると大きく堂々としている旅客機ではあるが、実はとても繊細で人の手による整備を必要としている。


「よし。これでオッケイ。バッチグーだな」


 死語を披露しつつ匿名君は休憩のため詰所に。その背後から声をかける者がある。


「あのう。すみません。道に迷ってしまいまして」

 どこから紛れ込んだのか一般人。最新の旅客機を撮影しようとでもしていたのだろう。


「あー、駄目ですよ。こんなとこに入ってきちゃ。エントランスまでご案内しますから」


「申し訳ないです」


 一般人は匿名君に連れられて行く。それをさらに物陰から窺う者達。


「あーあ。なんで騙されるかなぁ。一般人がこんなとこに迷い混むわけないじゃん」


「まあまあミャットン。彼はお人好しなんだよ」


「それにしてもルドゥムグさん。よく彼がここに来るって分かりましたね。っていうか変装してるのに正体分かるとか……」


「彼には初めて会ったときにこっそり発信器をつけさせてもらったんだよ。おそらく桶屋くんたちも同じことをかんがえてるだろうけどね」


 肩の人形を撫でながら得意気なルドゥムグ。


 宇宙船と整備と燃料補給が一度にできる場所。木星においてはこの中央空港がうってつけなのだ。彼の推理通りだったといえる。


 行動が読めていてかつ変装も見破れるとかなりのアドバンテージだ。


 そんなことを話している間にも、匿名君が一般人に気絶させられた。そのまま器具庫に閉じ込められる。


 なに食わぬ顔で一般人は匿名君に変装。そのまま彼はとなりの倉庫に隠してある自らの宇宙船に燃料を補給し始めた。


「さてと」

 リラが倉庫の脇にバールのようなものを転がす。


「リラ? それなに?」

「バールのようなもの。あの倉庫を根こそぎふっ飛ばす威力の爆弾らしいよ」


 以前ある男に作ってもらった擬態爆弾。場所が場所なだけに目立たない。


「確かに爆弾なら確実ね……」


「これで彼もOKEYAも一網打尽ってわけだ」

 ボクたちの出番はなさそうかなと人形にふ菓子を頬張らせるルドゥムグ。余裕綽々だ。


「あっ、誰かきたわよ!」


 ミャットンの指す方向から庶務監察官コンビが現れた。真っ直ぐに変装匿名君の元へ向かう。


「OKEYA? エウロパでは見なかった顔ね」

「ミャットンが思ってるより敵は厄介な相手かもよ」


 小突き合いを始める二人。


 監察官が変装匿名君に話しかけている。会話は聞こえないがおそらく彼らは正体を分かっているのだろう。


 その数歩後ろで慌てている庶務。元帥達に連絡しようにも携帯端末(スリー・フォン)が圏外になってしまうのだ。

 この時の彼らは知る由もなかったが、このような大きな空港の旅客機整備が行われる場所の近くではテロ対策のために電波が通じにくくなっている。


「これは作戦ミスなんじゃないの?」

 くすくすと笑うリラ。庶務の様子が滑稽で仕方ないようだ。




☆★☆



 庶務と監察官を釘付けにしたトラブルが解消され、次々と旅客機が着陸してくる。


「いらっしゃいいらっしゃい。桶はいらんかえ!」


 お土産コーナーの一角で声を張り上げる艦長。木星のお土産といえばマンモスの牙とかエピオルニスの卵あたりが定番なのだが、そこで桶を売ろうという暴挙。


 太陽系の外からやって来た肌が赤かったり腕が複数あったりするような宇宙人たちも興味深げに覗いている。地球人は何かと人気があるのだ。


「風呂場桶、飼い葉桶、チーズ味の桶もありまーす!」

 会計とともに法被を着て客引きを行う官房長官。チーズ味の桶とはネズミにかじってもらいたいのだろうか。時々顔が光るのはフラッシュを焚かれているからだ。


「えと……桶も買ってくださいね?」

 官房長官が奮戦するその横で、会計はゴツい宇宙人に記念写真を求められひきつった笑みを浮かべる。


「今買うともう一つついてきます。ご不要になった桶の下取りも承ります」

 総長も頑張っているが桶を持ち歩いている宇宙人にそもそも心当たりがない。彼もまたシャッターの嵐。


 ここで元帥が切り札投入。


「購入特典はこちら。地球の天然水です」


 とたんに群がる宇宙人達。地球の水事情をなめてもらっては困る。

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