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Episode-7 草原のコウボウ

 周囲を囲む敵、その数ざっと五十人。ブルー号に逃げ込む余裕は無さそうだ。


「えっと。人違いじゃないかな? 我々はOKEYAじゃなくて木星黎明高校の茶道部だよ」


 元帥の言葉に合わせてお茶を点てる仕草をするOKEYA一同。妙な連係プレーだ。


「誤魔化しても無駄だ。観念するんだな」


 健気な努力も虚しく敵はボス格を中心に、武器を手にじりじりと距離を詰めてくる。


「争いは何も生まない。ここはマントリーカアムでも食べながら語り合おうじゃないか」


「なめやがって!」

 何人かがハンドガンで艦長を撃つ。彼は声を発することもなく倒れた。


「まずは一人。こんなものか」


 あっという間に銃を突きつけられる残り四人。手を挙げる。


「わかったわかった。まだ死にたくないし、身ぐるみはいで持ってってくれ」

 女子もいるのに恐ろしいことを提案する元帥。


「まあ、どうせお前らの命をもらうわけだし先に金目のものを戴くのも悪くないな……」


「そうそう。総長の着流しなんか高く売れると思うぞ」


「そうか。じゃ、遠慮なく」

 総長のまわりに集まる敵。


 その時。

「今だ」


 元帥の呟きに合わせて光弾が敵を襲う。


「な、なんだ!?」

 慌てて避けながらパニックに陥る敵。


 そしてそれはOKEYAが攻勢に入るのには十分すぎるインターバル。


 ノーマークとなった面々。


「野郎共、やっちまえ!」

 昭和の悪党のような元帥の台詞とともにOKEYAが牙を剥いた。


「うぉらぁぁぁ!」

 雄叫びとともに総長が敵を切り捨てていく。あっという間の一閃に誰も反応できない。


 その手に握られるのはかつての宇宙戦争映画でブームとなった光の剣。二十一世紀の末ごろヤギシフカンパニーが遂に実現させ『コシガヤ』の名で出回っている。普通は軍人しか持てないような高価な逸品なのだが、元帥のコネで特別に譲ってもらったのだ。


「……」

 無言で敵を撃ちまくる会計。型の古いニューナンブではあるが要は射手の腕だ。

 焦った敵の反撃を草の陰でかわしつつのヒットアンドアウェイ。弾の装填も速い。


「スキあり!」

 こちらは死んだふりを敢行した艦長。びっくり花火で敵を攪乱したのち、総長と会計から逃げ惑う者たちを不意討ちで倒していく。

 敵を攪乱し、隙を突く。これこそがOKEYA秘伝の作戦なのだ。


 艦長たちが戦っている間アキレス腱を伸ばしていた元帥のもとへ官房長官が駆け寄る。いつの間にか彼女も敵を一掃していた。

「作戦成功です!」


「おう、おけおけ」


 満足げに頷きながら元帥はボス格に歩み寄る。

「お、お前ら……バケモノかよ……」


 OKEYAに囲まれた彼は冷や汗を垂らす。一瞬にして形勢が逆転したので無理もない。

「いやいや、我々はOKEYAだ」


「もしや最初からこれを狙ってたのか?」

「それは秘密のヨウコちゃん。話せないよ」

 おどける元帥。


「ま。とにかく今回は諦めて帰んな」


 じりじりと後ずさるボス格。


「と言いたいとこだけど……会計」

 会計がずらかろうとするその後ろに回り込む。そして囁く。


「命が惜しければ金目のものを全部置いていってもらおうか」


 後頭部に銃を突きつけられれば効果は抜群だ。


「くそっ!覚えてろー!」

 数分後、褌にタンクトップで逃げ出すボス格。哀れなことこの上ない。


「はっはっは! 正義は勝つ!」

 勝ち取った金品を会計に預けつつ笑う元帥。


「どこが正義よ!」

 突如入る甲高い声でのツッコミ。陰から戦いを見ていたルドゥムグを筆頭とする先ほどの三人がブルー号の反対から現れた。


 ミャットンが元帥を指差す。


「まさか船団はおろかあれだけの数を返り討ちにするとはね!」

 数の暴力で片がつくと思っていたようだ。


「いやいや、当然のことをしたまでで……!」


 頭をかく元帥。後ろに控えるルドゥムグに気づいた。


「ルドゥムグ。やっぱりお前だったか」


「桶屋くん、久しぶりだね。今は元帥なんだっけ?」

 うそぶくルドゥムグ。


「積もる話もあるけどその時間はないみたいだね。OKEYAだかなんだか知らないけどここで」


 ルドゥムグが話している途中でリラの携帯端末(スリー・フォン)が鳴る。


「ちょっと! マナーモードにしときなさいよ」

「敵に同意するのもあれだがまったくその通りだ!」


 ミャットンと艦長に説教を飛ばされるリラ。口を尖らせながら電話に出る。


「はいもしもし。……はい、わかりました」


 電話を切ったのち同僚二人に耳打ちするリラ。それを几帳面に待っているOKEYAの面々も評価されるべきだ。


 ルドゥムグが元帥に向き直る。

「本当ならここでキミ達を始末したいとこだけどもう帰還命令が出てるんだ。そんなわけで失礼するよ」


「ふざけんな!」


 いつの間にかミャットンの背後の草むらに潜んでいた総長がコシガヤを振りかぶり飛び掛かる。


「おっと」

 ルドゥムグが足元に白い玉を叩きつけると辺りを強烈な光が襲う。


「みんな、見んな! 目を覆うんだ!」


 一同の視界が開けたころにはもうルドゥムグ達の姿はなかった。隠してあった宇宙船で飛び去ったのだろう。


「逃げられたか。総長ドンマイ」

 元帥に労われ悔しそうにコシガヤをしまう総長。


「体勢を立て直そう。とりあえず保険会社だ」


「もうすぐスター損保の方がいらっしゃいますよ」

 右翼はすぐに直らないと判断した会計が保険会社に連絡をしていたようだ。


「そうか。到着を待とう」



☆★☆



「こんにちは! スター損保の渡邊です」

 ほどなくして保険会社の担当がUFOで駆けつけてきた。


「ああ渡邊さん。遠いところすみません。うちの宇宙船(ふね)の右翼が壊れてしまいまして」


 ペコペコする元帥。保険会社には下手にでるようだ。


 右翼を調べる渡邊。バリバリの仕事人間っぷりを遺憾なく発揮する。

「これはイっちゃってますね」

 思ったより酷い状態のようだ。


「すぐに直りそうですか?」

 お茶を勧めながら官房長官が訊ねる。そもそもこのブルー号を獲得したのは彼女なのだ。


「ええ。この宇宙船の型ならパーツも豊富ですし」


 最新型ではないことが効を奏した。


「どこで修理してもらえますか?」


「とりあえず木星まで運んで修理しましょう。これなら保険が適用できますし」

「そうですか。助かります。元帥、よかったですね」


 宇宙とはいえやっていることは平成の昔と変わらないのが少々笑える。


「ってことはUFOに乗れるんですか?」

 艦長、はしゃぐ。確かにかつての未確認飛行物体だけあって興味があるのは頷ける。


「ええ。よろしければどうぞ」

 にっこりと答える渡邊。いい人だ。


「よっしゃあ! 介さん、よかったな!」

「おう」

 右翼の損傷について責任を感じていた総長だったが戦闘において活躍したことで多少元気が出たようだ。


 総長と肩を組みUFOに乗り込む艦長。


「さあ、桶屋さんもどうぞ」


「それではお言葉に甘えて」


 UFOに乗り込む元帥。


 奇怪な計器類が並ぶコクピット。元帥たちはフカフカのシートが用意されたVIPルームへ通された。


「それでは出発します」

 UFOはあの独特の音を響かせ草原から飛び立った。

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