Episode-6 来訪者とカセ
ブルー号は木星へ向けて順調に航行を続けていた。木星で二人が待っているため少しでも早く到着したいところだ。
ファンシーコンピューターに興じている艦長と総長。ふと、艦長が会計に話しかける。
「そういやメガ姉。木星に信さんとあの変態がいるってホント?」
「そうらしい」
会計は少々呆れた口調だ。何故かはお察し。
「あの子、真面目なんだけど私たちのことを変な目で見てくるんだよね……」
全員分のお茶を運んできた官房長官はため息をつく。
武中とその相方泥野。評価は分かれるようだ。
「いやいや。監察官は頼りになるやつだし、庶務はあれでいて切れ者だ。たしかに腐の男だけど……」
元帥のフォローも微妙。
「あっ!」
レーダーを眺めていた官房長官が何かに気がついた。
「元帥、こちらに接近してくる飛行物体! それも多数です!」
レーダーに十の反応。先ほどまで気がつかなかったのはワープ航法でやって来たからだろう。
「落ち着け。旅する船団くらい普通普通」
元帥はのんびりとモニターにその船団を表示する。
その船体を見た途端、表情が変わる。
「いかん! 総長、右だ!」
「は、はいっ!」
横にスライド移動するブルー号。舵を切っていなければ押し寄せるレーザーに撫でられていたに違いない。
「あいつらいきなりなんなんですか! 元帥これヤバいっすよ!」
息つく間もなく次が飛んでくる。かなり的確に狙われている。
「うわっ!」
今度はブルー号の右翼をかすった。直撃を免れただけでも運がいいと言わざるをえない。
「会計、エウロパに航路をとれ! 火器を搭載していない今戦うのは無理だ」
木星に辿り着くのは厳しいとみて、その衛星に進路を変更することとなった。
「元帥! 次が来ますよ!」
慌てる艦長。
「落ち着けシルク。俺の腕を舐めんな」
うねるレーザーの波をなんとか回避し続ける。持ち前の集中力を活かした操縦テクニックは伊達ではない。
「総長。キツいとは思うが、もうちょい頑張って。つっても逃げるだけってのも面白くないしこのままじゃヤバい。官房長官、アレを用意してくれ」
官房長官は手元の計器類を操作し何かをセッティングし始めた。
敵の砲撃をなんとかかわしながら逃げるブルー号。しかしスピードにまさる敵に追いつかれるのは時間の問題だ。
「なあ、レイちゃん。それ何?」
先ほどから手持ち無沙汰な艦長は作業中の官房長官に尋ねる。
「見てれば分かるって。元帥、いつでも撃てます!」
「よし。やったれ!」
ブルー号の背面からカプセルが多数飛び出す。そしてあっという間に膨らみ、一分の一のブルー号の模型になる。
「囮作戦ですか……でも無理があるんじゃ」
艦長は効果に期待できないようだ。敵からはレーダーでマークされているわけで、根本的な解決にはならないと考えている。
「まあまあ。これってすごいんだよ?」
得意気に語る官房長官。
すると、敵船団が急に右往左往し始めた。
「えっ? どういうことですか」
「あの模型にはレーダーを狂わせる機能がついてるんだ。あの船はみんな遠隔操作で動いてる。これが一番の手なんだ」
敵からの砲撃がやんだので総長は操縦をオートモードに切り替えた。
ハテナマークを浮かべる艦長。
「しかし元帥。なんで遠隔操作って分かるんですか?」
「それは簡単。動きに無駄が多いんだ。最初の不意討ちだってヒトが狙ってれば今頃この船は微粒子だろうし」
暴風雨にあった元軍の如く混乱を続ける船団を尻目にブルー号は衛星エウロパに不時着した。
エウロパの郊外。森の近くの平原にブルー号はやや傾きつつ着陸した。高い草が繁り視界が良くない。
本来なら人里近くに着陸したいのだが、満足に飛ぶこともままならない状況でそんな余裕はない。
「会計、この管轄の保安局に連絡したか?」
もしすぐに直らなければこの場でしばらく過ごさなければならない。敵の驚異にある今、それは避けたいのだ。
「はい。すぐに向かうとのことです」
「そうか。とりあえず右翼を修理しよう」
一行はひとまず外に出る。
元帥にまだ何か聞きたげな艦長。しかし、総長に先を越された。
「何故あの船団が敵だって分かったんです? 気がついたの攻撃してくる前でしたよね」
「俺も気になってました。元帥。もしかして奴らのことしってるんじゃないですか?」
後に続く艦長。
会計、官房長官も同じ疑問を抱いているようだ。
「隠し事はできないな。そう、私は奴らを知っている。我々を襲った奴らは」
「おっと! おしゃべりはそこまでだぜOKEYAさんよ!」
視界の悪さが災いして四方を囲まれている。おそらく先ほどの船団と同じ一味だ。
☆★☆
もちろんブルー号が逃げるのを指をくわえて眺めているような敵ではない。ガウスが話していたように衛星に逃げ込むことも想定内なのだ。
外へ出てブルー号の修理をするOKEYA一行。その様子を陰から窺う者達がいた。特殊双眼鏡を使うことで、障害物を通してもこのように監視することができる。
そのうちの一人が残り二人に問いかける。
「リラ、ミャットン。あれがOKEYAなのかい?」
「そうみたいですよ。なぁんだ。子どもばっかじゃないの……」
「油断は禁物よ。中将からの指令なんだからね」
投げかけられた質問に二人の少女が反応する。身長はかなり低いが、この二人を含む三人はOKEYA抹殺を企む敵の幹部なのだ。
「だってぇ。あたしもミャットンも遊撃隊じゃないのにさぁ。今日あたし非番だったのに」
「だだこねないの」
言い争う二人の少女を眺める仮面の男。肩に長い髪の不気味な日本人形を乗せている。
彼が遊撃隊を率いるリーダー。ルドゥムグだ。
鉄のグローブに体全体を覆う金属スーツとギラギラした印象を受ける。
「まあまあ二人とも。敵の顔を覚えておくのも悪くないよ」
リラと呼ばれた少女とミャットンと呼ばれた少女。作戦におけるモチベーションには差があるようだ。
「ルドゥムグ。どうするの? 貴方の連れてきた遊撃隊をぶつければ私達の出る幕ない気がするのだけれど?」
ミャットンが仮面の男と目を合わせないようにしつつ提案する。どうしても彼女はこの男が苦手なのだ。
「あんなやつらほっとけばいいじゃん。なんかちっちゃいし」
「あんたよりちっちゃいのはいないけどね?」
「私はちっちゃくない! これから一気に大きくなるの!」
再び言い争う二人。案外いいコンビなのかもしれない。
「ルドゥムグさんはどう思うんです? 私たちが相手するまでもないと思いません?」
ルドゥムグにふるリラ。彼女はルドゥムグに対して何も感じていないようだ。
「うーむ……たしかにリラの言う通りかもしれないけど本来なら船団をもってくれば勝てると言われてた相手なんだ。それを突破したというだけでも油断ならないよ」
「ほーらね。ルドゥムグ。さっさと片付けて帰りましょう」
「そうだね。リラ。遊撃隊に指示出しといて」
「はぁい」
本来ルドゥムグがその役割を負うのだが、リラに任せてしまう。あくまでも受の側にまわるスタンスだ。
「もしもーし。ルドゥムグさんから攻撃の指示が出たよぉ。敵は子どもばっか。さっさとやっちゃえ!」
草の陰。指示を受け、待機していた遊撃隊が武器を手に取り飛び出した。
「おっと! おしゃべりはそこまでだぜOKEYAさんよ!」




