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Episode-5 飛ばなかったフネ

 太陽系五番目の惑星、木星。

 フロンティア期の地球人類が火星、金星の次に目をつけた惑星でもある。


 早くからコロニー建設が決まっていた火星に対して木星は開拓プランが未定の状態が長く続いた。その大きさゆえにもてあましてしまうだろうという声も多かった。


 結局お馴染みの環境整備が整えられたあとは居住エリアの他にその大部分を動植物保護区に充てている。


 かつての愛護団体が言い出したことらしいが、研究家側との利害が一致しあっさりと実現に至ったのだ。


 しかし。ただの保護区ではない。


 昔の映画にあったらしいが、絶滅してしまった生物をDNAから再生できるようになって久しい。よって木星をうろつくだけで過去の生物学者が気絶してしまいそうな風景を拝むことが出来るのだ。


 オバビニアからニホンカワウソまでなんでもござれのハイパー動物園というと分かりやすいだろうか。




 そんな木星の空港のロビーに二人の少年。二人とも180前後の高身長だ。


「武中センパイ、これいつになったら動くんですかね?」


「知らねぇよ……初任務だってのについてねぇな」


 実はこの二人、OKEYAの庶務と監察官。事情があって元帥たちと離れこうして木星にいるのだ。


 しかし、どうやら宇宙船にトラブルがあったらしく発着が遅れているらしい。


「だいたいお前がコミフェ行きたいとか言うから……」

「先輩だって武道会出たいとか言ってたじゃないすかやだー」


 二人とも個人的な用事で木星に来ていたところ帰れなくなったというところか。


 昔流行った言い回しに対し、先輩と呼ばれたほうが胸を張る。

「まあでも俺は優勝したけどな」


 もう一人も何故か誇らしげ。

「ぼくだってばっちりですよ」

 紙袋から薄目の本を差し出して見せた。男子×男子と女子×女子。ありえないくらい濃厚である。


「ノーマルもんはないのかよ……」

「こっちのが萌えますしおすし」


 腐の道を歩むということはそういうことなのだろう。


「おっ?」

 突然彼の携帯端末(スリー・フォン)が鳴る。いい声の男がないかないかと歌う名曲だ。


「うほっ、メガ姉から電話きたンゴ」

「マジか!」


 なぜ俺にかけてこないという表情を隠せぬまま、電話に出るよう促す。


「もしもーし。庶務だよ。メガ姉久しぶり! 今? 武中先輩と一緒だよ。……えっ? 木星に向かってるって!?」


 電話を切った庶務。一方の武中は驚いているようだ。

「元帥たちがこっちに来るのか?」


「なんかそうらしいですよ。ふふふ……艦長×総長に官房長官×メガ姉……うふふ」

 庶務には武中には見えない何かが見えているようだ。


「全宇宙の支配。その過程での大儲け。そして新たなるカップリングの開拓! 素晴らしい!」

「よく分からんけどお前真面目にやれよな……」


 木星の凸凹コンビの待機モードはまだまだ続きそうだ。



☆★☆



 宇宙連盟本部から幾つかの銀河を越え、再びガウスのもとへやって来た夏目。今回は秘書もついてきている。


「おお。よく来たな」

 いつもより機嫌のいいガウス。夏目に全幅の信頼を寄せてはいないとはいえ部下の働きは評価するタイプなのだ。


「どうだ。役所勤めも大変だろう」

「いえ、それも仕事ですから。こちらが今回の予算案です」


 ガウスに羊皮紙を手渡す夏目。予算に手を加え、彼らのもとに莫大な資金が流れるように細工されている。


「よし、これで軍備を増強できるな。ときに夏目。昨晩刺客が桶屋の始末に成功したと報告を受けたが本当か?」

「いえ、残念ながら生きているようです」


「くそっ! 運のいいガキだ」


 表情が一転、顔を強ばらせ忌々しげに屑籠を蹴飛ばすガウス。

 適当に雇ったならず者についでのかたちでそこまで要求するのは、さすがに無理があったのだから仕方ないといえばそれまでだが。


 そんなガウスに対して夏目は表情ひとつ変えない。


「先ほど入った情報によりますと刺客を追って木星に向かっているそうです」


「木星か……今奴等に来られると少々面倒だな」


「そこでなのですが、ここで一度OKEYAをへこませておこうかと思います。彼らの出撃を許可していただけますか?」


 ガウスは気づいていないが夏目のペースだ。彼の思い通りにことが進んでいる。


「いいだろう。この先目障りになるのは間違いない。すぐにでもまとめて始末してしまおう」

 

「どの部隊を出撃させましょうか? 全部隊待機状態にありますが」

「敵は宇宙船で移動しているそうだな。船団と遊撃隊を向かわせろ。なあに、すぐにケリがつく」


 軍人だけあって的確な指示を出すガウス。火星木星間には不時着可能なエリアが多く、それを見越した遊撃隊なのだろう。


「はっ」


 報告を終え、部屋を出た夏目はすぐさま誰かに連絡をとる。


「私だ。これから指定する座標に向かってくれ。任務はOKEYA宇宙船の撃墜およびクルーの抹殺。作戦は君達に任せる」


 相手の声は聞こえない。


「中将からの許可は出ている。直ぐに取り掛かれ」


 携帯端末(スリー・フォン)を切った夏目。秘書から鞄を受け取りつつ不敵に笑う。


「鼠には猫を。泥棒には刑事を。儲けるというなら……彼らをぶつけるのみだ」

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