Episode-4 ヤケイと策略
深夜。例のアンテナ内部で一人の整備士が作業をしている。昼間OKEYA一行を追い返した彼だ。
コンセントに地球産の高熱溶接機をつなぎ配線に何やら細工をしている。その手つきは正直おぼつかない。慣れてはいないようだ。
不意に彼の携帯端末が鳴る。着信だ。
「はい。はい、たった今終わりました。そうです。これから向かいます」
電話の相手は彼より立場が上の人間らしい。相手から姿が見えていないにも関わらず頭を下げてしまうのは地球人の癖。
何者かとしばらく話したのち、電話を切る。はんだごてを鞄にしまい立ち去る準備を完了した。
その時、後ろから声をかけられる。
「うーむやっぱりそうか」
なんと旅館でくつろいでいるはずの元帥が背後に立っていた。動向を監視していたようだ。
「おかしいと思ったんだ。私はこの通り学ランを着ている。これはハンズで買ったものなんだけどね。そんな奴が率いる未成年集団に『電波障害を直しに来た』なんて聞くのはよく考えればおかしい」
「何を言っている?」
「そもそもこういったアンテナの整備は専門家しかできない。なぜ我々が直す依頼を受けていたか知っていた? 服部くんは誰にも知らせてないと言ってたぞ」
「それは……」
たたみかける元帥はさらに切り札を出す。
「さっき問い合わせてみたんだが、ここで働いている整備士が一人家に帰ってないらしい。つまりあんたのことだな」
「いや、正確にはあんたは整備士じゃない。その高熱溶接機、作業してるようだがやすりとスポンジはどこだ? ここで働いているような整備士がそんなポカをするはずがない。それにその顔。よく真似たとは思うがほくろの位置が本物と真逆だ」
元帥が服部から送ってもらった行方不明の整備士の写真を見せる。すると、元帥を前にして彼は急に笑いだした。
「くく。話には聞いていたがやはりOKEYA、侮りがたし! この俺の変装を見破るとは!」
「いやそっちのミスなんだって」
整備士が顔の皮を剥ぐ。正確にはよくできた変装マスクをとった。
そこにあったのはおっちょこちょいな整備士の顔ではなく、いかにもという悪人面だった。
「あんたが誰だかは知らないが何のために電波障害を起こした? 誰に頼まれた?」
「そいつは言えないな。それより、俺の正体を知ったからには生きては返さないぜ」
整備士、いや謎の人物は懐から拳銃を取り出し元帥に向ける。型は古いが殺傷力は充分の逸品だ。
「もうここでの用は済んだ。電波障害が人災だという証拠は全て消してやった。後はお前を消すだけだ」
「ちょっ待てっ、話せば分かる!」
狼狽、というよりパニクる元帥。見ていて情けない。
「問答無用!」
銃声。
☆★☆
元帥を撃った男がアンテナを去ってから五分後。撃たれたはずの元帥も監禁されていた本物の整備士とともにアンテナから出てきた。
茂みに隠れていたOKEYAの面々が集まってくる。
「元帥! 大丈夫ですか!?」
普段冷静な総長も今回ばかりは落ち着きがない。元帥は胸から血を流しているのだ。
「平気平気。簡易バリアで防げた。血糊も用意しといたからころっと騙されてくれたし。それより総長。こっちの彼を診てやってくれ」
「あっ、この人昼間の……大丈夫ですか?」
「俺は大丈夫……ありがとう……」
少々弱ってはいるが病院経由で家に戻ればすぐに元気になること間違いなし。
「とりあえずこれでもどうぞ」
総長は彼にカロリーブロックとさんぴん茶を渡す。
「ありがとう!」
彼は早送りのスピードでの水分と食料に食らいついた。アンテナ内部はいくらか空気が乾燥しているので喉が乾いていることだろう。
一方艦長は元帥の血糊を興味深そうに眺めている。
「それにしても元帥、よく無事でしたね」
元帥は弾丸をポケットから出して見せる。学ランのボタンを外すと中のワイシャツまで弾が貫通していないことも分かる。簡易バリアでもそのくらいは防げるということを身をもって証明したことになる。
「それにしても元帥、どうして死んだふりなんてしたんですか? 俺らで飛びかかればあんな奴一瞬でつかまえられたんじゃ?」
艦長の疑問はもっとも。
「実は奴に発信器を着けたかったんだ。だからあえて泳がせた。地球を出て間もない我々を知っていたということはおそらく奴のうえに何者かがいて、そいつが今回のことを仕組んだんだ。どうせならそいつまで一網打尽にしたいだろ」
忌々しげな口ぶりからしてその存在に心当たりがあるらしい。
「会計。発信器の反応は追えてるか?」
「はい。火星を発って木星に向かったようです」
会計は眼鏡を光らせながらレーダーを確認する。どうやら彼女には作戦を説明してあったようだ。
「それでこれからどうします?」
官房長官が缶コーヒーを配りつつ尋ねる。その辺りの気配りはさすがというべき。
「もちろん木星に向かう。ただその前にすることがある」
「何ですか?」
代表して官房長官が尋ねる。
「旅館をチェックアウトしないと。夜中に急に出てきちゃったしな」
かくしてOKEYAの初任務は今度こそ終了した。
しかし、それはこれから始まる何かへの序章でもあったのだ。