Episode-29 蒼天のアラワシ
「地球か。あの時から全く変わっていないな」
ガウスは指令席でモニターを見つめながら呟いた。
中将専用機は彼が一人で操縦することも可能なのだが、基本的には部下に任せて指令席に腰をおろしている。
事前に先発隊を出していたこともあって彼らの進軍を邪魔する者はなく、船団はまもなく地球を陥れようというところまで来ていた。
そんな時、突然最後尾のC艦隊から連絡が入った。
「こちらC艦隊! 何者かの攻撃を受けています!」
「何だと!?」
モニターに映し出されるC艦隊。そのまわりを数機の宇宙船が飛び回っている。時々煌めく糸のような光は宇宙船が放つレーザーのようだ。
ただ、カイモニウム合金製の装甲によってダメージは入っていない。
「船籍コードより敵の正体が判明! あの宇宙船の主は菊本零、OKEYAの指揮官を名乗る地球人です! 一緒にいるのは奴の信者たちと思われます」
すっかり軍人の顔になったガウス。真上で炸裂する光に目もくれず艦隊に緊急編成を命じた。
もしこの場に夏目がいたらその冷静さに驚愕したことだろう。
「まあいい。あのレーザー兵器の出力はガスコンロ並。おそらく隕石破壊用のチャチだ。恐るるに足らん、撃ち落とせ!」
突然の攻撃に戸惑っていたC艦隊だったがすぐに冷静さを取り戻し、航路を保ちつつ攻勢に打ってでた。
桁違いの威力を誇るビームがこれでもかと浴びせられる。
大きく距離をとってかわす指揮官機とそれに追随する彼の協力者たち。打開を図るためC艦隊を飛び越えて中将機の真上をとった。
「うーん、やっぱり出力に難があるか」
歯がみする指揮官。戦艦型の宇宙船は動きは遅いのだが、防御に長け彼らのレーザーでは歯が立たない。
「教祖! このままじゃ俺ら粉にされちゃいますよ! 戦闘用の火器がないんじゃ……」
「いや。僕らは少しでも時間を稼げばいいんだ!」
自らと信者を鼓舞し、こうしている間だけでも敵の進軍を食い止められると信じてこれでもかとレーザーを浴びせる。
「面白そうなことやってんじゃんか!」
別の通信が指揮官たちの元へ割り込んできた。
こちらへ矢のごとく向かってくる流線型の宇宙船。そこから発せられたようだ。
「アンタのことはテレビでしか見たことねぇけどOKEYAとKOUTORIIがやり合おうってなら放ってはおけねぇな」
「あっ……!」
モニタに小さく映るその顔に指揮官は見覚えがあった。報告を受けていた男、双路范。火星で元帥たちが遭遇した人物だ。
そしてもう一人。こちらは馴染み深い。
「菊本さんお久しぶりです。助太刀します!」
それぞれ一人で搭乗する指揮官たちに対し、コクピットの双を服部がナビゲートしている。
「戦況は見ての通りで……助かります!」
「食らえ!」
中将機を狙った荷電量子ビームだったが、編成を新たにしたB艦隊によって防がれる。
双は何倍にもなって返ってくる反撃をギリギリで回避コースをとってやり過ごした。
「おいおい……奴さん、部下を壁にしてやがるぞ! 平一、うまく撃てるポイントはないのか!」
「えっと……」
服部を囲む全天周モニター。全身を目として彼は有効な射線を得ようと模索する。一介の学生だが服部はここまでこなすのだ。
「ポイントを発見! ここから下へ回り込めばそこからボス機を撃てます!」
急ごしらえかつ一撃離脱を前提とする無謀な作戦。しかし、今はそうするしかない。
「聞こえたか、指揮官さんとやら! 俺が奴のどてっ腹を叩く! あんたらは奴らの目眩ましを頼む」
「OK,みんな、いくよ!」
あまりに頼りない武装。しかし、ガウスに射線をとらせるために彼らの活躍は非常に重要な意味を持つ。
艦隊をぬって船団の真下を目指す双。指揮官たちはレーザーを縦横に放ち、そんな彼の攻撃を敵から隠そうとする。
「今度はこいつだ!」
回避されない追尾ミサイルを放った。中将機は護衛艦に守られているためアクションがとれない。そこをついたのだ。
しかし、ガウスは一騎当千、歴戦の軍人。中将機から何かが投下された。
「デコイだと!? クソッ!」
視認できた中将機のコクピットを睨み付ける双。
デコイとは目標を誤認させる兵器。苦労して放った双のミサイルは目標を完全に見失い、デコイに吸い寄せられるようにすっ飛んでいった。
「馬鹿が。その程度でなんとかなるとでも思ったか」
こちらもモニターから双を睨み付けるガウス。
「こいつはこう使うんだ」
今度は逆に中将機から追尾ミサイルが放たれた。
双は慌てて距離をとったが、その狙いは彼ではなかった。ミサイルはそのまま上昇し――
「おわっ!」
指揮官機をまっすぐに追尾。当然のことながら指揮官機にデコイは搭載されていない。
「指揮官!」
信者たちがミサイルを撃墜しようとするも、狙いが定まらない。それにもし指揮官機を撃ってしまったらという思考が彼らを縛り付ける。
「待ってろ! 俺が撃つ!」
指揮官機を追おうとした双だが、彼にも追尾ミサイルが放たれた。
結果、指揮官と双は追いつかれる寸前の鬼ごっこを続けざるをえず信者たちも敵からの攻撃をかわすのがやっとという状況に追い込まれてしまった。
最悪の状況。ミサイルは直に追いついてしまう。
「まずいよ、このままじゃ」
「ぐっ……」
走馬灯は宇宙共通だ。指揮官も双も服部もうっすらと人生のハイライトが脳内をよぎり始めた。
「どうしてそこで諦める?」
大きなワープ反応とともにまた別の誰かが指揮官と双たちの通信に割り込んできた。
「その声は!」
指揮官が今一番声を聞きたかったあの人。
今にもミサイルに追いつかれそうになりながらも、指揮官は惑星転送口を抜けてきた宇宙船をその目で捉えた。
「ブルー号! ってことは元帥!」
御名答、とばかりにブルー号から放たれたレーザーは正確無比な直線を描いて見事指揮官機を追尾するミサイルを撃ち落とした。
間髪いれず、双たちを追うミサイルも撃墜。
「ナイスショット! 助かりました。Thank you so much!」
「いいってことよ!」
ブルー号で胸を張る艦長だが、撃ったのは会計である。
一方中将機。ガウスの配下たちがブルー号の出現に慌ただしく通信を飛ばしあっていた。
「もう追いついてきたか。消えろ!」
ガウスの号令で光条がブルー号を突き刺さんと煌めく。
指揮官、双、服部、そしてガウスたちでさえも破裂するブルー号を夢想したがバレルロールでかいくぐった。
それからやや遅れてスター損保のUFOもワープしてきた。
「私も保険会社員の端くれ、戦います!」
渡辺の思う保険会社員とは一体。
そして指揮官たちと双はOKEYAサイドと合流。地球を目前にガウスの船団と睨み合う陣形となった。
うんうんと満足げに頷く元帥。
「敵、味方ともに不足なし。いくぞ、野郎共!」
官房長官と会計は一瞬顔を見合わせたが、すぐにそれぞれの持ち場についた。




