Episode-28 彩国のランツィーラー
海王星の辺境。戦いはまだ続いていた。
ルドゥムグは取り出したサブの拳銃で執拗に官房長官を狙う。しかし、弾は彼女を突き破ることなく砕け散っていく。
「簡易バリアか。どんなコネかは知らないけどよく用意できたね。それなかなか手に入らないよ」
「うちは手広くやってますから」
今の二人の距離ならば威力の高いルドゥムグの弾丸でもバリアを破ることはできない。
しかし簡易バリアにも効果時間というものがある。バリア展開に莫大なエネルギーを消費するためそう長くはもたないのだ。
「いいのかい? バリアが切れた瞬間キミはまったくの無防備。その脆い体躯を晒すことになるんだよ」
「それはやってみないとわかりませんよ」
鉄の雨を浴び続ける官房長官。
そしてついに命綱たるバリアが消えた。
「だから言ったのに。キミもここまでみたいだね」
止めを刺そうと狙う。しかしここまで撃ちまくった分、ちょうどここで弾を装填する動作が入る。それが終わるよりも先に官房長官が動いた。
「ハッ!」
一気に距離を詰め、腹に蹴りを見舞った。反応に長けるルドゥムグはなんとか受けたもののそのまま後退を余儀なくされた。
肩の日本人形を揺らしながら両手を広げて見せた。
「バリアで防いで弾をこめる隙を狙ったってわけ? そういう手キライじゃないよ」
彼も拳銃を投げ捨て腰を落とし、格闘の構えをとる。
「木星で会ったファイターボーイくらいにはやってくれるんでしょ?」
文字通りの鉄の拳が官房長官を襲った。直撃すればボディが抉れるところなのだが、跳び箱の要領でそこに手をついて飛び上がった。
官房長官は一瞬宙を舞いそのままの勢いで連続で蹴りを放った。体操競技の選手もびっくりの身のこなし。今度はまともにヒットした。
怯んだところに肘、膝とボディーにラッシュをかける。ルドゥムグも応戦するのだがうまく間合いをとってかわし続ける。
突き、拳は先ほどのアクロバティックな身のこなしで、蹴りは空いた足への足払いでいなして的確なカウンターをかましていく。監察官ほどのパワーはないが手数にレパートリーが多く、どこにどんな攻撃をすればいいかを完全に理解しているようだ。
後ろでポニーテールに結わえた髪、動きやすい服装もそのパフォーマンスを下支えしている。
「捕まえた」
キックを見切ったルドゥムグに足を掴まれ、ドラゴンスクリューを喰らっても受け身をとることでダメージを軽減し、体格差をものともせず返しのプレーンバスターを仕掛ける。
官房長官有利の展開でそのままグイグイと押し続ける。
ついに崖際にルドゥムグを追い詰め、官房長官はさらなる追い討ちを仕掛ける。
「甘いよ」
気迫のこもった拳が仮面を捉えかけたところでルドゥムグが瞬時に原子収縮した拳銃がゼロ距離で白い光弾を放った。木星で監察官と庶務を戦闘不能にしたあの拳銃。こればかりは官房長官とて避けようがない。
その場で眠りこける。あの二人と同じ道を辿ってしまった。
「なかなかやるねぇ。あのファイターボーイには舐めプして後悔したけどキミにも同じことがいえそうだ」
官房長官の首根っこを掴み持ち上げた。崖から落とそうとでもいうのだろうか。
「どうしようかな。落としてもいいし体を穴だらけにしてもいいんだけどもっと屈辱的で苦しい方法がいい」
結局首を絞めにかかった。わずかに声が漏れたがさすがにこうなっては抵抗できない。
沈黙に耐えかねたルドゥムグ。
「OKEYAのメンバーはみんな地球人だったよね。実はボク、ちょっとばかし地球には詳しくてね」
無抵抗な官房長官の体をぶらぶらと揺する。深く眠っているので反応はない。
「見たところキミは日本の出身だろ。殺す前に日本のどこから来たのか聞いとけばよかったよ……」
答えることのできない彼女は苦しいのか眉間にしわを寄せる。
「桶屋くんから始末したかったけど仕方ない。最低の上司を持つとこうなるんだよ」
首を掴む手にさらに力をこめ一気に絞める。すると。
「さ」
深い眠りにあるはずの官房長官の口が動いた。そしてあろうことか目を開いた。
「!」
意識を取り戻した官房長官はそのままルドゥムグの仮面に狙いたがわず右ストレートを叩き込んだ。
「ぐッ!?」
ついに仮面が割れた。ルドゥムグは思わず首を掴んでいた手を放してしまった。晒した素顔を手で覆う。
「嘘だ! あれに当たればしばらくは目を覚ますことはない!」
官房長官が目を覚ましたことがかなりショックなようだ。
狼狽するルドゥムグにくらべ、彼女はマイペース。
「私の出身について聞きたかったんですよね? 彩の国、埼玉県です」
答えながらもドライアイスのごとき目つきで睨み付ける。静かに闘志を燃やしているようだ。
「は、ははは……埼玉? たしか首都に近いだけで特に何もないところじゃないか。とにかく故郷と仲間に別れを告げるといい。今度こそサヨナラだ」
懐から予備の仮面を取り出し装着したルドゥムグ。余裕ができたのか再びさっきの拳銃を構えて官房長官を嘲笑う。
「……おい」
しかしこれはいけなかった。
「埼玉を馬鹿にしたな? その罪は重い。利根川に沈めてやる!」
怒りをその身に溢れさせてルドゥムグに向かっていく官房長官。その雰囲気はもはやOKEYAの穏やかさんなどではない。鬼神だ。今の彼女に海王星には利根川がないことを伝えようとしても徒労に終わるだろう。
「ちょっとは学習しなよ。また寝たいのかい?」
拳銃からまたも光弾が放たれる。木星で監察官を驚かせた追尾機能付きだ。
しかし今回はどういうわけか官房長官に当たる前にかき消えていく。
眼前に迫る彼女に初めてルドゥムグが恐怖の色を見せた。
「キミは一体……?」
官房長官がルドゥムグの腹に拳を叩き込んだ。いや、正確には違う。パンチの直前に原子収縮を使い……
「槍!?」
ルドゥムグの腹を槍が貫通した。
「さっきのは信さんの分。これは総くんの分です!」
ふらついたところにドロップキック。まともに食らったルドゥムグは後ろへ吹っ飛び、崖から真下へ落ちていった。
勝負あり。しかしかなりきつく首を絞められていた官房長官は咳き込みながらその場に膝をついた。
そこへどこから見ていたのか元帥がひょっこり現れた。
「まさかあのルドゥムグを撃退するとはな。ナイスファイト」
「OKEYAの悪口、元帥の悪口を垂れる相手でしたから。刺し違えてでも倒すつもりでした」
官房長官の怒りのツボは埼玉だった気がしたが元帥は沈黙を守り、彼女に肩を貸して残りのメンバーのもとへ急いだ。
☆★☆
強敵ガラクを倒した艦長たちのところへ別の場所で戦っていた総長、会計、官房長官、そして特に戦っていたわけではない元帥が合流した。
「みんなお疲れ。全部片付いたか」
「はい! たくさんいた戦闘員もみんなやっつけました! いやぁ、俺の活躍を見てもらいたかったっすよ」
胸を張る艦長。庶務はつっこもうと思ったがガラク戦の活躍に免じて流した。
ただし忘れてはいけないこともある。報告も庶務の仕事。
「鈴谷先輩、メガ姉。ひとつ伝えておきたいことが」
「どうしたの?」
死闘を終え再び穏やかモードの官房長官。そして会計。
「シルク先輩が4分の1ブルー号を壊しました」
抜き足差し足でその場を離れようとした艦長だったが会計に腕を掴まれた。
「ちょっとこっちでお話しよう……」
艦長は女子二人に連れ去られていく。それをなかったかのように振る舞う総長。
「ここは片付きましたけどここからどうするんですか? 敵のボスは地球に向かってるんですよね。追いかけないと」
海王星の戦いはなんとかなったが問題は先に行ったガウスだ。
「それは心配ない。ちょうど迎えが来たよ」
元帥が指差した真上からちょうどUFOが着陸しようとしていた。
「渡辺さん。こんなところまですみません」
「いえいえ。OKEYAの頼みとあってはどこへでも参上しますよ」
UFOから降りてきたのはどうやら元帥に呼ばれていたらしいスター損保の渡辺。そして一緒に現れたのはあの男。
「さとけん!」
監察官が驚いたのも無理はない。諜報員も渡辺についてきていた。
再会が嬉しいのか官房長官は諜報員の肩をバンバン叩く。
「お前、最近見ないと思ったら……何してたんだよ!?」
「その話はあと。とりあえず土星にあったブルー号を積んできました。道中で整備もしてあります。すぐに行きましょう!」
諜報員を通して渡辺には既に事情が伝わっているようだ。
「そういうことです。みなさん、疲れているところ申し訳ないのですがすぐに出発しますよ」
渡辺に促されUFOに乗り込む一行。全員が席についたのを確認し、渡辺はUFOを発進させた。
「飛ばします。星間転送口で一気に火星まで行きますので!」
宣言通り海王星の星間転送口に突っ込んでいくUFO。そのまま超光速での航行を開始した。
艦長はさっそく酔い、トイレへ。それを白い目で見ながら総長が訊ねる。
「急ぐべきとは思いますがさすがに敵は地球に着いているんじゃ……」
「大丈夫。これはOKEYAの総力戦だ。もう一人も力を尽くしてくれている」
「もう一人……あっ! 零か!」
「そう。諜報員とバトンタッチするかたちで敵の進撃を止めてくれている」
離脱した諜報員を渡辺のUFOが拾い、海王星まですっ飛ばして来たとのこと。そして諜報員に代わって指揮官がガウスと船団の足止めをしている。速度に特化したUFOならではの業だ。
「ここからが本当の勝負だ。真価が問われるぞ」




