Episode-27 死闘とキサク
ヒメミヤによる斬撃を次々と繰り出すミャットン。
普通はミャットンにとって不利に働く体格差だがスピードに特化した戦法とヒメミヤにとって逆に武器になっている。
既に何発かは総長の服を掠めその肌に傷をつけている。服が破れた箇所からは血が滲み、ダメージもそれなりにあるようだ。
「さあさあさあ! そろそろ終わらせるよ!」
今度の一撃は総長の肩口を浅く抉った。総長は咄嗟に怪我を庇ったが、それが隙となり岩壁に追いやられてしまった。
追い詰めたミャットンと追い詰められた総長。そこへリラがやって来た。
「ミャットンー! こっち終わったよー」
会計を宇宙船ごと消し去りご満悦のリラ。
「えっと。助太刀……は必要なさそうかな」
「手は出さないで。こいつは私がやる!」
「喋ってる場合か!」
一瞬意識がリラに移ったミャットンへ今度は総長が攻勢に出る。先程の大袋を再び繰り出した。
当たればKOの一撃だが当たらなければ意味がない。
「あんたの太刀筋は見切った。よくよく見ればワンパターンじゃないの」
その言葉はハッタリではなかったようだ。
完全に先を読んだヒメミヤの一撃が総長のコシガヤを叩き斬った。
「これであんたはもう戦えない。リラと戦ってたメガネのおねーちゃんも御陀仏みたいだしもう諦めたら?」
「そうそう! 降参するなら命だけは助けてあげてもいいよ?」
高笑いするリラとミャットン。総長も笑っていることに気がついた。
「何笑ってんのよ」
「盛り上がってるところ悪いが嘘はいけない。あんたらは甘いんだよ。おばあちゃんが作る玉子焼きか」
何がおかしいのか不適に笑う総長。
訝しげなミャットンに対してリラは動じない。総長に銃を向け、引き金に指をかけた。
「ミャットン、こいつビビりすぎて混乱してるよ。それならむしろ一息にやっ」
思ったよりも早い銃声。
リラの銃を総長が隠し持っていた拳銃で破壊した。これにはリラも肝を冷やしたようだ。
「えっ、えっ?」
驚くリラ。息つく間もなく続いて肩に被弾した。
「ぐッ……何なのよ……」
目にも止まらぬ早撃ち。ミャットンも狙われたが再びヒメミヤを原子収縮で取り出して弾いた。
肩を押さえるリラ。何かに気がついたようだ。
「あんた、まさかッ……!」
総長は首の付け根に手をかけ、その皮を引き裂いた。
「そう。『俺』がメガネのねーちゃんだ」
現れたのは紛れもなく総長の服を着た会計。剥いだ皮はマスク、持っていたコシガヤはレプリカのようだ。
「そんな小細工、ただのごまかしでしょ!」
ならば接近戦とヒメミヤで会計に斬りかかるミャットン。
しかしヒメミヤが会計を捉えることはなかった。
「はいはい、そこまで」
泥だらけ煤だらけ傷だらけの総長が真上から飛び込み、コシガヤで会計を庇っていた。彼は会計の格好をしている。
「あんたはっ! 死んだはずでしょ!」
「そう簡単に死んでたまるか。たしかにごついのを撃たれて驚いたけどな」
「意味わかんない! あの船ごと私が消し飛ばしたのよ!」
まるで共学の高校でのやりとりを見ているかのようだ。
どうでもいいとでも言いたげに足元の小石を蹴飛ばす会計。
隙を見て会計を斬ってやろうと思っていたミャットンも総長の脱出劇のトリックが気になってきたので威嚇しつつそのまま見守っている。
総長は珍しく得意気な様子で語った。
「あんたらがケチってくれたおかげだ。俺たちをここまで乗せてきたあの船は年代物の旧式だった。当然着陸時の衝撃を和らげたりする機能は備わってない」
まだポカンとしている二人。
「つまり。星に着陸するときにはロケットの逆噴射を利用するわけだ。理科でいう作用反作用だっけか。その時に真下の地面を強く強く抉るんだ」
「ってことは……」
ミャットンにはなんとなく分かったようだ。
「そう。船底のハッチからその時出来た穴に飛び込んだんだ。あんたがメガ姉に対して火力押しで挑んでくるってのは分かってたし」
リラは顔を真っ赤にして怒っている。
「こっちのデータがばれてるのを逆手にとったスワップ作戦ってわけ」
「裏目に出るんじゃないかとヒヤヒヤしたけどな」
会計と総長が示しあわせて互いに変装していたようだ。
こほん、と咳払いするミャットン。
「とにかく今度こそ任務を完遂するよ! リラ!」
バズーカとヒメミヤを携えたリラとミャットン。
「こっちもいくぞメガ姉!」
ライフルとコシガヤを携えた会計と総長。
二対の銃、二対の刃が炸裂した。
その激突は一瞬のこと。倒れたのが二人なら立っているのは当然二人だ。
「こいつら、相当強いのになぁ」
白目を剥いてひっくり返っているリラとミャットン。手負いだったので瞬間の速さで遅れをとってしまったのだ。
「動揺につけこまれると脆くなるのは若さゆえ」
「いや、メガ姉は俺と一つしか違わないだろ。あとさ、おばあちゃんの玉子焼きのくだりって……」
会計は耳をふさいで聞こえないのジェスチャー。
☆★☆
放たれたレーザーが地面を焼いた。
「ちょっと先輩。これヤバイですよ」
「うん。勢いで出てきちゃったけどこいつマジでどうしよう」
アームからの攻撃を避けつつ相談する庶務と艦長。二人が話していられるのも、残りのアームを監察官が引き付けているおかげだ。
もちろん二人も銃や爆弾で彼を援護してはいるのだが、効き目がないのでは仕方ない。
「信さんに任せっきりてのも限界があるよな……」
「しかし攻撃防御に特化しててしかも死角がない相手ですよ」
二人が会話している反対側では監察官が四本のアームを相手に奮戦している。
再び飛んでくるレーザー。艦長はバク転でかわそうと思ったが庶務の目が気になったのでやめた。
「なぁ。いっそのことお前が体に爆弾巻いてボンバーすればいいんじゃないか?」
「あいにくぼくは亀踏みまくりの無限増殖をしてないんですよ」
あんな非人道的なことはできませんよと庶務。
「ま、それは冗談としても攻撃を続けるしかないな」
「うーんこの投げやり」
「そう言うなって。手がないわけじゃないんだから」
ガラクに向かって発砲を続ける艦長。庶務は新しい爆弾を用意し、ガラクの頭部を狙う。
炸裂する爆弾。しかしダメージにはならない。
それでもストックの続く限り投擲をやめない庶務。
艦長も彼を援護すべくカプセルを上空に投げる。
「無駄だ」
監察官を担当していないアームが変則的な動きで二人を襲う。先の鉤爪が艦長の股を裂いた。
「先輩!」
膝を着いた艦長。庶務が肩を貸し間合いを取ろうとする。
そこへ今度はレーザー。庶務の脇腹を抉った。二人三脚で歩を進めようとした二人は共倒れだ。
ガラクはそれを見逃さなかった。
「逃げられるとでも? もう少し楽しませてくれると思ったが残念だ」
余ったアームを二人に差し向ける。
そんな絶望的状況にも関わらず呑気に上を指差す二人。UFOでも見つけたのだろうか。
「上見てみ。上」
頭上に目をやったガラク。真上にはいつの間にかブルー号が浮かんでいた。
「何!? カメラには映っていないぞ!」
ヘルメットを揺するガラク。アームの矛先を監察官からブルー号へと変えようとした。
しかし監察官は四本のアームを掴んで離さない。
「しまった……!」
「バッカーラ! もう遅い! 食らえ!」
その瞬間にガラクにブルー号が急降下、衝突し爆発した。
墜落したガラク。立っているのがやっとのようだ。
「ごほっ……確かにカメラには何も映っていなかった! 答えろ! 何をした!」
ブルー号の破片を蹴飛ばすガラク。よく見れば本物ではなくよくできたラジコンだ。
「俺らがあんたと戦う上で障害が三つあった。一つはアームの攻撃。もう一つは半重力装置による舞空。そしてその厄介なキャメラ」
「だからどうした! 私に死角はなかったはずだ!」
艦長が庶務の爆弾を一つ見せる。
「これ。普通の爆弾に見えるけど実は違う。理屈はよく分かんないけど強力な磁石みたいなものらしい」
「磁石……! それでカメラの映像を狂わせたというのか」
磁力が電子機器を狂わせるというのはかつての地球でよく見られたケースだ。
「そういうこと。信さんがアームを引き付けてこいつがカメラを引き付ける。あとは俺が一発食らわせるだけってな。最近のラジコンはカプセルに入ってるんだぜ」
「黙れぇぇぇぇ!」
激昂したガラクはさらに何かを仕掛けようとした。
「観念しろ」
そこへ飛び込んだ、これまでの鬱憤を晴らすかのような監察官のキック。避ける間もなくガラクは岩にめり込み、そのまま動かなくなった。
隠し持っていたリモコンを誇らしげに弄る艦長。それでブルー号のラジコンを操作していたようだ。
「やっぱり船を操ってこその艦長だよなぁ。そのうち艦隊をコレクションとかさ」
勝利に酔っているせいか発言がやや危ない。
額の汗を拭う監察官。
「シルクのおかげで助かった。あのタコ足は厄介だったよ」
「いやいや、さすが武中先輩! かっこいいゾ~」
庶務がそのナイスキックを褒め称える。
「いや、俺も……」
自分も労えと言いたげな艦長に対して庶務は大破したブルー号の模型を指差した。
「あんな高いものを壊しちゃって。鈴谷先輩とメガ姉に怒られますよ」
「ひえっ」
官房長官と会計。女性陣の影に怯える艦長。




