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Episode-18 怒声のワ

「どうも最近この土星で妙な動きを見せる連中がいるらしいんだ」


 今回土星に来た理由の高いウエートを占める。

 それにしてもさりげなく土星の言葉を理解している庶務は侮れない。


 しかし艦長は訝しげだ。


「それなら土星の警察? のような組織に任せておけばいいんじゃないですか? 火星みたいに俺らの出る幕じゃないんじゃ……」


 言われてみればその通りだ。もちろん土星にも発展途上ながら警察組織は存在する。


「いや、ちょっと事情が特殊なんだ」


 元帥達が日本語で会話しているため、かのこは話が分からないのだがとりあえずその輪に加わっている。


「どうやら連中はサタニウムをどこかへ運んでいるらしい」


「サタニウム!?」

 会計には少々ディープなインパクトだったらしい。


「サタニウムって太陽系でもかなり希少な鉱物ですよね」

 それこそ石油やらレアメタルやらの何百倍の値段で取引される繁栄の象徴だ。土星で初めて発見されたのでその名で呼ばれる。


「そう。サタニウムは高価ゆえに交易はきちんと許可を得た者にしか出来ないことになっている。それが守られていないどころか多量のサタニウムが正規の手続きを経ずに流出しているのはまずいだろうという話だ」


 かつての日本も金や銀において同じ悩みを抱えていたのが懐かしい。


「じゃあそいつらをふんじばればいいんですか?」

 武闘派の監察官らしい発言だ。頷く元帥。


「艦長もカムバックしたみたいだしそろそろ行くか」

 かのこにお茶とお菓子の礼をしつつ靴を履く。さりげなく靴べらを渡すことを忘れない官房長官。さすがだ。


 慌ててお茶を飲み干す庶務。

「ちょっ、元帥。行くってどこへ?」


 元帥はある一点を指差す。

「そりゃ決まってる。あそこだ」


 その先にはそびえる天守閣。石垣に支えられた日本式平城だ。来たときからそれが気になってウズウズしていた総長の表情が少し明るくなった。



☆★☆



「おいおい……嘘だろ?」 


 偽ヒカマギ号へ向かっていく戦闘機軍。次々とミサイルを発射するのだがそれらは敵のバリアで防がれてしまう。


「あれはどういうことだ! 攻撃が効いてねえぞ!」

 叫ぶ双。太陽系の中心に位置し技術の進んだ火星の軍隊が歯が立たない相手にただただ驚くばかり。


「簡易バリア、いやそんなチャチなもんじゃ断じてねぇ!」


 ミサイルを受けきった偽ヒカマギ号。再びハッチが開いてパラポラアンテナのようなものが中から出てくる。双はもちろん服部にもそれに見覚えがあった。


惑星通信(プラ・ネット)のアンテナと同じだ」

 地球からOKEYAを呼び寄せることになった事件。双が一枚も二枚も噛んでいた一件だ。


「やはりKOUTORIIで間違いないな。クソッ! 元はと言えば俺が……」


「あれを見ろ!」

 警備員が戦闘機軍を指差す。

 突然機首が安定しなくなり、糸で吊るされた五円玉のように揺れ動く。


「まずいぞ! 操縦が利かなくなってあのままじゃ全機墜落しちまう」


 軍でも同じ判断が下されたのだろう。退避の指令を受けたパイロット達が次々に脱出していく。主を失った戦闘機軍はそのまま落下。爆音とともに四散した。


「ぜ、全滅……」

 火星軍の強さをよく知る警備員は膝から崩れ落ちた。彼の無線から野太い声で誰かの大声が聞こえる。


 偽ヒカマギ号は追撃を食らわせることなくその場にふわふわと留まっている。

「ちっ、バカにしやがって! あんた! なんかわかんねぇのか?」

 双は警備員の肩をゆする。


「あれは……おそらく本物の侵略者(インベーダー)だ。おそらくここの軍のトップが火星各地の軍に応援を要請しているだろうが、それでもなんとかなるかどうか」


 事の重大さに震える双。自分に接触してきた相手がここまでの力を持っていたとはと改めて気づく。


 戦闘機の残骸をぬってタンクが進撃を開始。地上から迎撃するつもりのようだ。


「多分アンテナから何かの電波が出て機械(マシン)を狂わせるんだ。タンクでも多分同じだろうな」

 おそらく軍もそれを承知のうえ。少しでも敵を引き付けようとしているのだ。


「とにかくここは危険だ。君たちは早く逃げなさい」

 二人を促す警備員。


「待ってくれ。あんたはどうするんだ? あんたは軍の人間じゃないだろ。無線で逃げろと指示が出ているはずだぜ」

「私は……」


「警備員さん一緒に来てください。俺、この状況をなんとかできる人に心当たりがあります」

「兄ちゃんもか。実は俺もだ」


 餅は餅屋。アンテナならアンテナ屋だ。


「急がないと手遅れだ! なんか使える乗り(モノ)はないのか?」


「それならそこのを使ってくれ。地球のアンザイ自動車で作られた一級品だ」


 すぐさま乗り込む三人。目指すは双が入れ代わったあの整備士だ。



☆★☆



 作業するガラクを眺めるルドゥムグ。隅のパイプ椅子に腰掛け、肩の日本人形を撫でている。


「そういえばルドゥムグ。最近KOUTORIIに楯突く輩がいると聞いたが?」


 そのあたりの情報は夏目から得ているのだろう。

「そうだよ。OKEYAとかいうチームで首領はあの桶屋くんだ」


 どこか可笑しそうなルドゥムグ。元帥とはやはり何か因縁があるようだ。


「桶屋っていうとあの時お前と一緒にいたあいつか」

「そうそう。根にもつタイプみたいだね」


 ふむ、と再び作業に没頭するガラク。今度はルドゥムグが話をふる。


「木星での作戦で使った『バールのようなもの』だけどさ。よくあんなの作れるね」


「なあに、理屈は難しくない。それよりも実際の使用データをとる方が重要だ」

 言いながらも手は止めない。


「ふうん……」

 学者肌のガラクは理論と実践の両立を提唱しているのだ。


「私からするとルドゥムグ、お前のその銃のほうが断然凄いぞ」


「えっ」

 咄嗟に銃を後ろ手に隠すルドゥムグ。


「それは科学が生み出したシロモノじゃない。私の見立てでは超自然(ラセル)のブツだ。違うか?」


「いやだなあ。超自然(ラセル)なんてこの宇宙に存在しない空想の産物だよ? 科学者がそんなこと信じるのかい」


 肩をすくめるルドゥムグ。


「木星でのお前の戦いを夏目さんに見せてもらったんだ。ファイター・ボーイに対して使っただろ?」


 空港との戦い。格闘でやや遅れをとったルドゥムグが撃った光弾。崩れ落ち眠った監察官。


「……」

「まあいい。別に私はそっちは専門外だし。ただいい銃を持ってるなと言いたいだけだ」


 押し黙るルドゥムグに対しガラクはそれ以上追及するつもりはないようだ。


「もう少しでできるから待っててくれ。気に入ったガラクタがあったら持っていっていいぞ」


「じゃ、お言葉に甘えさせていただくかな」


 ルドゥムグは箱に入ったオブラート状の物質を手に取った。 


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