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Episode-16 休息とシソウ

 火星のGCF(銀河連合軍)基地前。三人の押し問答はまだ続いている。


「さっき地球の軍隊の飛空挺を見たんです!」


 急に現れた双だが、服部と警備員はあまり気にしていないようだ。

「地球の? そいつはおかしいな。彼らがここまで廻ってくる筈はない。有事以外はお互い不干渉ということになってるんだ」

 なおも疑う警備員。


「それが本当なんですよ!」


 服部が双と警備員に写真を見せる。慌てて撮ったのか少しぶれてはいるが、そこに写っているのは紛れもない地球の飛空挺『ヒカマギ号』だった。


 クスクス笑っていた警備員の表情が変わった。

「ちょっと待て。これはヒカマギ号じゃない。真っ赤なニセモノだ」


 警備員が写真の一点を指差す。服部がズームして撮ったのでエンブレムが微妙に違うことに気がついたのだ。


 双もその違いに気がついた。

「本当だ。ヒカマギ号のエンブレムはヒラメのはず。こいつはカレイだ!」


 日頃読んでいるマガジンの知識が役に立った。双はほくそ笑む。つまりは目の位置の違いだ。


「つまりだ。地球軍を装った何者かが火星にいるというわけだな」



「最初からこの写真を見せればよかったのに……」

 ぼやく警備員。双と服部は笑顔でスルーした。


「はい。桶屋さんという方に写真を見ていただいたところ、KOUTORIIという組織だと」


 再び聞く単語。そして忘れるにはあまりに印象深い人物。

「桶屋……もしかしてあの元帥か?」


 服部は目を丸くした。かつての喜劇王もびっくりのオーバーリアクションをとる。

「そうです! お知り合いなんですか!?」


「あー。まあそんなところだ。とにかく早くGCFにこのことを知らせよう」


「いや、むこうからお出ましだ」

 警備員が真上を指差す。写真に写っていたヒカマギ号の偽物がこちらに飛来してくる。


 急いでGCF内部に連絡を取る警備員。

緊急事態(エマージェンシー)! 敵の襲来。すぐに対処してください!」


「ん? あれはなんでしょう?」

 ヒカマギ号のハッチが開き、中から筒状のものが現れる。テレビ局バイトの服部にはどうも分からないようだ。


「あれは機銃だ! 伏せろ!」

 警備員が双と服部を地面に押さえつけた。

 直後、ヒカマギ号から機銃が掃射された。蜂の巣にならないように物陰に隠れる三人。


「おいお前! この写真を撮ったのはいつだ!」

 茂みに警備員と服部と避難しつつ叫ぶ双。


「十五分前ですけど」


「それを早く言えよ!」


 揉めている間にもGCF火星基地の戦闘機が迎撃に飛び立っていった。



☆★☆



「お久しぶりです桶屋さん」

 着物の泥を払いながら元帥に笑いかける少女。文章の都合で彼女の言葉は地球の日本語表記だが、実際は土星の言葉で話している。


「久しぶり。かのこちゃん」

 わけのわからない言語で会話を始めた二人。辛うじて理解できる官房長官が他の者に翻訳する。


「元帥、この子は? もしかして……?」

 庶務が両手を口許へ。あらぬ想像をしているのだろう。実に分かりやすい。


 元帥はため息を一つ。

「何を想像しているかは知らんがこの子は栗田かのこちゃん。前に土星に来たとき世話になったんだ」


 地球の言葉が分からず小首を傾げるかのこ。幼女もアリだなと庶務が呟いているが誰も気にしない。気にしてはいけない。


「かのこちゃん。急に申し訳ないんだけどちょっと家に寄らせてもらってもいいかな? ちょうど一人ヘロヘロでさ」

「どうぞどうぞ。歓迎しますよ!」


 前回元帥が土星に来たときの縁で栗田家はOKEYAにとても好意的らしい。


「助かりました。こいつ意外に重いんですよ」

 艦長を背負う総長もどこかほっとしている。


 かのこが指差した川の向こうの茶屋。栗田家が経営している和菓子の名店だ。

「じゃあみんな、ここはお言葉に甘えて寄らせてもらおう。私が一番乗りだ!」


「待ってくださいよう」


 言うがはやいか元帥が橋を駆け抜けていく。慌てて後を追う一行。ちなみにかのこは本日二度目の転倒を敢行した。



 かのこの家。店の裏庭に御座を敷いて艦長を寝かせる。


「よかったらどうぞ」


 かのこがお茶と煎餅を振る舞ってくれる。店にいて顔を出せない両親からのサービスだとか。


「ありがとう。私はお煎餅が好きなので嬉しいよ」

 官房長官の返答が和訳した英文っぽいのは彼女がまだ土星の言葉に慣れていないからだ。


「レイちゃんはよくもまあ土星の言葉が分かるな」

 熱い茶を冷ましながら感心する監察官。たどたどしくても違う星の言語を習得するのはかなり難しいことなのだ。


「ほんとそれ」

 対称的に熱い茶をがぶ飲みする会計も官房長官を手短に絶賛する。総長も横でうんうんと頷く。


 なんだか昔にタイムスリップしたかのような気分。酔いで目を回しながらも艦長はどこかノスタルジーを感じた。


 そんな面々を尻目に煎餅をここぞとばかりに頬張る元帥の肩をつつくかのこ。

「それで桶屋さん。どうして土星に? ただ遊びに来たってわけじゃないですよね」

 少し驚いた様子の元帥。幼い見た目のかのこだが意外に鋭い。


「え! バカンスじゃないんですか!?」

 わざとらしく驚く庶務。その頭を総長が小突く。

「そんなわけないだろ」


「その通り。これも依頼(ミッション)なんだ。実は――――」

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