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Episode-14 重柔のヒジュウ

 巨大ながらどこかひっそりと浮かぶ土星。その代名詞ともいえる環は冷たさを纏って妖しく輝き、外部は激しく渦巻く大気に包まれている。


 整った美しさを持ちつつもどこか不安になる様相。はっきりしているようでどこか掴みどころがない。かつてグスターヴ・ホルストが『老いをもたらす』と評したのも納得がいく。


 とにかく神秘的な惑星である。


 そんな存在を放っておけないのが人類で二十世紀の末ににかけて盛んに調査が試みられたがどれも失敗に終わり、各国はその面子を保つためにまやかしの合成画像を公開し見栄を張った。


 遠くて、得体の知れない、不気味な惑星。人類は土星をそう判断しそれ以上の興味をさほど示すことはなかった。故に土星の秘密はフロンティア期まで厳かに守られることとなったのだ。


 そんな土星の星間転送口(ワープ・ゲート)に我らがブルー号が姿を現した。


 新たに二人加わったものの超自然の技術が施されているブルー号内部は相変わらずだだっ広い。


「今回は誰も酔ってないな」

 やっとGに順応した一同を見て元帥は満足げに頷いた。 

「カイモニウム合金がGを軽減してくれたんでしょうね

 官房長官が笑いながら元帥のカップに紅茶を注ぐ。地球にいたころ航空機に乗る機会の多かった彼女は自然とGに耐性ができているらしい。


「おいおいレイちゃん手厳しいな。俺はあくまでも自力で克服したんだぜ」

「何もしてないだろうが」


 得意気に胸を張る艦長と冷静な総長。宇宙の船乗りにとってG慣れは避けては通れない道なのでどちらにせよ良いことだ。


「そういえば信さんと庶務くんは平気なんだね」

 官房長官からすると意外なようだ。


「まあな。俺は時々火星に行ってたし」

「ぼくも同人イベで太陽系ビュンビュン丸でしたから」

 頭をかく監察官と謎の単語を繰り出す庶務。木星からの合流だがスタメンに遅れをとっていないのは素直に評価すべきだろう。



 紅茶をぐいと飲み干した元帥。会計に目配せして一同に指示を出す。

「みんな聞いてくれ。土星へはこのまま着陸することができない。なのでステーションにブルー号を置いて身一つで行くことになる。準備をしておくように」


 土星の人々の独自の文化に干渉し過ぎないように異星の者は宇宙船で直接乗り入れてはいけない決まりなのだ。難儀なようだが大切なことである。


「もうひとつ。総長はそのままでいいがそれ以外は服を取り替えること。現地の人たちに合わせた衣装をステーションでレンタルできるから好きなのを選ぶんだ」


 あっ。それちょっと面白そうかも。常時和服の総長を除いた全員の思いが一つになった瞬間だった。




☆★☆



「ふぅー」

 アンテナ事件での整備士への謝罪を終え変装匿名君、いや本名で呼ぶべきだろう――――双路范(そうろはん)は冷や汗を拭った。


 先ほど彼に言われた言葉が脳裏に甦る。

「いやいや気にすんなよ! 桶売りの兄ちゃんから話は聞いてるからよ! これからはあんたの特技を活かしてなんかすりゃあいいんだって!」


 アンテナで双がすりかわった整備士。殴られても通報されてもおかしくないのだがあっさり許されてしまったのだ。火星人はどうもカラッとしている。

 

「これからどうするかな……」

 逮捕される道しかないと思ってたのでこの先のことを考えていなかった。仕方ないのであてもなく歩き出す。



 双はもともと土星出身のパイロットで運び屋を生業としていたのだが、ある時星間の移動中に事件に巻き込まれ取引をパーにしてしまった。

 その損害はとてつもない額となり借金の返済の名のもとに、双はクライアントから奴隷のような扱いを受けるようになった。


 その過程で裏家業にもかなり手を出しこととなり借金完済後もその儲けに目が眩み、やめることができずにいつの間にかそこそこ名の知れるならず者に成り下がってしまっていた。


 そして火星の惑星通信(プラ・ネット)にちょっかいを出そうとしていたルドゥムグと出会い今に至るというわけ。色々あったが今回の件でやっとお天道様のもとに生きる決意がついた。


「これもあの兄ちゃんのおかげだな」


 火星から木星まで自分を追ってきたOKEYA一行のことを思いつつしばらく歩いているうちに、ゲートに囲まれたエリアにやって来た。火星のGCF(銀河連合軍)駐屯地だ。


 いつ何が起こるか分からない宇宙情勢に備えての訓練が今日も行われている。平和維持も楽ではないのだ。


 幼い頃戦闘機乗りになりたいと言っていたのを思い出した双。せっかくなので最新の機体を眺めてから帰ろうと思い立ち寄ることにした。


 一般見学用の展望台から基地内部を見渡す。すると、通用口前で警備の者と何やら押し問答している少年がいる。


(何話してんだ?)


 好奇心から双は彼らの言い争いを近くで見物することにした。


 近づいてみると少年は双より縦にも横にも大きい巨漢だということが分かった。彼は身ぶり手振りに加え、オーバーとも思えるほど巨体を揺らす。


「だから! 俺は見たんですって!」

「あー、はいはい。子どもは家で花札でもしてなさい」


 カードゲームのチョイスが妙に古い警備員。

「早くしないと『KOUTORII』が!」

「こうとりい? 赤ちゃんを運んでくるっていうあれか?」

「それはコウノトリ! 話を聞いてくださいよ……大変なものを見たんですって」

「貴女の心です」


 古いネタを披露する警備員。


 双はKOUTORIIという単語に聞き覚えがあった。別れ際に元帥からこっそりと知らされた事件の黒幕、その組織だ。


 一方、警備員に詰め寄る少年。双は当然知らないのだが、彼はバイト帰りの服部平一。双の事件でOKEYAを呼んだまさにその人である。


 はじめは警備員のボケスキルを面白がっていた双だったがいいかげん焦れったくなってきた。


「なあ。あんた何を見たんだ? ってゆうかさ、どうせ暇なんだから聞いてやれよ」


 KOUTORIIって単語も気になるしな、と付け加えるのも忘れない。

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