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Episode-13 旅立ちとセンケン

「こ、これは……」


 渡邊から修理完了の連絡を受け、スター損保にやって来たOKEYAの面々。格納庫にて信じられない光景を前に絶句している。


 原型をとどめつつもよりシャープになった流線型の船体。今までのものが豆腐やコンニャクに思えるくらいの頑丈さを誇る合金製の装甲。元帥の念願であった火器もきっちりと搭載されている。


 そして何よりも船体のロゴ。二十一世紀の若者が見たら『ヤバいかっけぇ』と評価するであろうイカしたフォントとデザインで『OKEYA~銀河繁盛~』と描かれている。ブルー号のステッカーもフロントで輝きを放つ。


 生まれ変わったブルー号がそこにあった。


 絶句するOKEYAの面々に対し、いたずらっぽく笑いかける渡邊。

「どうです。本来なら直すだけなんですけど思わぬ助っ人が来てくれましてね」


 渡邊の後ろに二人の匿名君。彼らの技術協力があったらしい。


 変装していたほうの匿名君は煤で頬が少し黒くなっている。

「俺の宇宙船はオシャカになっちまったが、幸いレーザーポッドが残っててな。ヤスオクで買った古い型だがそこそこ使えるはずだ。こっちの兄ちゃんも頑張ってくれたんだぜ」

 

 変装匿名君と並び立つもとの匿名君も胸を張る。

「空港で焼け残ったパーツがあったのでそれを装甲に使いました。カイモニウム合金なので圧力に強いですよ」


 もともと空港で働いていた匿名君ならではの資材調達。いい仕事をしてくれたものだ。


「見れば見るほどすげぇな。なぁ庶務よ?」

「ホントっすよ。あっ、エンジンも改良されてる」


「えっ? エンジンには手を加えてませんが……」

 スタッフの言葉に庶務は黙った。


「色々いじってみて分かったんですが、この船は二十一世紀産の古い型なんですけどつくりがしっかりしてますね」


 匿名君のブルー号評は高いようだ。普段船の整備を行うことの多い元帥と会計もそれにうんうんと頷く。


「これでOKEYAもパワーアップしちゃいますね!」

 最古参の官房長官もそのデザインと機能性に満足がいったようだ。


 こうして、新たなブルー号はOKEYAに諸手をあげて迎え入れられたのだ。



「それでは、お気をつけて!」

「本当にありがとうございました!」

 

 ついに出発の時。晴れ渡る空に飛び交う朱鷺とコウノトリ。これ以上ないくらいの日和だ。


 ブルー号の窓から渡邊たちへの感謝を叫ぶ一同。眼下で渡邊らスター損保のスタッフと二人の匿名君が手を振っている。


「渡邊さーん! 何かあったらまたよろしくお願いしまーす!」

「もう故障はこりごりだけどな」

 またお世話になる気満々の艦長に総長は頭を抱える。


 バージョンアップを果たしたブルー号は物理的にではないが大地を蹴り、空高く飛び立っていった。


 ブルー号が彼方に消えるのを確認した渡邊は二人の匿名君に缶コーヒーの微糖を勧める。

「行っちゃいましたね。まったく、清々しい人たちです」


 コーヒーを受けとる二人。やはりプルトップを開けないと缶コーヒー感が出ない。


「そうだな。じゃ、渡邊さんとやら。俺もここらで失礼するよ」


 旅支度を始める変装匿名君。それに驚くもとの匿名君。

「えっ? どこいくんですか?」


「決まってんだろ。火星だ」


「あっ。なるほど。それではお気をつけて」

 自分を縛り上げた相手にも優しい匿名君は木星人の鑑なのではないだろうか。


「中央空港はアレですから、第二空港まで私が送りますよ」

「ああ、助かるぜ」


 スター損保と木星に乾杯。



☆★☆



 ガウスは夏目から送られてきた映像を見てほくそ笑んだ。ミャットンがサムライルックの少年に崩されたのには少し驚いたが、隠し球には対応できなかった。ルドゥムグも二人を戦闘不能に追い込む活躍を見せた。


「まあこんなものだろう」


 満足げに冷めたコーヒーを飲み干す。確か地球のブラジルとかいう国で取れた豆だ。


 OKEYAが多少気張ってこようとガウスにとっては何でもない。彼が指示を出せばおびただしい数の兵が動くのだ。


 さて、次の一手をと思ったその時夏目が執務室へやって来た。今回は秘書を伴っている。


「お前も大変だな。俺にはとても真似できん」

「いえ、私にはこれしかありませんので」


 文字通り夏目は何人分もの働きをしている。KOUTORIIを根本から支えているその政治的手腕はなかなかのものだ。


「ここ最近はOKEYAにかまけていたが、ここで軌道修正をしたい。夏目、火星にGCF(銀河連合軍)の駐屯地があったな。そこを潰せ。地球の軍隊を装ってな」


 銀河連合軍とは銀河連盟が保有する軍隊のこと。その他にも数えるのが馬鹿馬鹿しくなるほどの軍が連盟の指示のもと宇宙を飛び回っている。


「分かりました。適した者に行かせましょう」


 リラミャットンルドゥムグ以外にもたくさんの猛者がKOUTORIIにいる。彼らを火星に差し向けようというのだ。


「すぐに頼むぞ。このタイミングで火星を襲えば銀河連盟と地球との関係が悪化する。とにかくそれを狙いたい」


 かつての火星侵攻はある軍人によって食い止められてしまった。今でもそのことがガウスの心に鋭利なトゲとして突き刺さっている。



☆★☆



 地球人に太陽系で一番変わっている星は? と尋ねたならばほとんどの者が土星と答える。


 当然テラフォーミングされていて地球と同じ環境なのだが、土星は他の惑星とわけが違う。実は地球人が一番早く辿り着いた星なのだ。


 おそらく貴方はこの話に苦笑を浮かべていることだろう。しかし、これは紛れもない事実だ。


 遡ること十六世紀。宇宙の彼方から地球に円盤軍が飛来した。ある地球外生命体が地球を植民地にしようとしたのだ。しかし、科学で地球のはるか上を行く彼らは難なく地球を支配下におくことができたはずなのになぜかそれを諦めた。


 その代わりに彼らは立ち寄った弓状列島、つまり日本で捕らえた何万人もの人々と他の四大陸の人々を連れ去って当時誰も住んでいなかった土星に住まわせたのだ。


 その後その地球外生命体は姿を消し、土星の地球人たちは数を増やし独特の文化を築き上げて今に至っている。彼らにどのような意図があったのかは今でも分かっていない。


 ただ二十二世紀の人類からすると十六世紀そのままの彼らの暮らしはあまりにも不思議でそれが土星の評価に繋がっているというわけだ。


 その土星に向かうと言う元帥。果たして大丈夫だろうか。

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