Episode-12 賊軍のミョウ
やっと倉庫にたどり着いた元帥達。倉庫のドアの前で倒れている庶務を発見した。
「庶務!」
駆け寄る一同。庶務に外傷はなく、どうやら眠っているだけのようだ。
「おい、しっかりしろ!」
艦長が頬を叩き揺すっても目を覚まさない。くすぐってみたり、頬を引っ張ってみたりしても夢の世界から連れ戻せない。
真夏の夜の夢でも見ているのだろうか。
「カイくんちょっといいかな」
見かねた官房長官。人差し指で庶務の鳩尾を一突きした。
「ひゅあっ!?」
効果は抜群だ。見事庶務がこちらにカムバックした。眩しそうに目を擦る。
聞きたいことは山ほどある。
「監察官はどうした?」
「多分まだ倉庫にいます。ぼくみたいに眠らされてるのかも」
「なんだと!」
それを聞いた艦長がドアノブを掴む。握りつぶしてしまいそうだ。
「待ってくれ!」
艦長が倉庫に入ろうとした途端、反対からドアが開き、中から監察官が現れた。両脇には匿名君と変装を解いた変装匿名君が監察官に肩を貸している。
ドアに鼻をぶつけ悶絶しかけた艦長だが、変装匿名くんに気がついた。
「あっ、お前は火星の……ここで会ったが百」
「シルク、その話は後だ。早くここから離れろ! 爆弾だ!」
少しふらつきながら監察官がそれを制する。
「え?」
飲み込めていない艦長に対し焦れったそうな監察官。
「ば・く・だ・ん! ボムだよ!」
「よくぞ無事だったな。やはりルドゥムグか……」
「そうなんです。運よくこの二人に助けられました。とにかくここは危険です。早く逃げましょう」
「分かった。急ごう」
外にいた庶務と官房長官も合流し、倉庫から離れる一行。そのさなか元帥が監察官に尋ねる。
「敵が用意した爆弾は?」
「『バールのようなもの』です」
すると、庶務監察官と二人の匿名君を除く全員の顔色が変わった。
「まずい、この辺り根こそぎ吹っ飛ぶぞ!」
慌てる艦長。両手をぶんぶんと振り回す。
「少し離れた程度では駄目だ。プラスチック爆弾とは訳が違う」
急いで逃げているが爆発圏内から逃れるにはそもそも空港の外に逃げねばならない。
庶務が突然立ち止まった。
「ぼくが解除してきます!」
名乗り出る庶務を止める監察官。
「無理だ。俺が眠らされてた時間から考えるにあと十分ほどで爆発しちまう……って庶務、どこ見てんだ!」
余所見している庶務に憤慨。当然だ。
「なんかエアバスがこっちにむかってきてますよ」
彼の指差す方向からバスが弾丸のように飛んできた。
「元帥、あれはきっとメガ姉ですよ!」
官房長官の言う通りだった。運転席から会計が顔を出す。
「事情は把握した。さあ、早く乗って!」
まともに走っても間に合わないと践んだ会計は空港所有のエアバスを拝借しここまでとばしてきたのだ。
すぐに乗り込む一同。後部座席では総長が死んだように眠っている。すぐさま駆け寄る監察官。
「介さん! どうしたんだよ……」
運転席から振り向く会計。眼鏡がやや曇っている。
「敵に毒を射たれた。治療したから今はもう大丈夫」
言うがはやいか会計はそのままエンジンフルスロットル。
「ちょ、シートベルトしてなあがっ!」
Gによってシートに叩きつけられた庶務。災難続きだ。
全員が乗った即席ノアの方舟となったエアバスが飛び上がったその瞬間、倉庫を中心に大爆発がが起こり、木星中央空港は一瞬で廃墟となった。
それはあたかも炎を纏った竜が暴れているかのようだった。
☆★☆
再びイオ。夏目のもとに作戦を終えたルドゥムグ達が戻ってきた。
「ご苦労。楽じゃなかったようだな」
「私、敵の一人を倒しましたよ! 死には至らないでしょうが大ダメージ必至です!」
嬉しそうに戦果を報告するミャットンにツッコむリラ。
「なーにいってんのよパッツン」
「誰がパッツンだ!」
リラは煤で真っ黒、ミャットンは前髪をバッサリと切り落とされている。無傷なのは仮面を取り替えたルドゥムグくらいだろう。
「一応空港の爆破には成功したけど、桶屋くんたちは空港を脱出したみたいだよ? 悪運強いね」
あの時もそうだったでしょとルドゥムグ。
「まあOKEYAのデータが取れたらそれで構わない。むこうにもしっぺ返しできたようだし中将にはキミたちはよくやったと伝えておこう」
目を輝かせるミャットンとリラ。
「それで? 次の任務は何?」
ルドゥムグという男、飄々としているようで仕事熱心だ。だからこそ、それだからこそこのポストにいるのだろう。
「天王星に向かってくれ。木星の基地で完成させたブツを『彼』がそこで受けとる手筈になっている。今回の爆弾も彼が作ったものだし、ついでに礼でも言っておくといい」
「分かったよ。このままチョクで向かうからさ」
いそいそと支度を始めるルドゥムグ。運び屋ミッションにも特に抵抗はないようだ。
「ああ、ミャットンとリラには別の仕事を頼みたい。今回はルドゥムグとは別行動で地球に行ってもらう」
「了解しました。またよろしくね、パッツン」
「パッツン言うな!」
取っ組み合いを始める二人。
「あれ?」
リラに対しマウントポジションをとっているミャットンが何かに気がついた。
「夏目さん、今日は秘書の方は一緒じゃないんですか?」
「少し休暇をやった。木星での作戦の間くらい休ませてもなんら問題はない」
一応部下のことは気遣うようだ。
「じゃ、ま、ボクは行くよ。この宇宙船にはボクが乗ってくけど二人はどうする?」
「大丈夫です。私達は定期船で地球へ行くんで」
リラとしてはあまりルドゥムグに頼り過ぎるのは避けたい。
ああ、そう? とルドゥムグは宇宙船に乗り込んだ。そのまま木星へ向けて飛び去っていく。
「今回は定期船を使ってもらうことになるがいずれ二人には適当な宇宙船を見繕おう。それまで辛抱してくれ」
やって来た空港行きの円タクに乗り込むミャットンとリラに声をかける夏目。
「ありがとうございます! 今回もお任せください!」
意気揚々と出発する二人。パッツン関係でしばらく小競り合いを続けることになるだろう。
再び三人を送り出した夏目。
「頼むぞ。我ら『KOUTORII』の理想のために」
そして宇宙の秩序のためにと小さく呟いた。
KOUTORII、つまり公正取引委員会が次の一手を繰り出そうとしていた。
☆★☆
「ほんっっっとうに申し訳なかった!」
深々と土下座をする変装匿名君。そのフォームはおそらく太陽系一だろうなと官房長官は思った。
「あのルドゥムグとかいう野郎に騙されていたとはいえ、あんたらにとんでもないことをしちまった。煮るなり焼くなり好きにしてくれ!」
スター損保の応接室。一人の男が懺悔していた。
「元帥、お願いします。こいつが助けてくれなかったら俺は眠ったままでした。許してやってください!」
「元帥さん、でしたっけ? 私からもお願いです。この人に襲われはしましたけど、手荒なことはほとんどされてませんし私を置いて逃げることだってできたはずです。どうか!」
そこまで言うなら反対する理由もない。
「いいだろう。許す許す」
監察官、匿名君の請願もあり変装匿名くんは火星の彼にきちんと謝罪するという条件で無罪となった。
「さて」
元帥もそうだがOKEYAの雰囲気がどこか重々しい。
「結局のところ三戦二敗か。みんな、敵はどうだった?」
唇を噛む監察官。爪の跡がつくくらい固く手を握り締める。
「悔しいですけど本気を出していなかったみたいです」
「ぼくの時も……」
庶務も悔しさを隠しきれない。
「やはりそうか。奴の武器はあの銃。この銀河では手に入らない代物だ。多分弾丸以外のものが飛んできたんじゃないか?」
「そ、そうなんです! なんかゲームで見るような白い光弾が飛んできて!」
「当たった瞬間バタンキューでした」
うんうんと頷く元帥。分かっていたようだ。
「それもあの銃とルドゥムグの為せる技だ」
「会計、そっちはどうだ?」
「私達を本気で殺しにきていました。総長も当たり所が悪かったらどうなっていたか」
会計と総長は辛勝こそしたものの、総長は例のボウガンで負傷。救援が間に合わなければ戦況をひっくり返されていただろう。
「すみません、俺が不甲斐ないばかりに……」
肩を落とす総長。先ほど目を覚まし、この会議に参加しているのだ。
「気を落とさないでくれ。総長の活躍がなかったら我々は倉庫までたどり着けなかった。何事も過程より結果だ」
働きを労う元帥。実際総長はミャットンを追い詰めたわけで、内容的には勝っている。
「それでこれからぼくらはどうするんですか?」
庶務はそっちが気になるようだ。
「もちろんそれも考えている。このあとは土星に向かうつもりだ」
その言葉に庶務だけでなく、その部屋にいた全員が驚いた。
「ちょ、元帥。土星つったら……」
汗をだらだらと垂らす艦長。何かあるのだろうか。
「何を言いたいのかは分かる。心配することはない。私は今までに何回か行ってるがこれまで特に問題はなかった」
「おお……」
何人かは不安を隠せないようだが、OKEYAも舳先の方向を定めたようだ。
後はブルー号の修理を待つばかり。