Episode-10 スラッシュ対爆裂弾
たくさんあった桶も地球の天然水というエサのおかげで全て売り切れた。
「いやあ、儲かった儲かった。風めっちゃ吹いてますね」
ノルマを全て捌いた艦長はすこぶる機嫌がいい。
「天然水の値段と差し引きでの利益は――」
こちらも上機嫌な会計の口からとんでもない数字が飛び出した。もはや水だけ売ればいいのではないだろうかというレベルだ。
「しかし彼らはあの桶をちゃんと使ってくれるのか……」
心配する総長。それもそのはず、桶を使う慣習があるのは現在のところ地球だけだ。買った桶を頭に被ったりおやつ感覚で丸のみしている宇宙人もいる。
「いいんだ。私達の目的はあくまでも全宇宙の制覇。桶の普及活動はそのついでだから」
ま、売り切れてよかったと艦長を労う元帥。桶の風呂敷を担いできた彼は評価されるべきだろう。
「そういえば信さんと庶務はどうなったんでしょう?」
携帯端末を確認する官房長官。あれから音沙汰がない。任務に失敗してしまったのだろうか。
「空港って電波悪かったりしますよね。もしかして連絡がとれなくなってるのかも」
彼女の予想は的中。二人の携帯端末にかけても繋がらない。
「……」
考え込む一同。
「元帥、それなら大丈夫ですよ」
会計が方位磁針のような機器を見せる。デジャヴだ。
「庶務に発信器をつけておきました。今は離着陸エリアの脇の倉庫にいるみたいです。おそらく監察官も一緒でしょう」
驚くほど有能な会計。しかしながらもっと早く言ってほしかった。
☆★☆
一方、倉庫の二人は変装匿名君をグルグルに縛り上げていた。
「フルボッコに自信ニキの監察官さすがっす!」
「電波通じないのには焦ったけどなんとかなったな」
庶務と監察官。なんだかんだでいいコンビである。
「後は元帥たちを待つだけなんだが――」
その前にと監察官。庶務も同じことを考えているようだ。
「そこに隠れてる奴ら」
「バレてないつもり? うわーこれはいたい」
容赦なく煽る庶務。
「まさか気づいていたとはね」
先ほどから彼らを監視していたルドゥムグたちが姿を現す。彼は相変わらず肩に不気味な人形を乗せている。
「最初から気づいてた。お前ら気配消す気ねーだろ」
短い髪を逆立てる監察官。無駄に絵になる。
睨み合うルドゥムグと監察官。
やや蚊帳の外になりつつあるリラとミャットン。
「ねぇミャットンどうすんの? なんか見つかっちゃったしルドゥムグさん戦う気満々なんだけど」
バールのようなものを仕掛けている以上早くここを離れたいところだ。
「しょうがないでしょ。私達が外へ逃げたら奴らは追いかけてくるだろうし、ここは時間を稼がなきゃ」
「ヒエッ……時限爆弾かよ」
リラとミャットンの会話を盗み聞きする庶務。
「元帥から聞いてはいたがまさかここで会えるとはな。まとめて返り討ちにしてやる!」
「うーん、あんまり戦う気はなかったんだけど仕方ないかな。よし。二人でかかってきなよ」
ルドゥムグは庶務監察官二人を相手取るつもりのようだ。
一方こちらは女性陣。
「今のうちに!」
「本隊を攻撃するってわけね」
リラとミャットンは倉庫を飛び出した。慌てて後を追おうとした庶務だったが何を思ったか彼女達と逆の方向に走り出した。
「あの変態……」
走り去る庶務を苦々しげに見つめる監察官。しかし、今はそんな場合ではない。
「おやおや。OKEYAも大変みたいだね」
冷やかすルドゥムグ。
「そんなことならエウロパで会ったときに――――」
言い切る前に監察官の拳が火を吹いた。確実にヒットと思われた一撃をすんでのところでかわすルドゥムグ。凄い体捌きだ。
「……」
肩の人形を撫でながら今度はルドゥムグが監察官に襲いかかる。
☆★☆
反応の場所へと走る元帥達。遠くに目的の倉庫が見えてきた。
(多分二人は既に奴を取り押さえてるだろう。でも、嫌な予感がする)
総長の頭にエウロパで会った連中がよぎる。最初の集団はザコ戦闘員を思わせる弱さだったが、あとの三人は明らかに強者だ。
「おっと。ここからさきには行かせないよ!」
「そういうことよ!」
積んであったコンテナの上からリラとミャットンが飛び降りてきた。
「お前らはエウロパの……」
驚いている艦長。少々思考が追い付いていないようだ。
「元帥」
会計が小声で話しかける。
「ここは私と総長で抑えます。先に監察官たちのところへ」
「よし分かった。無理はするなよ」
元帥、艦長、官房長官はそのまま倉庫へ向かう。
「ちょ、待ちなさいよ!」
追いかけようとするリラの足元に銃撃。狙いを外さない会計のスキルだ。
「行かせない」
「邪魔しないでよ! こっちも仕事なの!」
原子収縮で大きなバズーカを取り出すリラ。
リラ対会計の火蓋が切って落とされた。
一方、総長の前にはミャットンが立ちはだかる。
「じゃあ私の相手はあんたね。古臭いファッションの男はタイプじゃないんだけどな」
「こっちもチビは願い下げだ」
これは禁句だ。ミャットンの額に青筋が走る。くわっと目を見開く。
「言ったなああああああああああああ!」
原子収縮で柄の部分だけにしていたサーベルの刃を出現させる。
「そうきたか」
総長をコシガヤを構える。こちらもきな臭い展開になってきた。
会計対リラ、総長対ミャットン、そして監察官対ルドゥムグの激しい戦いが始まろうとするなか。
「ふんふん。そら(爆弾が爆発すれば)そう(ぼくらまとめて吹っ飛ぶ)よ。まぁそんなことはさせないけどね」
格闘戦が繰り広げられている倉庫の陰。庶務はあっさりとバールのようなものを解体してしまった。