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Episode-1 ソラ飛ぶ船

 今となっては昔のこと。星を眺めるのが好きな少年がいた。夜な夜な土手にやって来て、寝転び空を見上げる。それが彼の習慣だった。


 かつて宇宙に夢を見出だして旅立っていった幾多の若人のように、彼もまた銀河を飛び回り未知の世界を探求したいという思いに溢れていた。


 寝転んで星空に手を伸ばす。その眼差しの先にあるのは理想、思い描く未来。


 辿り着くにはあまりにも果てしない距離。しかし、まだまだ幼さを残す彼は自分の可能性を信じている。

 いつかきっと。願う心が彼を動かす原動力となる。


 それはきっと、大いなる旅への始まり。

 



☆★☆




「うおおおおお! 地球超青い! ちょっ、介さんも見てみろって!」


 地球の大気圏を飛び出した宇宙船。癖毛の少年が眼を輝かせ、窓にかじりついて外を眺めている。だんだんとその全体を現す地球の美しさに感動しているようだ。

 

 アストロノーツや宇宙船乗りが口を揃えて『地球は青かった』と言うのもよく分かる。


「そりゃ七割海なんだから青くて当然だろ」

 茶道具を磨きながら長髪の少年がめんどくさそうに答える。この時代の日本人には珍しく和服を着ているのがポイント。質実剛健を思わせる。


 規格としては小さめのこの宇宙船、乗っている者の平均年齢はかなり低い。


 窓の外の地球を見てはしゃぐ少年。茶道具を磨く少年。紅茶を運ぶ少女。計器を睨む少女。そして、操縦席に陣取る少年。

 誰も彼も未成年にしか見えない。


「諸君、今回が我々の初の任務だ。内容は理解しているか?」

 操縦席の少年が一同に問う。どうやら彼が元締め、この未成年集団のリーダーらしい。

 金ボタンの着いた学ランがなんとも微妙なのが残念。

 彼のマグカップには地球の大発明ともてはやされる油性マジックで『元帥』と書かれている。


「はい、惑星通信(プラ・ネット)火星支部の電波障害の解決です」

 眼鏡を光らせながら生真面目そうな少女が答える。


「ナイス会計。その通り。そこで働いてる知り合いから直々に依頼された任務だ。艦長、総長、会計、官房長官。頼むぞ」


 元帥が飲み干したカップを片付けつつ、全員に発破をかける。


「あの、元帥?」

 そんな元帥に『官房長官』と書かれたカップを持った少女が声をかける。彼女はモニターを操作してレーダーを映す。地球でもよく見かけるインターチェンジの表示がそこに現れれた。


「この先、星間転送口(ワープゲート)があります。火星行きのゲートもあるので乗っていきますか?」


 星間転送口とは地球にある高速道路を参考に宇宙空間に設けられた超光速で航行するためのエリア。料金を支払い、ここを通ることで目的地により速く移動することができる。


「乗ればいいんじゃないすかね。介、じゃなかった総長もそう思うだろ?」

 窓から見える宇宙船に手をふりつつ癖毛の少年が応じる。彼のカップには『艦長』と書かれている。


 話をふられた和服の少年がうなずく。


「よし分かった、星間転送口に進路を調整する」

 元帥は新たに座標を打ち直した。


 かくして、宇宙船ブルー号は星間転送口に舳先を向けることとなった。




☆★☆


 ガウス中将にとって夏目ほど信用ならない男はいない。


 自分に対する忠誠心は感じる。仕事もきっちりこなし、議会での影響力も申し分ない。政治的手腕にも長けている。

 しかしこの男、何を考えているのか全く分からない。腹のなかにどんなものを抱えているのか見当もつかないのだ。


「中将。お耳に入れておきたいことが」

 今日も夏目は時間通りにやって来た。辺境の惑星に居をかまえるガウスのもとへ、報告連絡相談の為に必ず毎日現れるのだ。


「どうした? 右派左派の揉め事なら放っておけ。奴らは水と油だ」


 夏目は首を振った。

「いえ、今回は別件です。先ほど地球に潜り込ませている者から連絡がありまして、OKEYAが地球を出て火星に向かったとのことです」

 淡々と語ってはいるがどことなく面白がっているようにも見える。思うところがあるのかもしれない。


 ついに来たか。ガウスの目が好好爺のそれから軍人のものへと変わる。

「思ったより早かったな。まあいい。我々のほうが先に動いている。桶屋のガキなど話にならんし、奴らはただのクラブ活動にすぎん」


「はい。まずは様子見でいきましょうか」 


 中将の部屋を出た夏目。彼の携帯端末(スリー・フォン)がが振動している。着信先を確認し、通話。


「私だ。中将には様子見と言っておいたが、彼らの動向はきちんとマークしていてくれ。我々の脅威となりうる存在だからな」

 おそらく何百光年も離れて通話している相手に要件を伝え、夏目は満足げに微笑んだ。


「宇宙に号令を下すのは我々だ。何人たりとも邪魔はさせん」

 彼の独り言を聞いているのは遠くなびく箒星だけ。






 宇宙へと漕ぎ出したOKEYA一行。彼らの進む道は平坦なものではなさそうだ。

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