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「勇者への道 三日月大陸冒険譚」  作者: けっき
第二話 一歩進んで
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天女、大地に立つ

 女神の加護とやらがかくも場当たり的で執念深いものだとは知らなかった。ベルクが幼馴染のノーティッツを連れ兵士の都を旅立って数日、ふたりの装備は当初揃えていた玉鋼の鎧シリーズからアダマス鋼の鎧シリーズにすっかりバージョンアップしていた。

 道を歩けば困り果てた成金商人と出会い、食堂に入れば街の名士に何事か頼まれ、宿に泊まれば宿屋の亭主から相談事を持ちかけられる始末。しかもその都度破格の報酬か豪華装備品御礼が待っているというサービスぶりで、にわか金持ち冒険者の一丁上がりというわけだ。

 ベルクも一応は王族というやつなので大金に慣れていないわけではない。が、細々としたクエストを短期間に乱れ打たれ、大分うんざりしつつあった。目の前でセレブがスリ被害に遭ったり、はたまたセレブが誘拐されそうになったり、そんな事件はしょっちゅう起こるはずないのである。誰の仕業かなんてことは初めからわかりきっていた。

「すっごいわざとらしいよね……」

 宿場街の安っぽい寝台の上、呆れ返っているノーティッツにベルクは「ああ」と力強く頷く。そもそもが気乗りしない旅立ちだっただけに疲労感は半端でない。なんなのだこの誘導されている感は。こんなのが勇者の旅なのか?

 魔物と戦えと言うのなら、もう旅に出てしまったのだし断るつもりはない。その延長で魔王を倒せと言うのなら、やるだけやってやろうじゃないかという気概もある。だがこれは、これは絶対に何かが違う。こんなイージーモードで冒険をしていたら性根が腐って心のアンデッドになりかねない。

「おう、ノーティッツ」

「何?」

「俺ぁ決めたぜ。次なんかされてもゼッテー無視する」

「……仮にも相手は女神さまなんだけど」

「関係あるかよ! 腹立つんだよこういうの!!」

 やれやれとノーティッツは嘆息したが、ベルクの腹の虫は治まらなかった。こう、あれだ。他人を操って自分の望み通り動かそうというやり方はいけ好かない。他力本願なことをしていないで魔王城でもなんでも自分で殴り込みに行けばいいのだ。

「無視できたらいいけどねー」

 ノーティッツはどこか達観している風だった。幼馴染は頭が良いので既にある程度先の事態まで予測していたのだと思うが。

「た、大変です! お客さん、とと、盗賊が、盗賊ヴルムが襲ってきましたああ!!」

 そうら来たとベルクたちは盛大な溜め息を吐き零した。こちとらとっくにトラブルには慣れっこだ。本当に嫌気が差してくる。

「金出して命乞いしろ。人殺すほど気合入った賊じゃねえよ」

 悲愴な表情で駆け込んできた宿の亭主にベルクはひとことだけ返す。金なら自分たちが出してやるからと。

 ぽかんと口を開いたおっさんの間抜けなこと間抜けなこと。あの馬鹿女に振り回されまいと大金はたくこちらもこちらだが。

「ええと……お客さん?」

「盗賊ヴルムって名乗ってんだろ? 筋肉ムキムキのスキンヘッドが、だっせえ薔薇の旗掲げて」

「え、ええ」

「こないだ苛め過ぎたからよ、今回は見逃しといてやんだよ。この金も元々あいつらのモンだしな」

 金貨の詰まった小袋を放り投げると主人は両手でキャッチする。ついでに窓からシーツで作った白旗を出してやった。レールに乗せられた挙句やらせ戦闘などかったるくて付き合っていられない。

 部屋から主人を追い出してしばらくすると、階下で話し声が聞こえてきた。どうやらヴルムとの交渉が始まったようだ。

 ヴルムは大悪党とも小悪党とも微妙に異なる、珍しいタイプの盗賊だ。金さえ用意すれば手荒な真似はしないと公言し、事実その通りにしている。堅気の盗賊という表現は語弊があるかもしれないが、多分それが一番近い。しかし奴が真っ当な男かと問われれば答えは否だった。盗品はしっかり闇ルートで売り捌くし、時に人身売買まがいのことも行う。前回ベルクがヴルムをこっぴどく痛めつけたのは、さる金持ちの令嬢を「身代金を支払わない」という理由で売り飛ばそうとしたからだった。

「世間の裏側に入り込んじゃうと、多少のことじゃ戻って来れないみたいだねえ」

「そうだなあ」

 それでも薔薇の一団は人を殺していないだけマシだった。悪人には悪人の道徳があるらしく、ヴルムでさえ殺人を請け負って金を稼ぐような連中は毛嫌いしている。ベルクにしてみれば他人が汗水垂らして得た金を横からかっぱらうのも同罪に思えるのだが。

「……!!」

 と、そのとき客室がキラキラした例の浮遊物体に満たされた。あの女が現れたのだ。

 鼻息も荒くベルクは辺りを見回した。ひとこと文句を言ってやろうとしたのだが、それより女神が困った顔でシナを作る方が早かった。

「あのう……勇者ベルク、盗賊が宿を襲っているのですが……」

「だから?」

「あのう……助けないのですか?」

「助けたじゃねえか。金出せば見逃してくれるぜって助言したし、その金も払ってやったし。立派な人助けだろ?」

「え……えっと……」

 女神の顔は笑っていたが、表情は完全に引き攣っていた。どうして勇者らしく動いてくれないのかしらと露骨に瞳が語っている。

「お金で解決できる場合は盗賊を撃退しない、ということでしょうか?」

「さあな。気分にもよるんじゃねえ?」

「ええっと……」

 女神はすっと視線を逸らすと一生懸命ノーティッツにアイコンタクトを送った。ベルクがどうして不機嫌なのかわからない、手助けしてくれという意味だ。だがそんなものを受け入れるほどノーティッツもお人好しではない。

「どんな困難も解決できるなんて、お金はやっぱり最強ですね!」

 白い歯を輝かせ、幼馴染はあんなことを言っている。さっきまで「仮にも相手は女神さまなんだけど」とかのたまっていたのはどの口だ。喜々として困らせにかかっているではないか。

 ノーティッツは満面の笑みで親指を立てていた。つられて女神も親指を立てていたけれど、確実に意味は理解していない。

「あ、でも盗賊は悪い人間ですから、懲らしめないといけないと思うのですが」

「けどついこの間ボコボコにしたところだしなあ」

「そうだよねえ、向こうもそう何回もぼくらの説教聞きたくないよねえ」

 女神はほとほと弱り果てた様子だった。てこでも動くかというこちらの意志は多少なり伝わっているのだろう。「でもでも、あのう」としばらく繰り返していたが、やがて黙り込み喋らなくなってしまった。

 そろそろヴルムも金袋を受け取って出て行く頃合いだ。これに懲りて女神も妙なお膳立てをしなくなればいいのだが。

「……わかりました。勇者ベルク、確かにあなたにもどういった方法で問題を解決するか選択する権利があります。私の考えが甘かったようです」

 そうそう、わかればいいんだとベルクは満足げに頷いた。

「ま、あんたも人間の思考ってもんには不慣れだろうし、今回のことは俺らももう……」

 不問にしてやるよという上から目線の台詞を耳にしたくなかったのか、気がつくと女神は部屋から消えていた。「あれ?」と言ってノーティッツもキョロキョロ室内を確認する。

「あの女どこ行った?まさかもう帰ったのか?」

 嘆かわしい、別れの挨拶ひとつできないとは天界の躾は一体どうなっているのだ。それともあの女が絶望的に空気を読めないだけか。

 まあいいやとベルクが椅子に腰を落ち着けようとしたときだった。耳をつんざくような、それでいて非常にわざとらしい悲鳴が上がったのは。

「きゃ~~~~~!! あーれー!!! 勇者様助けて~~~!!!!」

 ベルクとノーティッツは同時に激しくずっこけた。あの阿呆女神は一体どこまで阿呆なのだ。

「た、た、大変です! お客さん、お連れ様が!!」

 どたばたと主人が駆け上がってくる頃にはヴルムたちは馬を駆り悠々撤退を決めていた。ストレス性に違いない頭痛をぐっと堪えてベルクは部屋を出る。なるべく平静を保つよう心がけながら階段を下りたが、廊下にべったり筋を作っている金色のキラキラを発見するともはや耐え切れなくなった。――だからそういう誘導が!やる気を萎えさせる原因なんだよ!!

「うがあああああああ!!! あのアマ一発殴ってやる!!!!!」

 火を吹く勢いのベルクをノーティッツが宥め賺して押さえ込む。それでも一度頭蓋の天辺まで昇った血液はぐつぐつ煮え滾ったまま冷めなかった。

「まあこのわかりやすすぎるダンジョンへのいざないはぼくもどうかと思う。どーかと思うけどな!」

 落ち着け、まずは冷静に聞け、とノーティッツが囁いた。

「女神さま……さらわれた女の末路なんて何ひとつ考えちゃいないと思わないか?」

「…………」

 ノーティッツが言いたいことはすぐわかった。天の女神は世間知らず。当然女が男の商売に使われるなんて知るわけない。盗賊どもが値踏みのために「味見」する可能性があるということもだ。そもそもそういった行為自体、見たことも聞いたこともないだろうから、多少脱がされたところでポヤポヤしているだけに違いない――。

「……め、女神って非処女でも天界に帰れんのか?」

「どうだろう……っ!」




 ばたばたと鎧を着込み、盾と剣を担ぎ、身支度を整えたベルクとノーティッツは駆け出した。幸い女神の痕跡は道なりにずっと続いていたので聞き込み調査の必要はない。ただひたすらに後を追うだけだ。

 盗賊ヴルムのアジトは宿場町からそう遠くない山中にあった。先日完膚なきまでに破壊してやったのはどうやら本拠地ではなかったようだ。盗賊の隠れ家のくせして薔薇園を育てていたのが無性に癪に障り、無用の暴力まで振るってしまったというのに。

 途中農家で馬を拝借したので思ったより早く到着できた。目立たぬように近くの木によじ登りアジト内の様子を窺うと、絶世の美女という予定外の収穫に盗賊たちは大いに沸いて、飲めや歌えやしているようだった。

「……あの感じだと宴の盛り上がり最高潮って頃に『ちょっと女の様子を見て来いよ!』とか言い出す馬鹿が出そうだな」

「流石ベルク。下衆の考えることなら全部お見通し」

「お前いっぺん死んでくるか?」

 軽口を叩く間にノーティッツは袋からガサガサと紙束を取り出し、一番上の何も書いていない紙に砦の見取り図やら推定の間取りやらを描き始めた。こういう脳味噌を使わなければいけない作業がベルクは大の苦手だが、ノーティッツはその逆だ。あれよという間に攻略ポイントを定めてしまい、作戦立案まで終わらせてしまう。

「入り口は正面と裏口のふたつだな。まずあの正面玄関を呪符で爆破して火をつける。敵襲だ、とか騒いで下っ端が集まると思うから、更にもうひとつの呪符で小爆発。これでかなり数を減らせる。で、表で騒いでもらってる間にぼくらは裏口から侵入だ。風の魔法で逃げ道に火が回らない&新手が入り込めないようにしつつ、三階宴会場へ突入、ベルクによる虐殺。その隙にぼくが女神さまを探して解放、後に快楽殺人鬼ベルクと合流、火勢で盗賊たちを圧倒しながら脱出――めでたしめでたしと。名付けて『なにそれベルクこわい』作戦」

「作戦名は気に入らねえが概要は把握した。あとお前はやっぱり死ね」

 了解の意を確かめ合うや、ノーティッツは早速二枚の呪符を用意し魔力を込めた。自分自身はまったく魔法に縁がないのでどんな小さな術でも感心してしまうのだけれど、幼馴染に言わせれば彼の魔法など初級も初級らしい。

 枝を降り、茂みに隠れ、いつでも裏手に回れるよう体勢を整える。ノーティッツが短い息を吐いた後、ドドドドーンという過激な爆発音がこだました。

「うわあああ!!!」

「なんだなんだああ!!!」

 それはそれは様々な怒号と悲鳴が入り混じり、あっという間に一階すべてに火が回る。当然裏口も燃えていた。

「……女神さま、ぼくに勝手に魔法強化の術をかけてたっぽい」

「ドンマイ」

 強い同情の意を込めて幼馴染の肩を叩けばノーティッツは「大丈夫、大丈夫」と笑みを浮かべた。

「もうついでだから二枚目行っていいよな?」

 あ、切れてる。こいつ切れてる。




 ――数十分後。無残に崩れ落ちた焼け跡から煤だらけになったヴルムが這い出してきた。その首元にバスタードソードの先を向け、ベルクは「女返せ」と吐き捨てる。

「ヒィッ!?べ、ベルクさん!?」

 この男を見ていると非常にムカムカしてくるのは自分だけでないはずだ。鍛え上げられた屈強な肉体、わかりやすいほどの悪人面、声だって野太いオッサンのものなのに、これが薔薇育ててますって顔かよ。なんだって趣味がティーカップ収集なんだよ。

 近頃ヴルムはリリアンにも興味を示していたらしい。おそらく来冬には配下とお揃いで着こなすつもりだったのだろう、炎から逃れた棚には編みかけのセーターが置かれていた。前回アジトを襲撃した際は陶器のポットにローズティーが淹れられていたし、見た目とのギャップに鳥肌が立つ。

「さっさと返さねえとこうだぜ」

 クイ、とベルクが顎を反らすとそれに応じて隣のノーティッツが完成間近のセーターを引き裂いた。

「ああ!」

 幼馴染は更にガーベラ模様のクッションを八つ裂きにし、うさぎさんのぬいぐるみの耳をちょん切る。

「あああ!!」

 うさぎさんへの凌辱は続いた。真っ白な背中に「ゴンザレス」「全国制覇」と刻むだけでは飽き足らず、ノーティッツは鼻毛や眉毛をボウボウに描き足す。

「も、もうやめてくれぇ!!」

 ヴルムは完全に戦意を喪失していた。大勢の部下たちもあらゆる財産が焼失したという現実を直視できず、縛られているわけでもないのに動けずにいる。

「お、女なら暴れても運びやすいようにと棺桶に……」

「――!!」

 予想外の監禁場所にベルクとノーティッツは息を飲んだ。てっきり最上階にでも閉じ込められているものと思っていたのに。あの女ならどこにいたとしても飛ぶなり消えるなりして火難を逃れられそうだが、棺桶の中となれば話は別だ。燃え盛る砦に気づかずずっと閉じこもっていたかもしれない。

「あれじゃないか?」

 ノーティッツが示した先には確かに黒い棺があった。きらきらふわふわの浮遊物体は意識がないときは出ないのか、今は何の輝きも放っていない。

「もう悪さすんなよ」

 言ってベルクはヴルムの鳩尾に痛烈な蹴りをお見舞いした。ぐふ、と言ったきり盗賊はぴくりとも動かなくなる。これでもう明日の朝まで目覚めることはないだろう。

「よっ……と!」

 棺桶の蓋を足で開くと女神はのんびり居眠りしていた。あどけない寝顔にほっとして一瞬怒りを忘れる。口を閉じて何もしなければそれなりにイイ女のはずなのに。

「んんぅ……」

 ごしごしと瞼を擦り女神は薄ら瞳を開いた。視界にベルクを認めると、見る間に頬を赤く染め全身で喜びを表現する。

「まあ、勇者ベルク! 助けに来て下さったのですね!!」

「たわけ者――ッッ!!!!!」

 がばりと抱きつかれかけたのを全力でかわしてベルクは女神を張り倒した。女だからとか女神だからとか関係ない。今ここでこうしておくのがこの女のためだ。

「なっ、なっ……! 何をなさるのです!? おおお、お父様にもぶたれたことなどないのですよ!?」

「てめー女神のくせにそんなこともわかんねえのか!? てめーがてめーの都合で人様に迷惑やら心配やらかけまくるからこうしてんだろうが!!」

 もう一度、今度は反対側の頬を張るとこんな時だけ空気を読んで「二度もぶちましたね!?」などとほざく。こいつ本当はわかっててやってるんじゃなかろうな。

「次こんなくだらねー真似しても俺は助けになんてこねーからな」

「……なんという! それが勇者の言葉ですか!!」

 憤慨している女神の言をそれ以上聞いてやる優しさは生まれてこなかった。心配したのも迷惑したのも確かだが、ベルクには己のムカつき具合を説明できるだけの語彙がない。

「ぼくからも最後の忠告です」

 いつの間にかノーティッツが側まで来ていてベルクの隣に膝をついた。幼馴染は至極真面目な顔をして女神を見つめている。なるべく伝わる言葉をと、彼なりに気遣う様子が見て取れた。ついでに言えば、ありゃ女口説くとき用の顔だとも。

「女神さま、あなたはぼくらを助けすぎなんですよ」

「た……助けすぎ……?」

「ええ。あなたがベルクの自由を――ベルクらしさを奪っています。型に嵌め込もうとしたってこいつがすっぽり収まるわけないのに」

 そんな風に助けられたって勇者の風格なんて身につきませんよと諭す声は珍しく本気で優しい。こちらに説教をかますときはもっと喧しいのに。

「無理矢理勇者に仕立て上げようとしなくても、ぼくは十分こいつは勇者の器だと思います。なんだかんだ言ってあなたを見捨てられなかったのは事実だし」

「……おい」

「困った人は放っておけないし、勇気もあるし行動力もある。皆から頼りにされて、人を惹きつけるものを持っていて」

「……」

「ぼくはずっと、子供の頃から、ベルクみたいな奴を勇者と呼ぶんだろうなと思ってました」

 いやいやそれは話を盛りすぎだろうと思ったが、突っ込むに突っ込めずスルーする。凄まじい照れ臭さと居心地の悪さに表情筋は固まりまくっていた。

「……そう、でしょうか」

「そうでしょうか、じゃなくて、そうなんです。ぼくらはぼくらの力で旅をすることができます。だから」

「わ、私は……不要な存在なのでしょうか」

 かぶりを振ったノーティッツが女神に何を伝えんとしているか、不覚にも察してしまった。察してしまったらじっとしておれず、つい割り込む形で「おい」と声を張り上げてしまった。

「――だから、つまりだな。女神としてどうのこうのっつうんじゃねーんだよ。そうじゃなくて」

「そうではなくて……?」

「あー、困った時に助け合うぐらいの仲間がちょうどいいってこと! 導かれっぱなしじゃ俺らの立つ瀬がねーからな」

「……仲間……」

 女神はわかったのかわからなかったのか曖昧な顔をしていた。勇者を導かない女神というのが今ひとつ飲み込めないらしい。

「名前をね、教えてもらえませんか?それで他愛ない話をして、しばらく一緒に過ごしてみるんです。そうしたら少しずつ、あなたもこいつに任せてみようと思えるようになるはずです」

「……」

 ノーティッツの提案を受け入れてくれたのだろうか。女神は少し間を置いて「ウェヌスですわ」と己の名を呟いた。

「ウェヌスだね。了解」

「ふーん、案外普通の名前だな」

「ふ、普通? 天界では『ウェヌス』とは最も美しい魂に……!」

「まあなんでもいいけどよ。……あー、ええと」

「改めてよろしく、ってベルクは言いたいみたいだね」

「うるせー、黙れ女たらし!」

 ウェヌスの身体からはもうあの奇妙な発光体は生成されていなかった。それは彼女が女神であることを一時放棄した証であったのかもしれない。何にせよ、これでやっと自由意志のもと冒険することができそうだ。




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