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第1話「落下青年」

 みなさん、初めまして。 塩子将(しおこしょう)というものです。よろしくお願いします。 

 この物語は私のサイト内の小説に少し修正を加えたものです。

 お楽しみいただけたら幸いです。


 ――付き合っちゃおうか。


 桜の蕾も膨らみ始めた3月末、大学1年生としての終わりに彼は親しくしている女性から冒頭のような言葉をかけられた。

 大学の合コンから3ヶ月。そこには無理矢理付き合わされたものであったが、彼はそこで彼女と初めて会った。

 長い黒髪で、けばけばしくないナチュラルメイクで、白と茶色でまとめられた服装で・・・・・。

 いわゆる大人しそうで感じのいい女性であった。

 彼は『ある意味』女性とは縁が無く、携帯番号を交換するとか、何から喋ろうかという以前に、どう声をかけたらいいかも分からないような状態だった。

 そんな彼を見たのか、彼女は自ら明るく、はきはきした口調で彼に喋りかけてきた。

 すぐに親しくなり、そこでメール番号を交換し、以後ちょくちょくやり取りをするようになった。ちょうどこんな感じに。

 

 『やっほ~!今日も超授業だるかった~』

 〔まあ、そっちはあの話の長い教授ですからね(笑)〕


 『ちゃ~!この前は楽しかったよ!おごってくれてありがとう!!』

 〔いえいえ、大丈夫ですよw〕


 他愛も無いやりとりだが、生まれてこの方女性には全くいい思い出の無い彼にとっては、新鮮で心地いいものであった。

 たとえファミレスで全額おごろうが、クレーンゲームで無茶なお願いをされようが構わなかった。

 逆に彼は彼女に頼られることによって、自分は普通の男に成れた気がしていた。

 そして迎えた冒頭の言葉。もちろん、彼が出した答えは一つだった。

 「あっ、こ、こちらこそよろしくお願いします!!」

 

 今彼は、痛烈にこの言葉を、そして今までの行動全てを、後悔していた。


 その後、彼女の金遣いは荒くなり、男友達と遊ぶとかなんとかで、よく一緒にいないことが多くなった。しかし。

 「すっごーい!料理できるんだ~!」

 「パソコンうまいね!」

 などなどなど、その後に来るほめ言葉に、なんともいえぬ安心感を感じ、そのままにしていた。

 そして、彼女と付き合い始めて3ヶ月が過ぎたころ、彼は全てを分かった。

 来たことの無いお洒落なカフェで、彼女が少し席を外したときのこと。


  彼は、またか、と思った。

 このところ、彼女は突然「ちょっと用事」と言って、急にどこかに席を立って、そのまま2,3時間は帰らないことが多くなった。

しかし、彼も席をいつまでも占領しているわけにもいかないので、また彼女の分も全額払って、店先で待つことにした。

 もういつものことなので慣れてしまったが、やはり待っている間も通りで仲睦まじく手をつないだり、彼女に腕を組まれながら歩くカップルが少しだけ恨めしく、そしてとても羨ましく感じていた。

 (前は、こんな感じだったんだけどな……)

 頬杖をしながらこんなことを思っていると、、色白で華奢な自分とは正反対の、色黒で筋肉質な男性な男性がこちらに、突風を巻き起こしかねない速度でやってきた。

 「なあ! お前***と言う女、知らねえか!」

 「いや、知ってるも何も、その、そういう関係かどうか分からないけど俺の彼女ですけど……。」

 「はあ!? ……、いや、すまない。お前に怒ってもなんの解決にもなんねーよなあ………。いや、でもあの女と一緒にいたってことだしな……」

 「え、あの、どういう意味で……?」

 戸惑う彼を見て、男は苦虫を噛み潰したような表情で、事実を告げた。


 「簡単な意味だよ! あの女、男を何人も彼氏にしていて、逆不倫みてーなことをやってたんだよ! 生憎俺もその彼氏の一人ってわけ!!!」

 

 一息に、怒りを圧縮した声で男はこう語った。

 彼もまた、男とは違う冷気を含んださっきにも似た感情をかけている眼鏡の中の瞳から滾らせ、静かに言った。


 「……その話、詳しく聞かせてもらいませんか?」

 

 「ああ、いいけどよ……、お前、人相険しくなってないか……?」

 男は彼の般若のような形相に少したじろいだが、彼は別にハッ、と我に返ることもなかった。

 「……当たり前じゃないですか、せっかくまた一緒にいて楽しい人ができたのに……」

 やっぱり彼じゃないとダメだったのかなあ、と男に聞こえないように虚ろに彼は呟いた。

 さて、さきほどの男の話だと、事の顛末はこういうことになる。

 彼女、いや『あの女』は、いかにも女性に興味ありげな男性に付け入り、『彼氏』にし、甘い言葉や行動で、『彼氏』たちのご機嫌をとりつつ、彼らから実質上『貢がせていた』というものだった。さながら花で誘惑して蜜蜂たちをおびき寄せ、自分の利になるように図っていた、と。

 そのため、他の、男も含む他の『彼氏』と接し、機嫌をとりそこからまた『貢がせて』いたので、長く席を途中で外すことが多くなった――――

 

 「・・・・っつー訳よ、わかめの兄ちゃん。」

 伸ばしてる癖っ毛の髪のことか、と彼はむっ、としながらも大体のことは彼でも分かった。

 「じゃあ、俺達はだまされていたって事ですか?」

 「そうだ。もし兄ちゃんが賢いんだったら、一刻も早くあいつから離れて別の女の子を探せ。」

 あばよ、と、一通り喋り終えた男は、そのまま町の雑踏の中へ消えていった。

 外で話していたのもあってか、『あの女』が席を立って2時間が過ぎ、彼の手も少しかじかんでいたが、そんな事は関係なかった。

 「ごめんね~!待たせた~?」

 軽そうに喋りかけてくる『あの女』。安心感を感じていたその甘ったるい声も、腹立たしいものに聞こえて仕方ない。

 「ああ、待ったよ」

 彼はきわめて冷静にそう言った。

 「いや~、ちょっといろいろ」

 「川のほとりでさ、リラックスしながらゆっくりと、話さない?」

 いつもは『あの女』の言い訳に流されていたが、今回は彼女には『させる』猶予も与えず、彼は自分のペースに彼女を持ち込んでいく。

 本当は、血が滲むほど唇を噛んで、今すぐにでもナイフをその豊満な胸の中心に突き刺したかった。

 「………珍しいね。大葉君からそんなこと言うなんて」

 やんわりといつもの通り『あの女』としては笑ってみせたのだろうが、手元のハンドバックを握り締める拳は、固く握られて関節が白く浮き出ていた。

 「ああそうそう、二人っきりで、君がどこにも行かないように、ね?」

 彼は、いつも通りの表情のまま、ありったけの殺意と落胆を吐き出した。

『あの女』は、やはり一瞬いつもと違う、獲物に感づかれた、黒豹の細く険しい目つきになるが、すぐに「うん。分かった」と口角を上げながら二つ返事を返してきた。

 いかにも都会、といった風貌の表通りから少し裏に入ると、コンクリートで固められた川を中心に寂れたシャッター街とも言うべき、「元」歓楽街の中、彼と彼女は川の欄干に寄りかかっていた。何も知らない人々から見てみれば、黄昏のときを楽しむ初々しいカップルに自分達も見えていたであろう。が、今は状況が全く違う。黄昏の夕日が照らし出すのは、愛情なんて生ぬるいものでは無く、解れてしまったら即座に開戦してしまう、危うい罠の仕掛け糸だ。

 「こういうとこも知ってたんだ」

 「伊達にずっと一人じゃなかったからな」

 彼の口調が、いつもの優しく柔らかいものから、一気に厳しく刺々しいものに変わっている。

 「単刀直入に言う。俺は今日お前と別れる。だけどその前に、確認したいことがある」

 「なに?」

 何事も無いかのように、『あの女』はいつもの表情を崩さない。慣れてしまっているかのようにも見えるが、それほど多数の男を手玉に取ってきた、最低な女を象徴することでもある。

 「今までさ、何でこんなことしてきたわけ? あんたの周りに『彼氏』ならいっぱいいるのに、どうして全員『彼氏』としつつ、更に全員と付き合ってきたんだよ」

 依然として侮蔑と怒りが交わった、隠しきれない雪の中のマグマのごとき怒りは、彼の一言一句から次々とにじみ出てくる。

 そんな、ある意味大人ぶった子供のようなやり方の彼に、『あの女』はこう返す。

 

 「決まってるじゃない。そっちのほうが、私が得するからに決まってるでしょ」

 

 淡々と、粛々と。

 表情を崩さず『あの女』はそういった。

 「……………は?」

 「考えたら分かるでしょ? そんなんだからいつまで経っても、あたし以外の女に振り向くどころか話しかけられもしない空気のロン毛眼鏡君なのよ!」

 虫けらを嘲る顔で、『あの女』はそういった。

 「大体他の男もそうよ! あたしが拾ってあげなきゃ、童貞駄目男の屑どもばかりよ!! 感謝されてもいいくらいなのよあたしは!! 大義名分上でも『彼女がいる』ってだけでも救いになるでしょう? だからその分、あたしに会員費用みたいなカンジで『払ったって』なんの問題にもなんないじゃない!! むしろそんくらいで人の貞操長期間売ってんだから感謝しなさいよね!!! このクズ!!」

 人の心を踏みにじる、予想以上に最低な、最低の女としての模範を『あの女』は見事に体現した。

 欄干に背中をもたれかけ、カーキ色の今時のカーゴパンツのポケットに手を入れながら、彼はその話をじっと聞いていた。

 『あの女』が喋り始めてからも、怒りはあるものの、それなりに表情を抑えていた彼は、別段その姿勢を変えなかった。

 しかし、これくらいどうしようもないほど悪女であるから、彼は躊躇せずに決意することができた。

 この憎たらしい女、いや日本国に生きる全ての人民に効果がある方法を、彼はいずれ行おう、と。

 「よし、そこまで言われたなら仕方が無い」

 かえって開き直り、あえてこう言う。

 彼は、『あの女』の化けの皮の中身を見て、ひと時の間、時間を空けて口を開いた。

 「確かに、俺は流されるままに合コンという飲み会に参加してきた駄目なヤツだ。黒縁眼鏡で縮れロン毛の、冴えない男かもしれない。だけど、こんな俺でも、格闘技なんて一回もやったことも無い男でも、ある力は使える」

 そして彼は、その決意の内容を告げた。

 『あの女』のように、淡々と、なおかつ冷酷に。

 

 「裁判、しよっか?」


 「…………は、馬鹿じゃね?」

 『あの女』は素っ頓狂な声で先ほどと同じように、彼を罵る。

 「証拠だって無いのに、どうやってあたしを訴えるわけ!? ホント脳みその無い金づるね!!!」 

 彼は暴言に屈することなく、次の言葉をきゅっと一文字に結んでいる唇から紡ぎだす。

 「馬鹿はお前だよ。 証拠なら、ネットであんたに『彼氏』にされた人たちを集めて、そんで携帯に登録されている携帯番号と、メールなんかの送信履歴から調べたらすぐ作れる。たとえあんたが今までのメールを全て削除していたとしても会社なんかに持っていけばそこで解析できるし、なにより複数の男性に同じメアドがあるんじゃあ、言い逃れなんてできないしな」

 彼はさらに、『あの女』を冷静なる怒気ですごませつつ追い込んでいく。

 「それに、逆に言うけど俺に感謝しろよ。刑事裁判じゃなくて民事裁判であんたを突きつける予定なんだから。本当は、詐欺罪とか虚偽罪とかで逮捕されてもおかしくないレベルなんだよ、あんたは」

 「そんなうまくいくわけないでしょ!?」

 『あの女』も、さすがに冷静な彼の反論に、牙をむく余裕を失ってきている。

 「それが残念なことに、現代のネットワークは甘くないんだよなあ。実際、うちの大学のコミュニティーに聞き込みをすれば、そこから芋づる方式でホイホイ関係者が出てくるぞ」

 形勢逆転。

 彼は内心勝ち誇ったような雄叫びを叫び、会心の笑みと冷静な目で、かつて彼女だった『あの女』を見つめる。

 だが、不利に思われていた『あの女』は突然クツクツと笑い出し、耳のピアスに手をかけた。

 「何がおかしい?」

 彼は動揺している表情と声をどうにか押し殺し、目の前の狂気ともいえる表情を浮かべた人物を睨みつける。

 「いいえ、おもしろいのよ。あんだけ周りに流されていたあんたが、まさかここまで冷静に言えるとはね……」

 でも、と『あの女』は付け足す。


 

 「証拠を提示しようという人間さえ消えれば、どうにだってなるじゃない!!!!!」


 

 咆哮に似た言葉と共に『あの女』は耳のピアスを外し、彼に飛び掛ってきた。そのピアスは奇しくも、まだ親しかったころに彼が『あの女』に買った、銀色の羽をモチーフにしたピアスだった。

 彼は飛び掛ってきた『あの女』の腕を、彼の腕一本分の距離で掴み抵抗する。

 「く・・・・っ!!」

 なんとか抵抗しようとするものの、眼前には鬼気迫る『あの女』の顔が間近に近づき、歯をむき出しにして白目が充血したそれに恐怖を覚えた。

 「ほらほらぁ、そんなダッサイのハズシナサイヨォォォォォォオオオオオオ!!!!!」

 とても女性、それもまだ成人してから間もない人物の腕力とは思えぬ怪力で彼の掴んでいた最後の命綱の左手が解かれ、彼がかけていた黒縁眼鏡は、流れている川底に落ち、流れて見えなくなってしまった。


 ――――――――そして


 


 肉が 


 弾けて散って


 鮮血が


 撒き散って


 髪について― 

グチャアアアアアア


 「――――っあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」


 貫通。

 『あの女』が持っていたピアスが彼の左目に貫通し、肉と目の中にある液体を撒き散らしながら、彼の『肉』にまで到達する。

 熱した鉄の棒を無理やり押し込んだような、花火のように全身に広がる激痛によろめいた彼は、掴んでいた右手も離してしまった。


 


 そのときを見計らい、『あの女』は、


 「アッハハハハハ!!!!」

 

 彼を欄干から突き落とし、川ににごった水柱を作った。




 『………ユ…………ヤ……』



――ヒック、イタイ

  ――イタイ

   ――イタイヨー、ウェェェェン………。


 流れていく自らの眼球から、そしてそれがあった台座となる肉から流れてくる、もやもやとした血を見ながら、彼は沈んでいく。

 見上げる空は、汚い水の層がかかった薄緑がかった夕闇で。

 

 ――ケイクン

  ――ケイクン

   ――イタイヨォ、イタイヨォ……。


 朦朧とする意識と、動きさえままならぬほどの激痛の中、彼は生前に唯一「トモダチ」と呼べた、もう帰らぬ少年の名を叫び続ける。


 ――マタミンナガボクヲ

  ――ボクヲ

   ――ボクヲタタイタンダ…。

 

 何度も叫んだ、何度も泣き喚きながら口にしたことのある言葉が、頭の中で反芻される。


 呼んでは最初に戻り、呼んでは最初に戻りまたその繰り返し・・・・。

 彼がいつも泣きついたあの、年頃の少年にしては大きな腕も、いつも見下ろされるけど温かいあの目も、なでてくれる大きな手も、無表情だけど悲しんでくれるあの顔も。

 今まで失い続けたあの暖かさのある場所へ、何度帰りたいと思ったことか。

 そこへ、自分は、今行こうとしていることを彼は自分で思った。

 

 ――ケイクン

  ――ケイクン

   ――ボクヲオイテカナイデヨ……。


 今まで何度も悲しい時には思い出してきたが、最近は思い出すことも否定してしまった、あの無表情で巨体だけど優しい青年の顔。


 落ちる、堕ちる、オチテイク―――。


 彼は気づいていたかは分からない。

 だが、着実に、彼の周りには黒い、彼の眼から流れている血のもやを少し濃くしたような何かが集まっていた。

 彼にはもう、抗って5mの水深から這い上がる酸素も、体力も、気力も無かった。


 ゆっくりと、それは侵食を続ける。


 そして、そして――



 ◇

  時間は少しさかのぼり、彼が『あの女』をずっと健気に店先で待っていたころ・・・。


 「・・・だーーーっっ!!!!

 現在名と写真と目撃証言だけじゃ何もわかんねーよ!!!」

 「こういうときにお空ぷかぷか浮けたらいいのにね、ヘリウムくらいの比重になって」

 「ヘリウム?」

 「そー。ヘリウムは水素の次に原子量が空気より軽いから、ぷかぷか浮けるんだよ。」

 「……ストロベリー、そんなに一方的にお前だけ頭良かったらマジで俺へこんじゃうよ?」

 「へこまないで~!」

 どことなく、ほのぼのしてるんだか知的なんだか分からない会話をしている、親子のような大小2つの『何か』が、雑居ビルの貯水タンクに腰掛けていた。

 『何か』、というのはそれが人間のようで明らかに人間ではない、妙な外見をしていた。

 まず小さな『何か』から見ていこう。

 ボブカットの緑色の髪で、なにかぐるぐるした黒い模様が左側についていて、重そうなきつめではない二重の釣り目で上にとくにながいまつげが3本、下に2本ある赤い瞳とそばかすという顔立ち。

 そして彼女の腕二本分はあろうか、袖がとても長い赤いタートルネックのワンピースをきた、おおよそ8歳くらいの少女、という見た目の彼女は、先ほど呼ばれていた通り、『現在の名』をストロベリー、という。

 このストロベリーだけでも十分人目を引く格好をしているが、そのストロベリーと話していたもう一つの『何か』は、『現在の名前』をゴンというのだが、こちらのほうがおおよそ人間の常識の範疇から逸れた風貌をしている。

  服装は、ストロベリーとは打って異なり、白いシャツに黒のスーツのズボン、とここまではいたって普通だ。

 だが、ここからが本番である。

 まず、一目見て目を疑うような肌の緑色、その体の頭部には、右半分に手術をしたような縫い跡。左半分には、オレンジ色の髪の毛が居場所を取られたかのようにすごすごとそこに居座っているかのようだ。

 顔は、瞳孔と色彩が白黒で左右で違う目と、左半分にある頬の、ウサギにも猫にも見えなくも無い2本の突起とその上に丸い模様がある変なあざを除けば、そこそこ顔の整った釣り目の、おおよそ30才間近の人相。

 左腕の肘から手の末端がある部分にあたるところまで包帯でぐるぐる巻きにされ、先端で綺麗に結ばれている。

 極めつけは、通常風が吹けば、当然ズボンは足を通っているので、その足に引っかかり変な方向になびきはしない。ところが、ちょうど風が吹くと、通常膝がある部分から、風下に向かって上に下にとズボンがなびいてしまっていた。彼には、膝から下は足が無いのだ。

 外見からして見れば、これほど他人の目を引くようなのに、誰も彼らを見上げて見ようとはしない。空を見上げている少年も、その存在に気づかない。

 いや、違う。よほどのことが無い限り気づけないのだ。

 この2つの『何か』――もう避けた表現は無しとしようか――この2つの『幽霊』は、別に現世をさまよう目的で来てしまったわけではない。

  「でもさ、あんなに必死に言うってことはよほど金貢ぎこまされたんだろうな~」

 「嫌だよね~、どんな世界にも悪女はいるんだね~」

『幽霊』の彼らがするとは、人間からして見れば夢にも見ない人探しの業務を、料金先払い式で彼らは受け持っていた。

 『幽霊』が金儲け?と思う方もいるかもしれないが、彼らの住んでいる、俗に魔界と呼ばれる場所であっても、現代の通貨で物品が取引されたり、不動産の売買に賃貸、さらにガス代などを支払わなくてはならない。

 よく宗教画などで描かれるこんなことやあんなことなんて全然無い、ある意味夢の無い社会なのだ。

 話を元に戻そう。

 とにもかくにも、先払いで依頼を受けたからには、契約上、なんとしてでも遂行しなくてはいけないわけだ。そうしないと後でクチコミが悪くなったり都市伝説で悪いように言いふらされてしまい、客が来なくなるからだ。

 「ゴッちゃん、ゴッちゃん。ホントにこの辺にいるのかなあ?」

 「ヒントがこのくらいしか・・・・って、ああっ!!」

 ゴンが驚愕したその目先には、まさしく依頼人から『生死問わず』とまで念を押された、目標の人物が、ちょうど裏通りの川沿いの通路に、足取りがおぼつかないが、確かにそこを歩いていた。

 「ラッキー!!! ちゃっちゃと仕事終わらせようよ!!」

 早速仕事に取り掛かろうとしているストロベリーを尻目に、ゴンはそこと全く反対方向へと「飛び降りた」。

 足なんて無い彼にとっては、たとえ7階建ての雑居ビルから飛び降りても、振動を伝える足の裏が無いので、何の苦痛も感じなかった。

 それよりも、もっとまずいものがあったからだ。

 「・・・・・あの女、何かやったな・・・・!」

 独り言を呟きながらゴンは、川のある地点までついた。

 そこには明らかに、橋の欄干のさびがはがれており、真下の道路には血跡がいくつかついている。

 「どしたのゴッちゃん!?」

 その後を慌ててついて来たストロベリーが、肩で息をして膝に手を当ててかがみながら尋ねる。

彼は答える間も無いかのように、急いで生活排水などで汚染された緑色の川に躊躇なく飛び込んだ。

 どうやって泳いでいるかなんてさておき、ゴンが急いで飛び込んだ先には黒いもやが色濃くかかっていた。彼が予想していた事態と同じであるのだが、状況はより酷いものである。

 (やっべえなあ………)

 そのまま、彼はもやの中心にいる『何か』を伸ばした右手の感触で確認すると、そこへと包帯のような白い帯を近くのコンクリートから『作り出し』、それを『何か』の上部のくぼみを覆うように巻いていく。

 やっと巻き終わったのだが、まだそれでももやは収まらない。

 (くそっ、まだか!?)

 息継ぎをする必要などゴンには無かったので、そのまま作業を進める。

 近くのコンクリートからまた包帯らしきものを『作り出し』、今度は首に巻いていくと、ようやく黒いもやは収まった。

 その中から出てきたのは、年頃としては華奢で小柄な、天然パーマのロングの男性である。

 男性を発見するとすぐにゴンは彼を抱きかかえ、岸へとあがっていく。

 「ゴッちゃん!秋に水に入るなんて!!」

 「それどころじゃねえよ!ストロベリー、なんか出せない?暖房的なの!!」

 「えっとえっと、これでどうだ!!!」

 ストロベリーは両手を広げ、その中に『光』を集めていく。

 当然、そこには多大なる熱エネルギーを発生させるが彼女は気にしない。

 「この人大丈夫かな・・・?」

 「わかんね、無事だといいけど・・・・」 そしてゴンは男性を道路上に寝かせ、ストロベリーは手の中に集めた熱を、彼に程よくあたるようにする。

 ――ねえ、大丈夫だよね?

 ――最悪の一途よかまだマシさ。

 (ん、んん………)

 これは、夢? 幻?

 彼は、右片方しかないまぶたを開けていく。視界はまだはっきりとしない。

 ――あ!起きた!!!

 「おい、大丈夫……かって大丈夫の基準が分からないんだけど、とにかく大丈夫か!?」

 何ではっきりしない物言いで言っているのか分からないが、とにかく視界がはっきりしてきたのはいいことなのだ、普通は。

 しかし――


 彼は、今回はそれを見てしまったことを後悔し、なおかつ見えてるものを信じるわけにはいかなかった。


 まず片方しかない目を点にした。

 「よかった~、正気、みたいだね~!」

 緑の髪の女の子が、なんか光線を溜めていた。

 小学生くらいで悪い子じゃなさそうなので何の罪もないが、問題なのはその子が両手に、ランプとかでも電球とかでもない、正真正銘の『光のみ』をゼリーみたいに抱えている。しかも、さっきから自分をあれが暖めていたらしく、とても暖かったなんていう、結構戸惑いながらびびってしまう光景がそこにあった。

 だが腰を抜かすにはまだ早過ぎた。

 それまでの広さよりも少し狭まっているものの、ようやく全体像が見えたときには、点からさらに丸に目が変わった。

  右側に見えたのは、始めは何か緑色の箱か置物だと思っていた。上にオレンジの毛玉を乗っけて白色の布で巻かれてある、ただの何か変なものだと思いきや。

 「いや~! とりあえず、まあ精神的には大丈夫っぽいな」

 怪我は?と聞かれたので、焦点を合わせて見てみる。メガネが無いが、何故だかできていた。

 だが見た3秒後即座に後悔した。

 緑色の何かは肌で、左半分にしか髪の毛が生えていない、俗に言う白黒オッドアイの肌の色さえ間違っていなければビジュアル系の普通の生活スタイルです的な男、いやどう見たって肌が腐ってしまったゾンビが目の前で「よかった~、いちおう大丈夫か」と安堵の声をあげていた。

 (いやいやいやいや、ファンタジックマジカル少女は放っておけるが、これはないって!!! 神様!!! いくらなんでもあからさまにこれは無いって!!)

 顔のこわばりが出ていたのか、モロに目の前の危険人物(?)に勘付かれてしまった。

 「ねえゴッちゃん、この人なんか震えてるよ? まだ寒いのかな?」

 「いや、どうせまた化け物が目の前に存在するとか何とかで怯えてんだろ」

 結構自分の見た目について、ゾンビは理性的に捉えているようだ。

 だが、とゾンビはじっとこちらの顔を見て、なるべく刺激しないよう、物凄く優しく言うつもりなのだろう。しばらく「ん~」と熟慮した後、意を決めたように口を開いた。

 唐突に、こんな語り口で。

 「……なあ、幽霊って、信じてたか?」

 「はあ? ……、唐突にそう聞かれても…………」

 「えっと、あのな、幽霊…………ってか、俺達はな、その…………、特定のヤツじゃないと見えないんだが…………、あー、その、なんだ?・・・・んまあ………そういう特定のヤツの仲間入りというか…………ん、ん…………?」

 ゆっくりと。焦らず騒がず。

 重大なことを、話そうか話すまいか眉間にしわを潜めながら、そこに指を当ててどう話そうかとしどろもどろして、必死に何とか配慮しようとしているのは分かる。

 しかし、あまりにも曖昧模糊としすぎて、気を配られているこっちまでなんかもどかしくなってきた。

 「あの、配慮はうれしいんですが、単刀直入に言ってくださってかまいませんよ」

 ゾンビに気を使ってる自分もどうかしてるとは少し思ったが、目前のあまりのもどかしさに耐え切れなくなり言ってしまった。


 言ってしまったのだ。

 もう少し待っていたらゆっくりと受け入れることができたのに、できなくて言ってしまった。


 ゾンビは「あ、言っちゃっていいのか」とあっけらかんとした声を出して、眉間のしわを無くすと、何にもオブラートを包まずこう告げた。


 「えっと、簡単に言っちゃえば、君は死んじゃった、って訳」



 ――あっけなさ過ぎる。簡単すぎる。



 説明もさっきとは打って変わったどころか、シロップで飲んでた薬が、突然何の処置も施されていない漢方の粉薬になったぐらいの衝撃が彼の心にクリーンヒットした。

 それだけだったらまだ良かった。もし自分が70~80位の老人だったら、「ま、人生なんてこんなあっけないもんじゃよほっほっほ」で済ませられたが、生憎自分はまだ20なのである。酒もタバコも解禁して、やっと大人の階段を登れたのに、冗談じゃない。成人式すら終わってないんだぞ。

 「う、そ、だろ………」

 彼は、ただ目を見開き呆然とした。

 「ごめんね、お兄ちゃん。でもこれホントなの。私のことも見えるでしょ?」

 「え・・・・、まさか」

 目の前のファンタジック少女がオチを言う。

 「幽霊だよ。私も。」

 あまりにも突飛な展開に、彼はその場にへなへなと倒れこむ。

 嗚呼、なんて黒い星空。気がつきゃもう夜だった。

 それを見て、少女は見てはいけないものを見てしまった、不審者を見るかのような憐れみの表情で覗いてくる。地味に心にきた。

 信じたくない。信じられない。

 あんなことされて、挙句の果てに『あの女』に殺されて、んで今度は不思議不思議のゾンビと赤い少女の幽霊が、自分を引き上げて死亡通告して。

 なんだろう、人生の有終の美、って。

 有終どころか、あっけなさ過ぎる。


 というか、そもそもこんなことになったのは…………!!!


 コンクリートの黒い道路から跳ね上がると、二人(?)に少しお辞儀をしてから、彼はそそくさとどこかに行く。

 「おい、どこいくんだよ?」

 少し驚いたようで、目を少し見開き、ゾンビが手を伸ばして呼び止める。通常ならばホラー画像だが、以外にもゾンビの顔は、そこらへんのアイドル並みの顔立ちで、型崩れとか一切していないため、肌は緑色に腐っていても全く問題なかった。

 「…………助けてくださってありがとうございました。 確かに死んでどう助かったのかわかんないですけど、とりあえず黒いなんかから自由になれました」

 それでは、と振り向き、さっさと駆け出して町の中に消えていこうとしたが。

 「ま、待ってよ!ちょっと聞きたいことがあるんだよ!!」

 少女が、大切なものを聞きそびれていたようで急に彼を引き止める。

 「え、ストロベリー、なんかあったっ・・・・・あああっ!!」

 お使いの内容を忘れたみたいな感じだなあ、と彼は思った。

 それほど二人(?)は、驚いていたのだ。

 しょうがないので、少し歩いていた位置から歩いて、彼らのところまで行く。

 「あの、どう、したんですか?」

 「ねね、この人知らない? たぶんお兄ちゃんがいたほうから歩いてきて、それを見て走ってゴンちゃんが助けにいったんだけど・・・・!」

 少女の持っている写真に写っていた顔。

 偶然か、必然か。その顔には彼が殺意を持つほど見覚えのある顔で、できることなら今すぐにでもその中に映っているにやけた面を木っ端微塵にしてやりたかった。

 

 「名前は、確か現在だと***って名前らしいけど、…………何せ現住居に行ってもほとんど出くわさないしな…………。困ってるんだよな~、こっちも」


 間違いない。今から殺しに行こうと思ってた『あの女』、だ。

 「はは、はははは・・・・・」

 彼は乾いた笑みを浮かべ、約数名とうさぎとか馬とか犬とか動物しかなでたことの無い手で、少女をなでる。

 優しくなでたつもりなのだが、動きがロボットのようにぎこちない。

 「知ってるよ、思いっきり知ってますよお二方・・・・・。」

 「・・・・・大丈夫かお前?なんか、さっきとぜんぜん感じが違」

 「なんだぁ・・・・、狩る対象が同じだったんですか~、だったら話は早いってもんですよ~」

 慌てていたさっきまでの、流行のシャツやシルバーアクセサリーが板についていない初々しい青年が、なんか一気にどす黒くなった。

 と、ゾンビは足元に柔らかい衝撃を感じ、少しよろめいた。

 「えぐ、えぐ・・・・」

 ゾンビ、もといゴンが足元を見てみると、震えて泣いている少女、ストロベリーが泣きべそをかいていた。

 「うぐっ、怖いよ、ゴッちゃん・・・、ぐすっ・・・・・」

 「・・・・・・・よしよし。」

 包帯を巻いていないほうの右手でストロベリーをなでるゴン。

 確かに、ゴンがここ何年か仕事中に見てきた中では、地味で大人しそうな外見をしていても腹の中で恨みを人一倍持っていそうな青年である。これなら、あの黒いもやが一箇所に入りきれなかった理由も分かる。

 あまりにも強すぎたのだ、恨みつらみが。

 その証拠に、ストロベリーを話した後の彼は彼女が驚いて手放してしまった『標的』の写真を見て「殺す・・・・殺す・・・・・」とか怖すぎる微笑でずっと人差し指でさし続けていたのだ。

 とりあえず、ゴンは彼を『標的』の家までの道案内として道中一緒に居させることにした。でないと、本気で『標的』を祟り殺しかねない。

 そうなってしまうと、業務内容的にも法律的にももろもろ困った事になる。

 というわけで、「どうせ一緒に行くんだし」と名前を聞いてみると、ややぼそぼそめのほぼ吐息が混じっている声で「………大葉優也」と返ってきた。しかし、普段は面倒くさくてそんなに長く名前を言うこともないだろう、という訳でストロベリーは彼を「大葉君」と呼ぶことにした。

 「で、少し聞きたいんですが」

 「え? 何、大葉氏?」

 何故かゴンは『氏』をつけて彼を呼んだ。真面目に呼んでるはずなのに、ぜんぜんそう聞こえない。世間体的にはとても合っているのにそう聞こえない。

 後で「言葉って、ていうか日本語って不思議だねゴッちゃん」と聞き返そうかとストロベリーは心中に書き留めておいた。

 「あの黒いもや、って一体なんですか?」

 「やっぱそうきたか……」

 ゴンはまた困った顔をして、今度は自分の口から話そうとはハナからしないつもりらしい。

 「ちょっとストロベリィ~」

 「え~! またぁ~!?」

 俺アレ簡単に説明するの無理~、とか軽い感じでこっちにまた説明を振ってきた。大体、毎回のことであるが長ったらしい説明は、いつも彼女にさせるのが恒例となっている。

 「ゴッちゃんが説明すりゃいいじゃん!!」

 「こういう学術的なもの、こう、なんか言い切れないんだよ~」

 「……そんなにめんどくさいもの、なんですか?」

 「うん、少なくとも俺には無理」

 もう分かった。話す。


 ◇

 彼、大葉優也は早く『あの女』のところへ行きたかったのだが、ゴンに必死に止められた。

 浮いている足の間をくぐっていこうか、とも思ったが、どうやら彼らの住む『魔界』の法律に引っかかるらしいので、仕方なくついて行きつつ、二人にさっきの質問をボソッと転がしてみた。

 そしたら、ページ冒頭のようなやり取りになった訳である。

 思ったよりもややこしいらしく、何でかは知らないがストロベリーが歩きながらその旨のわけを話す。

 (さっき名前を聞いたが)ストロベリーは、目的地へと歩を進めながらしぶしぶと説明していく。

 「えっとね、まず、大葉君は何をされたの?」

 いきなり核心に迫るのか。

 優也はどきっとするが、何か大切なことでもあるのかと思い、先ほどまでのことを事細かに話した―――


 最初は、どうせ笑われるだけだとも諦めていた。

 ところが、歩きながらも彼らは表情は真剣なままで、ずっと聞き続けてくれた。

 静かに、ただ静かに。

 相槌なんかは全く無かった。自分の持論を言うこともなかった。が、逆にそっちのほうがいい。それだけ、なんとなく分かってくれているような気がして、話し終わった後には、なんとなく、少し心が軽くなっていた。

 傍から聞いたら暴言まがいのものや、戯言まがいのものも、まああったのかもしれないがただ静かに、ゴンもストロベリーも歩きながら聞いていてくれた。

 「……大変だったね」

 「最低だな」

 感想として、ただそれだけを彼らは述べた。

 「それだけの事だったら間違いないよ」

 と、ストロベリーが話の路線を少しづつ切り替える。

 「その、イタイイタイ、とか、イヤイヤ、死にたくないよー、とかの感情かな? それがアレの正体だよ」

 言い方が抽象的過ぎるが、彼女の言っていることはなんとなく分かった。

 先ほどまで考えていた、一般的には『甘え』の感情も、そうだとするとアレのうちに入る。

 「……で、それに取り込まれるとどうなるの?」

 「う~、悪霊って言ってね、言葉もろくに喋れなくて、昔の感情を、ずっとず~~~っと持ったまま考えとか、新しい感情が無くなっちゃうの」 

 こっからはゴッちゃんが言ってよ、よく分かるでしょ? と、ストロベリーはゴンに話を持ち返す。

 ゴンのほうは、街路を歩きながら少しめんどくさそうに彼女を見下ろした後、肩が下がるまでため息を深くつき、気だるそうに話した。

 「……つまり、地縛霊っつーやつだな。ずっと動けなくなって、恨みを晴らすために生きてる人間を襲う典型的なアレだよ、うん」

 話している本人自身で納得しながら話されても困る。

 そこで、最終的に優也は自分自身に言い聞かせるのも含めて、話の内容を確認してみる。

 「えっと、つまり俺はあそこで引き揚げられていなかったら、よくある人を傷つける霊になっていた、ということですか?」

 「それが一番あってるよ」

 ストロベリーが呑気に下から円を腕でかたどっていた。

 だとしたら思った以上に大変になっていて、無関係な人も巻き込んでしまいかねないかもしれなかった、ということか。

 優也は、改めて背筋に寒気を覚えた。

 そう意味での助かった、かよ……。

 そういった類の話をしながら、横断歩道を(律儀にも)信号を見てわたり、時々ストロベリーが「お腹すいた~」とか言いつつも、

 「着きましたよ」

 「ふぇ~! ずいぶん豪勢な家に住んでるんだなアイツ」

 「マンションってこんなにおっきかった?」

 繁華街が近いこともあって、この近辺は住宅の相場が高いことでも有名である。

 そこに高級感を上乗せした、茶色を基調とし、玄関には住民しか入れないようにロックが設けられており、その先には4台ほどのエレベーターと、洒落たライトが橙色の光を発している。

 彼は何回かそこに来たことはあったが、自身の住んでいるアパートと全く違うので見慣れてはいない。

 だが、見ると気合がいっそう増してくる。


 「ここが、あなた達の狙っている奴さんの家ですよ」



 「しっかしでっかい集合住宅だなこりゃ。どんだけ家賃高いんだ?」

 「たぶん自分じゃなくて他人の金から払ってると思う」

 優也は忌々しげに答えた。

 「てか、仕事ってどんな用件なんです?」

 「大葉君みたいな人が、その女の人を懲らしめてほしいって!」

 「金額もすごいぞ~、諸費用とか込でも全部で10万くらい貰ったし」

 (確かにそのぐらいの価値があるな)

 そしてロック前に着いたはいいが……。

 「……どうやって入るの!?」

 そこの問題があった。

 ここは、鍵を持っていない部外者は住人にインターホンを鳴らし開けてもらうか、ここに住んでいる住人が通り過ぎるまで待っておかないとあかない仕組みのドアである。

 と、二進も三進も行かない状況下で、普通にストロベリーがガラス扉をすり抜けて、楽々とドアの奥へと入っていく。

 「簡単なことだよ大葉君、幽霊なんだからさ、『すり抜けちゃえば』いい話だろ」

 「幽霊って、やっぱこういうことできるんですね」

 「ま、物質に普通に突っこんでいけばこうなるけど、逆に言っちゃえば物質に取り付かない限りこの世のものは触れられない、って事」

と、そんなことをだべりつつ、彼はひょいとガラスのドアを難なくすり抜けた。

 優也も恐る恐るではあったが、突っこんでみると、暖簾を押す感覚で難なく通れた。

 「こんなことできるなら何でさっき横断歩道渡るとき、普通に通り抜けなかったんですか」

 「ストロベリーの情操教育及び社会道徳上の問題に決まってんだろ!」

 「じゃあ不法侵入は!?」

 「それとこれとは別問題!!!」

 幽霊ってよく分からない。

 やがて、エレベーターが到着した。

 「さっき物質には触れられないって言ってましたよね……?」

 不安そうな表情の優也を、得意げそうな顔で見ているストロベリー。

 「それがやる方法があるんだよ大葉君!」

 そう言い切ると、彼女はボタンに指を置いたかと思うと、途端に吸い込まれていった。

 「!?」

 優也が驚き、ゴンが平然と見ている間にいつの間にか上に行くボタンにランプがついていた。と同時にストロベリーがボタンからぬるっと飛び出してきた。

 「終わったよー」

 効果音がつくなら、小学校低学年の少女らしく、きゃいきゃいといった笑顔でゴンに駆け寄る。

 「え!? ……今、まさか!?」

 「そ、物質に『憑いて』、そこから動かせるやり方だな」

 もう何でもありである。

 ようやくエレベーターが来て、普通にそこに乗り込む――――

 が。

 「……さっきの法則から行くと、エレベーターの床からすり抜けることになるんですけど」

 「その辺は安心しろ。不思議なことに、横にすり抜けられるくせに縦、つまり上下にはすり抜けられないんだよ」

 なるほど、微妙にめんどくさいゲームのような構造か。確かに上下すらすり抜けられたらそもそも地上にたっていられなくなる。

 エレベーターに乗り、またストロベリーが階数が表記されているボタンがある操作盤の中に入っていったかと思えば、『あの女』の部屋の階のボタンが光り、ゆっくりとエレベーターは上昇を始めた。

 「いや~、でも本当に助かったよ大葉氏!」

 「いえ、いいんです」

 そしてエレベーターは次第に速度を増していき、やがて小気味良い、高い音がした。

 

 「さて、やる方法なんだが……」

 あの女の部屋の扉の前に着き、ゴンは少し眉間にしわを寄せため息をふうっと吐き、今夜の『仕事方法』について思案する。

 「どうする?」

 「けちょんけちょんにしないと、貰ったお金の分の仕事じゃ無くなるもんねぇ………」

 「先払いの分?」

 「ほら、わかんないかも知んないけどさ、貰ったら貰った分の働きをするのが上等かと」

 割りにあわせなきゃな、とゴンは付け足した。こんな滅茶苦茶すぎる人たちにも、理念みたいなものがあったのか。

 ふと、優也は何かアイデアらしきものがぴんと来た。

 そして、その結末を予測した途端、口角を少しだけ上に上げた。

 「あの、二人共。少し、提案があるんですが」

 「ああ、大葉君は確かに恨み十分だしね。何何~?面白そうなの~?」

 よし、ストロベリーは食いついてきた。

 ゆっくりと、優也は(彼の思う)幽霊らしく、正気は無いが冷たくぎらつかせた眼で、こう語りだす。

 「あの、サウンドホラーって、ご存知ですか―――」



 ◇

 「んでさ~、まじうっとうしいからそいつ振ったわけー」

 『え~! またあ~!?』

 「振ったときに訴えるだの何だの言ってからチョー気持ち悪かったよソイツ」

 『あ~分かるぅ~!! なんかさ、ねちっこいやつに限ってそういう手使うよね~!!』

 「マジ困るし!」

 『てかさ、あんた大学入ってから一層ヤバくなってない!? どうやってそんなに男捕まえられんの!?』

 「え~、肌ちょい白くしただけだしー!」

 街灯の明かりが、彼女がもたれかかっている窓から、闇を照らす午前1時。

 散らかった部屋の中で、彼女は友人と話しながらテレビをつけ、食後のプリンを食べている最中だった。

 プリンの置かれたテーブルの傍らには、ティッシュで包まれた何かがあった。

 それは、明らかに紅く染まっているにも関わらず、どこか硬い金属のような形と、歪にへしゃげたような「何か」が浮き出て見える。

 通話をきった後にそれを見つけると、おもむろに彼女はティッシュごとそれをくるんで、ゴキブリでも捨てるかのごとく親指と人差し指だけでつまみ、急いでゴミ箱の中に捨てる。

 そう、彼女ないしは『あの女』は、ほんの、たったほんの数時間で普通の生活に戻っていた。

 普通に友人と何事も無かったかのようにくっちゃべり、暢気にテレビを見て、あろう事かものすら食べられる精神状況にまで回復していた。

 いや、回復したといえば多少語弊がある。そもそも『あの女』は、あの一件にショックなんぞ微塵も感じていない。

 あるのはただ邪魔なやつがいなくなった、ただそれだけが彼女の愉悦感の中にあった。

 そういったわけなので、今彼女が捨てた、彼からの贈り物の内の一品と「彼の体の一部分」は本当に戦利品とかでも何でもなく、ただのゴミにしか過ぎない、というわけである。

 今、彼女が「彼」と過ごしたとはっきり分かる証拠は、他の幾つものアクセサリーと、大量にゲームセンターで取ってもらったぬいぐるみのみ。

 彼とメールしたという証拠も、送ってもらった誕生日プレゼントの中の手紙も、彼が心をこめて伝えようとした誠意というか言葉や思いは、全て捨てた。 

 彼だけでなく、大体そうして過去を、他の男を飽きたので捨てて、また別の男を探すというのがいつものスタイルだった。

 そんな最低な彼女は、自らの所業のせいで彼が永遠にこの世からいなくなった、という事実の中にいてもさほど動揺もしないし焦燥もしない。

 ピーンポーン

 「え?」

 こんな時間に誰なのよ、と彼女はいらだたしげにそそくさとドアに向かう。

 鍵を開け、メイクも落とした顔で応対に来て、玄関先に出る。

 「はい、どちら……?」

 しかし、そこには誰もいることは無く、ただ外の暗い景色が広がっているだけである。

 「は……?」

 何かのいたずらか、それとも聞き間違いか。

 いずれにしても、自分のことを棚にあげて悪趣味だと思い、また先ほどまでにいた部屋に足取りも気だるく戻っていく。

 と。

 カチャカチャカチャカチャ……

 戻ろうとしたその矢先に、突然食器棚が激しく揺れ始めた。扉からは食器が触れ合う音がせわしなく聞こえる。

 「今度は地震!?」

 慌てて、彼女は情報を確認しようと携帯を撮りに部屋へと走っていく。

 バヂィィィィィィ

 「きゃっ!」

 やはり地震の後であろうか、予想通りブレーカーが落ちてしまったらしく、ろくに明かりも見えないのでどこに部屋があるのか分からない。

 「あ、ああ……」

 次々と起こる現象に、いつ何がくるのか分からないので本能的に彼女はへたり込む。

 その後も、次々と暗闇の中で物音が立て続けに聞こえる。

 触ってもいないのに聞こえる携帯のボタン音、水流に押されてヘッドを叩きつけられるシャワー、ドアを叩く音、そして――――チャイムの音。

 ピーンポーン………

 (どうせいないんでしょ!?)

 自分にこう言い聞かせ、何も見ない体裁をとる彼女だが、どんどん物音は酷くなっていく。


 チャイムが鳴るシャワーが出てる携帯鳴ってる食器揺れるドア誰か叩いてるチャイム鳴るシャワー出る携帯鳴る食器鳴るドア叩いてるチャイムシャワー携帯食器ドアチャイムシャワーケイタイショッキドアちゃいむしゃわーけいたいしょっきどあ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ


 「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」

 暗闇の中で鳴り響く音に、彼女は耐えかねず絶叫した。

 そして、放心状態になりながら、体の周りに黄色い液体をがくがくと震えながら範囲を広げていかせている。

 「なっ、らによもう! ひ、ひるなら、いるなられへきなさいよぉぉぉぉぉぉ!!」

 ろれつも回らぬほど動揺した脅しを聞くと、周りの騒音が一気に静まり返る。

 と、短く一回チャイムがなる。

 恐る恐る、やっと訪れた静寂の中で、彼女は股下にしみを抱えながら、受話器をとる。

 「だ、だれよ、あんた………」

 

 『や、元気にしてた?』


 何事も無く、ただ遊びに来ただけ。

 そんなスタンスで話をするのは、間違いなく夕方に殺した男の声。

 「ああっ……ああああああ!!!!!」

 『駄目じゃないか、人を殺したりしちゃ。お陰で俺が天国にいけないよ?』

 笑いながら話す、あの女々しい部分のある男の声が、彼女の心に鉛のように今更のしかかってくる。

 『悪いことをしたらどうなるか知ってるよね、***さん?』

 震えて足も立てなくなり、意識も遠のいていく間に、最期を迎えた彼からの言葉が、右から左に流されていく。


 『人を呪わば穴二つ。もちろん、殺した場合も、ね』

 


 ◇

 さて、どうやってこれが実現されたかと言うと、話は彼女が気絶する30分ほど前にさかのぼる。

 

 「こんなんでホントにできるのー?」

 ストロベリーが、『あの女』に気づかれないように家に入り、食器棚の横にスタンバイする。本当に教えてもらった方法で、10万円相当の働きができるのかどうかさながら疑心暗鬼、といった口調である。

 「いや、でもこんなの復讐系の仕事じゃやったこと無いから、案外楽しいかもしれねーぞ」

 楽しそうに笑うゴンは、お立ち台を用意しブレーカーの前に立つ。

 「こっちも大丈夫です。でも、あんな離れ業できるんですか?」

 「なに、さっきの取り憑くのと原理はおんなじだ。ただ念じていりゃあいいだけさ、初心者には難しいけど」 

 簡潔にそう伝えられても、とは思ったもののそれ以上の求めたい答えと言うのも特になかったので、二人に開始のゴングを鳴らす。

 ピーンポーン…

 優也はチャイムに憑依し、チャイムを鳴らすと予定通り『あの女』がこっちに近づいてきた。

 「はい、どなた……」

 当然ながら、彼は現在チャイムの中に身を潜めているため『あの女』には何も見えない。

 いぶかしみながら渋々ドアを閉めていく彼女を見ると、今度はストロベリーが食器棚の中から身を激しく揺さぶり始めた。

 『うぇーーーーーい!!!!!』

 思いのほか揺さぶりすぎているため、少し食器が落ちてきそうで見てるこっちがハラハラする。

 「今度は地震!?」

 『あの女』が勘違いし、部屋へと走ってくところを見て、今度はゴンがブレーカーの中から電源を落とす。

 バチィ、と音がして辺り一面は全部暗くなり、『あの女』からして見れば地震で起こった停電にしか見えないかもしれないが、それでいい。

 「うーしストロベリー!! そのまんまそっちにある携帯弄繰り回せー!!!」

 と言うと、ゴンはブレーカーから飛び出してシャワーをかけっ放しにして放置する、いわば「暴走状態」にしたままで、廊下から居間に差し掛かるドアに入り、しきりに叩くような音を出す。

 優也も、しきりにチャイムのベルを鳴らし続ける。

 すぐに効果は現れた。

 『あの女』は無様にもしゃがみこみ、身動きが取れない状態になっていた。

 そして耳をふさぎ、顔をうつむかせながら小刻みに震えていく。

 『ゴーッちゃーん! なんか効いてるみたいだよー!!』

 『意外と楽しいなこの状況!!』

 確かに、なんとなく幽霊的な楽しさがあった。人が驚いてる傍で脅かせて、なおかつ気づかれないなんて何ともそれらしい事でちょっと彼は楽しかった。

 だからといって、ここで笑うと『あの女』と同等に成ってしまうので笑わなかったが。

 そしてついに『あの女』は白旗を揚げたらしく、絶叫を上げ股に黄色いシミを作っていた。

 「なっ、らによもう! ひ、ひるなら、いるなられへきなさいよぉぉぉぉぉぉ!!」

 もう十分にろれつも回っていない。

 身震いするその様子は、ただの悪女ではない、俗に言う「廃人」という存在に近かった。

 『うげー、漏らしたー!』

 『ストロベリーはやんないよなー』

 『うん、おねしょもやったこと無いよ!』

 『実際やってないもんな~』

 どうやらこの二人、一緒に寝るほど結構仲はいいようである。

 ほのぼのした光景を尻目に、優也は最後の仕上げにチャイムを鳴らす。

 憎たらしき『あの女』は、滑稽なまでにふらふらになり、よたついて応答をやっととる。ここまでくると、もうまともではあるまい。

 そして受話器がとられる。


 「だ、だれよ、あんた………」

 

 『や、元気にしてた?』

 

 怒りを押し殺しながら、必死に歯を食いしばり、いつも通りの『あの女』に話す、典型的な優男スタイルで口火をきった。

 「ああっ……ああああああ!!!!!」

 『駄目じゃないか、人を殺したりしちゃ。お陰で俺が天国にいけないよ?』

 本当は怒鳴りたいが、そんな事をしてしまっては威力が下がってしまう。

 なので、彼は軽い調子で感情をなるべく入れず喋っていく。

  『悪いことをしたらどうなるか知ってるよね、***さん?』

 そして『あの女』のあえぎ声すらしなくなると、ざっくばらんと、残酷にこう言い放つ。


 『人を呪わば穴二つ。もちろん、殺した場合も、ね』



 それから数分後……。


 三人は、まだ夜が明けていない警察署前にいた。

 「やっぱり幽霊だから人に取り憑いて、操ることもできるんですね~」

 「これは結構常套手段だぞ、こういうのじゃ」

 「てか、最初からこうしたらよかったんじゃ……?」

 「相手が無意識じゃないとさっさと乗り移れないんだよ~」

 『あの女』が気絶した直後、ゴンはまずその体に乗り移り、そして操りながら警察署まで連行していった。

 どうやら憑依している体と色々と繋がっているらしく、行ってる最中に「股が気持ち悪い」だの「恥ずかしい」だの不平不満を漏らしていたが、(実質)『あの女』に自白をさせるときには結構乗り気で廃人を演じていた。

 「わ……だ、じは、ひ……どをごろ、じまし、た」だの「あ、あのひ、とが……!!あの……人が………!!川か、らわた、じ、を、あああああああ!!!!!」とか言ったときには、腹がよじれそうになった。

 警察も、疑うような目と軽蔑の目を持ちながら接し、そして「ちょっと署で話を聞かせていただきましょうか」とお決まりの台詞を言われた途端に、ゴンは体からしゅるっと抜け出した。

 そして今にいたる。

 「……仕事って、こんなのが殆どなんですか?」

 彼がそう尋ねると、ゴンはいやいやいや、と苦笑いをしながら首を振る。

 「こんなのはまだ安全なほうだ。ホントに危険なのは、大葉氏みたいなのが悪霊になって、それを退治する仕事だ」

 「元人間だった、なんて概念は捨てなきゃいけないし、その人がどんな人生を送ったのかも考慮に入れながらやってたりなんかしたらすぐ死んじゃう」

 「幽霊って、死んでるのに?」

 「正確に言うならば、魂及び存在の消滅、ってとこかな? 幽霊じゃなくなって、また一から新しい人生を全部の記憶をなくした状態で始めるんだ」

 それっていい事なんじゃ、と言いかけたが、すぐに思いとどまった。

 なぜなのか、言いたいことはよく分かっていた。

 「全部忘れちまうんだ、嫌なことも良かったことも、大好きな人の存在、好きだった景色も何もかも」

 寂しそうに呟くゴンは、俯きながら深くため息を吐いていた。さっきまでの元気さとは大違いで、気づけば横のストロベリーも同じ顔をしていた。

 「だからね」

 重たくなっていた空気を、赤い苺の少女の幽霊は切り裂こうとした。

 「やりきれなかったこととか、面白いこととかをこんなんになってもやってみよう、っていうのが殆どの幽霊の心情ってわけ!」

 「やりきれなかったこと……?」

 つまり、この体のままだったら、ある程度の体験は可能になる、ということか。

 ふと、さっきまで心の中で叫び続けた、大切な「トモダチ」の存在が優也の頭の中をよぎった。


 ―――彼も、もし同じ事になっているなら、また逢えるかもしれない。


 そんな淡い希望が、彼の中に芽生えた。


 「あの、ちょっと、頼みごとがあるんですけど」

 「ほえ? 追加制裁?」

 「いや、そういうことじゃなくて……」

 おごがましいか、とも彼は思ったが、思い切って言ってみることにした。

 「あの、探したい、人がいるんで、その……、見つかるまで」

 「家において欲しい、ってこと?」

 楽しそうに微笑み、こちらにゴンは身を乗り出してきた。

 「別に大丈夫!! うちは狭いし、飯もそんなに俺は作れないし、色々散らかっているけれどそれでよければ!!」

 「ふ、ふぇ?」

 楽しそうに笑いながら両手を広げ早口でそういわれ、もう優也は何が何だか分からない。

 想像以上、というか想定外なまで、ゴンはぐいぐい話に食いついた。

 「別にストロベリーも平気だろ!?」

 「ぜんぜん大丈夫むしろAll right!!!!」

 途中から英語になっているが、とにかく嬉しそうなのは見て分かった。

 「とりあえず、仕事は一切そっちに回さないから好きに使ってくれていいぞ!!!」

 「あ、はい、ありがとうござ」

 「遊んでー!!」

 「早速!?」

 何がともあれ、「他人からこんなに話しかけられるのはトモダチ以来」という困惑と嬉しさを感じながら、一応身を、彼らのところへ寄せることにした。



    To be continued……

 ええっと、文法とかが支離滅裂だったらすみません。ここはただの「はじまり」であるので、物語が進むにつれて雰囲気がいろいろ変わりますが、また次回も読んでいただけたなら幸いです。

 それでは、今回はこれで。

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