伝言少女の切なる願い
GREEにて望月名義で投稿させていただいた短編小説。「伝言」がお題の小説を書くというイベントに参加させていただいた際に書いたものです。
痛みという感覚さえも忘れて、私は悠斗を見つけ出すために町を駆け巡る。心当たりはすべて当たった。いつも"三人"で過ごした高校の側の神社も、夏になったら必ず訪れた河川敷も、よく待ち合わせ場所にしていた喫茶店も。
――あの日、運命を唐突に変えた高校の屋上にも。
無論、悠斗の家にだって行った。彼の母親がいたけど、案の定見つかることなく家を詮索できた。けど、どこにも悠斗はいなかった。
「――馬鹿悠斗!」
商店街を走りながら、私は声を張り上げる。振り向く者は一人としていない。
「……さっき歩道橋から道路覗いてる茶髪眼鏡がいてさぁ――」
ふと、騒然とした会話の中から、そんな言葉に意識を絡めとられた。人混みをすり抜けていた私は、はっと足を止める。
「――自殺しちまいそうな感じでさぁ、マジあの顔には吹いた」
デリカシーの無い発言だと心の中で叱咤しながらも、茶髪眼鏡という特徴に胸騒ぎを覚える。髪を茶色く染めたくせに、眼鏡をかけているから真面目に見えるのは、悠斗の特徴だ。ありきたりな特徴かもしれないが、砂嵐のようにざらつく思いが"自殺"という言葉を伴って胸を支配する。
「……自殺なんて単語を軽々しく使ってんじゃねーよ!」
相手には聞こえないだろうから、強気になった私は喉が張り裂けんばかりに叫ぶ。それと同時に両足は、近くの歩道橋目指して一目散に駆け出していた。
気付いてもらえなかったらどうしよう、という思いは杞憂に終わった。
「彩萌……、何で、お前が、ここにっ……」
私の方を見て早々、悠斗は顔面蒼白で私の名を口にした。予想通りの反応でちょっとだけほっとする。
「何でもなにも、伝えたいことがあったからよ」
私は当然のことのように言い、腕組みをする。あれだけ走ったのに一糸乱れぬ息には、我ながら感心した。
悠斗は相変わらず狼狽えたまま、私を力なく指差して首を微かに振る。
「……何でっ……だってお前は――"死んだ"はずだろ?」
「……そうよ。私は一ヶ月前、屋上から飛び下り自殺しようとした一樹を庇って死んだ。だから何?」
ふてぶてしい態度で接しているが、その実不安で胸は張り裂けそうになっていた。友人と言えど、私は亡霊だ。怖がらないはずがない。
「だから何って……お前、強がりな性格は死んでも治らなかったんだな」
「なっ……。人を馬鹿にしてんのか!」
不意に悠斗が吹き出し、その頬に血色が戻る。相変わらずな様子に、安心してしまう。
「そんなことより、伝えたいことがあるの。真面目に聞きなさいよね」
「はいはい。……うん、で何だ?」
深い呼吸とともに、表情を引き締め悠斗は神妙な眼差しで私を見つめる。
「……私、恨んでなんかないから。二人のことは。私の命と引き換えに、一樹が助かったんだもん。それで良かったんだって、私は思ってる」
「……彩萌」
泣き出しそうな情けない悠斗の顔を笑顔にしたくて、私は無理矢理口角を上げる。
「後悔なんてしてない。だから、二人には精一杯生きてほしいの。これは、私からの伝言」
私は悠斗へ歩みより、手を伸ばせば触れられる距離まで近付く。
「悠斗。自殺しようなんて考えないで。死に近付いてるから、あんたには私の姿が見えてるのよ」
「……なっ。死のうなんて、俺っ!」
言葉に詰まる。悠斗は引け目を感じているかのように視線を反らし、声から力を抜く。
「死ぬんじゃないよ、馬鹿悠斗。伝言、伝えたから。生きて、ちゃんと一樹にも伝えなさい、よね――」
言葉を吐き終えた瞬間、視界が歪み、悠斗の姿がぼやける。
「……彩萌? 彩萌!」
唐突に、悠斗が私の身体をすり抜ける。
――良かった。私の言葉で、悠斗は死から遠退いてくれたんだ。
嬉しいことなのに、良いことなのに、私の瞳からは熱い雫が際限なくこぼれ落ちる。
「……悠斗。伝言、頼んだよ」
聞こえもしない言葉をひっそりと呟いた後、私の身体は空気のようにふわりと軽くなった。




