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六文銭の蒸気機関車  作者: 神楽堂
1/1

タイトル未定2026/01/08 14:55

  六文銭の蒸気機関車


                 神楽堂




 一九九五年三月二十日、忙しなく人々が動き続ける霞ヶ関駅から日比谷線に乗り東京駅に向かう。今日は上京した以降初めて実家に帰る日だ。家の相続に関することで親父とは半ば喧嘩別れのような状態で別れたのだが、俺が東京の仕事場で出会った女性と結婚する運びとなったので報告もかねて相続のことを決めようと思っていた。

実家は長野だったのだが俺は田舎特有のかったるい近所づきあいやあまりにも不便な実家に嫌気が差し、大学卒業と同時に家を出て東京の出版社に就職した。今思い返すと若気の至りということもあったのだろうが気の合う女性と出会えたから結果的にはよかったと思っている。

彼女とは会社の社員面接の際に初めて出会い、社内で部署が同じだったこともあり割かし早期に交際をはじめ、この度晴れて結婚することとなったのだ。彼女は俺と同い年で顔立ちがよく、一つ一つの振る舞いに気品があり、家事も人並み以上にできる、正直田舎から出てきたばっかの俺みたいな若造にはもったいないほどのいい妻だ。

そんな彼女のほうはというと流石に結婚の報告ともなるといつものようにはいかないようで、緊張しているのが見て取れる。

それにしても便利な時代になったもんで、俺が子供の時には東京に行くための交通機関が一切整備されておらず、上京など夢のまた夢であったのに、今は北陸新幹線が開通したおかげで長野駅までとはいえ二時間弱で行けるようになったらしい。本当に便利になったもんだ、と感心しているとどうやら東京駅に到着したらしい。少しの荷物を持って日比谷線を降りる。少し臭いな。

特に意味はないが東京駅の正面に二人で出てみる。これから出勤だ、という人の波で駅舎の形がおぼつかない。なぜか気まずく感じられたのでそそくさと新幹線が止まるホームへと向かう。改札へ向かう途中、はぐれないようになどと適当に理由をつけて彼女の手を握る。途端、彼女の手が氷のように冷たく感じられ、全身が解けるような感覚に包み込まれた。

永い眠りに浸っていたような感覚が全身を襲い、あまりの居心地の良さに逆に目が覚めてしまった。気が付くと長野駅に俺はいた。

さっきまで東京駅にいたのにこれは一体どういうことだ…?などと考えていた時にあることに気が付いた。さっきまで隣にいたはずの彼女がいないのだ。それどころかいくら都心から離れているとはいえ近年発展を遂げ、観光地化した長野駅そもそもに誰も人がいないのだ。がらんと空いた構内ホールに対して行き場のない疎外感と違和感に少し恐怖にも似たようなものを感じていた時、すぐ後ろか、それとも声も届かないような遠くから誰かに監視されているように思われて大慌てで後ろを振り返ると帽子を深くかぶった駅員が凍てつくような目を向け、あからさまに作られたような笑顔でこちらに手を差し向けていた。

「切符を拝見してもよろしいでしょうか?」

 恐ろしく掴みどころのない高くも低くもない不思議な、そしてどこか安心できる、それが逆に怖いような、そんな声で俺に向かって話しかけてきた。俺が切符の存在がわからずあたふたしているともう一度、

「キップヲハイケンシテモヨロシイデショウカ?」

明確な恐怖を感じて、急いでポケットに手を突っ込むとそれらしきものがあったのでやけくそで差し出すと駅員はそれを受け取り、おもむろに俺を案内し始めた。駅員についていく間今の状況について考えることにした。

ここはいったいどこなのか、彼女は一体どこに行ったのか、そもそも東京からここまで本当に新幹線できたのか、駅員は果たして本当に人間なのー

「到着です。こちらの蒸気機関車にご乗車ください。」

 目をやると、それはそれは立派な蒸気機関車が、そしてホームには幾人か人が見える。

 一、二、三、、、十四人か。

 まもなく汽車が発車しそうだったので少し急ぎ足で乗り込む。乗車した瞬間さっきまでいた人たちが見えなくなり、なるがままに座席に座るといつの間にか正面に軍服を着た恰幅のいい若そうな男性が座っていた。

「あんた、何処からお越しで?」

男性は俺に向かってそう聞いてきた。東京駅から今までのことを話すと、

「へー、そうなのかい。東京はさらに発展したんだなあ」

というのでどうやらあまり東京にはいかないようだ。男性の話を聞いていると、どうやらこの男性は第二次世界大戦に出兵をしていたらしい。

「俺は大戦のときにはあちこちを戦いながら

周ってな。あんまりにも生きて帰ってき続け

るもんだから上役には嫌われているのは感じ

ていたよ。本気で戦っていると思われては、

いなかったんだろうな。ま、合っているっちゃ合っているんだけどな。そんなもんだからとうとう特攻隊に選出されちまってよ。まあ故郷なんかに思い残すことなんてクソほどもなかったんだけどよ、ただ一人結婚を約束していた女がいてよ。そいつぁ、俺がいないと駄目な奴でなあ.なんて思っていたんだが、今考えると俺のほうがあいつがいないとだめだったのだろうなぁ。結局そいつのことが気にかかって故郷に帰ろうとしたんだがよ、結局かなわずなぁ。。。」

そんな話を聞いていると、隣の車両から異質なものを感じ取ったのでそそくさとその場を後にした。

俺がその車両を後にする際、その若い男性が気になり後ろを振り向くと男性は右半身が欠損した姿に変わっており、白色と黒色の毛が混じった小汚い髭が生えた老人に様変わりしていた。あんまりに気味が悪かったので急いで別の車両へと移動した。

車窓からは幻想的な赤く染まり切った紅葉がすさまじい深さの渓谷を彩っていて、言葉では言い表せないほど奇麗だった。

橋の下にはとても大きな川が広がっていて向こう岸の景色は真っ黒に見えた。汽車は橋を三分の一ほどを渡ったところだった。

この車両にはきれいな格好をしている、若く美人な女性が座っていた。

「あら、珍しいわねこんなところに。まだ若いっていうのに。。。」

女性は昔、銀座の一等地でホステスをしていたらしい。そこで大戦景気の影響で成金となっていた若い経営者と交際をしていたとのことだった。その男と少しいざこざがあったらしいのだ。

「私は少し金目当てなんてこともあったけど本当に彼を愛していたところもあるのよ。なんだけど、彼は私と正式にお付き合いをしていたのにもかかわらず、ほかのホステスと遊びまわっていたの。そんな時だったわ。私の父親も小さな工場を経営していたんだけど、戦争で成り上がった彼の会社に踏みつぶされてしまったの。後から聞いた話なんだけど私の父はなかなか彼の会社に協力する姿勢を示さなくって。それで私に取り入って父の会社をつぶしたらしいの。父は多額の借金に追われて自決した。私はもう彼に最上の憎悪を抱いたわ。私は父が自決した晩に彼が住む邸宅に忍んで、パーティーでべろべろに酔った彼を後ろから一突き。あっけなく死んだもんだからそのまま私も死のうとしたけれど見回りに見つかっちゃって投獄されたのよ」

見た目の限りではそんな恐ろしく見えなかったが改めて身震いする。

そして俺自身がこの列車に対して違和感を抱き始めていた。次の車両に移る際、やはりあの女性も姿かたちが変わっており、痩せ細った老婆のような見た目になっており首には何かで締め付けられたような見るも無残な傷跡らしきものが残っていた。

次の車両には誰がいるのだろうと、少し好奇心にも似たような感情を抱きながら客車扉を開けると、そこには慣れ親しんだ人の姿があった。誰であろう、東京駅で逸れたはずのかのじょのすがたがあった。彼女は何か物を言おうとして口を開いたが、その時古ぼけた木製の客車の床から白い煙が吹き出した。

沈みゆく意識の中でようやく気がついた。まずまず一九九五年には北陸新幹線など存在しないし、長野県には蒸気機関車もない。この場所はこの世ではないような場所にと様変わりし、次に目を開けると病室のベッドの上だった。テレビからは大事件と大騒ぎする声が聞こえ隣のベッドには彼女の姿はなかった。


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