Act2 目覚めと朝の風景
(?……と昨日は、バイトに行って、メシ食ってる間にヒメが俺のアパート燃やされた……っつーてたっけ?
……んで、希の家でじーさんに投げ飛ばされて__そのまま意識が飛んだのか⁈)
龍輝が目を開けるとそこは、母屋二階の静かな客間だった。「加納」の屋敷のような殺風景なバカでかい広間ではない……小ぢんまりとした普通の畳の部屋だ。
「……ってえな。」
身体をおこすと、節々がミシミシとなった。龍輝は立ち上がり、中庭に面した窓を開ける。
__パアンッ、パアンッ
それは高い空に響く乾いた音。厳三郎が振るう杖が希の竹刀をいなす音だ。距離があるため、気合の声までは届かない。ただ規則正しく響くその残響がここが戦うものの家であることを告げていた。
「__あ、起きたんだ。おはよう龍輝」
黒いTシャツに下だけ道着というリラックスした姿、首に掛けたタオルで汗をぬぐっているところを見ると、今の今まで道場で厳三郎にもまれていたのだろう。
「丸々一日以上寝ていたんだよ。__はい、これ。ヒメから預かった学生証」
希が差し出したのは、瑞穂学園の校章入りのICカードだった。
龍輝が階段を降りて、ダイニングへ向かうと、中庭をはさんだ向こう側に静かに佇む道場の屋根が見えた。テーブルの上には、希の母が用意した、湯気の立つ朝食が並んでいる。
「おはよう。……龍輝くん、よく眠れた?」
「……」
こういう朝の風景は龍輝にとっては本当に久しぶりだった。朝餉のにおい。希の妹の花苗が、テレビの星占いの結果に一喜一憂する声。
龍輝が来ても驚きもしない。普段から厳三郎の練習生らがウロウロする家、一人や二人増えても気にしない樹家である。
道場で鳴り響いていた「戦いの音」とは対照的な柔らかい日常の音がそこにはあった。
食後、龍輝は渡された紺のブレザーに袖を通し、鏡の前で、青い縞模様のネクタイと格闘し始める。
「……希。おい、これどうやんだ?」
「_えっ?」
「こんなモン締めたことねーよっ。俺、こういう制服なんて着た事ねーもん」
「へーそっかぁ。__いいよ、かして」
希が手慣れた様子でプレーンノットを整えている間、龍輝は窓の外の厳三郎が静かに水を撒いている中庭を見ていた。厳三郎が放つ水しぶきが、朝日にキラキラと輝いている。「……行ってきます」とも言えず、龍輝は逃げるように樹家の門を出た。




