Act2 真夜中の試練 沈黙の道場
ミハイルの「掃除」終わって午前3時、姫神 薫と玉木 航聖が乗るリムジンのテールランプを見送った後、加納 龍輝と樹 希は二人で静まり返った『樹 道場』の門をくぐった。
樹道場は希の実家である。
「……死なないでね、龍輝。明日、学園で待ってるわ」
(……勝手なことを)
龍輝は薫の言葉に毒づきたい反面、家を焼かれ帰る場所を失った自分に強引でも「居場所」を与えてくれた彼女の傲慢さに、何処か救われている自分に戸惑っていた。
一方希は、薫の配慮に感謝していた。
初めは、気まぐれお嬢様のお遊びで、自分の武術を生かした報酬のいいアルバイトだと軽い気持ちで引き受けた仕事だったが、内容があまりにぶっ飛んでいて、困惑しながらも薫に信頼を寄せはじめていた。
(薫さん……ヒメはぶっきらぼうだけど、本当は心配でたまらないのよね。)
明かりひとつない、真っ暗な道場。
正面の神棚の下、青白い月明かりがわずかに差し込む板張りの上に「それ」は座っていた。
微動だにせず、呼吸音すら聞こえない。
だが、そこにある空気だけが、鉄のように冷たく重く、まるで龍輝を押しつぶそうとしているようだった。
「……おじいちゃん、ただいま」
希がかけた言葉が合図だったかのように、闇の中から低く、地を這うような声が響く。
「__紹介も言い訳も不要じゃ」
老人(樹 厳三郎)のシルエットが、ゆっくりと立ち上がった。
「そこの小僧。立っているのが精一杯か。ならばその『精一杯』で、わしを打ってみよ」
紹介も、労いも、状況説明も一切無い。
ただ、拳で「何者か」を証明しろという、あまりにも純粋で暴力的な洗礼。
龍輝は、疲労を抱えながらもその老人と対戦する覚悟を決めた。
龍輝は限界の身体に鞭打ち、「加納」で教え込まれた最短の踏み込みを見せる。空気を裂く鋭い突き。
だが、厳三郎はその拳に触れるか触れないかの刹那、龍輝の「力」のベクトルを指先一つで操作した。
「__っ⁈」
投げられたのではない。龍輝のが踏み込んだその勢いが、そのまま自分を床を床へと叩きつけるエネルギーへと変換される。
ドォォォォォォンッ‼
古い板間が鳴り響き、木の固さがダイレクトに龍輝の背骨を突き、衝撃が頭の先まで抜けた。
「__合格じゃ。……希、その小僧を布団へ運べ」
厳三郎の短い一言。それが龍輝にとって、この新しい世界での『生存許可証』となった。
来て早々、投げられる男(笑)




